プレスリリース
西日本向けの高アミロース水稲新品種「ふくのこ」を育成
―米粉麺の製造・販売など6次産業化への貢献が期待-

情報公開日:2016年10月26日 (水曜日)

ポイント

  • 西日本での栽培に適した高アミロースの水稲新品種「ふくのこ」を育成しました。
  • アミロース1)含有率は27%前後で、米粉麺への加工に適します。
  • 従来の西日本向けの高アミロース品種「ホシユタカ」の欠点を改良し、栽培や選別・精米が容易になりました。さらに、「ホシユタカ」より3割程度多収です。
  • 収穫時期は、西日本の主力品種である「ヒノヒカリ」とほぼ同じです。
  • 西日本でも高アミロース米の生産から米粉麺の製造・販売までが可能となり、6次産業化のさらなる発展への貢献が期待されます。

概要

  • 農研機構西日本農業研究センターは、西日本向けの高アミロース水稲新品種「ふくのこ」を育成しました。
  • アミロース含有率は27%前後で、米粉麺への加工に適します。
  • 1987年に育成された西日本向けの高アミロース品種「ホシユタカ」は、玄米の粒形が細長く、また脱粒性もあることから、栽培や選別・精米などが難しいという欠点がありましたが、「ふくのこ」の粒形は「ヒノヒカリ」と同等で、選別や精米には従来の施設・機械等が利用できます。また、脱粒性も改良され、収量も「ホシユタカ」と比べて3割ほど多収になりました。
  • 収穫時期は「ヒノヒカリ」とほぼ同じで、西日本など「ヒノヒカリ」の作付地帯で栽培可能です。
  • これまで、栽培しやすい西日本向けの高アミロース品種がありませんでしたが、「ふくのこ」の育成により、西日本でも、米粉麺などの高アミロース米を使った6次産業化が可能になります。

予算:農林水産省委託プロジェクト「米粉に適した品種及び低コスト粉砕技術の開発」、運営費交付金

品種登録出願番号:第30997号(平成28年3月31日出願、9月9日出願公表)

新品種育成の背景・経緯

一般の良食味米(中アミロース)で作成した麺は、ゆで麺の表面の粘りが強く、麺離れが悪いのに対し、高アミロース米は麺離れが良く、製麺適性が高いことから、北陸地域向けの「越のかおり」、北海道向けの「北瑞穂」などがこれまでに育成され、米粉麺が製品化されています。しかしながら、これらの品種は、瀬戸内沿岸など温暖な地域では出穂時期 が早すぎるため収量が低下しやすく、また雀害にも遭いやすいので、温暖な地域での作付けには適しません。西日本向けの品種としては1987年に「ホシユタカ」が育成されていますが、一般の米と異なり、粒形が細長いために選別に専用の篩(ふるい)が必要です。また、国内で広く普及している籾摺機や精米機は、一般の米用に設計されているため、「ホシユタカ」のような細長い米は砕けやすいという欠点があります。さらに脱粒性2)も有することから、栽培や選別・精米などが難しく、普及の妨げとなっていました。そのため、西日本には他地域から高アミロース米を取り寄せて米粉麺を加工する業者もありましたが、地元で生産した米で米粉麺を製造し、販売する6次産業化への要望が高まっていました。そこで、「ホシユタカ」の欠点を改良し、西日本向けの多収の高アミロース品種「ふくのこ」を育成しました。

新品種「ふくのこ」の特徴

  • 高アミロースで製麺適性に優れる「新潟79号」(後の「こしのめんじまん」)と、多収で縞葉枯病抵抗性を持つ「関東229号」を交配して育成した品種です。
  • アミロース含有率は、「ホシユタカ」と同等の27%前後で(表1)、米粉と水のみで米粉麺に加工した結果、製麺適性は親品種の「こしのめんじまん」と同等に良好で、ベトナムの麺料理であるフォーなどへの調理が可能です(写真1)。
  • 玄米の粒形は、「ホシユタカ」は"半紡錘形"であるのに対し、「ふくのこ」は「ヒノヒカリ」と同様に"長円形"です。また、玄米千粒重、玄米の粒大も、「ホシユタカ」より大きく、「ヒノヒカリ」と同等です(写真2、表1)。そのため、選別や精米などは、従来の施設・機械等がそのまま利用できます。また、「ホシユタカ」は脱粒性が"中"でしたが、「ふくのこ」は"難"に改良され(表2)、収量性も、「ホシユタカ」と比べると3割ほど多収です(表1)。
  • 「ヒノヒカリ」と比較すると、育成地(広島県福山市)では出穂期は2日ほど、成熟期は4日ほど早くなります(表3、写真3)。西日本の主力品種である「ヒノヒカリ」と収穫時期がほぼ同じであり、「ヒノヒカリ」の作付地帯での栽培が可能です。また、耐倒伏性は「ヒノヒカリ」より強く、縞葉枯病にも抵抗性があり、いもち病にも強い特徴があります(表2)。
  • これらのことから、新品種「ふくのこ」は西日本地域における米粉麺への取組拡大に貢献できると期待されます。

栽培上の留意点

  • 穂発芽性が"やや易"のため、適期刈り取りに努めて下さい。
  • 白葉枯病に弱いため、常発地では防除を徹底して下さい。

品種の名前の由来

多彩で幸せな食卓の主役となれることを願って命名しました。

今後の予定・期待

  • 平成28年度より、岡山県内で栽培が始まっており、協定研究を行ってきた岡山市の(株)あいフーズ(住所:岡山市北区今3丁目6-4、電話:086-250-1418)で、米粉と水のみで製造した米粉麺の製品化が予定されています。また、同じく協定研究を行ってきた特定非営利活動法人桃太郎ハンズチャレンジ事業部・就労継続支援A型「メンヤフォー」(米麺の店、住所:岡山市北区今2丁目18-15、電話:086-250-1108)では、「ふくのこ」を使用したフォー(1食690円)を提供しています。
  • 「ふくのこ」について知っていただき、「ふくのこ」の米の生産、米粉製品の製造、販売などをご検討いただくため、生産者、加工業者、小売業者、飲食店、料理研究家等の皆様を対象に、「ふくのこ」の米粉麺のモニターを募集します。詳しくは、農研機構西日本農業研究センターホームページ(http://www.naro.affrc.go.jp/warc/)をご覧下さい。締め切りは11月16日です。応募多数の場合は抽選とさせていただきます。※米粉麺のモニター募集は終了いたしました。
  • 炊飯米の粘りが少ないため、カレーライスやエスニック料理などへの利用も期待できます。
  • 西日本向けの「ふくのこ」の育成により、北海道の「北瑞穂」、東北~北陸の「あみちゃんまい」、北陸~関東の「越のかおり」と合わせ、ほぼ全国で高アミロース米が栽培できるようになりました。これを機に、米粉麺などの米粉製品の製造・販売等、6次産業化のさらなる発展への貢献が期待されます。

用語の解説

1)アミロース

アミロペクチンと共にデンプンを構成する成分です。デンプンは、グルコース(ブドウ糖)が直鎖状につながったアミロースと、分枝状につながったアミロペクチンから構成されます。アミロース含有率が低いほど、炊飯米の粘りは強くなります。日本の一般的な良食味米品種のアミロース含有率は、15~20%程度で、「ミルキークイーン」などの粘りが強い低アミロース品種は10%程度、もち米は0%です。「ふくのこ」のアミロース含有率は、27%程度なので、炊飯米の粘りは少なく、冷めるとポロポロとした食感になりますが、米粉麺の製造には適した特性です。

2)脱粒性

籾が成熟過程で脱落する性質で、野生イネやインド型イネなどにみられます。脱穀作業が人力・畜力で行われる場合は、ある程度脱粒する方が作業効率が良くなりますが、機械化されている場合は、脱粒性があると収穫ロスがあるため、品種改良により脱粒しづらい方向に改良されています。

参考図

表1.収量および品質特性

表1.収量および品質特性

表2.耐性・耐病性

表1.収量および品質特性

表3.生育特性

表3.生育特性

写真1.「ふくのこ」の米粉麺を使用したフォー

写真1.「ふくのこ」の米粉麺を使用したフォー

(写真提供 特定非営利活動法人桃太郎ハンズチャレンジ事業部)

写真2.「ふくのこ」の籾および玄米
写真2.「ふくのこ」の籾および玄米

(左から、ふくのこ、ヒノヒカリ、ホシユタカ)

写真3.「ふくのこ」の圃場での草姿

写真3.「ふくのこ」の圃場での草姿

(左:ふくのこ、右:ヒノヒカリ)