プレスリリース
湿害に強い牧草フェストロリウムの新品種「東北1号」の最適な刈取り体系を考案

- 耕作放棄水田への導入が期待 -

情報公開日:2012年7月20日 (金曜日)

ポイント

  • フェストロリウム「東北1号」は1番草を出穂初めに、2番草を梅雨明け後に、3番草を降霜前に刈取ると栄養価の高い牧草を最も多く収穫できることがわかりました。
  • この体系での年間TDN収量(栄養収量)は約1t/10aで、3年程度は連続利用が可能です。
  • フェストロリウム「東北1号」は排水不良のため従来の牧草が導入不可能な耕作放棄水田等にも導入できます。

概要

  • 農研機構 東北農業研究センターは、寒冷地向き牧草であるフェストロリウムの新品種「東北1号」1)について1、2番草2)の刈取り日を異にした様々な刈取り体系で3年間、収量及び生育に伴う栄養成分の変化を調査し、栄養価の高い牧草を最も多く収穫できる刈取り体系を明らかにしました。
  • この刈取り体系での年間TDN収量3)は約1t/10aで、3年程度の連続利用が可能です。
  • 東北地域でも年々増加している耕作放棄水田の多くは排水不良なため、従来の牧草では導入が不可能でしたが、「東北1号」は耐湿性が強いので、このような耕作放棄水田でも高い収量性が期待できます。
  • 従来、牧草が導入できずイグサやスゲが優占するようになった排水不良な耕作放棄水田での実証試験を行ったところ、「東北1号」の利用1年目におけるロールベール体系で収穫できた乾物実収量は3回刈り合計で1.3t/10aでした。この収量はオーチャードグラス等の一般的な牧草の年間乾物収量と同等です。

詳細情報

研究の経緯

全国的に年々増加している耕作放棄地は東北地域が最も多く、その中でも水田が45%を占めています。耕作放棄水田の多くは排水が不良なため、オーチャードグラス等の一般的な牧草では、湿害の発生が甚だしく、導入が困難でした。このため、東北地域では、栄養価や家畜の嗜好は劣るものの耐湿性が強いリードカナリーグラスが栽培されてきました。このような状況の中で高栄養価と耐湿性を兼ね備えるフェストロリウムが寒冷地向け牧草として有望視され、平成21年度には東北農業研究センターで国内初のフェストロリウム品種「東北1号」が育成されました。

今回は、この新品種「東北1号」について1、2番草の刈取り日を異にした様々な刈取り体系で3年間、収量及び生育に伴う栄養成分の変化を調査し、栄養価の高い牧草を最も多く収穫でき、3年程度は連続収穫可能な最適刈取り体系を考案しました。

研究の内容・意義

  • 東北地域では1番草が年間乾物収量の50%を占め、良質な1番草サイレージ4)をいかに多く確保するかが重要な課題です。牧草は、生育に伴って飼料成分や乾物収量が変化します。「東北1号」の場合、1番草サイレージのTDN含量は穂揃い期までは約60%以上の高水準を維持し、TDN収量も0.6t/10a以上でした(図1)。 このことから、1番草の刈取り適期は出穂初め期~穂揃い期になりますが、3年間の経年劣化5)の程度を考慮すると出穂初め期が最適です(図2)。
  • 2番草の刈取り日は1番草刈取り後40~65日の間で変えても、年間のTDN収量に影響しないことから、2番草は収穫調製の作業性6)を考慮し、天候不順な梅雨を避け、梅雨明け後できるだけ早く刈取りをするのが妥当です。
  • 2番草を梅雨明け後に収穫する場合、3番草の生育量は1、2番草ほど多くありません。そのため、3番草は生育期間を長く確保することで収量増を図るため、収穫の晩限7)(盛岡では10月初め)を目途に刈り取ります。
  • 以上のことから、フェストロリウム「東北1号」は1番草を出穂初め(盛岡では5月下旬頃)に、2番草を梅雨明け後(盛岡では7月終わり頃)に、3番草を収穫の晩限(盛岡では10月初め)を目途に刈取る体系が最適です。この体系で刈取れば、利用3年目まではTDN含量8)が約60%の粗飼料をTDN収量で年間約1t/10a生産することができます(図3)。
  • 「東北1号」は、オーチャードグラスやリードカナリーグラスが導入できずイグサやスゲが優占するようになった排水不良な耕作放棄水田においても、排水良好な条件と同等の乾物収量(1番草)が認められました(図4)。
  • 上記のような耕作放棄水田に導入した「東北1号」の利用1年目の乾物実収量は年間約1.3t/10aでした(表1)。

今後の予定・期待

高栄養価で耐湿性が強いフェストロリウム「東北1号」の導入によって、これまで利用されてこなかった寒冷地の耕作放棄水田が新たな粗飼料生産の場として活用されることが期待されます。

「東北1号」は平成21年7月に品種登録出願され、その種子は、家畜改良センター及び日本草地畜産種子協会を通じて現在増殖中で、平成25年度に主な種苗会社を通じて販売される予定です。

用語の解説

1)フェストロリウム「東北1号」
フェストロリウムは栄養価が高く、収量性に優れるロリウム属(イタリアンライグラスなど)の牧草と環境ストレス耐性や永続性に優れるフェスク属(トールフェスクなど)の牧草を掛け合わせ、それぞれの長所を兼ね備えるように開発された新草種です。ライグラス型、フェスク型に大きく分けられ、それぞれ特性が異なります。
「東北1号」はライグラス型フェストロリウムで、日本初のフェストロリウム品種です。栄養価が高く、多年生のため、一度の播種で3年程度は栄養価の高い粗飼料が収穫可能です。

2)番草
東北地域において、牧草は一般的に年3回の刈取りを行います。春・夏・秋の収穫で、それぞれ1、2、3番草と言います。

3)TDN収量
TDN含量に乾物収量を乗じて出される単位で、寒冷地における主要草種であるチモシーでは年間のTDN収量として0.63t/10aが育種目標となっています。

4)サイレージ
日本のように四季のある気候では年間を通しての牧草の収穫はできません。牧草が収穫できない冬場のエサとして、春から秋にかけて収穫した牧草を密封して貯蔵したものを利用します。この貯蔵された牧草のことをサイレージと言います。サイレージは牧草の漬け物のようなものです。

5)経年劣化
牧草はイタリアンライグラスなどの単年生のものと、オーチャードグラスなどの多年生のものがあります。単年生は毎年播種しなければならず、多年生は一度の播種で何年間も連続して刈取ることができます。しかし、多年生牧草は播種後、年を経る毎に収量が減少するのが一般的で、それを経年劣化と呼びます。

6)収穫調製の作業性
牧草サイレージの収穫は通常2~3日間かかります。収穫調製時に収穫物が雨に当たると、養分の損失が起こり、栄養価の低いサイレージが生産されてしまうため、収穫調製作業は晴天の続く日を選んで行われます。

7)収穫の晩限
通常は霜の降りる前が収穫の晩限となります。盛岡では10月下旬です。

8)TDN含量
家畜の飼料の栄養価を表す単位の一つで、牧草ではTDN含量60%以上が良質とされています。

図1 1番草のTDN収量およびTDN含量に及ぼす刈取り日の影響(利用1年目)

図2 年間TDN収量の経年変化に及ぼす1番草刈取り日の影響

図3 「東北1号」の最適刈取り体系と各番草におけるTDN含量およびTDN収量(3年間の平均値)

図4 耕作放棄水田における1番草乾物収量の比較

表1 耕作放棄水田に導入した「東北1号」の利用1年目の年間乾物収量(実収量)

写真 フェストロリウム、オーチャードグラス、リードカナリーグラスの草勢と穂の様子