西日本農業研究センター

平成15年度評価委員会報告(概要)

(2)評価委員長の総合コメント1. 評価の目的と手順

近中四農研は,独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構の11研究所の一つとして,予め農林水産大臣から示された中期目標を基に,それを達成するための5年間の中期計画を作成し,毎年度の業務運営に関する年度計画を定めている。近中四農研は,機構の評価に先立って近畿中国四国農業研究センター評価委員会(以下,評価委員会という。)を開催し,業務実績について評価している。

平成15年度は,平成16年3月15日に評価委員会を開催し,評価委員会開催に先立ち実施した中・大課題レベルの自己評価を参考に,外部の専門家・有識者により近中四農研の平成15年度の研究活動について評価して頂いた。

評価委員の方々は次のとおりである。

委員長 持田 紀治 (広島県立大学生物資源学部生物資源管理学科教授)
委員 糸賀 盛人 (島根県津和野町:農事組合法人おくがの村理事)
委員 松本 訓生 (中国四国農政局生産経営部長)
委員 目崎 礼二郎 (陽和製粉株式会社専務取締役)
委員 鶴崎 孝 (愛媛大学農学部生物資源学科教授)
委員 吾妻 浅男 (高知県農業技術センター所長)
委員 大西 郁男 (香川豊南農業共同組合代表理事組合長)
委員 奥村 英一 (京都府農業総合研究所長)
委員 吉沢 博英 (日本農業新聞四国支局次長)
委員 古土井妙子 (愛媛大学農学部生物資源学科教授)

達成度については
(1)S:計画を大幅に上回る業績が挙がっている
(2)A:計画に対して順調に業務が進捗している
(3)B:計画に対して業務の進捗がやや遅れている
(4)C:計画に対して業務の進捗が遅れているの4段階,今後の研究方向については(1)A:妥当(2)B:概ね妥当(3)C:不適切の3段階で,それぞれ評価頂いた。 評価結果等については以下のとおりである。

2. 評価結果

大課題1:近畿・中国・四国地域の農業動向予測と農業振興方策の策定及び地域資源を活用した中山間地域営農システムの開発

1)研究所の自己評価

(1)達成度の評価:B

農業情報の処理法及び有効利用システムでは,携帯電話による簡便な農作業記録システムの開発やWeb対話型露地野菜導入支援システムの開発など実用化に近い完成度に達しており,中山間地域における営農集団の経営管理や産地形成に貢献する成果といえる。
カンキツの隔年結果を改善する技術として点滴潅水施肥装置による樹勢維持効果が確認でき,同時に,樹体管理技術として後期摘果法,春枝の確保法,ヒリュウ台木の利用等の有効性も確認され,連年安定生産に見通しを得たことは高く評価できる。また,傾斜地における養液栽培において問題となっていた給水ムラを改善する装置を開発したことも平張り型傾斜ハウスでの夏秋トマト栽培の高品質安定生産を行う上で優れた業績と評価できる。さらに,害虫総合防除等による高品位野菜生産において,開発した防虫ネットや太陽熱消毒,天敵利用等の技術の実用化が見込まれ,マニュアルを刊行し,現地での普及拡大を図りつつあるなど,優れた業績を上げている。

一方,飼料用稲を基軸とする耕畜連携システムの確立や都市農村交流による地域農業の活性化に関する研究等では,フィールド研究を中心にすることから調査対象地での関連機関との協議・連携等に遅れが生じており,現地実態の把握や現地データ・資料の収集・分析が十分になされていないことから,当大課題としては総じて業務の進捗がやや遅れていると判断する。

(2)今後の研究推進方向

農業情報の処理法及び有効利用システムでは,携帯電話による農作業記録システム及びWeb対話型露地野菜導入支援システムについて現地実験や公開実験を重ねて完成度を高め実用化を図り,一般ユーザーの利用に供する。

農業の動向予測では,予測値の算出に加えてその因果関係の解明や政策提言にも力点を置く。

農業活性化条件の解明では,都市農村交流の実態把握を加速し,共分散モデルの構築を急ぐ。カンキツの隔年結果の改善については本年の気象が異常に経過した(多雨,低温)ため,引き続き(2年目)年次変動による影響と各連年安定生産技術の効果の把握と改善に努める。

平張型傾斜ハウスでのトマト養液栽培についても,引き続き(3年目)当該技術の確認と改良を重ねるとともに,地域資源の有効活用に向けた研究取り組みの強化及び生産物をリレー出荷・販売するシステムづくりに向けた研究を強化する。

害虫総合防除等による高品位野菜生産(4年目)においては,栽培マニュアルの現地適応性を検証し,適用地域の敷衍化を図るとともに,生産物の有機認証の施策化について検討する。

飼料用稲(2年目)については,直播での目標収量(乾物重1.4t/10a)の安定確保を目指し現地実証試験を継続するとともに,小型収穫・調製機械の開発に当たる。また,飼料用稲-堆肥の循環利用システムの構築に向けて組織化条件,価格設定,需給動向等の解明を重点的に実施する。

2)評価委員による評価

(1)達成度の評価

(1)評価の集計結果 S:0 A:3 B:7 C:0 総合評価:A

(2)評価委員長の総合コメント

音声認識による作業記録システムについては,環境ISO,無農薬農産物等の認証制度等各種取り組みへの利用が期待できる。また,この分野の研究は,政策への連動性が高いと思われる。得られた成果の速報的な広報等も工夫すれば,より普及効果が高い。 各委員のバラツキが目立ったが,事業化等施策提言まで押し進められるような成果があったことから,Aランクとした。

(2)今後の研究推進方向に対する評価

(1)評価の集計結果 A:7 B:3 C:0 総合評価:A

(2)評価委員長の総合コメント

ダイナミックな施策提言ができるような地域農業が抱える基礎的分析を工夫するなど,研究領域の拡大を検討してほしい。中山間ハウス経営の低コスト化,葉菜類の害虫防除技術の総合化・体系化等中山間地農業の環境保全的技術の開発を期待する。

評価は分かれたが,狙いどころや分析手法が適切であり,Aランクとする。

3)評価委員会の総合評価に対する研究所としての総括

評価委員会の指摘を受けて,次年度は以下の方向で研究を重点化したい。

(1)資源循環型持続的農業の実現,都市共生型営農システム,低コスト・軽労作業システムの実現など,地域農業のシステム改革の方向を再度明確にしつつ,課題の重点化を図りながら総合研究の推進を強化する。
(2)地域農業動向の基礎的分析を踏まえて技術開発の方向性や施策への提言ができるようなダイナミックな研究を強化してまいりたい。
(3)一部進捗が遅れた課題については,残された期間での計画を再点検し,重点的に研究を展開してまいりたい

大課題2:傾斜地農業地域における地域資源の利用,及び農地管理・安定生産技術の開発

1)研究所の自己評価

(1)達成度の評価:A

傾斜地小流域にける湿潤状態が降雨の流出状況に大きく影響するとの新知見,急勾配水路底部分水工の分水量評価法,家畜ふん尿の利用促進による四万十川流域における河川の水質改善策の提言,あるいは,金時ニンジン引き抜き機へのユニット跳ね上げ機能の付与による生産現場への適応性の向上と実用化など,傾斜地域の生産基盤整備・資源活用・農地保全・軽作業化など傾斜地農業の振興に有効な指針の行政部局への提示,及び技術開発について成果が着実に得られている。

(2)今後の研究推進方向

小区画不整形・分散圃場の作業効率によい圃場条件と整備指針,降雨流出特性から見た圃場整備・流域管理技術,傾斜園地等の排水・防災管理技術,地すべりの解明による対策技術,生物資源機能の活用と家畜ふん堆肥等の適正な循環利用による環境保全的生産技術,気象資源の賦存量の解明と利用技術,傾斜農業地における安全・軽労化搬送技術など,集落機能の維持・増進と傾斜地農業の振興に資する技術開発を連携して推進する。

2)評価委員による評価

(1)達成度の評価

(1)評価の集計結果 S:1 A:8 B:1 C:0 総合評価:A

(2)評価委員長の総合コメント

農作業効率を向上させ労働負荷軽減に資する圃場整備技術,傾斜地農地の地滑り対策技術,ヘアリーベッチのアレロパシー効果と肥料効果など生物機能を活用した環境保全的生産技術,傾斜地域における低重心運搬車の試作や金時ニンジンの引き抜き機の実用化など,中山間傾斜地域における農業生産基盤の整備,地域資源の利用,農地の保全・管理・軽老化作業技術など中山間地農業の活性化を図るために必要な農政課題に対応した技術開発が行われている。

傾斜地農業の発展への技術視点を評価した。現場での農法転換等より具体的技術がもう少しあれば,Sランクに入れてよいと思われる。

(2)今後の研究推進方向に対する評価

(1)評価の集計結果 A:7 B:3 C:0 総合評価:A

(2)評価委員長の総合コメント

傾斜地農業は,農法転換を展望した研究が必要であり,この点への目配りを加えることが重要である。農業生産現場で普及が図れる技術の開発や低コスト化等生産現場に直結する技術を開発し,中山間・傾斜地域の農業の活性化につながる研究を展開して欲しい。また,資源利用の視点から環境保全型農業生産技術が重要である。今後生産現場とのつながりをより強めてもらいたい。

3)総合評価に対する研究所としての総括

(1)傾斜地農業の発展に資する技術開発の視点や成果について一定の評価をいただいている一方で,生産現場への技術の普及性を見据えて,生産現場とのつながりを強めてもらいたいとの指摘を深く受け止め,研究を展開してまいりたい。
(2)有機性資源等傾斜地資源の循環的利用等を核にして,傾斜地農業における実用化を目指した研究を進めてまいりたい。そのために,関係研究分野との連携と協力を強化してまいりたい。
(3)高齢化,過疎化,環境保全などの今日的課題に対応すべき省力的農地管理,有機性資源の有効利用,軽労化など傾斜地農業の新たな展開に資する革新的・基盤的な技術開発に努めてまいりたい。

大課題3:高付加価値化,軽労化に対応した作物の開発及び高品質・安定生産技術の開発

1)研究所の自己評価

(1)達成度の評価:A

大豆のトリプルカット播種機による現地実証では天候不順にも関わらず,1実証圃で目標とする300kg/10aを達成したことは高く評価できる。大豆栽培技術においても,莢先熟のおこる主要な時期が莢の伸長期の水分ストレスによることが明らかになり,解明への端緒を開いた。大豆の加工適性の研究においては,機構では初めてとなる加熱絞り法を実施できるようにしたことは今後の加工適性解明に向け期待がもてる。
水稲栽培研究においては,当センターで開発した飼料用新品種及び低蛋白質新品種の栽培法を明らかにすることによって,新品種の普及へ貢献している。また,再生紙マルチの普及に精力的に取り組んだ結果,天候不順による低収にも関わらず,次年度も50%増の栽培希望農家がある。品質研究では,当センター独自のアイディアによって,水稲及び麦類において機能性成分を見出し,特許出願をするなど着実に成果を上げている。
品種開発では,開発した新品種,水稲「クサノホシ」,「ホシアオバ」,「クサホナミ」,「LGCソフト」,小麦「ふくさやか」,裸麦「マンネンボシ」の普及面積が順調に拡大している。また,後続の新品種候補となる系統の開発も順調に進んでいる。特に,大豆育種では研究室設立3年目で地方番号を付した系統を育成したことは特筆できる。
バイテク研究においても,当センター独自の小麦品質の遺伝子,大豆品質及び害虫抵抗性遺伝子の単離と形質転換体の作出が順調に行われている。
以上,本課題を担当する品種開発,栽培技術,機械作業技術,品質研究,バイテク関連研究室間の連携が強化されていることを高く評価する。

(2)今後の研究推進方向

開発した品種及び系統の普及を目指すことを軸に,本課題を担当する育種,栽培,品質,機械作業,バイテク研究室間の連携を,作物別(水稲,麦,大豆)にさらに強化する。水稲においては,育種・栽培・地域農業確立研究間の連携を強化して,飼料稲の普及拡大をさらに図る。高付加価値(低蛋白等)品種の開発については,育種・栽培・品質・バイテク間の連携及び要員配置によって,さらに強化する。

小麦においては,篩抜けについての要因解明をするとともに,篩抜けの良好な系統の早期開発を図る。裸麦においては,開発した系統の九州地域での品種化を目指す。小麦の品質については,全国的に先進的地位を確立しているが,育種・バイテク分野の連携を強化して,ASWに劣らない品種開発法の確立と品種開発を目指す。

大豆研究においては,奨励品種決定調査を軸にして,開発した新系統の品種化を図る。大豆不耕起栽培では現地実証圃において,安定して300kg/10a以上で,A品質の大豆生産を確立するための栽培法を確立する。また,地域内の品質変動の要因解明を進めるとともに,加熱絞りによる加工適性評価法を確立する。

2)評価委員による評価

(1)達成度の評価

(1)評価の集計結果 S:1 A:9 B:0 C:0 総合評価:A

(2)評価委員長の総合コメント

小麦品質に関す遺伝子及びマーカー化,水稲新系統「中国184号」の育成,新品種「クサノホシ」,「ホシアオバ」,「LGCソフト」の順調な普及拡大,早生小麦新系統の選抜,新品種「ふくさやか」の普及拡大,大豆有望品種系統の選抜など,新たな米政策の推進に貢献できる大きな成果をあげている。

品種開発は普及性を常に考慮し,成果を出しているので説得力が高かった。Sランクにいれてもよい成果である。

(2)今後の研究推進方向に対する評価

(1)評価の集計結果 A:9 B:1 C:0 総合評価:A
(2)評価委員長の総合コメント

品種開発は,農業生産,食料自給率の向上の面でも重要である。これは,アジアに普及できるような広い視野で取り組んでほしいと思っている。大豆,麦の積極的な研究,低コスト化の視点で技術確立を期待する。バイオマス資源作物の今後の研究展開は重要である。基本的にこの方向で推進してよいと思われる。

3)総合評価に対する研究所としての総括

水稲については飼料稲の普及拡大と高付加価値(低蛋白等)品種の開発,小麦については篩抜けについての要因解明とASWに劣らない品種の開発,大豆については品種の開発,栽培法及び加工適性評価法の確立を目指し,研究を推進してまいりたい。また,それぞれ開発した品種を軸に,育種,栽培,品質,機械作業,バイテクの研究室間の連携をさらに強化し,現場普及を目指した一貫研究を推進してまいりたい。

大課題4:傾斜地農業地域における果樹,野菜,花きの高品質安定生産技術の開発

1)研究所の自己評価

(1)達成度の評価:B

大課題全体としては,ほぼ順調に進捗しているが,一部の実施課題で目標に到達していない。また,競争的資金を獲得して15年度から開始した「レタスビッグベイン病」,「拍動潅水」の2課題や,花き分野として要員を強化して開始した「無側枝性ギク」の課題など,本年度から開始したいくつかの課題では研究の進捗は計画通りであるが,現時点では成果の発表等は少なく,今後に期待したい。これらのことから,本題課題は,推進上の問題はさほどないものの,一部の実施課題を除き,成果が見えにくいので進捗はやや遅れていると評価する。

(2)今後の研究推進方向

農林水産高度化事業で中核機関として競争的資金を獲得して実施している二つの課題を重点的に実施するほか,特定資材プロジェクトは最終年になるので,キチン質資材の病害抑制効果の検証などで一層の詰めを図る。地域総合研究関係の課題は関係チームと連携を強化して実施する。得られた主要な成果は情報発信に努める。

2)評価委員による評価

(1)達成度の評価

(1)評価の集計結果 S:0 A:2 B:8 C:0 総合評価:B
(2)評価委員長の総合コメント

レタス・ビッグベイン病については,ほぼ計画どおりに解明が進み,長期モニタリング試験も順調に進めらている。果樹,野菜の持続的生産技術の開発については,一応の成果が得られているが,花の高品質安定生産技術の開発においては,資材や温度,光等の及ぼす効果,影響が一定解明されたが,体系的な栽培技術の開発にまでは至っていない。今年度の成果にあまりこだわらず,各ステップごとに目標達成体系を示すべきだ。

各委員の間で評価がまちまちであったので,総合評価はBランクとなっている。しかし,複数の成果のうちAランク以上の評価もできる内容があったことを特記しておく。

(2)今後の研究推進方向に対する評価

(1)評価の集計結果 A:6 B:4 C:0 総合評価:A
(2)評価委員長の総合コメント

高品質化,機能性付与のための栽培技術開発や低コスト化の視点で技術確立を期待する。第2中課題(地域特産野菜,花き等の高品質・安定生産技術の開発)及び第4の中課題(果樹,野菜等の環境に配慮した持続的生産技術の開発)については,もっと具体的な詰めをして欲しい。 目標達成への総合的視点で判断し,Aランクとした。

3)総合評価に対する研究所としての総括

果樹・野菜・花き作については,これまでの研究を再度点検し,特に中山間・傾斜地の特性を活かした地域センターとしての先進的研究に重点化し,個別技術のレベルアップを図りつつ,体系的な栽培技術の開発に寄与してまいりたい。

大課題5:地域産業振興につながる新形質農作物及び利用技術の開発

1)研究所の自己評価

(1)達成度の評価:A

ヤーコンを新たに2品種育成し登録したが,これらは西日本では標高の高い中山間地に適応し,山村振興などに活用が期待される。また,前に育成した「サラダオトメ」の実施許諾も進んだ。地域農産物の機能性解明も,企業との共同研究を含め順調に実施されており,いくつかの特許出願を行った。このような本年度の実績からみて,本大課題は順調に進捗していると評価できる。

(2)今後の研究推進方向

新形質農作物の開発(資源作物研担当)ではバイオマス利用を視野に入れた新たな資源作物の利用研究に取り組む。機能性解明・利用技術開発(成分利用研担当)では引き続き産学との連携を強めて研究推進を図る。

2)評価委員による評価

(1)達成度の評価

(1)評価の集計結果 S:2 A:8 B:0 C:0 総合評価:S

(2)評価委員長の総合コメント

新形質農作物の開発については,ヤーコンを新たに2品種育成,登録するとともに,サラダオトメの実施許諾も進むなど,山村振興上,有望な新作物として活用が期待される。高齢化が進んでいる中山間高冷地に適する「サラダオカメ」の育成は,山間地に於ける特産品として普及が期待できる。「サラダオトメ」の産地定着化も更に期待する。また,大豆イソフラボンのダイゼイン,大豆サポニンの機能性,裸麦の紫色素(アントシアニン)の解明など,有用な成果が得られた。話題性のある作物の技術開発と品種登録の実績を評価し,Sランクとした。

(2)今後の研究推進方向に対する評価

(1)評価の集計結果 A:7 B:3 C:0 総合評価:A

(2)評価委員長の総合コメント

ヤーコンの商品流通化,消費者ニーズに適応した利用技術の迅速な開発等需要開発の視点も必要である。用途拡大を目指した技術開発のため食品産業等との連携が重要である。バイオマス資源の多面的利用や日本型食生活の向上の視点も重要である。

地域農業の発展という視点からの営農技術を展望すべきである。生産面のきめこまかな技術指針等の開発や需要開発への展望などを加える必要があると思われる。

3)総合評価に対する研究所としての総括

ヤーコン新品種の普及については,民間や府県と密にし,取り組むこととする。また,農作物の機能性やその利用技術の研究は,育種,栽培分野へ情報提供しながら,成分育種や成分増につながる栽培技術に結びつけるとともに,民間企業との共同研究の実施を含め,地域の食品産業への貢献に向けて研究を展開してまいりたい。

大課題6:都市近接性中山間地域における野菜の安定生産技術及び高品質化技術の開発

1)研究所の自己評価

(1)達成度の評価:A

高付加価値野菜の安定生産技術については,ホウレンソウの抗酸化活性および抗酸化物質含量を高く維持できる条件の解明,ハクサイの減・無農薬栽培技術の組立て等,高齢化に対応した栽培技術については,果菜用の簡易養液栽培装置の試作,防虫ネット被覆雨よけハウスにおける農作業の不快感の軽減,作業時間の延長技術,週3回の暗期中断による春,秋まきホウレンソウの生育促進技術の開発等,土壌微生物等を利用した土壌診断技術については,土壌微生物の呼吸活性の解明,軟弱野菜の抗酸化活性の低下要因の解明,家畜糞堆肥の多用に伴う亜鉛蓄積の問題点の解明等それぞれの課題について,年度計画に則して順調に進捗し,着実に成果を上げている。

(2)今後の研究推進方向

高付加価値野菜,高齢化対応技術,土壌診断技術のそれぞれの課題について,適切な細部課題を設定し,順調にデータの蓄積,個別の技術開発等を進めている。今後は,抗酸化活性が高く硝酸含量が低い野菜の栽培技術,減・無農薬野菜栽培技術,高齢化に対応した軽作業化栽培技術,土壌微生物等を利用した塩類集積土壌の土壌診断技術を,順次,生産現場で普及可能な技術として完成させ,当初計画を確実に達成するよう努力したい。

2)評価委員による評価

(1)達成度の評価

(1)評価の集計結果 S:1 A:8 B:1 C:0 総合評価:S
(2)評価委員長の総合コメント

計画通りに進捗し,成果も順調に出てきている。ホウレンソウの抗酸化活性および抗酸化物質含量を高く維持できる条件の解明,ハクサイの減・無農薬栽培技術,中山間地向きのイチゴ促成栽培作型などを示し,成果をあげた。高齢者が簡単に取り組めるミニトマトの簡易養液栽培,ホウレンソウの寒冷期電照栽培など,軽作業栽培技術の開発が進んでいる。

各委員の評価に若干のバラツキがあるが,今日の農業担い手の存在形態を意識した農作業改善の成果は注目できる内容であり,総合評価をSランクとした。

(2)今後の研究推進方向に対する評価

(1)評価の集計結果 A:7 B:3 C:0 総合評価:A

(2)評価委員長の総合コメント

高齢化だけでなく農業者の労働は過酷であり,より軽作業・省力化を期待する。土壌微生物を利用した簡易な診断技術の実用化や有機栽培技術への発展も期待する。

技術の集約的体系化だけでなく,有機栽培等,今後の環境共生を視野にいれた技術開発も期待する。

3)総合評価に対する研究所としての総括

機能性に優れる栽培技術や高齢化に対応した軽作業化技術等の基礎的・基盤的研究のレベルアップを図り,それをもとに府県,民間との連携を強化し,近中四地域の中山間野菜作の振興につながるような幅広な研究をしてまいりたい。

大課題7:野草地等の地域資源を活用した優良肉用牛の低コスト生産技術の開発

1)研究所の自己評価

(1)達成度の評価:B

飼料イネ等の粗飼料の現場適用可能な酸性デタージェント繊維の迅速測価法を開発するとともに,林地・自然草地での繁殖牛の放牧技術について,牧養力向上や絶滅危惧植物等の植物環境に配慮した技術情報が提示された。また,筋肉の増殖に関連するミオスタチン遺伝子の発現動態を肉用牛で初めて明らかにし,この遺伝子による産肉制御の可能性を示すとともに,黒毛和種の増体と体型形質のQTLについても,マーカー育種技術に適用可能な知見が得られた。

(2)今後の研究推進方向

今年度の研究成果をふまえて,中山間地域おける放牧を含む地域飼料資源の一層の活用を目指した肉用牛生産技術の体系化により,地域条件に応じた技術の現場適用を図る。また,遺伝子情報等を活用して育種・繁殖及び肥育技術の高度化を図るため,さらに遺伝的評価法及び繁殖・産肉機能に関連する研究を積極的に推進する。

2)評価委員による評価

(1)達成度の評価

(1)評価の集計結果 S:0 A:5 B:5 C:0 総合評価:A
(2)評価委員長の総合コメント

改良につながる遺伝子レベルでの機能解明は着実に進んでいると評価できる。また,ミオスタチン遺伝子の発現状況から肥育技術の改善に結びつけようとする試みはユニークで,今後の肥育試験が楽しみだ。また,農地の維持,畜産経営での省力化,自然との共生を評価したい。

各委員で一致している点は,畜産(肉用牛)部門の競争力の向上であり,この可能性を引き出す研究として地域内資源利用技術の開発に注目して評価した。

(2)今後の研究推進方向に対する評価

(1)評価の集計結果 A:7 B:3 C:0 総合評価:A
(2)評価委員長の総合コメント

今後,現場レベルで活用できる研究成果や,農畜林連携構築につながる研究成果を期待する。和牛・肉用牛生産の再構築という大きな視点で研究の発展を期待している。

3)総合評価に対する研究所としての総括

優良肉用牛を基礎にした和牛・肉用牛生産の再構築のため,引き続き,現場に適用できる実用的・体系的技術の確立に向けて積極的に取り組んでまいりたい。そのために,遺伝子情報等を活用して育種・繁殖・肥育技術高度化のための実用的研究の強化を図るとともに,環境に配慮し,中山間地域資源を有効利用した畜産技術の体系的開発を目指してまいりたい。

大課題8:都市近接性中山間地域における持続的農業確立のための生産環境管理技術の開発

1)研究所の自己評価

(1)達成度の評価:B

CAB-02とケイ酸資材の併用による化学合成農薬に依存しない病害防除法,能力の高い天敵の増殖などに活用が期待される昆虫性比異常の機作と人為的操作方法について研究が進展した。また,イノシシに対する匂いの忌避効果が期待できないこと,有機物施用による土壌脱窒能の向上,1kmメッシュ気候値による野菜の作型別適地判定技術,畦畔への被覆植物の移植・定着技術開発など達成度は計画通りである。

(2)今後の研究推進方向

野菜の病害に対する生物由来の抗菌物質の効果の検討,昆虫の性比異常を天敵利用技術の効率化に応用する研究,携帯電話網を用いたGPSテレメトリによるイノシシの行動解析と防除への利用,土壌の脱窒能の向上による硝酸性窒素溶脱低減技術,大豆の水分ストレスの発生パターンと青立ち発生の関連の解明,既存畦畔にも適用できる省力的被覆植物定着技術等,環境保全型農業の確立に向けた研究を推進する。

2)評価委員による評価

(1)達成度の評価

(1)評価の集計結果 S:0 A:2 B:8 C:0 総合評価:A
(2)評価委員長の総合コメント

難防除害虫の環境保全型防除技術の開発については,トマトハモグリバエやコナガについて一定の成果を評価できる。イノシシ害防除については,基礎的な知見は得られたが,ただちに被害防除技術につながるところまで研究は進んでいない。牛ふん等,有機物の適正な施用が土壌の脱窒活性を上げることを解明しつつある。水稲の直播栽培で新技術「鉄コーティング湛水直播法」を開発した。

総合評価としては,天敵利用による環境共生型技術の確立,防草シート等の技術の開発に関する視点からAランクとした。

(2)今後の研究推進方向に対する評価

(1)評価の集計結果 A:7 B:3 C:0 総合評価:A

(2)評価委員長の総合コメント

イノシシ防除技術を迅速に確立し,天敵利用等環境保全型農業技術の体系化と実証研究に期待する。

3)総合評価に対する研究所としての総括

天敵利用技術の効率化,GPSテレメトリによるイノシシの行動解析と防除,脱窒能向上による硝酸性窒素溶脱低減等閉鎖水域での環境保全型農業技術の体系化と普及性の高い技術の開発に向けて焦点化した研究を推進してまいりたい。また,栽培分野等他分野及び府県と協力連携を一層図り,基礎的技術の展開を加速させたい。