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情報:農業と環境 No.113 (2009年9月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 274: イワシと気候変動 −漁業の未来を考える(岩波新書)、 川崎 健 著、 岩波書店(2009年6月) ISBN:978-4-00-431192-8

漁業は大漁の時もあれば不漁の時もある。1964年の初夏、北海道南東水域に突然マサバの大群が出現し、水揚げ量は1970〜74年にはピークに達するが、その後マイワシに置き換わり、1980年にはマサバは漁自体が消滅する。マイワシの漁獲量は急激に伸び、1983〜87年にピークに達するが、1989年には魚群が減り始め、1993年を最後にマイワシも漁場が消滅する。

マイワシやアンチョベータ(太平洋のフンボルト海流に分布するカタクチイワシ)のような浮魚資源の大変動が、漁獲(獲り過ぎ)によるものか、それとも環境変化によるものかという議論は世界的に行われていたが、多くの意見は前者に傾いていた。そうした中、著者は、極東マイワシ、カリフォルニア・マイワシ、フンボルト・マイワシの3種の漁獲量の変化が同調していることを見いだす。このことから著者は、グローバルな気候変動が遠く離れた海域のマイワシに同時に作用して共通の変化を引き起こしたと結論し、この現象を、「レジーム・シフト」 と命名する。レジーム・シフトとは、「大気・海洋・海洋生態系からなる地球の動態の基本構造が数十年間隔で転換すること」 である。

このレジーム・シフトという現象は、マイワシとカタクチイワシの変動から初めて見つけられた。すなわち、「気候変動が生物に伝えられて、それを生物が増幅することによって見いだされた」のである。実際、海水温などの物理的変化はわずかであり、エサとなる動物性プランクトンの変動も大きなものではないが、浮魚類の漁獲量では数十から数百倍の変化としてあらわれる。すなわち、大気と海洋と海洋生態系 (バイオマス変動と魚種交代) が相互に作用しあっており、そのことが正しく地球が一つのシステムであることの表れであるという。

漁獲量の変動が自然の変動であるならば、資源管理は意味がないのであろうか。この点に関して著者は、北太平洋の浮魚群集はマイワシを中心にして数十年スケールで魚種交代を行っており、未成魚の乱獲で特定魚種のバイオマスの水準が低いまま推移すると、影響はその魚種に留まらず、魚群群集の変動システムをも破壊してしまう可能性を指摘する。そうしたことから、マイワシは全面禁漁、マサバは漁獲量を出来るだけ低く抑え、資源が上昇気流に乗る日を待つ必要があると言う。

地球上の大気と海洋はつながり合って変動しており、その変動が魚類の変動となって現れる。「生物も含めて奏でる地球システムの見事なハーモニー」には驚くばかりである。その一方で、乱獲や地球温暖化等によるシステムの破壊が懸念される。その影響は、特定の魚が獲れなくなっただけではとてもすまないであろう。

目次

序章  海と漁業で何が起こっているのか

第1章 イワシが消えた

第2章 プランクトンからマグロまで −海洋生態系の大変動

第3章 海は気候を記憶する

第4章 地球はひとつのシステム

第5章 分断された海で −国連海洋法条約と漁業

第6章 日本の漁業はいま

終章  海から、持続可能性を考える −温暖化とレジーム・シフト

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