「旬」の話題

今が旬の「トマト」のお話

夏が近づいてきました。今回は夏野菜の代表格、トマトのお話です。

技術の発達した現代では、1年を通じて収穫できますが、本来の旬は6月下旬~8月です。

トマトの起源

トマト(学名:Solanum lycopersicum L.)はナス科ナス属の野菜です。トマトの起源は、ペルーやエクアドルなどアンデス高原一帯であるとされています。紀元前1000年には栽培されていたという説もありますが、一般には10世紀頃にメキシコに持ち込まれた野生種のトマトが栽培化されたという説が有力です。

毒草だと思われていたトマト

16世紀はじめにスペインの航海家によってジャガイモと共にヨーロッパにもたらされたトマトですが、当初は有毒植物だと思われており、観賞用に栽培されていました。それから約200年後、飢饉に見舞われたイタリアでやむなく食べ始めたのがきっかけとなり、トマトの食用が広まっていったそうです。

日本には17世紀にヨーロッパから中国を経て長崎へと持ち込まれました。貝原益軒の「大和本草」では、トマトを「唐柿」と記述しています。日本でも当時は薬用、観賞用の植物と考えられていました。

数字で見るトマト

明治時代になり、食用のトマトが輸入されましたが、当時のトマトは酸味が強すぎて日本人の口に合わず、定着しませんでした。しかし、その後の品種改良に伴い消費量が増え始め、今ではすっかりおなじみの野菜になりました。平成18年度の農業産出額を見ると、トマトは米についで2位、果菜類の中ではナンバーワンです。

 

トマトはリコペンの宝庫

tomato4.JPGトマトの赤い色素「リコペン(リコピン)」はカロテノイドの一種です。リコペンには、動脈硬化症、がんなど多くの生活習慣病の原因となる活性酸素の一種、一重項酸素を消去する作用があり、その活性はビタミンEの100倍以上、β-カロテンの約2倍とされており、注目されています。

その他にもトマトにはビタミンA、Cなどが多く、栄養価の高い野菜だと言えます。 「トマトが赤くなると医者が青くなる」という諺があるほどです。

いろいろなトマト

歴史的にみると、明治から大正期の主要品種はほとんどが赤色系で、それらは酸味・臭みが強く、日本人にはあまり好まれなかったようです。昭和に入ってアメリカから導入された「ポンテローザ」という臭みの少ない桃色系の品種によって、ようやく日本人の食生活にトマトが定着し始めたとされています。

昭和50年代にはミニトマトが普及するとともに、病害虫に対する複合抵抗性を有し、食味も優れる品種の育成が盛んに行われました。特に昭和58年発表の「桃太郎」は、桃色系完熟トマトの代名詞となり広く普及しました。

現在も桃色系トマトが主流ではありますが、赤色系や調理用の品種も店頭に並んでおり、流通するトマトも多様化しつつあります。

農研機構が育成したクッキングトマト「にたきこま」

nitakikoma.jpg近年、トマトの加熱調理が人気を集めており、入手の容易な生食用トマトや缶詰トマトが多く利用されています。しかしながら、生食用トマトは水分が多く煮崩れしやすい、缶詰トマトは香りが不十分である等の欠点があります。農研機構 東北農業研究センターが育成した「にたきこま」はそれらの欠点を品種改良により克服したクッキングトマトの新品種です。

水の浸出が少ない、加熱したトマトソースの粘度が高いのでパスタにからみやすい、色調がすぐれている、酸度が高いので濃厚な味になるなど加熱調理に適した多くの特長を備えています。

参考資料

平成12年度研究成果ダイジェスト「クッキングトマト品種にたきこま」(PDF:732KB)

真っ赤なトマトを料理やスイーツに!! クッキングトマト レシピ集

農研機構が開発した「保水シート耕方式」による一段密植栽培

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農研機構の野菜茶業研究所と九州沖縄農業研究センターは、トマトの一段密植栽培に適した養液栽培技術である「保水シート耕方式」を開発しました。 従来の養液栽培と比較すると、

装置が簡便・低コスト培養液管理が容易作物が周年的に安定生育する

といったメリットがあります。

参考資料

技術資料「一段密植栽培(保水シート耕方式)による高糖度トマトの周年安定生産技術」(PDF:464KB)

用語解説

  • 一段密植栽培
    通常の4~5倍の密度で苗を植え、一番最初に咲く花の房の果実(1段目果実)のみを繰り返し収穫するものです。通常の多段栽培と比べると、以下のようなメリットがあります。
    1.花房がひとつしかなく果実の生育ステージが揃っているため、塩類ストレスなどによる果実の高糖度化が容易。
    2.草丈が低い(約1m)ため、高設ベンチでの栽培が可能で、管理作業が楽な姿勢で行える。
    3.栽培管理がシンプルなのでマニュアル化しやすく、高度な熟練技術を必要としない。
  • 養液栽培
    土を使わずに、肥料を水に溶かした液(液肥)によって作物を育てる栽培方法です。土壌栽培で生じる病気の心配が無く、植物の栄養状態の管理がしやすいという特長があります。
  • 高糖度トマト
    トマトは水分を制限すると、果実が小さくなって、糖度が高くなります。糖度がおよそ8以上のものは高糖度トマトと呼ばれ、高い単価で販売されています。「フルーツトマト」とも呼ばれています。