プレスリリース
(研究成果) 営農作業で実施できる効果的な土壌流亡対策

- 営農排水改良機「カットシリーズ」と部分不耕起帯 「ドットボーダー・プロテクト」の併用 -

情報公開日:2020年11月16日 (月曜日)

農研機構
北海道立総合研究機構

ポイント

傾斜畑の土壌流亡を抑制するため、生産者が営農作業の一環として行える、(1)「カットシリーズ」1)を用いた土層改良による土壌の透水性の改善と、(2)耕耘時に緑肥・刈株を部分的に温存する部分不耕起帯設置「ドットボーダー・プロテクト」による侵食耐性の改善を併用する土壌流亡対策を策定しました。現地での効果検証では、(1)と(2)を単独で実施するよりも併用することで土壌流亡が抑制され、対策しなかった場合と比べて土壌流亡量を最大8割削減しました。
土壌流亡対策として、土層改良と部分不耕起帯設置の実施方法や留意点、畑輪作2)における実施スケジュール事例を示したパンフレットを公開します。

概要

近年の気候変動による集中豪雨の多発等により、特に丘陵地形の畑作地帯では土壌流亡の被害が甚大化しており、早急な対応策の確立が求められています。しかし、基盤整備による勾配修正などの抜本的対策は効果的ですが、時間と費用がかかることから、生産者が簡易に実施可能な土壌流亡対策が求められています。
そこで、農研機構と北海道立総合研究機構は共同で、生産者が通常の営農作業の一環として手軽に実施でき、かつ効果的に傾斜畑の土壌流亡を抑制できる対策を策定しました。
策定した土壌流亡対策は、(1)土層改良と(2)部分不耕起帯設置との併用法です。(1)は、麦などの収穫残渣3)を疎水材に利用する有材補助暗渠機「カットソイラー」などの営農排水改良機「カットシリーズ」により、堅密土層を破砕して浸透性を高めることで表面流去水4)の発生を抑制します。(2)は、土壌流亡しやすい地点に部分的(ライン状やドット状)に不耕起帯のボーダー(土堤)を設置する「ドットボーダー・プロテクト」により侵食耐性を改善(プロテクト)します。
北海道美瑛町での現地実証における土壌流亡量の削減率は、(1)土層改良のみの場合は2~3割、(2)部分不耕起帯設置のみの場合は2割程度であるのに対し、(1)と(2)を併用した場合は3~8割となり、それぞれを単独で実施するよりも土壌流亡抑制効果が向上しました。
今回策定した、土層改良と部分不耕起帯設置を併用した営農作業で実施できる土壌流亡対策の留意点と、北海道美瑛町の畑輪作における実施スケジュールの事例を示したパンフレットを、本日公開します。

関連情報

予算:戦略的プロジェクト「豪雨に対応するためのほ場の保水・排水機能活用手法の開発」、運営費交付金
特許公開2020-059988 土壌流亡抑制のための堅密土堤の構築方法及び施工装置

問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構農村工学研究部門 部門長 藤原 信好
道総研農業研究本部長兼中央農業試験場長 竹内 徹
研究担当者 :
農研機構農村工学研究部門 農地基盤工学研究領域 ユニット長 北川 巌
広報担当者 :
農研機構農村工学研究部門 渉外チーム長 猪井 喜代隆

詳細情報

開発の社会的背景

我が国では、食の多様化や自給率向上のため畑作物の生産強化が求められています。その一方で、気候変動による集中豪雨の多発により、畑作地帯では土壌流亡の被害が顕在化しています。特に丘陵地形の畑作地帯では、土壌流亡の被害が甚大化しており、地域から早急な対応策の確立が求められています。
農地が被災すると作土の損失や生産基盤の崩壊などの大きなダメージを受けることから減災対策の構築が緊急の課題となっています。しかし、基盤整備による勾配修正などの抜本的対策は効果的ですが、時間と費用がかかります。そのため、生産者が営農作業の一環として生産性を維持しながら簡易に実施可能な土壌流亡対策が求められています。

開発の経緯

我が国における土壌流亡対策としては、基盤整備による勾配修正、沈砂池の設置、ほ場内明渠や畦の設置、等高線栽培、ほ場下部へのグリーンベルトや河畔林帯の設置などが取り組まれています。しかしながら、未だ生産者が簡単に取り組め、かつ効果的な技術が少ない状況にあります。
そのため、農研機構ではこれまでに、心土破砕や補助暗渠敷設などの土層改良を生産者が迅速で簡単に実施可能な「カットシリーズ」を開発するとともに、耕耘管理の一環としての部分不耕起帯設置による侵食耐性の改善法を開発してきました。
今回、これら二つの技術を併用することで土壌流亡抑制効果のさらなる向上を図り、その効果を現地実証しました。

新開発の施工技術の特徴・意義

  • 策定した土壌流亡対策は、生産者が通常の営農作業の一環として手軽に実施できる土層改良と部分不耕起帯設置との併用法です(図1)。前者は、麦などの収穫残渣を疎水材に利用する有材補助暗渠機カットソイラーなどにより、堅密土層を破砕して浸透性を高めることで表面流去水の発生を抑制します。後者は、等高線方向の耕耘作業時に0.5~5m幅のライン状に、或いは、ガリ(水の流れが地面を削ってできる沢状の大きな溝)が頻繁に発生し始める地点にドット状に、部分的な不耕起帯を設置する「ドットボーダー・プロテクト」により侵食耐性を改善します。
  • 北海道美瑛町において本技術を適用した結果、収穫後に実施した土層改良と部分不耕起帯による土壌流亡量の削減率は、裸地期間終了時において、土層改良のみの場合は2~3割、部分不耕起帯のみの場合は2割程度であるのに対し、併用した場合は3~8割となり、それぞれ単独で実施するよりも土壌流亡抑制効果が向上しました(表1)。
  • 土壌流亡対策となる、土層改良および部分不耕起帯設置の実施方法とその留意点(図1)と、当該地域の畑輪作体系における実施スケジュールの事例(図2)を示したパンフレットを本日、公開します。
  • 本技術が対応できる降雨量は、80mm/日までを想定しています。

今後の予定・期待

普及対象:全国の畑地帯の農業者、自治体の担当部局、農業機械メーカー。
普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:生産者や自治体の防災対策担当、対象者が組織する地域対策協議会等を想定。現在、北海道美瑛町の土壌流亡対策協議会(生産者と行政)で導入が推進されています。
その他:提案の土層改良技術のカットシリーズは農業機械販売店から市販されています。また、本技術は北海道農政部における2019年度北海道農業試験会議の普及推進事項です。北海道では、北海道立総合研究機構と北海道農政部の普及組織を通じた普及活動が進められており、土壌流亡の軽減による流域の減災に貢献します。さらに、本技術と既存技術のグリーンベルトや樹林帯等を併用することで相乗効果が期待できます。
この成果について、農研機構農村工学研究部門令和2年度実用新技術講習会及び技術相談会(令和2年11月6日(金曜日)~11月24日(火曜日) ウェブ配信)にて紹介します。詳細は以下をご覧ください。
http://www.naro.affrc.go.jp/event/list/2020/09/136236.html

用語の解説

カットシリーズ
農研機構、株式会社北海コーキならびに公益財団法人北海道農業公社が共同で開発したトラクタ用の営農排水改良のための施工機械のラインアップです。ほ場の排水性を改善するため、無資材で地中に通水空洞となる暗渠を構築する穿孔暗渠機「カットドレーン」や、収穫後のほ場表面に散在しているワラなどを土に埋設する有材補助暗渠機「カットソイラー」などがあります。下記のWebページをご参照ください。
https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/132584.html
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畑輪作
畑作では栽培する作物を毎年変えて土壌の微生物や養分などのバランスを取るため、栽培する作物の周期的なサイクルがあります。代表的な畑作地帯である北海道では、ジャガイモ、テンサイ、豆、麦の4年サイクルの輪作が行われています。[ポイントへ戻る]
収穫残渣
農作物の収穫時に、不要となる茎や葉などの植物体のこと。稲や麦の場合、コンバインで収穫した後、ほ場表面に茎葉のワラが多量に散在して残ります。これらは土に混ぜることで土壌改良資材となります。[概要へ戻る]
表面流去水
降雨などにより地表に供給された水が、地中に浸透できずに、傾斜の方向に土壌表面を流れる水のこと。表面流去水が発生すると、土壌が侵食され流亡します。[概要へ戻る]

発表論文

  • 巽 和也ら(2019):畑地の営農管理による地表流出と土壌流亡抑制技術、畑地農業 730、 1-6
  • 農研機構(2019):営農排水改良ラインナップ技術 新世代機「カット・シリーズ」

参考図

図1 土層改良と部分不耕起帯設置による土壌流亡対策の概要と留意点

表1 土層改良と部分不耕起帯設置の併用による土壌流亡抑制効果の事例

図2 畑輪作における対策実施時期の事例