プレスリリース
(研究成果)2018年分離株を用いた豚コレラウイルスの感染試験

- 試験成績を疫学解析や防疫対策に活用 -

情報公開日:2018年11月16日 (金曜日)

ポイント

農研機構動物衛生研究部門は、国内で26年ぶりに岐阜県で発生した豚コレラ(1発生農場の飼養豚から分離されたウイルスを用いて感染試験を行いました。その結果、当該ウイルスは豚に発熱や白血球減少を引き起こすものの、強毒株と比べ、病原性は低いことがわかりました。また、同居豚にも伝播することがわかりました。ウイルスは分泌・排泄物中に感染後最低2週間は排泄され、抗体はウイルス接種あるいは同居後2週間以降に検出されることがわかりました。

概要

2018年9月に岐阜県で発生した豚コレラの原因ウイルスを分離しました。当該ウイルス株を用いて豚への感染試験を行い、強毒株との比較からその特徴を明らかにしました。
筋肉内接種試験において、強毒株接種豚では接種5日後には下痢、起立困難、神経症状を示し瀕死状態に陥りましたが、2018年分離株接種豚は接種15日後(試験終了日)まで生残しました。しかしながら、2018年分離株接種豚も、強毒株接種豚と同様に、40℃を超える発熱および白血球減少(10,000個/μL以下)を示しました。2018年分離株の経口接種豚においても同様に、40℃を超える発熱および白血球減少(10,000個/μL以下)を示しましたが、接種14日後(試験終了日)まで生残しました。
2018年分離株接種豚と同房で飼育した同居豚も感染し、40℃を超える発熱、白血球減少(10,000個/μL以下)の臨床症状を示しました。また、2018年分離株のウイルス遺伝子は、接種豚および同居豚の唾液、鼻汁および糞便から感染後最低2週間検出されました。血中の抗体は2週間以降に検出されることが明らかとなりました。
本試験において、2018年分離株は豚に臨床症状を引き起こすものの、その病原性は強毒株よりも低いことが確認されました。

【関連情報】予算:交付金(理事長裁量型)


詳細情報

背景

わが国において、豚コレラは1887年の北海道での初発例以降、発生が継続していましたが、1969年から生ワクチンの使用が開始され、その後発生数が激減し、1992年の熊本県での発生以降確認されていませんでした。しかし、今年9月岐阜県において26年ぶりに本病の発生が確認されました。本試験では、今回の発生の原因ウイルスが感染した豚の臨床症状やウイルス排泄といった病原性や伝播性を検証しました。

内容・意義

  • 岐阜県で発生した豚コレラの感染豚から、豚コレラウイルスJPN/1/2018株が分離されました。
  • 試験は、(1)JPN/1/2018株を豚2頭に経口投与し、翌日豚2頭を同居させた群、(2)JPN/1/2018株を豚2頭に筋肉内接種し、翌日豚2頭を同居させた群、(3)強毒株(ALD株(2)を豚2頭に筋肉内接種し、翌日豚2頭を同居させた群の3つの実験群を設定し、臨床症状の観察と材料の採取を15日間毎日行いました。
  • 臨床症状については、40°Cを超える発熱と白血球減少(10,000個/μL以下)が、全ての実験群の豚で認められました。ALD株接種豚では、下痢、起立困難、食欲廃絶、神経症状が認められ、瀕死状態に陥りましたが、JPN/1/2018株接種豚ではこれらの重篤な症状は認められませんでした。このことから、JPN/1/2018株の病原性は、ALD株より低いことが確認されました。
  • ウイルス排泄については、同居豚を含む全ての実験群の豚の唾液、鼻汁および糞便からウイルスが検出されました。また、抗体は、JPN/1/2018株接種豚とその同居豚の約半数において、ウイルス接種あるいは同居後約2週間で検出されました。
  • 同居豚全頭の血液、唾液、鼻汁および糞便からウイルスが検出され、一部の同居豚からは抗体が検出されました。これらのことから、ウイルス接種豚から同居豚への伝播が認められました。

以上のことから、本試験において、JPN/1/2018株の豚への病原性や伝播性が確認されましたが、その病原性はALD株よりも低いことが確認されました。

今後の予定・期待

本試験で得られた成績は、拡大豚コレラ疫学調査チームに提供され、国内で26年ぶりに発生した豚コレラの疫学解析に活用されます。また、農林水産省などが実施する本病の防疫における基礎的知見として活用されます。

用語の解説

  • 豚コレラ:
    豚コレラウイルスの感染による豚といのししの法定伝染病で、高い致死率と強い伝染力が特徴です。
  • ALD株:
    高病原性の豚コレラウイルスの強毒株で、米国で分離され、一般的に標準株として用いられる株です。

参考図


図 発熱し、うずくまる豚