プレスリリース
クリプトスポリジウムオオシストは畜糞堆肥処理で消毒できる

情報公開日:2002年4月25日 (木曜日)

背景・ねらい

クリプトスポリジウムは、人や動物に激しい下痢を起こす病原体で、糞便中に排出されるオオシストが感染源となる。オオシストは一般の消毒剤では死なず、大きさが4μmと小さいことから、水道水処理でも除去できず人の集団感染を起こす。そのため、畜産現場からのオオシストの散逸を防ぐことが重要であるが、消毒には加熱処理が必要なため、通常行っている畜糞堆肥化の熱で消毒が可能であるかどうかを検討した。

成果の内容・特徴

  • 牛糞290kgに籾殻50kgを混ぜて堆積型堆肥を作製した。その頂上部表面、頂上直下20cm及び40cmの深さにオオシストを置き1週間ごとの切り返し時に回収して、その感染性の有無を検査するとともに、各地点の温度変化を調べた。(写真1)
  • 堆肥頂上直下20cm及び40cmでは最初の1週間で45°C以上に温度が上昇したが、表面は40°C以下と比較的低温で推移した。発酵温度は、第3週目に最高となり、表面でも45°Cを越えた(図1)。
  • 回収したオオシストは、頂上直下20cm及び40cmでは1週目でオオシストが見えなくなっていたが、表面に置いたオオシストは、3週間経過後になってオオシストが見えなくなった(写真2)。
  • 牛糞堆肥の表層では、1週間ではオオシストの消毒効果はなかったが、2週目以降はオオシストの感染性が失われ有効であった。深さ20cm及び40cmでは、1週間目から消毒効果が認められた(表1)。
  • 以上の結果から、環境や水道水汚染の一因とされる家畜由来クリプトスポリジウムオオシストは、畜糞を適切に堆肥化することにより感染性を失う。この技術は従来から行われてきた糞便処理をそのまま応用できるため、新たなコストが発生せず有用である。

今後の課題

家畜糞便中のクリプトスポリジウムの消毒は堆肥化で可能であることが明らかになったが、畜舎排水中のオオシストの消毒方法については今後検討する必要がある。


詳細情報

図表

写真1 試験実施状況

図1 堆肥各部の温度変化

表1 回収したオオシストの消毒効果

写真2 堆肥化前後の糞便内容(処理によりオオシストが消失している)

用語解説

クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)
ほ乳類、鳥類、は虫類などの消化管上皮に寄生する原虫で、牛の消化管に寄生するものは人への感染性がある。感染源であるオオシストは大きさが4-5ミクロンと小さく、塩素剤を含む通常使われる消毒剤では不活化できないため、水道水に混入して人の集団感染の原因となる。本年3月には、兵庫県淡路島の高校生が修学旅行後に集団発症している。また、1996年には埼玉県越生町で水道を介した集団発生があり、約8,000人が感染した。いずれも人にだけ感染する遺伝子型であり、家畜とは関係ないことが明らかになっているが、上述のように牛由来の遺伝子型は人にも感染性があり、畜産現場からの除去方法が求められている。

オオシスト(Oocyst)
クリプトスポリジウムなどの原虫が他の宿主へ感染するときの発育形態。糞便中に排出され、次の宿主に感染するまで厳しい環境に置かれるため、環境や消毒剤などへの抵抗性がきわめて強い。