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情報:農業と環境 No.83 (2007.3)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 225: 植物力 人類を救うバイオテクノロジー、 新名惇彦 著、 新潮社 (2006) ISBN:978-4-10-603568-5

人類と地球が抱えている人口、食糧、資源、水、環境、エネルギー等の諸問題、これらを著者はまとめて2050年問題と呼ぶ。早く手を打たなければ50年以内に危機的状況が訪れることは火を見るよりも明らかである。非常に難しい問題ばかりだが、地球には、さんさんと降り注ぎ、すべての生命を支えている太陽エネルギーがある。限りある石油資源から脱却し、太陽エネルギーを固定してくれる植物のバイオマスを資源・エネルギーの中心に切り換えることができれば、人類は30世紀、いや、40世紀まで生きていけるだろうと著者は言う。世界中で盛んになっている、バイオエタノールを中心にしたバイオマスエネルギー開発の動きの背景にあるのは、こうした考え方である。実際、世界のエネルギー消費量は、光合成で固定されるエネルギーの10分の1であるという。そして、2050年問題の解決に重要な役割を演じる植物バイオテクノロジーの基本技術は、遺伝子組換えであると、著者は主張する。

本書は、著者が奈良先端科学技術大学院大学において情報科学など異なる専門の大学院生のために行っている、植物科学の入門講義の内容をもとにしている。世界的には栽培面積が増えているとはいえ、日本では組換え植物の実用化、一般栽培について、まだ展望が見えない。組換え植物のメリットを強調する開発側と、不安を訴える反対側の議論はかみ合わないままである。組換え体のメリットとデメリットに関する今の日本の論議は、生産者(農家)と消費者、それに開発者(農薬会社等)の立場から論じられ、しかもそれらは対立して捉えられることが多いと言えよう。その点、本書は広い視点から書かれており、植物科学の意義、そして組換え体の必要性の説明は、説得力がある。すでに実用化されている組換え体や開発中の組換え体の個々の説明は、そのメカニズムも分かりやすくまとめられており、理解しやすい。入門書としても、またすでに知識を持っている方にも、一読の価値がある。

目次

第1章 地球と人類が抱える難問

遥かなるときを経て、いま

人類が地球を変える

深刻な二〇五〇年問題

食糧危機を加速する肉食嗜好

限界に来ている水資源

石油より早くなくなる鉱物資源

地球温暖化が迫ってきた

禁断の実を口にした20世紀

第2章 食糧、環境問題解決の切り札

食糧生産倍増策

人類の救世主の登場

ストレス耐性植物をつくる

実用化されている遺伝子組み換え作物

植物の生産性を高める

水問題と植物バイオ

環境問題と植物バイオ

第3章 人類を救う植物力

太陽エネルギーの産物

未利用バイオマスの活用

バイオマスの転用

国家プロジェクト

実際に行なわれているプロジェクト

普及する遺伝子組み換え植物

緑の金

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