プレスリリース
日本産牛疫ワクチンが国際獣疫事務局(OIE)マニュアルに収録されました

- 日本の牛疫ワクチン株が世界標準に -

情報公開日:2016年6月20日 (月曜日)

ポイント

  • フランス・パリで開催された第84回国際獣疫事務局(OIE)総会において、農研機構動物衛生研究部門が製造する牛疫ワクチンの製造用株であるLA赤穂株が世界標準株として承認されました。国際機関に認定された当研究部門が製造、備蓄する本ワクチンは世界的な牛疫※1の清浄性維持に貢献します。

概要

  • 牛疫は致死率、感染力とも高く、かつて世界中で最も恐れられた家畜の伝染病ですが、国際連合食糧農業機関(FAO)及び国際獣疫事務局(OIE)による撲滅キャンペーンが進められた結果、2011年に世界的な撲滅が宣言されました。
  • 農研機構動物衛生研究部門では、再発などの不測の事態に備え、牛疫に高い感受性をもつ黒毛和種などの牛に対しても安全に使用することのできるLA赤穂株を用いた牛疫ワクチンの製造と備蓄を行っています。
    また、当研究部門はFAO及びOIEにより承認された世界で2か所の牛疫ワクチン製造・保管施設のうちのひとつであり、本年5月にはOIEに牛疫のレファレンスラボラトリー※2としても認定されています。
  • LA赤穂株は日本で樹立・実用化された長い歴史を持つワクチン製造用株です。当研究部門でLA赤穂株の全ゲノム配列を決定し、OIEに対して陸生動物の診断及びワクチンに関するマニュアル(OIEマニュアル)への収録を提案しました。本年5月、フランス・パリで開催された第84回OIE総会において、同提案が承認され、LA赤穂株の牛疫ワクチン製造用の世界標準株としての位置付けが明確化されました。
  • LA赤穂株は現在世界で製造が行われている唯一の牛疫ワクチンの製造用株であり、今後、ワクチン製造が行われていないRBOK株(英国が開発、備蓄ワクチンのみ)とともに、世界標準株として牛疫の清浄性の維持に役立てられます。

予算:運営費交付金(2010~2015)「製造業務費」

論文:TAKAMATSU H., TERUI K. & KOKUHO T. (2015). Complete genome sequence of Japanese vaccine strain of rinderpest virus, LA-AKO. Genome A., doi: 10.1128/genomeA.00976-15

背景と経緯

牛疫は致死率、感染力とも高く、かつて世界中で最も恐れられた家畜の伝染病ですが、国際連合食糧農業機関(FAO)及び国際獣疫事務局(OIE)による撲滅キャンペーンが進められた結果、2011年に世界的な撲滅が宣言されました。
2015年5月、農研機構動物衛生研究部門はFAO及びOIEから牛疫ウイルス所持施設(東京都小平市)及び牛疫ワクチン製造・保管施設(茨城県つくば市)の認定を受けました。また、本年5月、OIEから牛疫のレファレンスラボラトリーとして認定されました。これらの認定は、当研究部門が行う技術協力やワクチン等の製造業務が国際的に評価された結果と考えられます。
我が国においては1920年以降牛疫の野外発生例の報告はありませんが、戦前には大陸からの侵入の危険に曝されていました。戦後、FAO及びOIEを中心にアジア、アフリカ各地で撲滅計画が推進され、2011年5月、牛疫は天然痘に次いで世界で撲滅された疾病となり、FAO及びOIEによる撲滅宣言がなされるに至りました。
牛疫ワクチンは本病の撲滅に大きな貢献をしてきましたが、ワクチン製造用株の一つであり、日本で樹立・実用化されたLA赤穂株について、今般、家畜衛生分野における国際基準であるOIEマニュアルに収録するよう提案し、OIE専門家及び加盟国による検討を経て、本年5月、フランス・パリで開催された第84回OIE総会で同提案が承認されました。

内容・意義

LA赤穂株(家兎及び鶏胚馴化牛疫ウイルス赤穂株)は、1938年に牛疫研究の第一人者であった中村?治(なかむらじゅんじ)博士により樹立された中村III株をもとに、当研究部門の前身である家畜衛生試験場の赤穂支所で開発された高度弱毒化株で、現在世界で製造が行われている唯一の牛疫ワクチンの製造用株です。ホルスタイン種などの欧州系品種に比べて牛疫に対する感受性が高いことで知られる黒毛和種や韓国黄牛などのアジア系品種に対しても安全性が高く、これらの希少種を牛疫の災禍から守る上で必須の動物用医薬品として、国の承認に基づくワクチン製造に長年利用されてきました。しかしながらこのLA赤穂株には、これまで国際的な位置付けが与えられていませんでした。
そこで、私たちは2015年5月のFAO及びOIEによる牛疫ワクチン製造・保管施設認定を機に、LA赤穂株の全ゲノム配列を決定するとともに近縁株との類似性を明らかにしました。また、不測の事態に備えて、アジアあるいはその他の地域へもワクチンを提供することが可能な備蓄施設としての機能を維持する上で重要となる備蓄ワクチンの長期保存試験を実施して、その有効性を確認しました。
これらのデータを基に、OIEマニュアルにワクチン製造用株としてLA赤穂株を収録するよう提案し、今般、OIE総会で同提案が承認され、世界標準株としての位置付けが明確化されました。

今後の予定・期待

牛疫の撲滅が宣言された現在、FAO及びOIEは、牛疫撲滅後の国際的な対応計画(International Contingency Plan)の策定を進めています。牛疫ワクチンの備蓄は再発などの不測の事態への対応に際して早期に清浄性を回復するために必要となるものであり、安全性の高いLA赤穂株に対する期待は少なくありません。OIEマニュアルへの収録によって世界標準株としての位置付けを得た農研機構の牛疫ワクチンは、今後、牛疫の清浄性の維持に貢献していくものと期待されます。

用語の解説

※1牛疫:

モルビリウイルス科牛疫ウイルスの感染によって起こる牛や羊等の反すう動物の急性悪性伝染病で、高熱と著しい下痢を主徴とします。偶蹄類動物の伝染病として知られる口蹄疫以上に伝播性、致死性の高い疾病として恐れられ、ときに致死率100%に至る病原性の強さにより食糧危機を招くなど、20世紀前半までは世界中で畜産業最大の脅威となっていました。2001年ケニアでの野外発生例を最後に現在まで発生は報告されておらず、2011年に世界的な撲滅宣言が出されています。

※2レファレンスラボラトリー

動物疾病の診断及び診断方法に関するOIE及び加盟国に対する助言、診断に利用する標準株・診断試薬の保管等を行っています。現在、世界で39か国、118の疾病又は専門分野、262施設(平成28年5月時点)が認定されており、我が国は、13疾病についてレファレンスラボラトリーの認定を受けています。これはOIE加盟国の中で6番目の認定数です。

参考図

図1