プレスリリース
東北農研が気象予測データを利用した寒締めホウレンソウ糖度予測情報サービスを開始

情報公開日:2008年12月19日 (金曜日)

農研機構 東北農業研究センターでは、インターネットを用いて寒締めホウレンソウの糖度予測情報を提供するシステムを開発しました。1kmのメッシュに展開された東北地方の7日先までの気象(気温)予測データと、そのデータに基づいた寒締めホウレンソウの糖度予測を、東北6県分の地図上に表示します。このシステムは、気温に基づいた寒締めホウレンソウの計画的な出荷に役立ちます。

本システムは、2007年夏より運用を開始した「気象予測データを利用した農作物被害軽減情報サービス」を通じて情報を提供します。 (ウェブサイトのURL http://www.naro.affrc.go.jp/tarc/contents/kanjime/index.html)

なお、本システムは、農林水産省の「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業『寒締め野菜の高品質化シナリオの策定と生産支援システムの開発(2003年~2005年度)』」で得られた成果です。


詳細情報

背景とねらい

東北地方では、冬の農業振興が重要な課題の一つとなっています。その中で、冬の寒さを利用した寒締めホウレンソウは、農閑期のビニールハウスを有効に使えるだけでなく、比較的高い価格で販売できる有利性もあります。寒締め栽培では、ホウレンソウに低温を与える時期とその期間によって品質にばらつきが発生し、計画的に出荷するためには生育状況と気象条件の両方を考慮する必要があります。そこで、気象(気温)データを用いて寒締めホウレンソウの糖度を予測し、適切に低温を与えることによって計画的な出荷に役立てることを本研究のねらいとしました。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、データベースサーバとウェブサーバとで構成されています(図1)。データベースサーバは、気象予測データおよび1kmメッシュ気象データを農林水産研究計算センターサーバから毎日自動的に取得し、寒締めホウレンソウの生育予測モデルや糖度予測モデル等の計算を実行します。ユーザーは、ウェブサーバからの各種情報を地図上に表示させて閲覧できます。
  • ウェブサイトのURLはhttp://tohoku.dc.affrc.go.jp/yamase.htmlです。この画面上に表示される「寒締め菜っ葉情報」アイコン(図2 赤丸)をクリックすると、寒締めホウレンソウ生育情報サイトへリンクします。本サイトへのログインには、ユーザーIDとパスワードの入力が必要です。ユーザーID とパスワードは、本サイトからメールにより申請していただくことで、すぐに入手でき、どなたでも無料で利用できます。
  • 本システムの主な提供情報は、寒締めホウレンソウの糖度予測情報および生育予測情報です。 寒締めホウレンソウ糖度予測情報では、開放ハウスの地温を外気温(メッシュ気温)から推定し、予測日前5日間の平均地温から推定した糖度(Brix)を東北地方全域の地図上に色分けして表示します(図3)。当日から8日先までの日別予測糖度を選択でき、寒波の襲来による糖度の高まりや一時的な高温による糖度低下を数日前から把握することができます。
  • 糖度予測値は、ビニールハウスの側窓を開放した時点での目安として利用可能ですが、 日射量は考慮されていませんので、日照の多少で糖度が±1度程度変動する可能性があります。
  • GISウェブを使っているので、任意の範囲で拡大が可能です(図4)。地名や道路、鉄道などの情報も閲覧でき、必要なメッシュが選択できます。
  • 本ウェブサイトの「水稲情報」アイコンは、水稲生育予測関連情報サイトへリンクしており、2008年は4月~9月まで水稲関連の情報を発信しました。2009年も4月から関連情報の発信を再開する予定です。

図1.システムの概念図

図2.システムのメニュー画面

図3.寒締めホウレンソウ糖度予測マップ表示

図4.寒締めホウレンソウ糖度予測マップの拡大例

用語説明

寒締めホウレンソウ
「寒締め」は農研機構東北農業研究センターの前身である農林水産省東北農業試験場で開発された栽培技術です。昔からホウレンソウや菜っ葉類が冬に甘く美味しくなることは良く知られています。ホウレンソウに限らず越冬する植物は雪や寒さに遭遇すると体内の糖含量が上昇します。これは車の不凍液と同じ原理で、凍るのを防ぐ作物の自己防衛反応であると考えられています。「寒締め」はこの現象を積極的に利用した栽培法で、野菜を「寒さ」で「締める」という意味で名づけられました。
初めから寒さを当てるのでなく、最後に寒さを当てることがこの栽培法のポイントです。菜っ葉類が収穫可能な大きさまで育った時点でハウスの裾を上げ、外気を入れてハウス中の温度を下げる技術です。寒締めにより糖分が増えるだけでなく、ビタミン類が増加することも確認されています。更に、品質にとって負の要因となる硝酸含量は低下することが明らかになっています。
気象予測データ
最初に気象庁で計算された気象予測データ(約20km間隔)を、日本気象協会でより詳細な格子間隔(約5km)へ再計算し、さらに農林水産研究計算センターのサーバで1kmメッシュにまで計算したデータを用いています。ちなみに「予報」とは、晴れや曇り等の天気の解釈まで入ったものを指し、本システムのようにデータのみを用いる場合は「予測」と呼びます。
1kmメッシュ気象データ
東北農業研究センターで開発した計算システムを用いて、縦横約1km単位のメッシュ気温データを日々作成し、ウェブ上で配信しています。URLはhttp://tohoku.dc.affrc.go.jp/trmain.htmlです。
GIS
Geographic Information Systemの略で、地理情報システムのことです。GISは、地図情報を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工することで各種情報を視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術です。本ウェブシステムでは、気象予測データから水稲生育情報までを1kmメッシュ単位で閲覧可能となるように運用しています。