プレスリリース
二重ネット工法で農村の畦畔法面にシバを植栽-通常の雑草畦畔を芝生畦畔に植生転換-

情報公開日:2015年9月 7日 (月曜日)

ポイント

  • 畦畔の管理を省力化するため、新規にシバの植栽技術を開発しました。
  • シバ苗を挟みこんだ二重ネットを用いることにより、急斜度の畦畔法面においても、容易に芝生畦畔を造成できます。
  • 生産者向けと普及指導員向けのマニュアルをそれぞれ刊行しました。

概要

  • 農研機構は、高齢化が深刻かつ畦畔率の高い中山間地域で課題となっている畦畔管理の省力・軽労化を図るため、新たな芝生畦畔の造成技術を開発しました。
  • 草刈りの回数を減らし、省力・軽労化を図るには、畦畔法面へのシバ植栽が有効です。そこで、30°~45°の急斜度の畦畔法面で作業可能な植栽技術「シバ二重ネット工法」を開発しました。
  • 当工法では、シバ苗を挟みこんだ市販の二重ネットのロールを、斜面を利用して転がしながら展開した後、覆土します。この作業は5人程度で容易に行うことができます。
  • 本技術のマニュアル「畦畔法面における二重ネット工法を用いたシバ(Zoysia japonica)の植栽技術」を、生産者向けと普及員等向けに刊行しました。シバ植栽の経験の無い生産者でも、普及員等の助言を得つつ、簡単にシバ植栽に取り組めます。

関連リンク:畦畔管理技術情報セミナーおよび「シバ二重ネット工法」技術実演会を、平成27年10月29日(木)と30日(金)に、広島県東広島市で開催します。(http://www.naro.affrc.go.jp/event/list/2015/08/059208.html)

予算:運営費交付金、農研機構生物系特定産業技術研究支援センターが実施する「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業(うち産学の英知を結集した革新的な技術体系の確立)(水田作)」、復興庁・農水省が実施する「食料生産地域再生のための先端技術展開事業(中小区画土地利用型)」、農水省委託プロ「低コスト・省力化、軽労化技術等の開発(畦畔除草ロボット)」で実施しました。

社会的・技術的背景

高齢化が深刻かつ畦畔率の高い中山間地域においては、畦畔管理における草刈り作業の安全性の確保と省力化が喫緊の課題です。解決策のひとつとして、シバ1)(Zoysia japonica)を主体とする芝生畦畔への植生転換があげられます。通常の畦畔では、背が高く、茎の太い雑草が繁茂し、草刈りに多大な労力を必要としますが、背丈の低いシバが覆うと、草刈りがしやすくなり、また、回数も減ります。従来、シバのマットを張り付ける張芝工法やポットで養成した苗を打ち込むポット苗工法により、芝生畦畔の造成が図られてきました。しかし、これらの植栽技術を、農村に多い30°から45°の急斜度の畦畔法面で利用しようとすると、作業者の姿勢や足場の確保が極めて難しいことなど作業性が大きな問題になっています。

そこで、農研機構では、そうした急斜度の畦畔法面でも生産者自身が比較的容易にシバを植栽できる技術「シバ二重ネット工法」を開発しました。従来のシバの植栽は、技能者による張芝工法、または10人程度の大人数によるポット苗工法でしたが、「シバ二重ネット工法」では、5人程度の少人数でシバが植栽できます。植栽後2年から3年の養生期間や、さらに芝生畦畔が成立した後も、通常の草刈りで維持管理することを基本としました。

本技術は、競技場や公園緑地のシバ植栽で用いるZN工法(Zoysian Net Planting System)に基づき、近中四農研とZN工法を有するゾイシアンジャパン株式会社(広島県神石高原町)が共同開発しました。

「シバ二重ネット工法」の特徴、施工方法、資材の入手等

1.シバ二重ネット工法の特徴

急斜度30°から45°の畦畔法面においても、生産者が5人程度の小人数の組作業を行うことが可能で、従来の植栽工法よりも高い作業能率で植栽できます(表1、表2)。

2.施工方法および留意点

手順として、前植生を野焼きや除草剤で処理したところに、5cmの床土を入れておき、6月上旬に畦畔の天端から、ほぐし芝を挟んだ木綿の二重ネットを展開し(図1)、直ちに厚さ1cmの目土を入れます。

木綿の二重ネットにシバのほぐし苗を新鮮重で200g/m2、本数で400本/m2挟んだものを、ロールにして販売しています。ロールの形状は幅が1.1m、長さ50.0m、直径0.3m,重さ20kgです(図1)。

床土、目土には雑草種子を含まない真砂土を用います。新規造成圃場では前植生の処理および床土は、不要な場合もあります。

畦畔法面では灌水が難しいため、シバの植栽は入梅期6月に実施、植栽年には9月に1回、次年からは5月、7月および9月の年3回の刈取りで、おおむね2年から3年で芝生畦畔が成立します。

シバの品種としては、被覆力に優れ、カメムシ対策の観点から出穂しない日本シバ品種「朝駆」等が適しています。

詳細は、農研機構が発行した「畦畔法面における二重ネット工法を用いたシバ(Zoysia japonica)の植栽技術」(農村の畦畔管理にお困りの方へ)および(普及員、指導者等向け)の2つのマニュアルをご覧ください。種々の留意点が記載されています。

詳細は、農研機構近畿中国四国農業研究センターホームページ(http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/warc/059322.html)をご覧ください。

3.環境への影響

二重ネットは木綿でできており、展開時の畦畔法面への二重ネットの仮止めには竹串を用います。二重ネット工法で用いる資材は、時間を経て全て自然分解するため、生態系を乱す心配はありません。

4.資材の入手先

二重ネット工法で用いる二重ネット(シバ苗込)ロールの注文および施工に関するお問い合わせは、ゾイシアンジャパン株式会社(http://www.zoysian.co.jp/)までお願いします。

ゾイシアンジャパン株式会社(担当:長沼 和夫)

Tel(0847)82-2126(代) Fax(0847)82-2021

〒720-1622 広島県神石郡神石高原町大字近田275

今後の予定・期待

「シバ二重ネット工法」が普及すると、生産者や農業生産組織が急斜度の畦畔法面におけるシバの植栽に取り組めるようになり、中山間地域の農村で芝生畦畔が広がることが期待されます。芝生畦畔が成立すると、1従来の雑草畦畔に比べて草刈り回数が削減できるとともに草刈り毎の作業量が軽減され、2草刈り時に足元が見えやすく、作業者の安全性が確保され、3草刈機および除草剤、双方の利用により省力かつ合理的な畦畔管理技術の確立に繋がり、さらに、4ヨモギやセイタカアワダチソウ等、長大な雑草が少なくなることで美しい農村の景観形成にも多いに役立つことが期待されます。

なお、「シバ二重ネット工法」およびその他の最新の畦畔管理技術を紹介するため、畦畔管理技術情報セミナー・「シバ二重ネット工法」技術実演会を、下記要領で開催しますので、あわせてご案内します。

1.日時 平成27年10月29日(木曜日)13時00分~16時25分(セミナー)

10月30日(金曜日)10時00分~11時00分(技術実演会)

2.場所 畦畔管理技術情報セミナー:東広島市市民文化センター、アザレアホール

(東広島市西条西本町28番6号)

技術実演会:ファーム・おだ(東広島市河内町小田2182)

3.問い合わせ先・申し込み先

農研機構近畿中国四国農業研究センター 企画管理部業務推進室

電話:084-923-4563 Fax:084-923-5215

E-mail:こちらへ

詳細は、農研機構近畿中国四国農業研究センターホームページ(http://www.naro.affrc.go.jp/event/list/2015/08/059208.html)をご覧ください。

用語等の解説

1)シバ(学名:Zoysia japonica)は、イネ科Zoysia属の植物の草種で、コウシュンシバ(Zoysia matrella )、コウライシバ(Zoysia tenuifolia)などとともに、古来より芝生用植物として利用されています。シバ(Zoysia japonica)は、北海道北部以外の日本全土に分布自生している在来種で、俗称ノシバとも呼ばれ、Zoysia属の中では最も踏圧に強く、耐寒性・耐乾燥性が優れます。Zoysia属の植物は、一般に種子発芽は不良で、実生繁殖が困難の一方、ほふく茎による栄養繁殖が容易です。したがって、これら草種による平坦なところでの芝生の造成は張芝工法等で行われ、種子吹付法はほとんど行われません。

以下、図表等

図1 「シバ二重ネット工法」に用いるロールと畦畔法面における二重ネットの展開

表1

表2