プレスリリース
環境勘定による農業・農村の多面的機能の評価

- 新たな手法で再評価 -

情報公開日:2004年7月 6日 (火曜日)

趣旨

独立行政法人農業工学研究所(理事長 佐藤寛)は、交付金プロジェクト研究「農業の持つ多面的機能の環境勘定による総合評価」(平成13年度より3ヶ年間)を実施し、個別機能について手法の精緻化や経済的評価を行うとともに、新たに環境勘定手法などを導入して多面的機能を総合評価し、その結果を以下の小冊子に取りまとめました。

独立行政法人農業工学研究所『農業・農村の有する多面的機能の解明・評価-研究の成果と今後の展開-』、平成16年7月、全19頁(PDFファイル)

ねらい

平成13年の日本学術会議の答申では、国際的な議論において日本の状況を客観的に主張することや広く国民に理解を得るために経済評価の必要性を主張していますが、同時にその困難性も述べています。当所では、これらの課題を踏まえて、特に農林業の与える環境負荷というマイナス部分の評価を環境勘定手法により取り入れ、参考値として総計約37兆円の便益を算定しました。また、20%の多面的機能が喪失された場合の部分的価値を求める手法を開発し、1世帯あたり約4千4百円の評価額を算定しました。そのほか、あわせて個別機能評価の精緻化を行いました。

成果の概要

多面的機能の総合評価

  • 「初めて農村社会資本の多面的機能を評価」(10~11頁参照)
    農業の有する多面的機能のみにとどまらず、農業水利施設等の農村社会資本ストックそれ自体にも環境面での効果があることを示しました。
  • 「初めて環境経済統合勘定により農林業の環境負荷と環境便益を総合評価」(11頁参照)
    多面的機能の各データを活用して環境経済統合勘定により初めて枠組みを作成して、試算し、農林業部門の環境費用(負荷)は10兆590億円、環境便益は47兆6260億円との参考値が得られました。
  • 「現実性のある部分的な機能低下に対する住民の評価額を算定」(資料12頁参照)
    全機能の総額評価ではなく、現在の多面的機能の20%が無くなるとした場合、地域住民が機能の低下分を現状どおり維持するために支払える額をCVMにより「4,441円/世帯・年」と算定しました。これまで全ての多面的機能がなくなるという状況で評価していますが、そのような状況が生じる可能性は極めて低いといえます。初めて現実的な将来予測に基づいて計算しているところに価値があります。

多面的機能の個別評価(2~9頁参照)

個別機能では、洪水防止機能が1/100確率の洪水に対して全国で2兆6,321億円、窒素の水質浄化機能が水田で700億円の外部経済、有機性資源活用機能が240億円/年(条件の違いによる評価額の変化幅は100~1,200億円)等の評価を行うとともに、その他の機能も新たな手法の開発を試みました。

今後の方針

今回農工研が取り組んだ課題は、これまで提起された問題点を含め、より精緻化を図るための手法開発であります。それは、結果の数値のみに意義があるのではなく、科学的な根拠に基づく多面的機能の解明・評価の複雑性、多様性を示すことに意味があります。現在行政においては農村の有する地域資源の保全のあり方が検討されていますが、今後、多面的機能の解明・評価さらには、地域ごとの様々な機能の維持・向上のための技術開発を推進し、これらの施策への貢献に努めます。