プレスリリース
アブラナ科の野菜「ハクサイ」のゲノム塩基配列を初解析

- アブラナ科のモデル植物シロイヌナズナから作物への応用研究にブレイクスルー -

情報公開日:2011年8月29日 (月曜日)

本研究成果のポイント

  • 国際ハクサイゲノム解読プロジェクトと連携し、約4万種の遺伝子を同定
  • 約1万種の完全長cDNAの配列情報を基に、タンパク質をコードする遺伝子を特定
  • モデル植物シロイヌナズナの情報を活用して、アブラナ科作物の機能推定が可能に

概要

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)、岡山県農林水産総合センター生物科学研究所(岩渕雅樹所長)、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所(望月龍也所長)の研究グループは、中国、イギリス、韓国を中心とする国際ハクサイゲノム解読プロジェクト※1(日本からはかずさDNA研究所が参加)と連携し、アブラナ科※2の作物では初めてとなるハクサイのゲノム解析に成功、約4万種の遺伝子を同定しました。さらに、この約4万種の遺伝子を、研究グループが日本で収集した約1万種のハクサイの完全長cDNA※3配列情報と比較して、ハクサイゲノム配列中でタンパク質をコードする遺伝子を特定することに成功しました。本研究は、理研バイオリソースセンター実験植物開発室の安部洋専任研究員、岡山県農林水産総合センター生物科学研究所植物免疫研究グループの鳴坂義弘グループリーダー、野菜茶業研究所の畠山勝徳主任研究員との共同研究による成果です。

ハクサイは、植物で初めてゲノム解読されたモデル植物のシロイヌナズナと同じアブラナ科に属する作物です。そのため、シロイヌナズナで得た知見を作物研究へ応用展開する際に起点となる植物として注目されていました。今回、中国を中心とする国際ハクサイゲノム解読プロジェクトでは、約5億塩基対とされるハクサイゲノムに対し、全ゲノムショットガン法※4を駆使し、全ゲノムの約55%にあたる約2億8000万塩基対の塩基配列を世界で初めて解読しました。また、理研を中心とする共同研究グループは、独自に整備を進めてきた約1万種のハクサイの完全長cDNAを活用し、ハクサイゲノム配列中からタンパク質をコードする有用遺伝子を同定するとともに、国際ハクサイゲノム解読プロジェクトと共同で、染色体ごとに有用遺伝子を整列することに成功しました。その結果、ハクサイとシロイヌナズナの遺伝子配列には高い類似性が見られることが分かり、シロイヌナズナで蓄積、公開されている約2万6000個の遺伝子の位置や機能情報がハクサイでも利用可能となりました。

今回の研究で得たハクサイゲノム情報は、モデル植物から作物へと応用研究を展開する際の起点となる成果で、今後、シロイヌナズナで得た知見から作物への応用展開により、作物からの有用遺伝子単離や、品種改良のスピードなどが、ますます加速するものと期待されます。本研究成果は、独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センターの実施する「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」の支援を受けており、科学雑誌『Nature Genetics』オンライン版(8月28日付け:日本時間8月29日)に掲載されます。

1.背景

ハクサイ(図1)は、日本人になじみの深いアブラナ科の重要作物で、現在の食生活になくてはならないものとなっています。これまで、遺伝子解析や機能タンパク質などをターゲットとした世界の植物研究は、モデル植物であるシロイヌナズナを中心に進んでおり、植物に関係する課題の解決、特に食料問題の解決のためには、シロイヌナズナで得た知見を作物へ応用することがますます重要になってきています。こうした状況の下、ハクサイはシロイヌナズナと同じアブラナ科に属する作物であることから、作物のモデル植物としての利用が世界的に期待され、アブラナ科作物研究は加速度を増しています。2009年度からは、理研バイオリソースセンター、岡山県農林水産総合センター生物科学研究所、野菜茶業研究所の研究チームはハクサイ完全長cDNAの整備を開始し、約1万種の完全長cDNAクローンを作製しました。また、中国農業科学院(蔬菜花卉研究所:Institute of Vegetables and Flowers)、イギリスJohn Innes Centerを中心とした国際ハクサイゲノム解読プロジェクトでは、ハクサイのゲノム配列解明に取り組んでおり、わが国からも財団法人かずさDNA研究所(大石道夫所長)が参画していました。

2.研究手法と成果

国際ハクサイゲノム解読プロジェクトは、ハクサイ系統の1つである「Chiifu-401※5」から収集したゲノムDNAを、全ゲノムショットガン法を活用して塩基配列決定を行いました。その結果、5億1,500万塩基対と推定される全ゲノム塩基配列の約55.1%に相当する2億8,380万塩基対以上のゲノム塩基配列を解読しました。この結果を基にコンピューターシミュレーションを行ったところ、ハクサイには約4万種の遺伝子があることを明らかにしました。研究グループは、この約4万種の遺伝子を、日本で収集した約1万種のハクサイ完全長cDNA配列情報と比較し、実際にハクサイゲノム配列中でタンパク質をコードする有用遺伝子領域を特定するとともに、ハクサイゲノムプロジェクトと共同で、これらの配列情報を10対(2n=20)ある染色体ごとに整列させることにも成功しました。また、ハクサイとシロイヌナズナの遺伝子配列を比較したところ、両者には約90%という高い類似性が見られることが分かりました。これにより、取得したハクサイゲノム情報は、モデル植物シロイヌナズナで蓄えられてきた高精度な遺伝子情報と比較することで、ハクサイ遺伝子の機能を推定することが可能になりました。

3.今後の期待

この研究成果は、アブラナ科モデル植物であるシロイヌナズナで得た知見を、アブラナ科作物へ発展させる起点となり、今後、作物への応用展開がますます加速するものと期待できます(図2)。植物性油の約12%を産出するナタネや健康増進食材として注目されるスプラウトやケールなど、多種多様なアブラナ科作物の品種改良を促進させるとともに、持続可能な食料生産技術の開発に大きく貢献するものと考えられます。


詳細情報

補足説明

※1 国際ハクサイゲノム解読プロジェクト
中国農業科学院(蔬菜花卉研究所:Institute of Vegetables and Flowers)、イギリスJohn
Innes Center、韓国National Institute of Agricultural Biotechnologyを中心とした国 際ハクサイゲノム解読プロジェクトチーム。
※2 アブラナ科
アブラナ科には、ハクサイをはじめとしてキャベツやブロッコリーなど数多くの重要な野菜に加えて、スパイスとしてのワサビやマスタード、植物油となるナタネなど人の生活に欠くことのできない植物群である。また、「植物のマウス」といわれるモデル実験植物シロイヌナズナもアブラナ科に属していることから植物研究においも非常に重要な役割を果たしている。
※3 完全長cDNA
cDNAは、ゲノム配列の中から、タンパク質をコードする遺伝情報だけを写し取 ったmRNA(メッセンジャーRNA)を鋳型にして作られたDNAのこと。完全長cDNAは、特殊な方法を使ってmRNAの全領域をカバーするように作られているため、遺伝子の完全な構造が分かり、翻訳してタンパク質を合成することができる。
※4 全ゲノムショットガン法  
  ゲノムDNAの塩基配列決定法の1つで、すべてのゲノムDNAを制限酵素(DNA
を切断する酵素)で適当な断片に切断し、各々のDNA断片の端より塩基配列を読んで、配列の共通部分を使ってコンピュータで連結(アセンブル)させていく方法。比較的、低コストでのゲノム解読が可能。
※5 Chiifu-401
ハクサイのゲノム配列決定に用いられたハクサイ研究の標準化系統である。日本で有名なチーフ白菜もChiifu-401と近縁な系統である。

 

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図1 ハクサイの成長(生育)

1.ハクサイの花

2.結球したハクサイ

3.ハクサイの幼植物

4.ハクサイの種

5.ハクサイの栽培風景

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図2 ハクサイを用いた新たな応用研究への展開

法人番号 7050005005207