プレスリリース
オーチャードグラス新品種「まきばたろう」種子の販売開始

- 多収で耐病性に優れる府県向け中生品種 -

情報公開日:2011年8月 1日 (月曜日)

ポイント

  • 牧草「まきばたろう」は、東北から九州までの広い地域に適応する中性のオーチャードグラス新品種です。
  • 各地域において高い収量性と強い病害抵抗性を示し、永続性も良好です。
  • 採草、放牧の両方に利用でき、良質で安定した粗飼料生産により、飼料自給率向上への貢献が期待されます。

概要

  • 農研機構 畜産草地研究所【所長 松本 光人】が、飼料の自給率向上をめざして開発したオーチャードグラス新品種「まきばたろう」の種子を、民間種苗会社が2011年夏から販売を開始します。
  • 「まきばたろう」はその名が示すとおり、放牧地や採草地で健やかに、元気に生育すると期待される新品種です。従来の中生品種「マキバミドリ」より平均8%多収で、主要病害であるさび病、うどんこ病、雲形病などの病害抵抗性が強く、高い永続性を持っています。
  • 本品種の利用により、東北(青森県で標高400mまで)から九州(標高700m程度以上)までの寒冷地、温暖地及び一部の暖地で、安定した良質な粗飼料生産に寄与することが期待されます。

予算

農研機構運営費交付金


詳細情報

開発の社会的背景と研究の経緯

オーチャードグラスは我が国の永年草地の基幹草種として北海道から九州高標高地(標高700m程度以上)まで広く栽培され、採草および放牧に利用されています。農研機構においては、北海道農業研究センターで北海道向け品種を、畜産草地研究所で東北以南の府県向け品種の育成を行っています。府県向け品種に求められる特性として、高温下で発生する重要病害に対する複合抵抗性と高温・乾燥に対する環境適応性及び高い生産力を長年維持できる永続性が特に重要です。また、近年、府県での放牧推進に向けた適品種の育成を求める声が強くなっていました。これらの背景から、収量性、耐病性に優れ、採草・放牧ともに利用できる中生品種を育成しました。

成果の内容・意義

  • 「まきばたろう」(図1)の出穂が始まる日は、中生品種「マキバミドリ」より約3日早く、早生品種「アキミドリII」より約8日遅く、"中生"に属する品種です。
  • 合計乾物収量は青森から大分までの8カ所の試験地すべてで「マキバミドリ」を上回り、平均では「マキバミドリ」比で8%多収です(図2)。
  • さび病抵抗性(強~極強)、うどんこ病抵抗性(強)で「マキバミドリ」より優れ、雲形病抵抗性(強~極強)など他の病害も低く抑えられます(図3)。
  • 「まきばたろう」の「マキバミドリ」比の年間乾物収量は年次を追うごとに高くなっており(図4)、経年による衰退が少ないことが明らかになっています。
  • 秋の草勢が「マキバミドリ」より優れ、秋の採草・放牧に有利な品種です(図5)。
  • 栽培適地は、東北(高標高地を除く、青森県で標高400mまで)から九州高標高地(標高700m程度以上)です。

《品種の名前の由来》
採草・放牧兼用品種として、病害抵抗性が強く、健やかに、元気に生育するという願いを込めました。

期待される効果・今後の展開など

「まきばたろう」は、「マキバミドリ」の収量性、耐病性、永続性を改良し、広く府県で安定した粗飼料生産を可能にする中生品種です。また、「アキミドリII」などの早生品種と組み合わせることにより刈取り適期の拡大を可能にし、良質な粗飼料生産に寄与することが期待されます。現在、さらに夏の暑さに強い品種や、高品質(高消化性・高度耐病性)な品種の育成を進めています。

用語解説

永年草地
 牧草類には多年生のものと一年生のものがあり、オーチャードグラスなどの多年生牧草などを利用して造成してから複数年利用する草地を永年草地といいます。永年草地の維持年限は3~10年程度で、草種や品種および栽培環境により異なります。一方、イタリアンライグラスなどの一年生牧草を利用する場合、しばしばトウモロコシなどとの輪作体系に用いられます。

オーチャードグラスの病害
 雲形病、さび病、うどんこ病などが寒冷地や温暖地における主要病害です。これらの病害は収量や品質などに大きな影響を与えます。

図1

図1 「まきばたろう」(旧系統名「那系27号」)の草姿(栃木県、2006年5月)

 

図2

図2 各地域の年間合計乾物収量
(利用3年間の平均、ただし栃木は4年間、滋賀は2年間)
(図中の数字は、「まきばたろう」の「マキバミドリ」に対する相対収量)

 

図3

図3 「まきばたろう」の耐病性(全国平均)
(数値は罹病程度の評点、1: 無または微 ~ 9: 甚。試験期間内の発生場所の平均値。)

 

図4

図4 「まきばたろう」年次別合計乾物収量
(栃木県。マキバミドリ比%。図下部の数字は「まきばたろう」の実収(kg/a))

 

図5

図5 利用4年目秋の草勢(左:まきばたろう(那系27号)、右:マキバミドリ)(栃木県、2006年10月)