Experimental design of multifactor climate change experiments with elevated CO2, warming and drought:
T. N. Mikkelsen et al., Functional Ecology, 22, 185-195 (2008)
気候変動が生態系に及ぼす影響を、より現実の環境に近い形で実験的に評価するために、屋外において人工的に環境を操作する開放系環境操作実験が実施されている。これまでは CO2 濃度や気温の上昇といった単独の要因を操作するものが主流であったが、近年、CO2 濃度、温度および水が相互に与え合う影響を考慮することの重要性が指摘され、複数の環境要因を開放系で操作する実験系が注目されるようになった。その一例が、本論文で紹介されている CLIMATE プロジェクトである。
このプロジェクトは、気候変動により2075年のデンマークにおいて予測されている環境、すなわちCO2濃度510ppm、約2℃の温暖化および夏季における干ばつの長期化を可能な限り模すことで、陸上生態系の生物的プロセスに将来起こるであろう変化を実験的に探ろうとしている。本論文はその端緒として、コペンハーゲン近郊の潅木(かんぼく)と草でおおわれた丘陵地に構築された実験プラットフォームを解説している。
このプラットフォームは、屋外において CO2 を放出して通常の大気よりCO2濃度を高める開放系大気CO2増加 (Free-Air CO2 Enrichment; FACE) 実験が基礎となっている。地上約0.4mの高さにさしわたし約6.8mの八角形に組んだ CO2 放出チューブ (FACE リング) により、FACE リング内の CO2 濃度は510ppmに制御される。この FACE リングと、FACE リングとまったく同じ構成だが CO2 放出を行わない対照リングとの組合せが6組あり、これが分割試験区法の主区となっている。さらに、それぞれのリングの内側は十字に区切られ、温暖化、干ばつ、温暖化×干ばつ、および無処理からなる4水準の処理が副区として組み込まれている。これらにより、「CO2濃度上昇」×「温暖化」×「夏季の干ばつ長期化」 の3要因すべての組み合わせを操作できる開放系複合環境操作実験プラットフォームができあがっている。
温暖化の処理は、夜間、地上から 0.5m の高さに、赤外線を反射するシートを自動的に展張し、実験区からの放射冷却を防ぐことで実現している。また、干ばつの長期化の処理は、温暖化に用いられる装置と同様の装置を用いて、降雨時にのみ実験区をシートで覆い、雨水を系外に排除することで実現している。これらの手法は、メカニズム的にも経済的にも屋外において現実的に実装可能なアイデアであり、興味深い。
なお、農業環境技術研究所でも、CO2 濃度上昇と温暖化の複合要因が水稲生育や水田生態系に及ぼす影響を解明するため、1998年より岩手県雫石町において実施してきた FACE 実験に、2007年からは電気温床線による水地温温暖化処理を組み合わせ、温暖化 FACE 実験を実施している。
(大気環境研究領域 福岡峰彦)