プレスリリース
(研究成果) 農業用水路の補修工事後の劣化を簡易に測定

- 補修工事後の劣化状況の実態把握や、合理的な保全管理が可能に -

情報公開日:2017年8月22日 (火曜日)

ポイント

  • 補修工事後の農業用水路の劣化を「低コストで」「簡易に」測定する手法を開発しました。
  • 1か所あたりの測定のコストは従来法(コア法1))の約3割以下、また所要時間は約3分です。
  • 本手法により広範囲の調査が可能となり、これまでは難しかった補修工事後の農業用水路の劣化状況の実態把握や、合理的な保全管理を実現できます。

概要

  1. 農業用水路の基幹部分を構成する農業用鉄筋コンクリート開水路は、経年により劣化し、本来アルカリ性のコンクリートの中性化2)が進みます。このため、劣化の遅延と長寿命化に向けて、水路内面を覆う補修工事が重要となります。しかし、補修工事後の劣化の進行については、簡便な測定方法がなく、調査がほとんど行われていませんでした。
  2. 農研機構農村工学研究部門は、主要な補修工法である無機系被覆工法3)について、工事後の劣化の進行度を、低コストかつ簡易に行うことができる測定法「コアビット法」を開発しました。「コアビット法」は特別な機材や技術を必要とせず、また1か所あたりの測定のコストは従来法の約3割以下、所要時間約3分での測定が可能です。
  3. 本手法により、これまでは難しかった、補修工事後の農業用鉄筋コンクリート開水路の劣化状況の実態把握ができます。これによって、適切な時に必要なところを補修でき、より合理的な維持管理を実現できます。

関連情報

予算:運営費交付金

研究の背景・開発の経緯

全国の農業用水路網の総延長は約40万kmあり、その内、受益面積100ha以上の基幹的水路は約5万km以上にわたって整備されています。基幹的水路は農業用鉄筋コンクリート開水路で構成されており、長期間の使用により水路内面が摩耗して凹凸が生じ、水の流れを阻害します。また表面から内側へと中性化が進み、中性化が鉄筋に達すると鉄筋の腐食が起こり、構造物の耐力が低下します。そこで、中性化の進行を抑制するために、水路内面の補修が行われ、水路の長寿命化が図られています(図1A)。補修には、凹凸が生じた表面を厚さ10mm程度のセメント系材料で被覆する無機系被覆工法(以下、被覆工)が多く用いられています(図1B)。
被覆工後も、コンクリートより緩やかではあるものの、被覆工の表面から中性化が進み、進行度によっては再補修などの対応が必要となります。しかしながら、被覆工に対して簡単に中性化深さを測定する手法が無かったため、実際に補修された水路で中性化の進行度を調べた事例はほとんどありませんでした。既に補修工事を行った水路の内、10年以上経過している水路もあり、補修工の耐用年数が迫っています。補修後の水路の劣化状態を調べるための手法が必要とされています。
そこで農研機構では、被覆工で補修した水路の中性化を低コストで簡易に測定する手法を開発しました。

開発した技術の内容

低コストかつ現地で簡易に、中性化の進行が浅くても測定できる「コアビット法」を開発しました。本手法では、コアビット4)で表面を壁面に対し斜めに切削して三日月型の溝を掘り、溝にpH指示薬であるフェノールフタレイン溶液5)を噴霧して未中性化領域を赤紫に呈色させ、非呈色領域との境界の表面からの深さから「中性化深さ」を測定します(図2)。

<コアビット法の特徴>
  1. 作業工程が少なく、容易に実施できます。
  2. 測定に要するコストは1か所あたり約5000円、時間は1か所あたり3分程度です。
  3. 溝の深さは数mm程度で構造物に対する損傷が小さく、調査跡の補修も比較的容易です。
  4. 信頼性が高く小さな中性化深さも測定できる従来法(コア法)と同等、同精度の測定値が得られます(図3)。コアビット法の検出可能な最小の中性化深さは約0.3mmです。
<従来技術との比較>
  1. コア法による調査では結果を得るまでに2日以上要していましたが、コアビット法では、即座に結果が得られます。また、1カ所あたりの測定に要するコストは約3割以下です。
  2. 簡易的な中性化深さ測定法である「ドリル法6)」と比べ、小さな中性化深さでも測定可能です。ドリル法が対象とする中性化深さは数mm~数十mmの範囲であり、1mm前後の測定が必要な被覆工の調査には適用できません。

<測定上の留意点>

コアビット法では、呈色境界面(中性化の境目)に対して傾斜を持つ面を測定面とします(図4)。そのため、確実に呈色境界をまたぐ溝の作製が必要です。必要な溝の深さは、過去の調査記録から推定するか、予備試験を行うことで容易に決定できます。なお、深さは切削時間である程度制御できます。

今後の予定・期待

開発した手法は、微破壊、低コスト、簡便な測定手法であり、広範囲での中性化深さ調査を可能とします。多くの水路、あるいは同一水路内の様々な位置で測定することによって、実際に補修された水路での中性化に及ぼす様々な暴露条件の影響解明が促進できると考えられます。中性化が、「どのような材料・工法では、どのような条件で、どのように進行するか」がわかれば、効果的な材料・工法の選定ができます。また、計測点数を増やせることで、水路全体の状態をきめ細やかに把握でき、適切な水路管理に積極的に取り組めるようになります。
安定的な食糧生産を支える水路機能の保全のために、本技術が広く活用されることが期待されます。今後は、マニュアルの作成、基準化等を通じて普及を図ります。

用語の解説

1)コア法
中性化深さの測定方法の一つ。現地で採取したコア(直径25mm×長さ80mm程度の円柱状サンプル)を圧縮試験機などで割裂し、その割裂面(断面)にフェノールフタレイン溶液を噴霧して呈色境界を判別します。信頼度が高く、小さな中性化深さも測定できる利点があります。一方、コア採取のためにコストや構造物の損傷が必要となること、実験室に持ち帰って分析する必要があることから、調査点数が限られるなどの課題があります。

2)中性化
セメントペースト部のpHが低下する現象。鉄筋は、コンクリート内部が高アルカリ環境下である場合には腐食しにくいですが、pHが低下すると発錆・腐食します。農業用コンクリート開水路における中性化の主な原因として、内部への二酸化炭素の侵入と、カルシウムイオンの水中への溶出が挙げられます。中性化は表面から内部へ向けて進行し、中性化が進行した深さを「中性化深さ」と言います。

3)無機系被覆工法
農業用コンクリート開水路の補修工法の一つ。主にセメント系材料が用いられ、水路内表面を被覆して劣化の進行を抑制します。

4)コアビット
電動ドリルに取り付け可能な小口径コア採取用の先端ビット。ここでは直径25mmコア採取用を用いました。

5)フェノールフタレイン溶液
pH8~10を変色域とするpH指示薬の一つ。酸性側では無色、アルカリ性側では赤紫色を示します。

6)ドリル法
中性化深さ測定法の一つ。調査対象の表面を直径10mmのドリルで削孔し、排出される削孔粉を、フェノールフタレイン溶液をしみこませたろ紙等で受け、赤紫色に変色した時に削孔を止めます。その時の孔の深さを測定し中性化深さとする手法。現地で簡単に実施でき、その場で測定値が得られるという利点があります。しかしながら、対象とする範囲が数mm~数十mmの中性化深さのため、施工厚さが10mm程度の被覆工の調査には適用できません。

7)デプスゲージ(図2の用語解説)
深さ測定用器具。ここでは、測定子先端径1mm、精度±0.03mmの仕様を用いました。

発表論文

1)西原正彦、浅野勇、渡嘉敷勝、森充広(2014):無機系被覆工の中性化評価に関する一考察、平成26年農業農村工学会大会講演要旨集、pp.672-673

2)川邉翔平、浅野勇、森充広、川上昭彦(2016):コアビットを用いた簡便な中性化深さ測定手法の無機系表面被覆工への適用性検討、農業農村工学会論文集、84(3):I_353-I_361

3)森充広、浅野勇、川邉翔平、川上昭彦、渡嘉敷勝(2016):長期暴露された無機系表面被覆材の中性化深さ--コアビットを用いた簡易測定法の現地適用性--、農業農村工学会論文集、84(3):I_363-I_372

参考図

図1 農業用鉄筋コンクリート開水路の劣化と補修

図2 コアビット法の手順

図3 コアビット法とコア法との測定値の比較(発表論文3の図を修正して引用)

図4 測定上の留意点

お問い合わせなど

研究推進責任者
農研機構農村工学研究部門 研究部門長 山本 德司

研究担当者
農研機構農村工学研究部門 施設工学研究領域 川邉 翔平

広報担当者
農研機構農村工学研究部門 広報プランナー 遠藤 和子
取材のお申し込み・プレスリリースへのお問い合わせ(メールフォーム)

法人番号 7050005005207