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情報:農業と環境 No.64 (2005.8)
独立行政法人農業環境技術研究所

論文の紹介: 植物根に共生するアーバスキュラー菌根菌の菌糸分岐を誘導する植物由来物質の同定

Plant sesquiterpenes induce hyphal branching in arbuscular mycorrhizal fungi K. Akiyama, K. Matsuzaki and H. Hayashi, Nature 435, p.824-827

農業環境技術研究所では、植物病害に見られる植物と微生物の相互作用、あるいはアレロパシー(他感作用)に見られる植物と植物の相互作用に関わる化学物質の解明と、それらを農業環境保全に利用するための研究を進めており、関連する論文を紹介している。アーバスキュラー菌根菌(VA菌根菌とも呼ばれている)は、植物の根に共生する菌類であり、土壌中のリンを吸収し植物へ供給することによって、植物の生育を改善することが知られている。このため、この微生物を作物生産に利用する研究が進められている。わが国においても微生物資材化が進められ、地力増進法の政令指定で定める資材として市販されている。ここでは、アーバスキュラー菌根菌が植物の根に共生する過程の最初の段階に関わる化学物質が大阪府立大学のグループによって初めて明らかにされたので、その概要を紹介する。

陸上植物種の約8割は、それらの根にアーバスキュラー菌根菌(以下、AM菌)を共生させていると言われている。AM菌の胞子は容易に発芽するが、発芽後、宿主である植物に共生できないと、菌糸の生長は停止し、それ以上増殖できない。増殖のためには植物との共生が必須であり、絶対共生菌と言われている。AM菌と植物の共生に関わる分子機構はほとんどわかっていないが、発芽したAM菌の菌糸の分岐が、根の近傍で誘導されることが見いだされている。このことは、植物根から分泌される何らかの物質が菌糸分岐を誘導し、共生の開始を促進していることを示唆するものである。

本論文では、マメ科野草でモデル植物として広く研究に用いられているミヤコグサ(Lotus japonicus)をリン酸欠乏の条件で水耕栽培し、根から分泌される菌糸分岐誘導物質を精製し、それがストリゴラクトンの1種、5−デオキシステリゴールであることを同定した。この物質はきわめて低濃度でAM菌の菌糸の分岐を促進した。ストリゴラクトンは多くの植物種で合成されることが知られているが、ソルガム等に寄生する植物・ストライガ(Striga)や、クローバ類に寄生する植物・オロバンキ(Orobancha)の種子発芽促進物質として知られている。

これらの植物寄生植物は、アフリカや熱帯アジアに広く分布し、難防除の雑草として有名である。また、土壌のリン肥沃度の低い場合にその被害が大きく、クローバ類ではリン肥沃度の低い条件でストリゴラクトン分泌の多いことも知られている。一方、AM菌はリン肥沃度の低い土壌において、そこに生育する植物のリン吸収を助けることで知られており、これらの寄生植物は、元来AM菌誘導物質として植物の分泌するストリゴラクトンを、種子発芽物質として利用するようになったのかも知れない。

(化学環境部 齋藤 雅典)

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