プレスリリース
土壌中の深さ別の放射線を測定する装置を開発

- 深さ別の放射能分布の推定が短時間で可能! -

情報公開日:2015年10月 8日 (木曜日)

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 ポイント

  • 土壌にセンサー部を挿入することで、深さ別の放射線を短時間で測定できます。
  • 土壌中の深さ別の放射能分布を推定できます。
  • 土壌の汚染状態を、深さ方向を含めて把握できるため、除染範囲の効率的な特定や、適切な除染対策手法の選定につながります。

概要

農研機構は、福島県土地改良事業団体連合会及び応用地質株式会社と共同で、土壌中の深さ別の放射能分布を現地において短時間で推定できる装置を開発しました。
放射性物質で汚染された土壌を除染する際、汚染の深さを把握することは、除染範囲を特定し、除染対策を効率的に実施する上で重要です。しかし、これまでは土壌中の深さ別の放射能分布を現地にて推定する手法がなく、土壌サンプルを実験室に持ち帰って測定する必要があったため、多くの時間と労力を要していました。
開発した装置は、長さ50cmのセンサー部に複数のガンマ線検出器を搭載しており、挿入した土壌中の放射線を2.5cmきざみで深さ別に測定することが可能です。更に、各検出器での測定値を解析することにより、深さ別の放射能分布を推定することも可能です。
本装置は、従来法と比較して測定作業を大幅に効率化できます。また、土壌の汚染された深さを現地で把握できるため、除染対策が必要となる範囲の効率的な特定が可能となり、適切な除染対策手法の選定につながります。

予算:国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 運営費交付金
特許:特願2015-167993


詳細情報

開発の社会的背景と経緯

東京電力福島第一原子力発電所の放射性物質放出事故によって汚染された土壌等における放射性物質を除去又は低減するための取組が進められています。その際、汚染された状況を把握するために、放射性物質の平面的な分布や、深さ別の分布を簡便かつ正確に測定することが求められます。
これまで、放射性物質の平面的な分布を測定する技術はありましたが、深さ別の分布を現地にて短時間で推定する手法はありませんでした。深さ別の分布を調べるには、土壌サンプルを実験室に持ち帰って放射性物質濃度を測定する必要があり、多くの時間と労力を要することから、測定地点数が制限されることが課題でした。

研究の内容・意義

開発した装置は、土壌中の深さ別の放射能分布を現地にて推定できます。このため、除染対策が必要となる範囲の効率的な特定が可能となり、適切な除染対策手法の選定につながります。

【放射能測定装置の概要】

開発した放射線測定装置は、主に、放射線を測定するセンサー部と、測定結果から深さ別の放射能分布を推定するソフトウェアで構成されます(図1、写真1)。作業性を考慮し、人員2名により装置を携帯して移動や測定が可能です。

【センサー部の特徴】

長さ50cm、直径2.4cmのセンサー部には、2.5cm間隔で20個のヨウ素セシウム(CsI)を使った検出器が一列に並んで搭載されています(図1)。センサー部を土壌に直接挿入すると、各検出器により放射線を2.5cm間隔で最大約50cm深さまで測定できます。

【放射能の深さ別の解析】

各検出器には、検出器が位置する深さに存在する放射性物質からだけではなく、異なる深さに存在する放射性物質から放出された放射線も到達します。このため、深さ別の放射能分布を求めるには、異なる深さに存在する放射性物質の影響を差し引く必要があります(図2)。そこで、各検出器の測定値とそれらの相互関係を使ってソフトウェア上で解析を行い、深さ別の放射能分布を推定します。その際、密度、含水率などの条件を考慮すると、更に厳密な推定が可能です。

【測定時間の短縮】

従来法では土壌を筒状に抜き取った後、深さ別にカットして調整した試料を実験室に持ち帰り、Ge半導体検出器等で放射性物質濃度を測定していたため、採取から結果の取得までに数日を要しました。本装置で測定に要する時間は、対象の放射能と要求される精度により異なりますが、表層5cmの放射性セシウム濃度が8,000Bq/kgの土壌であれば3分以内です。

今後の予定・期待

開発した測定装置は、応用地質株式会社から「挿入式多深度放射線測定器MSP (Multi Scintillation Pike)」という商品名で販売されています。
土壌だけでなく、フレキシブルコンテナバッグなどのセンサーを挿入できる対象であれば測定可能です。また、センサー部は完全防水となっており、貯水池で水上から底泥での分布を推定することが可能です。

 

図1 

写真1

 

図2