背景・ねらい
クリプトスポリジウムは、人や動物に激しい下痢を起こす病原体で、糞便中に排出されるオオシストが感染源となる。オオシストは一般の消毒剤では死なず、大きさが4μmと小さいことから、水道水処理でも除去できず人の集団感染を起こす。そのため、畜産現場からのオオシストの散逸を防ぐことが重要であるが、消毒には加熱処理が必要なため、通常行っている畜糞堆肥化の熱で消毒が可能であるかどうかを検討した。
成果の内容・特徴
- 牛糞290kgに籾殻50kgを混ぜて堆積型堆肥を作製した。その頂上部表面、頂上直下20cm及び40cmの深さにオオシストを置き1週間ごとの切り返し時に回収して、その感染性の有無を検査するとともに、各地点の温度変化を調べた。(写真1)
- 堆肥頂上直下20cm及び40cmでは最初の1週間で45°C以上に温度が上昇したが、表面は40°C以下と比較的低温で推移した。発酵温度は、第3週目に最高となり、表面でも45°Cを越えた(図1)。
- 回収したオオシストは、頂上直下20cm及び40cmでは1週目でオオシストが見えなくなっていたが、表面に置いたオオシストは、3週間経過後になってオオシストが見えなくなった(写真2)。
- 牛糞堆肥の表層では、1週間ではオオシストの消毒効果はなかったが、2週目以降はオオシストの感染性が失われ有効であった。深さ20cm及び40cmでは、1週間目から消毒効果が認められた(表1)。
- 以上の結果から、環境や水道水汚染の一因とされる家畜由来クリプトスポリジウムオオシストは、畜糞を適切に堆肥化することにより感染性を失う。この技術は従来から行われてきた糞便処理をそのまま応用できるため、新たなコストが発生せず有用である。
今後の課題
家畜糞便中のクリプトスポリジウムの消毒は堆肥化で可能であることが明らかになったが、畜舎排水中のオオシストの消毒方法については今後検討する必要がある。