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情報:農業と環境 No.72 (2006.4)
独立行政法人農業環境技術研究所

新たな中期計画の開始にあたって

独立行政法人 農業環境技術研究所
理事長 佐藤 洋平

社会における科学技術の役割は、過去20年間に大きく変化しました。温暖化ガスの排出抑制、環境と調和する農業の振興などの例を挙げるまでもなく、種々の政策を立案する上で科学的知見は不可欠な要素となりました。科学の歴史は、科学がつねに確実な知識をめざし不確実な要素を注意深く取り除いてきたことを私たちに教えてくれます。しかし、科学技術が急速な革新と発展を遂げ、生活の隅々にまで浸透するようになったことによって、人々は技術に伴うリスクや「未知のリスク」も含めた科学の不確実性に気づくようになりました。

このような背景のもとに、私たちの研究所は、農業環境のリスク評価など農業生産環境の安全性を確保するための基礎的な調査および研究に重点を置くことにいたしました。本年度から始まる5年間の新たな中期計画では、以下の3つを重点課題に取り上げて、明確な使命感のもと、高い水準の研究を行うことをめざしています。

1) 農業環境のリスクの評価および管理技術の開発

2) 自然循環機能の発揮に向けた農業生態系の構造と機能の解明および管理技術の開発

3) 農業生態系の機能の解明を支える基盤的研究

科学には、知識を深める科学(科学のための科学)と、社会が直面する課題を理解し解決策を提示する科学(政策のための科学)の2つがあります。知識の創造においては、「政策のための科学」のみで知識生産のすべてが可能となるわけではなく、「科学のための科学」の存在が必要不可欠です。すなわち、科学者の責務はこの二つの科学(社会のための科学)の発展に寄与することにあります。

農業生産の対象となる生物の生育環境の保全および改善に関する技術の向上に寄与することを目的とする私たちの研究所においても、科学者の社会に対する責務は他者と異なるものではなく、「政策のための科学」と「科学のための科学」の営みは必須の要素です。

こうした基本認識にもとづいて、私たちの研究所は、農業環境「政策のための科学」を探求する役割を担う15の「リサーチプロジェクト」を単位組織に持つとともに、農業環境「科学のための科学」を追及する営みを担う7つの「領域」と1つの「センター」を単位組織に配置することによって、農業環境技術に関わる知識の創造を遂行する構造を新しい組織に内在させています。

私たちの研究所は、農業環境技術研究の拠点として国内外の研究者・研究機関から高い評価を得ています。私たちは、これに慢心することなく、研究者一人一人が科学者として高い倫理観を備え、科学者の権利と義務の自覚のもとに、高い水準の研究活動によって世界に卓越した知識と技術の創出に取り組み、その成果を広く社会に還元することをめざしています。さらに、農業環境技術研究コンソーシアムを組織して国内外の関連機関と一層の連携を深め、世界の農業環境技術研究を先導する研究所として、絶えざる挑戦と革進に取り組んでいきたいと考えています。

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