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情報:農業と環境 No.91 (2007.11)
独立行政法人農業環境技術研究所

ESAFS8 国際シンポジウム 「食料生産と環境保全との調和に向けた農業科学の挑戦」 が開催された

本国際シンポジウムは、東・東南アジア地域の12の土壌学会の連合による東・東南アジア土壌科学連合 (East and Southeast Asia Federation of Soil Science Societies) の第8回国際会議がつくばで開催されるのを機会に、当所を含む関係機関 (国際農林水産業研究センター、農業・食品産業技術総合研究機構・中央農業総合研究センター、アジア・太平洋地域食糧肥料技術センター (FFTC)) と、学会 (東・東南アジア土壌科学連合、(社)日本土壌肥料学会) との共催で開催されたものです。海外からの参加者100名以上を含め、300名を超える参加がありました。

本シンポジウムでは、現在、東アジアと東南アジアの各国が抱えるさまざまな農業と環境を巡る問題から、「持続的生産のための水管理」「環境ストレス下の作物生産」「土壌汚染対策の新技術」 をテーマに招待講演者による基調講演とそれに関する論議が行われました。

セッション(1)「持続的生産のための水管理」: 国際稲研究所 (IRRI) の Tuong 博士から、アジア地域における水資源の逼迫 (ひっぱく) の現状と潅漑 (かんがい) 水田における新たな節水栽培技術の有効性について、宝川博士 (国際農研) から、この節水栽培技術を導入した場合の水田からの温室効果ガス発生についての講演がありました。西田氏 (東北農研) は、東北農研大仙研究拠点における長期田畑転換試験に基づき、長期にわたる畑転換によって土壌窒素肥沃度が低下する可能性が高いことと、それを防止するためには水田復元をともなう肥沃度維持対策が必要であることを発表しました。

セッション(2)「環境ストレス下の作物生産」: 中国科学院・東北地理農業生態研究所の梁 (Liang) 博士から、中国におけるアルカリ土壌の実態とその修復のための好アルカリ野生植物の利用の可能性について、また Wissuwa 博士 (国際農研) からは、イネのリンと亜鉛の欠乏耐性の機構と遺伝要因について、とくに低リン耐性にかかわる遺伝子についての講演がありました。東大の西澤教授は、イネに鉄吸収能を付与し、通常のイネ品種であれば鉄欠乏で生育できない石灰質土壌においても健全に生育できるイネを創出したことを報告しました。

セッション(3)「土壌汚染対策の新技術」: 台湾、韓国、日本の研究者から農耕地のカドミウム汚染に関する報告がありました。Chen 教授 (台湾大学)、Jang 教授 (韓国・ Kangwon 大学) は農耕地のカドミウム汚染の現状とそのリスク評価、リスク管理について各国の事例を踏まえて、論議を行いました。また牧野博士 (農環研) は当所で開発されたカドミウム汚染土壌の修復技術について報告を行いました。

時間の制約もあり十分な討議時間を確保できませんでしたが、セッション(1)では、節水栽培・長期田畑輪換などの土地利用の変化が土壌炭素に及ぼす影響を温暖化ガス放出との関連でどう考えるか、(2)では、不良土壌に耐性のある組換え作物が実用段階に達しつつあるがパブリックアクセプタンスを得られるか、(3)では、カドミウムよりもはるかに広範囲に汚染の生じているヒ素汚染をどう考えるか、などの質疑がありました。これらは、今回のシンポジウムに参集した土壌肥料学関係の研究者だけでなく、より広く学際的な論議の必要な問題でもあります。

本シンポジウムには多数の外国人研究者が参加し交流を深めました。これを機会に、新たな共同研究の展開の輪が広がることが期待されます。

Photograph:  Participants to the international symposium ESAFS 8

写真: ESAFS 8 国際シンポジウム参加者

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