西日本農業研究センター

平成16年度評価委員会報告(概要)

1.    評価の目的と手順

近中四農研は、独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構の11研究所の一つとして、予め農林水産大臣から示された中期目標を基に、それを達成するための5年間の中期計画を作成し、毎年度の業務運営に関する年度計画を定めている。近中四農研は、機構の評価に先立って近畿中国四国農業研究センター評価委員会(以下、評価委員会という。)を開催し、業務実績について評価している。

平成16年度は、平成17年3月14日に評価委員会を開催し、評価委員会開催に先立ち実施した中・大課題レベルの自己評価を参考に、外部の専門家・有識者により近中四農研の平成16年度の研究活動について評価して頂いた。

評価委員の方々は次のとおりである。

委員長 持田 紀治 (広島県立大学生物資源学部生物資源管理学科教授)
委員 糸賀 盛人 (農事組合法人おくがの村理事)
委員 大西 郁男 (香川県豊南農業協同組合代表理事組合長)
委員 佐野 資郎 (中国四国農政局生産経営流通部長)
委員 鶴崎 孝 (愛媛大学農学部生物資源学科教授)
委員 嘉儀 隆 (大阪府立食とみどりの総合技術センター所長)
委員 角屋 正治 (山口県農業試験場長)
委員 湯浅 忠雄 (愛媛県農業試験場場長)
委員 西山 健一 (広島県農林水産部技術振興室専門技術監)
委員 吉沢 博英 (日本農業新聞四国支局次長)
委員 目崎礼二郎 (陽和製粉株式会社専務取締役)

達成度については、次の4段階とし、

(1)S:計画を大幅に上回る業績が挙がっている
(2)A:計画に対して順調に業務が進捗している
(3)B:計画に対して業務の進捗がやや遅れている
(4)C:計画に対して業務の進捗が遅れている

今後の研究方向については、次の3段階とした。

(1)A:妥当、(2)B:概ね妥当、(3)C:不適切

評価結果等については以下のとおりである。

2.評価結果

 大課題1:近畿・中国・四国地域の農業動向予測と農業振興方策の策定及び地域資源を活用した中山間地域営農システムの開発

1)研究所の自己評価

(1)達成度の評価:A

各課題はほぼ順調に進展して多くの成果が得られており、総じて計画に対して順調に業務が進捗していると判断する。

農業動向予測と農業振興方策の策定の関連では、農業情報の処理・利用の観点から、圃場作付状況確認システム、汎用性の高い記録システム、精密畑作管理用の位置・姿勢検出センサについてなど、営農計画に利用できる各種のシステムを開発している。動向予測については、構造動態分析により大規模農家の増加と高齢化の進展の動向を予測している。技術の評価と営農方式の側面からは、傾斜畑地域での夏秋トマト作における平張型傾斜ハウスの導入効果を明らかにし、飼料用稲の専用収穫機利用の連携効果と収益部門として成立するための条件を提示している。加えて、堆肥散布作業の圃場単位の時間と1日単位の散布可能面積が算出できるモデルを策定するなど、それぞれの新技術導入に際して参考となる成果を出している。農業の活性化の面からは、共分散構造分析による地元農産物購入の要因、契約農業における地域需給調整と固定価格取引の継続性、地域産大豆加工による高価格実現と地域雇用創出効果を明らかにしている。中山間地域営農システムとの関連では、それぞれの総合研究から多くの技術開発の成果が出されており、現地実証試験を通して一部の開発技術は普及しつつある。耕畜連携では、開発した直播栽培技術の普及面積が拡大し、簡便な飼料の無機成分の測定法の開発などの成果がある。カンキツに関しては、樹冠葉面積指数のPCA法による計測法、点滴かん水施肥施設の設計支援システム、高排水機能をもつ簡易排水法などの開発を行い、連年安定生産に向けての成果が蓄積されている。傾斜地野菜では、土揚げの省力軽労化、ハウスの暑熱緩和技術など生産システム確立に必要な技術開発が進展し、低コスト育苗と実用性の高い夏秋トマトの安定生産技術が実証されている。高品位野菜については、ハウス内の作業環境改善技術を開発するとともに、防草用シート及びバンカー法による土着天敵の虫害防除の有効性を確認し、減化学肥料栽培のための有機物の適正施用マニュアル作成が行われており、目的とする技術はほぼ完成している。肉用牛営農では、作成した里地放牧営農技術診断表が農政局で利用され、成果が中央畜産会の畜産大賞の優秀賞として表彰されるなど、評価が高い。作成したマニュアルによる技術の波及効果もあり、研究拠点の島根県大田市では耕作放棄地における放牧が盛んになっている。

(2)今後の研究推進方向

動向予測と農業振興方策の策定との関連では、計量経済モデルの分析から要因分析を進めるとともに、農村でのバイオマス先進地の調査から近年重要性が増大している農村バイオマスの展開方向を提示する。農業情報の処理・利用の観点からは、これまでのシステムの開発・実証を継続するとともに、他機関で開発されたシステムと統合・協調動作する総合的な生産計画支援システムの構築を目指す。技術の評価と営農方式の側面からは、集落営農モデルの策定を通して、新技術による麦-大豆作体系を導入した水田輪作営農の経済性指標を示すとともに、その成立条件を明らかにする。また、本年度得た園芸作における知見を追証して、先進的経営行動を解明する。農業の活性化の面からは、完了となる課題のこれまでの成果のとりまとめに重点的に取り組む。中山間地域営農システムとの関連では、耕畜連携では、個別技術の開発の推進とともに、現地を想定した技術の体系化に向けて取り組む。カンキツに関しては、栽培技術の体系化・マニュアル化を図るとともに、課題間の連携を一層深めて、診断・栽培支援エキスパートシステムに集約していく。傾斜地野菜では、夏秋トマト生産を核として、冬作栽培等の個別技術を組み込んで、体系化技術へと発展させる。高品位野菜については、これまでに開発した個別技術を総合し、減・無農薬、減化学肥料栽培技術の体系化と、その普及・定着化に重点的に取り組む。肉用牛営農では、ほぼ計画通りに研究が遂行され、目的は達成できたと考えるので、本年度で完了する。

2)評価委員による評価

(1)達成度の評価

(1)評価の集計結果S:0 A:11 B:0 C:0総合評価:A
(2)評価委員長の総合コメント

本課題は、地域農業振興対策にかかわる多面的研究内容を重点的に体系化し、精力的に分析し、実証および理論的に考察を行っている。本センター管内の地域特性や社会的背景を踏まえて、適切に研究課題を掘り起こし、課題解決への新知見を引き出し具体的な改善の提言を加えている。総合評価はAランクとしたが、Sランクとしてよい成果もみられる。

(2)今後の研究推進方向に対する評価

(1)評価の集計結果A:11 B:0 C:0 総合評価:A
(2)評価委員長の総合コメント

研究成果を地域農業発展に効果的に結びつけるために、普及システムを再検討すべきである。成果活用には農協組織等多様な地域主体との連携が必要である。これは既存システムに依存するのではなく、本センターが独自の「研究成果マーケティング力」を確立すべきである。

3)評価委員会の総合評価に対する研究所としての総括

研究の達成度については、一定の評価をいただいたが、今後も地域農業のシステム改革の方向を明確にしつつ、課題の重点化を図りながら総合研究を推進してまいりたい。また、今後の研究方向でコメントのあった研究成果の普及方策については、本年度の近畿中国四国農業試験研究推進会議本会議及び各推進部会で検討を行い、それらを踏まえて第2回評価企画会議では研究成果普及のためのアクションプログラム素案を協議した。この素案の基本方針に則り、(1)行政組織、県等(農協組織等多様な地域主体を含む)との連携、(2)産学官連携に向けた共同研究の推進、(3)広報活動の充実によって、研究成果を地域農業発展に効果的に結びつけるように 努力してまいりたい。

大課題2:傾斜地農業地域における地域資源の利用、及び農地管理・安定生産技術の開発

1)研究所の自己評価

(1)達成度の評価:A

傾斜地水田における作業受託の作業時間や労働負担を増加させる要因の解明と不整形区画圃場における作業時間の新たな推定法による基盤整備面積の提言、傾斜地カンキツ園の豪雨防災管理マップによる災害予測とジオテキストスタイルによる小規模石垣修復法の考案、棚田ライシメータを用いた傾斜地水田の地表及び地下の洪水モデルの構築、地域における家畜ふん尿の適正利用を前提とするバイオマスエネルギー利用可能量の推定法の開発、低速点滴灌水栽培による環境負荷低減効果の解明、傾斜地特有の斜面風や雨水を利用した傾斜地ハウス用低コスト細霧冷房システムの実用化、あるいは、生産現場の強いニーズに対応する傾斜地畑用土揚げ機の開発と実用化など、傾斜地域の生産基盤整備・資源活用・農地保全・軽作業化など傾斜地農業の振興に有効な技術情報の行政部局への提示、および技術開発について成果が着実に得られている。

(2)今後の研究推進方向

中山間傾斜地域に適合する小規模基盤整備を主とする農地の整備・管理手法、地すべりや斜面崩壊の予測技術、傾斜地農地の防災機能の向上を図る保全技術、水質保全、生物資源利用、有機性資源の循環利用を基本とする環境保全型農地管理技術、気象資源の賦存量の解明と利用技術、傾斜農業地における安全・軽労化搬送技術など、集落機能の維持・増進と傾斜地農業の振興に資する生産現場のニーズに対応した技術開発を連携して推進し、中期計画を確実に実行する。

2)評価委員による評価

(1)達成度の評価

(1)評価の集計結果S:0 A:11 B:0 C:0総合評価:A
(2)評価委員長の総合コメント

本課題は、傾斜地資源を農業生産基盤として高度に活用するための基本的かつ応用的技術の開発を目的とした研究である。傾斜地農業は、資源活用や管理技術対策が相対的に立ち後れているが、本研究の視点は、従来の立ち後れを克服するとともに、新たな総合発展への道を確立する手法開発にチャレンジしており、この積極性が高く評価される。

(2)今後の研究推進方向に対する評価

(1)評価の集計結果A:11 B:0 C:0 総合評価:A
(2)評価委員長の総合コメント

傾斜地における農業生産の安定的確立は、地域資源のより一層の効果的活用を推進するとともに、環境保全や共生との関連にきめこまかな目くばりが必要である。この点を追求すると、集約技術開発と地域資源利活用のドラマチックなシステム転換が重要であり、長期的には農法改革に結びつく技術と経営の併進的研究を進めるべきである。

3)評価委員会の総合評価に対する研究所としての総括

(1)傾斜地農業の発展に資する技術開発の視点や成果について一定の評価をいただいている一方で、生産現場への技術の普及性を見据えて、開発された技術を総合的に体系化し、現場に普及できるものとしていく必要があるとの指摘を深く受け止め、研究を展開してまいりたい。
(2)傾斜地における農業生産の安定的確立には、長期的には農法改革に結びつく技術と経営の併進的研究を進めるべきであるとの指摘を受け止め、今後とも関係研究分野との連携と協力を強化してまいりたい。
(3)過疎化、高齢化、担い手育成、環境保全などの今日的課題に対応すべき省力的農地管理、災害対策、地域資源の有効利用、軽労化など傾斜地農業の新たな展開に資する先進的な技術開発に努めてまいりたい。

大課題3:高付加価値化、軽労化に対応した作物の開発及び高品質・安定生産技術の開発

1)研究所の自己評価

(1)達成度の評価:A

品種開発では、水稲「LGCソフト」で特定保健用食品の表示許可申請のために農水省、機構本部、病院と連携を図りつつ患者への臨床試験を進めている。小麦では「フクサヤカ」の普及面積が着実に増加し、新たに「中国151号」が奨励品種に採用される可能性がある。裸麦では「四国裸100号」が次年度奨励品種に採用予定である。また、水稲で4系統、小麦で1系統、裸麦で1系統、大豆で2系統、後続の新配布系統が発表されており、育種事業は当初の計画どおりに進展している。

つぎに、育種の基礎研究では、稲で可消化性蛋白質の二重欠失型変異体の利用に関する研究が進展した。小麦では製粉性にタンパク質含有率が大きく影響していることが分かってきた。また、新たな低アミロース変異体も作出された。

バイテク研究では、小麦のグルテリン・サブユニットのDNAマーカー化が進み、硬軟質性に影響するピューロインドリン遺伝子の変異も明らかになった。さらに、CAPSマーカーによる裸麦の品種判別技術も確立され、食品の安心・安全に関わる技術が開発された。

栽培生理研究では、低蛋白質米品種「LGCソフト」の可消化性蛋白質含量をあげない施肥法が開発され、「LGCソフト」の品質管理に大きな成果があがった。さらに、飼料用稲の安定多収を達成する施肥栽培法も確立された。大豆の莢先熟の原因解明の課題は気象の影響で進展が遅れている。

大豆の不耕起播種機は播種精度が向上したので、今後は稲や麦でも使用できる汎用化が重要であり、市販化も急務である。

以上、本課題を担当する品種開発、栽培技術、機械作業技術、品質研究、バイテク関連研究間で連携をとった研究が行われており、課題の進捗は計画通りである。

(2)今後の研究推進方向

開発した新品種の普及を基本に据えて、本課題を担当する品種開発、栽培技術、機械作業技術、品質研究、バイテク関連研究室間の連携をさらに強化する。

水稲においては、一般食用品種の早急な普及、栽培生理、品質特性研究室との協同による新たな低蛋白質米品種の特性解析、機械作業、栽培生理研究室との連携による飼料用稲品種の開発、普及を目指す。

小麦では、近畿中国四国地域における麺用系統の奨励品種採用に力を入れる。また、育種工学や品質特性研究室との協同で麺用に加えてパン用品種の開発にも着手する。

裸麦では精麦後の白度が優れる系統の育成を進め、配布系統の府県における普及を促進する。また育種工学研との連携で裸麦製品の識別技術の開発に着手する。

大豆では新系統の開発を継続し、奨励品種採用に向けて府県との連携に努める。また、品質特性研との連携で豆腐加工適性に関する基礎研究も推進する。大豆300Aプロジェクトは最終年度にあたるので、当初目標の達成に努力する。

バイテク研究では稲の組換え体の作出を加速化し、小麦加工製品における品種識別技術の確立を開始する。ほとんどの実施課題は次年度が最終年になるので、成果を提案することを念頭に置いて課題を遂行する。

2)評価委員による評価

(1)達成度の評価

(1)評価の集計結果S:0 A:11 B:0 C:0総合評価:A
(2)評価委員長の総合コメント

食料は、量的安定の時代から高品化時代へ移行しており、社会的ニーズもこの面に集中しつつある。この動きに応えた研究開発の必要性はきわめて大きい。本課題は、このような今日的要請に応える研究活動として注目されるだけでなく、それぞれのテーマ毎に着実な研究成果が確認でき、総合評価はA+αのランクに達しており、もう一歩の工夫があればSランクに入ると思われる。

(2)今後の研究推進方向に対する評価

(1)評価の集計結果 A:10 B:1 C:0 総合評価:A
(2)評価委員長の総合コメント

高品化、省力・軽労化はわが国農業の競争力の基盤となる重要改善課題であり、研究成果のスピーディーな実用化と定着化が期待される。研究開発とあわせて生産レベルでの幅広い活用を図るべく努力してもらいたい。さらに、本研究を他の主要品目へ拡大し、多面的な研究成果の波及性を追求するべきである。

3)評価委員会の総合評価に対する研究所としての総括

水稲では新しい巨大胚系統の、小麦では麺用系統の、裸麦では精麦後の白度が優れる系統の奨励品種採用に力を入れる。大豆では新系統の開発を加速し、奨励品種採用に向けて府県との連携に努める。大豆300Aプロジェクトは最終年度にあたるので、当初目標の達成に努力する。開発した新品種の普及を基 本に据えて、栽培技術、機械作業技術、品質研究、バイテク関連研究室間の連携をさらに強化して研究を推進してまいりたい。

大課題4:傾斜地農業地域における果樹、野菜、花きの高品質安定生産技術の開発

1)研究所の自己評価

(1)達成度の評価:A

傾斜地園におけるウンシュウミカンの隔年交互結実栽培を安定的な技術とするための台木、穂木の水分特性の解明、キクの生産とくに多労な収穫調整作業の省力・軽労化技術の開発、レタスビッグベイン病抵抗性品種の育成、内生細菌を利用したレタスビッグベイン病防除のためのウイルスの土壌診断技術の開発、有機質資材や少量多頻度潅水技術を活用した環境保全栽培技術の開発など、各分野とも目標に向かって着実に成果をあげており、本大課題の業務は順調に進捗している

(2)今後の研究推進方向

17年度は中期計画最終年度であるが、当部で中核を務める2課題の高度化事業も最終年となることから、中期計画達成のための取り組みと同時に、これら高度化事業の課題を重点的に取り組む。

具体的には「内生細菌利用を基幹としたレタスビッグベイン病防除技術」では共同研究を実施している兵庫県・香川県やサカタのタネと連携して内生細菌の利用技術の開発を進める一方、病原ウイルスの土壌汚染度の診断技術の開発を行う。また、ビッグベイン病抵抗性品種の育成では18年度より系統適応性試験に供試できるレベルの系統を作出する。「拍動自動潅水装置を機軸とする資源利用型低コスト園芸技術」では、少量の水源で大面積に潅水できるコストのきわめて低い技術を開発し、所内傾斜地基盤部、香川県、日進機械と連携して、技術のスキルアップと実証に取り組んでおり、17年度にこの技術を完成させる。

果樹ではミカンの消費や価格の低迷、台風被害園等に対応して、関係県と連携してカンキツの人気品目への改植、早期成園化技術に取り組むほか、落葉果樹も視野に入れて気象変動や温暖化に対応した研究の一環として、樹体の水分動態を中心に取り組む。花きでは所内機械施設研や香川県産業技術センターと協力して、多労なキクの収穫調整作業の省力・軽労化のため一斉収穫や画像選別技術を開発するほか、広島県等と連携してトルコギキョウの催芽種子冷水処理によるロゼット化防止技術の安定化に取り組む。

2)評価委員による評価

(1)達成度の評価

(1)評価の集計結果S:0 A:11 B:0 C:0総合評価:A
(2)評価委員長の総合コメント

本研究は、果樹、野菜等の安定生産技術および高品質化を実現する基礎的技術開発に的を絞って取り組み、産地安定につながるレタスビッグベイン病抵抗性品種の開発や、土壌診断技術の開発などで研究の進展が見られ、また、環境保全的な節水栽培技術の開発でも成果を出し、農業振興への貢献が期待できる。また、傾斜地における果樹の安定生産においても大きな前進的効果が確認される研究である。

(2)今後の研究推進方向に対する評価

(1)評価の集計結果 A:9 B:2 C:0 総合評価:A
(2)評価委員長の総合コメント

応用性と普及性の面から、さらに具体的な実証研究や試験の必要性があるが、これら生産現場での詰めを行い、普及の期待に応えてもらいたい。

3)評価委員会の総合評価に対する研究所としての総括

野菜、果樹とも高品質化や安定生産に向けた基本的な技術開発はかなり進んだので、今後、普及場面での活用に向けて、現地試験や実証試験を重視し、開発技術の実用化研究に取り組んで参りたい。

大課題5:地域産業振興につながる新形質農作物及び利用技術の開発

1)研究所の自己評価

(1)達成度の評価:A

資源作物分野では、前年度までにヤーコン3品種を命名登録し実施許諾も進んだことから、当初の目的は達成したので育種材料は規模を縮小し、野菜花き研に引き継いだ。資源作物研では新たな研究展開を図り、サトウキビ及びその近縁種を地域のエコクロップ、バイオマス資源作物と位置づけたときの利用の可能性の検討に入り、初年度として一定の成果を得た。

成分利用分野では、これまでもいくつかの特許を出願あるいは登録し、一部実施許諾しているが、本年は地域の特産作物であるショウガの成分ジンゲロール等が糖尿病予防に関与する前駆脂肪細胞から小型脂肪細胞への分化を促すことや、インスリン感受性を上昇させることを見いだし特許出願した。本特許も地元企業に許諾し(17.3.1)、それを使った商品が販売される予定である。また、トマト中のGABA含量増強条件について成果を得たほか、免疫機能に関わる胸腺の健全性維持に大豆イソフラボンとくにダイゼインが有効であるという新知見を得て、今後の研究発展が期待できる。

このように本大課題でも着実に成果が得られており、中期計画に対して順調に業務が遂行されている。

(2) 今後の研究推進方向

資源作物の研究はサトウキビとその近縁種は、水田転作作物としての活用を視野に入れながら、単なるバイオマス利用の原料ということではなく、家畜排泄物や堆肥の大量利用によるN循環やCO2固定への貢献など、エコクロップとして位置付け、研究展開の可能性をさぐるが、17年度中にその目途をつける。成分利用の研究は、機能性成分の検索・利用を進めてきたが、今後、機能性のメカニズムの解明やバイオマーカーの開発も視野に入れて取り組み、新たな食品素材とその用途開発をめざす。

2)評価委員による評価

(1)達成度の評価

(1)評価の集計結果S:0 A:11 B:0 C:0総合評価:A
(2)評価委員長の総合コメント

農業生産が地域産業とどのような連携や関わり方が望ましいか、多様な視点から検討される必要がある。本研究は生産地域条件などを踏まえて、新たにサトウキビを取りあげたところがユニークである。ぜひ研究を成功させてもらいたいし、ショウガなど地域の農作物の機能性研究にも注目し、期待しているところである。

(2)今後の研究推進方向に対する評価

(1)評価の集計結果A:11 B:0 C:0 総合評価:A
(2)評価委員長の総合コメント

研究成果は実際に地域や産業の活力形成に貢献しなければならない。本研究は地域産業との関わりをしっかり吟味し、たえずその可能性を検証し、地域産業のエネルギーや発展力に刺激を与えながら推進すべきである。

3)評価委員会の総合評価に対する研究所としての総括

ヤーコン品種の開発は所期の目的を達成したので、新たに地域でのサトウキビ等有望なエコクロップを探索し、多面的な利用の可能性を、地域産業との関わりや環境面での貢献を視野に入れて検討してまいりたい。また、作物の機能性の研究では地域の食品産業との連携強化を図り、新たな食品素材・用途開発をめざして地域産業の発展に貢献して参りたい。

大課題6:都市近接性中山間地域における野菜の安定生産技術及び高品質化技術の開発

1)研究所の自己評価

(1)達成度の評価:A

高付加価値野菜の安定生産技術については、高ビタミンC、低硝酸塩の葉菜類の栽培技術として、ホウレンソウでは、セル成型苗移植の導入および収穫前2-3日の遮光除去の効果、コマツナでは少量培 地耕と収穫前の培養液EC管理の有効性の確認、ハクサイの減・無農薬化技術の現地実証の実施、冬季寡日照な中山間地域で有利なイチゴ促成栽培の作型の提示等の成果を上げている。高齢化に対応した栽培 技術については、前年度試作した果菜用の簡易養液栽培装置の改良、イチゴの高設栽培装置における蒸発潜熱による培地冷却を行う装置の開発とこの装置による第1側果房の出蕾や果実収穫の7~10日程度の早期化、防虫ネットを張ったハウスでの作業不快感を低減するための太陽電池を利用した送風車の開発とこの装置による作業者への送風と天窓の組み合わせによる作業環境の改善等の成果を上げている。土壌微生物等を利用した土壌診断技術については、葉菜類の硝酸塩含量を低減するためには、高炭素率未分解有機物や樹皮炭の施用が有効であることの確認、土壌微生物のバイオマス当たりの呼吸活性が塩類集積の診断に有効であることの解明等の成果を上げている。このように、それぞれの課題について、計画に沿って順調に進捗し、着実に成果を上げている。

(2)今後の研究推進方向

来年度は、高付加価値野菜の課題については、今年度までに開発した葉菜類の高ビタミンC、低硝酸塩含量野菜の栽培技術、減・無農薬野菜の栽培技術の実用化、汎用化に、高齢化対応技術の課題については、今年度までに開発した簡易養液栽培施設を始めとする中山間地域向けの野菜栽培の軽作業化技術の改良に、土壌診断技術の課題については、今年度までに解明した土壌微生物の呼吸活性や群集構造等の成果を集大成して、土壌微生物を指標とした塩類集積土壌の診断法の開発に、それぞれ重点的に取り組む。

2)評価委員による評価

(1)達成度の評価

(1)評価の集計結果S:1 A:10 B:0 C:0総合評価:A
(2)評価委員長の総合コメント

品質向上は、農業生産が続くかぎり、ついて回る課題である。その到達点はオーガニック生産の安定確立である。本研究は、この機能性の向上や生産促進に効果的な作型開発、快適作業環境の確立といった改善に大きく貢献している。作業者の立場に立った技術改良による軽労化も一歩前進しており、総合的に見て本研究の成果は高い評価がなされるべきである。

(2)今後の研究推進方向に対する評価

(1)評価の集計結果A:10 B:0 C:0 総合評価:A

(2)評価委員長の総合コメント

オーガニックへの発展という関点から技術開発のマトを絞り、差別化商品生産の展望を切り開くことが、肝要と思われる。これらの技術定着には、経営手法との関連をしっかり吟味することが重要である。

3)評価委員会の総合評価に対する研究所としての総括

機能性の向上や生産促進に効果的な作型開発、快適作業環境の確立といったこれまでの成果を地域の実情に則して普及し、定着させるため、経営手法との関連を検討し、地域の中山間野菜作の振興につなげてまいりたい。

大課題7:野草地等の地域資源を活用した優良肉用牛の低コスト生産技術の開発

1)研究所の自己評価

(1)達成度の評価:A

妊娠初期の子宮内膜においてMx2遺伝子が妊娠17~20日齢に特異的に発現していることを明らかにするなど、次年度に向け遺伝子関連の研究成果が現場レベルで活用できる可能性を得たことは評価できる。農耕林畜連携に向けた成果として、シバ型草地における放牧の有効性を示すことができ、林内にシバ型草地を効率的に短期造成するために必要な条件や方法を明らかにし、飼料稲の栄養成分の簡易測定法や発芽の改善方法、シバの競合草種であるワラビの抑圧のための管理方法を提示することができた。

(2)今後の研究推進方向

次年度は中期計画の最終年度であることから、残された問題点に対応するため以下の研究を重点化する。これまで実用化のための技術開発が遅れていることが指摘されていた遺伝子関連研究について、PPRAγ2の変異遺伝子を持つ牛が優良な産肉形質を示すことを明らかにしているが、更にこれらの産肉形質の発現と飼養日数との間に関連が示唆されることから、肥育日数と肉量と質の関係を検討し、PPRAγ2の変異遺伝子を持つ牛の特性を活用した肥育技術の開発に取り組む。また、これまで妊娠に関連することを明らかにしてきた遺伝子を指標とし、妊娠モニタリングや早期妊娠診断技術の開発を目指す。農耕林畜連携に向け、新たな飼料稲の給与法や簡便な粗蛋白質等の栄養成分の測定方法、繁殖雌牛の血液性状などを改善するビール酵母の補給方法を開発するとともに、放牧、刈り払い等の人為的な処理が、シバ型草地主体の里山草地の植生構造変化に及ぼす影響を実証する。
2)評価委員による評価

(1)達成度の評価

(1)評価の集計結果S:1 A:10 B:0 C:0総合評価:A
(2)評価委員長の総合コメント

本研究は、わが国の肉用牛生産部門の発展にとって画期的な研究である。ことに荒廃しつつある里山と農業の一体的な振興を可能とし、地域資源活用による循環型農業のタイプを確立するものとして注目しているところである。低コスト化による競争力の強化がどこまで実現できるか、基本的モデル指標を出すなど、具体的な研究フィールドを広げてもらいたいと思う。

(2)今後の研究推進方向に対する評価

(1)評価の集計結果A:11 B:0 C:0 総合評価:A
(2)評価委員長の総合コメント

農耕林畜の一体的連携システムの確立とその技術普及が需要テーマである。本研究成果の普及促進を図るべく、モデル地域を設けるなど、具体的実験事業化を働きかけ、新しい低コスト優良肉用牛生産への取り組みをひろく推進すべきである。

3) 評価委員会の総合評価に対する研究所としての総括

当該地域の府県の研究機関等と連携を深めることにより研究分野を広げ、農耕林畜の一体的連携システムの確立のため飼料イネの給与技術や林内放牧などの研究をさらに推進し、確立された技術については広 報や農政局に働きかけるなど、普及に努めて参りたい。

大課題8:都市近接性中山間地域における持続的農業確立のための生産環境管理技術の開発

1)研究所の自己評価

(1)達成度の評価:A

甘草抽出精製物など天然物の活用による化学合成農薬に依存しない病害防除と、天敵を効率よく生産して害虫を防除するための産雌性単為生殖化について多方向からの研究が進展した。イノシシの行動・生態を根拠とする被害防止研究が大きく進展した。牛ふん堆肥などの土壌有機物の動向から有機資源の評価、利用は順調に進捗中で、環境保全の視点からも知見が加えられた。リモートセンシングによる作物確認・評価と作物発育予測モデルが完成し、応用場面が期待できる。また、在来被覆植物の特性評価と省力的な畦畔被覆工法が開発されるなど、計画に沿って順調に進捗している。

(2)今後の研究推進方向

ダイズ葉焼病やダイズ青立ち、小麦の施肥効果など、圃場における試験設計を検討して明確な結果を示すとともに、近畿中国四国地域における環境保全型農業技術の開発に向けた研究を推進し、その成果を早急に公表していく。

2)評価委員による評価

(1)達成度の評価

(1)評価の集計結果S:0 A:11 B:0 C:0総合評価:A
(2)評価委員長の総合コメント

水稲種子コーティング資材の開発と実用化、甘草抽出精製物による抗菌性の解明と実用化等、環境管理技術の開発の成果は、極めて重要である。研究視点は、全体に格調が高く、今後の発展的な切り込みや研究領域の拡大が期待でき、A+αの評価にランクされる。Sランク一歩手前の優れた研究である。

(2)今後の研究推進方向に対する評価

(1)評価の集計結果  A:10 B:0 C:0 総合評価:A
(2)評価委員長の総合コメント

「都市近接性中山間地域」という視点で研究をスタートさせているが、本課題は、どの農業地域にも共通する応用性を持つ研究である。成果は迅速かつ広域的に普及させるべきであると考えている。

3)評価委員会の総合評価に対する研究所としての総括

水稲の鉄コーティング湛水表面直播技術や、イノシシの忍び返し防護柵等の成果について、一層、技術の完成度を高めるとともに、マニュアルやホームページ、研修会、シンポジウムによって広報・普及を図る。また、府県と連携して地域に深く根ざしながら広く世界に通用する研究を展開してまいりたい。