プレスリリース
簡単な装置でロールベールの荷役・輸送が可能に!

- 飼料イネなどの国産粗飼料の輸送を円滑化し飼料自給率UPに -

情報公開日:2010年7月27日 (火曜日)

ポイント

  • 熟練者でなくてもフォークリフトやクレーンによりロールベールを簡易・安全に吊り上げ、輸送することが可能なロールベール荷役装置を開発。
  • 平野部の水田で生産された飼料イネなどのロールベールを中山間地の畜産団地へ迅速に輸送することが可能に。
  • 飼料イネ生産農家や輸送業者による国産粗飼料の流通活性化で飼料自給率向上に貢献。

概要

  • 農研機構 畜産草地研究所【所長 松本光人】は、飼料の自給率向上をめざし、飼料イネや飼料ムギなどの、畜産農家やTMRセンター等への輸送作業や畜産農家内での荷役作業を容易にするため、流通を担う輸送業者および個別の畜産農家向けのロールベール荷役作業技術を開発しました。
  • 開発した技術は、ロールベール荷役具をロールベールに上から被せ、ロールベールの下に回した補ていロープを締めてストッパーで固定することで、フォークリフト等で容易にロールベールを吊り上げできるようにするものです。
    また、ロールベールクランプを用いるものでは、ロールベール自身の重さによって、クランプがロールベールを挟み込むように力が加わるよう力の向きを変換することによって、ロールベールをすべり落ちないように吊り上げできるようにするものです。
  • 開発した荷役具やクランプなどの補助具を使用することにより、既存のフォークリフトやクレーン等を活用した容易で安全なロールベールの荷役が可能となり、飼料イネなどの国産粗飼料の流通活性化が期待されます。

予算

農林水産省委託プロジェクト研究「粗飼料多給による日本型家畜飼養技術の開発(通称:えさプロ)」、農研機構運営費交付金


詳細情報

開発の社会的背景と研究の経緯

飼料自給率の向上のため、水田を活用した飼料イネや飼料ムギの生産拡大が推進されています。しかし、水田の多くが平野部にある一方で、畜産農家は中山間地に多いため、生産された飼料イネ等を中山間地まで輸送する必要があります。

生産された飼料イネ等は、ロールベール形態で畜産農家へ輸送されます。ロールベールを安全に輸送するためには、ベールハンドラのような専用機具が必要な上、ロールベールの変形やラップフィルムの破損による貯蔵中の品質劣化リスクを減らすため、作業者が機具の取扱いに熟練する必要もあります。これまではロールベールの取扱に慣れた畜産農家やコントラクターが輸送作業を担っていましたが、飼料イネの生産が拡大するにつれて流通範囲や流通量が増大し、畜産農家やコントラクターだけでは対応できなくなっています。さらに、ロールベールの取引において重要な重さについても、現場で簡易に計量する技術が求められています。

そこで、水田から畜産農家へロールベールを簡易かつ安全に輸送することを目的として、耕種農家や輸送業者が一般的なフォークリフト等で取扱できる、ロールベール荷役装置(「ロールベール荷役具」および「ロールベール用クランプ」)を開発しました。

研究の内容・意義

本荷役装置は、ロールベール荷役作業の専用機具である「ベールハンドラ」が無い現場でもロールベールを簡易に吊り上げることができます。「ロールベール荷役具」はロールベールの大量輸送向けに、「ロールベール用クランプ」はロールベールの輸送とともに計量作業を簡易に行なうために、それぞれ開発したものです。

    • フォークリフト装着式のロールベール荷役具

1)ロールベール荷役具は、巾着式のフレコンバッグを応用したもので、吊りベルト4本・胴巻きベルト・吊りベルト(底部側)を開閉する巾着式の補ていロープ(ストッパー付き)により構成されます(図1a)。

2)ロールベール荷役具は1.9kgと軽量であり、胴巻きベルトの開口部直径を調節することで、直径0.85~1.1mのロールベールに適用できます(表1)。また、収納時には折りたたみも可能です。

3)使用の際には、吊りベルト(底部側)を解放した状態でロールベールの上方から荷役具を被せ、その後補ていロープによって吊りベルト(底部側)を締めるとともにストッパーを固定します(図1b)。これにより保持されたロールベールは、吊りベルト(上部)を引き上げることで荷役されます(図1c)。荷役に伴うロールベールの変形が少ないことも特長です(表2)。

図1.ロールベール荷役具の概略表1.ロールベール荷役具の仕様

表2 荷役によるロールベール変形量

    • クレーン装着式のロールベール用クランプ

1)クレーンや重機に懸架するクランプで、直径1.1m(ロールベーラ成形室直径1.0m)のロールベールを把持できるように把持幅・把持深さ・把持部を設計したものです(表3)。縦置き・横置き両方のロールベールを把持できます。

2)ロールベールの上部から、接触板がロールベール上面に接するまでクランプを降下させ、ストッパーを解除してからクランプ を上昇させると、把持部がロールベールを挟み込みロールベールを垂直に吊り上げます。移動後には、ロールベールを接地させ、接触板がロールベール上面に接するまでクランプを降下させると、クランプが開口した状態でストッパーがロックされ、ロールベールを荷降ろしできます(図2a、図2b)。

3)クレーンのフックとクランプとの間に吊り秤を挟むことで、ロールベールの保管場所や遠隔圃場において、積載式トラッククレーン1台でロールベールの重さを計りながら、トラック荷台にロールベールを積み込み・積み下ろしできます(図3)。

図2ロールベール用クランプの概略

表3.ロールベール用クランプの仕様

図3 積載式トラッククレーンでの積込み作業

今後の予定・期待

ベールハンドラがない状況下でも簡易にロールベールを輸送できることから、ロールベールの取扱に慣れていない飼料イネや飼料ムギなどの生産農家や輸送業者等の多様な作業者がロールベールの輸送作業を行なうことができるようになり、ストックヤードやTMRセンターを中継地点としたロールベール形態での国産粗飼料の流通活性化が期待されます。

ロールベール荷役具はフレコンバッグメーカーから製造・販売が、ロールベール用クランプは当所からの図面等の情報提供により鉄工所による受注生産が開始されています。今後、より一層の機能充実を図り、適用可能な現場の拡大に取り組んでいきます。

用語の解説

粗飼料
青刈作物、牧草、野草、わら等、概して繊維含量が高く養分含量の低い飼料の総称です。これと対照的性質をもつ穀類等の濃厚飼料と区別されます。

ロールベール
牧草等の飼料作物を円柱状に成型したものです。フィルム等で密封されたロールベール内で保存される飼料は「ロールベールサイレージ」とも呼ばれます。

飼料イネ
家畜への給与を目的に栽培されるイネの総称。収穫時にロールベール成型やフィルムでの密封によりサイレージ調製されたものは「稲発酵粗飼料、稲WCS(ホールクロップサイレージ)」等とも呼ばれます。

ベールハンドラ
トラクタやホイールローダ等に装着して、ロールベールを保持しながら積込・積下ろしする機具の総称です。

ベールハンドラ

コントラクター
農作業の受託組織で、農業サービス事業体の一形態です。

積載式トラッククレーン
トラックのシャーシにクレーン装置を架装したものです。

TMRセンター
TMR(total mixed ration:完全混合飼料)を主体とする家畜向け飼料を調製し、畜産農家に配送する組織です。調製される飼料は、乾いた素材中心の混合飼料から、水分50%程度のTMR、発酵TMR(TMRを発酵させたもの)など多様です。