プレスリリース
(研究成果) 高温でも容易に着色する極大粒のブドウ新品種「グロースクローネ」

- 西南暖地でも安定して紫黒色果実が得られる良食味の極大粒品種 -

情報公開日:2018年2月15日 (木曜日)

ポイント

夏季の気温が高い西南暖地においても良好な着色1)(濃い紫黒色)が得られるブドウ「グロースクローネ」を育成しました。「巨峰」や「ピオーネ」の着色が困難な地域でも良好な着色が得られます。種なし栽培が可能で、「巨峰」、「ピオーネ」とほぼ同時期に収穫できる極大粒品種です。

概要

現在わが国で栽培されている大粒ブドウは、「巨峰」や「ピオーネ」など果皮が紫黒色の品種が中心ですが、夏季の高温の影響により、西南暖地を中心に着色不良2)が発生しています。「巨峰」や「ピオーネ」では、このような果実は"赤熟れ"と呼ばれ、商品性が著しく低くなるため、生産現場では大きな問題になっています。

そこで、農研機構は、夏季の気温が高くても良好な着色が得られる極大粒ブドウ品種「グロースクローネ」を育成しました。「グロースクローネ」は、「巨峰」、「ピオーネ」とほぼ同時期に収穫でき、ジベレリン処理3)により容易に種なし果を生産できます。ジベレリン処理果房の果粒は両品種よりも大きく20g程度となります。「グロースクローネ」は、「巨峰」、「ピオーネ」の着色不良が生じやすい西南暖地での大粒ブドウの生産に貢献します。

「グロースクローネ」の苗木は平成30年秋より販売される見込みです

関連情報

予算:運営費交付金
品種登録出願番号:第32149号


詳細情報

(開発の社会的)背景と経緯

西南暖地を中心に「巨峰」や「ピオーネ」の着色不良が多発しています。このような着色不良果は"赤熟れ"と呼ばれ、市場の評価が低く安価で取り扱われることから、産地からは、これらの品種に代わる、高温下でも着色が良好な大粒品種の開発が強く要望されてきました。
また、近年、食べやすさを求める消費者の志向を反映し、種なしブドウに対するニーズが増大しています。しかし、種なし化と大粒化に必要なジベレリン処理の効果は品種により異なり、処理を行っても種なしになりにくい品種もあります。
そこで、農研機構では、種なし栽培が容易で「巨峰」や「ピオーネ」よりも着色が優れる紫黒色の極大粒品種を育成しました。

新品種「グロースクローネ」の特徴

  • 「グロースクローネ」は、極大粒の紫黒色品種である「藤稔」と早生の赤色品種である「安芸クイーン」を交雑させて育成した品種です。
  • 果実着色期である夏季の気温が高い西南暖地における着色は、「巨峰」や「ピオーネ」よりも有意に濃い紫黒色になります(表1写真1写真2)。
  • 樹勢は強く、「巨峰」、「ピオーネ」並みです(表2)。育成地(広島県東広島市)における発芽期は4月14日頃、開花期は「巨峰」よりも有意に遅く6月4日頃です。収穫期は8月下旬で「巨峰」、「ピオーネ」とほぼ同時期です。
  • ジベレリン25ppmを満開時と満開10~15日後に花(果)房浸漬処理することにより極大粒の種なし果が得られます。開花前にストレプトマイシン4)200ppmを散布することで、より確実に種なし果とすることができます。
  • ジベレリン処理した場合の果粒重は20g程度で「巨峰」、「ピオーネ」より有意に大きい果粒が得られます(表3)。はく皮性5)は中程度、果肉特性6)は中間、果肉硬度は中で、「巨峰」、「ピオーネ」と同程度です。「巨峰」、「ピオーネ」と同様に皮ごと食べるのには適していません。糖度は19%程度と高く、酸含量は0.40g/100ml程度で「巨峰」より有意に低く、香気は「巨峰」、「ピオーネ」と同じフォクシー7)です。食味は「巨峰」、「ピオーネ」とほぼ同程度になります。収穫後の脱粒性、穂軸の褐変程度を判断基準とした日持ちは「巨峰」、「ピオーネ」と有意な差はありません。

栽培適地と栽培上の留意点

  • 全国の「巨峰」栽培地域で栽培可能です。特に「巨峰」、「ピオーネ」の着色不良が生じやすい西南暖地での普及が見込まれます。
  • ブドウの省力的な剪定方法である短梢剪定8)による栽培が可能です。
  • 場所、年によりわずかに裂果が発生する可能性があるため、成熟期後半には定期的な潅水をするなど、極端な乾湿を避けるような土壌水分管理が必要です。

品種の名前の由来

ドイツ語で「グロース」は「大きい、偉大な」を、「クローネ」は「王冠」を意味します。さらに「グロ(-ス)」と「クロ(-ネ)」という音には「黒々(くろぐろ)」と着色する特性もかけています。極大粒で堂々とした外観と優れた着色性にちなんで「グロースクローネ」と命名しました。

今後の予定・期待

これまでのところ中部地方以西の西南暖地において「巨峰」や「ピオーネ」より優れた着色が得られていることから、特にこれらの地域での普及が期待されます。

苗木の販売予定時期

平成29年10月20日に品種登録出願公表されました。苗木は平成30年秋より販売される予定です。

利用許諾契約に関するお問い合わせ先

農研機構本部 連携広報部 知的財産課 種苗チーム
研究・品種についてのお問い合わせ(メールフォーム)

用語の解説

1)着色

着色の程度はカラーチャートを用いて測定しました。カラーチャートは果実の熟度や着色程度を客観的に評価するための色見本で、着色程度の指標としてカラーチャート値を用いることにより、着色の程度を客観的に判定できます。今回は「ブドウ 赤・紫・黒色系」のカラーチャートを用いました。以下の写真のとおり、数字が大きいほど濃い着色を示します。

用語解説1)着色

2)着色不良

ブドウの着色不良は、過度の着果や大房化といった栽培上の問題によっても生じますが、近年では地球温暖化による果実着色期の高温の影響が問題になっています。ブドウ果皮の色素であるアントシアニンの蓄積に適した気温は25°C前後とされていますが、近年では、しばしば着色期の気温が25°Cを超えることが着色不良をもたらす主な原因と考えられています。写真は「ピオーネ」の良着色果房(左)と着色不良果房(右)を示しています。

用語解説2)着色不良

3)ジベレリン処理

ブドウにおいて、種なし化、果粒肥大等を目的に行われる植物ホルモン(ジベレリン)剤の処理です。「グロースクローネ」におけるジベレリン処理は、「巨峰」、「ピオーネ」と同じく2回行います。満開時~満開3日後の1回目処理は種なし化のため、満開10~15日後の2回目処理は果粒肥大のために行います。

4)ストレプトマイシン

ストレプトマイシンは、果樹ではモモのせん孔細菌病等に使われる農薬ですが、ブドウにおいては種なし化のために使用されます。開花前の散布、あるいは1回目のジベレリン処理時にジベレリンと併用することによって、より確実に種なし果を得ることができます。

5)はく皮性

ブドウ果皮のむきやすさ(はく皮性)には品種間差異があり、「デラウェア」は容易、「巨峰」は中程度、皮ごと食べることができる「シャインマスカット」はやや難です。「グロースクローネ」のはく皮性は「巨峰」と同程度で、皮をむいて食べるタイプの品種です。

6)果肉特性

ブドウの食感は主に果肉特性と果肉硬度の2要因で決まります。これらのうち果肉特性は、果肉のかみ切りやすさを表し、かみ切りやすい(崩壊性)品種として「シャインマスカット」、かみ切りにくい(塊状)品種として、「キャンベルアーリー」、「デラウェア」が挙げられます。「グロースクローネ」、「巨峰」、「ピオーネ」はその中間の果肉特性を示します。

7)フォクシー

アメリカブドウに由来する特徴的な香りです。「キャンベルアーリー」、「ナイアガラ」、「巨峰」、「ピオーネ」の香りはいずれもフォクシーです。ブドウには、これ以外に香りのない品種、ヨーロッパブドウに由来するマスカット香を持つ品種があります。

8)短梢剪定

ブドウの剪定方法の一つで、果実が着生した枝を基部の1~2芽を残して切り詰める方法です。翌春、残した芽から発生した新梢に果実が着生します。短梢剪定は、枝を切る位置を機械的に決めることができるためマニュアル化しやすいことに加えて、果実を直線的に着生させることができるため、房作り等の栽培管理における作業動線が直線的になり省力化を図ることができます。ただし、短梢剪定は枝基部の芽が花芽(発生する新梢に花が着く芽)になりにくい品種には向いていません。

参考図