プレスリリース
牛肉の機能性成分「カルニチン」は放牧により増加する

情報公開日:2005年10月19日 (水曜日)

ヒトが体内で脂肪(長鎖脂肪酸)を燃焼するためには、L-カルニチン(カルニチン)という物質が必要です。カルニチンは反芻家畜の筋肉に多いことから、食品としては牛肉や羊肉に多く存在しています。東北農業研究センターでは、私たちの健康に好ましい牛肉を生産するため、各種食肉中におけるカルニチン含量を分析するとともに、日本短角種を用いて、牛の運動量がカルニチン含量の増減に影響しており、放牧肥育することで牛肉中のカルニチンが増えることを明らかにしました。

背景とねらい

我が国の牛肉生産における飼料自給率は11%(カロリーベース)と低く、これは肉用牛の餌のほとんどを輸入穀物に依存していることが原因です。反芻家畜である牛の最大の利点は、人間が食べることのできない草などの粗飼料を食べて、これを食肉に変換できることにあります。大量に穀物を餌として給与するのは、日本人の多くが霜降り牛肉を好むためですが、私たちの健康という視点からは問題が指摘されています。しかし、一方では食肉には様々な機能性物質が含まれています。近年、反芻獣の筋肉に多く存在する脂肪燃焼促進物質「カルニチン」の様々な機能性が明らかになり、サプリメントとしても販売されています。そこで、牛肉中におけるカルニチン含量を調べ、その変動要因を明らかにするとともに、これを増やしヒトの健康に好ましい牛肉を生産するための飼育方法を解明しました。

成果の内容・特徴

  • 牛肉中におけるカルニチン含量は他の食品に比較して高く(図1)、その増減は肥育時における供与飼料の影響を受けます。
  • 日本短角種を夏期に昼夜放牧すると、舎飼いよりも、筋肉中の遊離L-カルニチン含量は有意に高く推移します。しかし、冬期において共に舎飼いすることにより両区間の有意差はなくなります (図2)。放牧期間中において、筋肉中の遊離L-カルニチン含量が高く移行する原因の一つとして、運動量の差が考えられます。
  • 遊離L-カルニチン含量は、牛肉の熟成期間中(10日間)に増減することはなく (表1)、貯蔵中でも安定な物質です。
  • 遊離L-カルニチン含量は、筋肉を構成する赤色筋線維(I型+IIA型)数の割合との間に正の相関(r=0.46、5%水準で有意)が見られ、酸化型の代謝を行う筋肉に遊離L-カルニチンが多く存在します (図3)。

詳細情報

図1 各種食肉中の遊離L-カルニチン含量
図1 各種食肉中の遊離L-カルニチン含量

図2 日本短角種ロース肉中のカルニチンの変動
放牧群は5月上旬から10月上旬にかけて昼夜放牧地で飼養した。
放牧直前(5月上旬)と終牧時(10月上旬)にサンプルを採取して分析した。

表1 熟成中の遊離L-カルニチン含量の変化
表1 熟成中の遊離L-カルニチン含量の変化
と畜直後を0日目として冷所 (2°C)で熟成

図3 筋肉線維型とカルニチン含量の関係
図3 筋肉線維型とカルニチン含量の関係

用語説明

L-カルニチン(カルニチン)
運動能力向上、疲労回復、ダイエット、中性脂肪の低下、免疫能維持などの効果が報告されている機能性成分。
図4 L-カルニチン(カルニチン)

反芻家畜
四つの胃袋を持つ家畜で羊、山羊、牛など。

長鎖脂肪酸
脂肪を構成する脂肪酸は分子の長さによって短鎖、中鎖、長鎖に分けられる。このうち長鎖脂肪酸はカルニチンの助けを借りないとエネルギーに変換することができない。

日本短角種
東北北部の夏山冬里生産方式に適応し、泌乳性と増体が良い。特に、放牧適性に優れ、まき牛による高い子牛生産率や発育能力などの長所がある。

牛肉の熟成期間
と畜直後の筋肉は硬くて風味が少ない。熟成によって食肉として好ましいものになるが、動物種によってその期間は異なる。牛肉では1°Cで10日間以上の期間が必要とされている。

赤色筋線維
筋肉を構成する筋線維は赤色筋線維と白色筋線維に分けられる。この線維の比率の違いが食肉の色の濃さに関係している。

酸化型の代謝
筋肉が活動するためのエネルギー生産を酸素存在下で生産する反応で、主に赤色筋線維内で起こる。これに対して、酸素を用いないエネルギー生産である嫌気的解糖作用という反応がある。