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情報:農業と環境 No.104 (2008年12月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 262: 消える日本の自然 ―写真が語る108スポットの現状―、 鷲谷いづみ 編、 恒星社厚生閣 (2008年9月) ISBN978-4-7699-1086-2

副題の 「写真が語る」 にあるように、日本各地の89スポットについて、過去と現在の風景やランドスケープの変化を写真で比較し、紹介している。「過去」 の写真は1960〜1970年が中心だが、中には明治期の珍しい写真もある。この間に起こった土地利用等の大きな変化と、それが生態系、生物多様性に及ぼした影響を視覚で知ることができる。

4章構成で、1章は 「日本の自然108スポットの紹介」。森林、草原、湿地等、生態系ごとに、時代の変化を写真で紹介する。2章 「消えつつある日本の自然」 は、その生態系ごとの変化を文章で解説する。

森林では、シカによる食害、大気汚染・酸性雨 (が疑われている)、伐採後の造林の失敗、松枯れ等による被害が広がっている。一方、林業地の多くでは、戦後の拡大造林により植林した人工林が産業構造の変化により伐採されずに残り、手入れもなされないために生じた生態系の変化が大きい。その結果、生物多様性の低下や防災上の問題を引き起こしている。

日本の草原は採草地、放牧地、カヤ野として利用され、人が利用し管理することで保たれ、多様な生物の生息の場となり豊かな生態系を維持してきた。明治・大正期には国土の1割を占めていた草地だが、生活が変化して草が必要ではなくなった結果管理が行われなくなり、現在は1%まで落ち込んでいる。兵庫県の六甲山は、現在は全山が樹木に覆われているが、明治期の写真では中腹以上はハゲ山であり、草地であったと考えられている。

日本の土地利用で草地とともに減少が激しいのが、湿地である。過去100年の間に日本全体で、全湿地の61%が失われている。その面積は、琵琶湖の約2倍に当たるという。湿地が減少した最大の原因は開発によるもので、全体の約90%を占めている。明治以降、食糧増産を目的に多くの湿地が干拓され、農地となった。都市化により失われた湿地や干潟も多い。

人と自然の共生の場であった「里地里山」も大きく減少した。この変化の原因として、都市化等による土地の改変と転用、農業生産性向上を目的としたインフラ整備、農村人口の減少と高齢化、薪炭の利用や化学肥料の利用による町と農村の連関の遮断(エネルギーと資材の自給率低下)を挙げている。その結果、景観に大きな影響を及ぼしている。

3章は 「生物多様性の危機」 と題し、「生物多様性国家戦略」 で大別している3つの危機 (「人間活動の直接的影響」、「伝統的な利用・管理がすたれたことの影響」、「外来生物による生態系攪乱や化学物質の影響」) ごとに、何が起こったかを解説している。

4章 「私たちにできること」 では、「応急的自然再生」 と 「生態系ネットワークの再生の取り組み」 の必要性を訴え、具体的な取り組みの事例を紹介している。

目次

1 日本の自然108スポットの現状

森林、草原、湿地、里地里山、川・湖沼、海岸、干潟、サンゴ礁、海中林

2 消えつつある日本の自然

森林、草原、湿地、里地里山、川・湖沼、海岸、干潟、サンゴ礁、海中林

3 生物多様性の危機

4 私たちにできること

自然環境と地域の再生にむけて

国のとりくみ ― 知床にみる自然再生への道

自治体のとりくみ ― コウノトリが自然の力を取り戻す

民間のとりくみ ― 市民の手で身近な自然を守る

研究者のとりくみ ― 「サクラソウ咲く新しい里山の再生」 ほか

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