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情報:農業と環境 No.114 (2009年10月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

ヒガンバナ:ご先祖の知恵
(常陽新聞連載「ふしぎを追って」)

あぜ道(畦畔)は、その上を歩いたり、所有権を明確にするためだけにあるのではありません。日本のような温暖多雨の環境では、雑草の生育が旺盛です。その中で農作物を生産する農業生態系を維持するために、外部から農地に雑草や病害虫が侵入するのを防ぐ防波堤の役目を果たしており、自然生態系との境界をなす砦(とりで)であるといえます。

ヒガンバナは、このようなあぜ道に、ご先祖がある「意図」を持って植えられた重要な植物なのですが、今ではその意味が忘れ去られています。

わが国のヒガンバナは3倍体で、花は咲いても種子ができません。今日各地に見られるのは、人間が広めたものです。古い時代に中国大陸から持ち込まれたものと考えられています。

ヒガンバナ(写真)

筑波山を背景に咲くヒガンバナ

ヒガンバナの全草、とくに球根(鱗茎)にはリコリンという猛毒アルカロイドが含まれています。このために、水田畦畔でネズミやモグラが穴を開けるのを防ぐために栽培されていたと思われます。これは、広い意味でのアレロパシー(他感作用=植物の成分が他の生物に影響する現象)です。また、ヒガンバナの成分には強い雑草抑制効果があることも、農業環境技術研究所の研究で明らかになりました。

古文書には、大飢饉(ききん)の時に鱗茎を掘り上げ、有毒成分を水洗して除去した後、約30%も含まれるデンプンを食用にしていたとか、市場で売買されたとかの記録があります。命をつなぐ最後の食糧だったのです。

しかしヒガンバナは、近年姿を消しつつあります。その有毒性が宣伝されすぎて、嫌われ者になっているからです。しかし、ヒガンバナにはご先祖の知恵が込められており、稲刈り時に真っ赤に咲くヒガンバナは黄金色の稲穂に映えてまことに美しいものです。畦畔の強化、景観形成、雑草抑制、非常食糧という多面的な機能を持つヒガンバナを、あぜ道に復活することが望まれます。

なお、ヒガンバナの株分け定植には6月から7月、あるいは11月から12月が適しています。株間は20センチ程度が最適です。繁殖力は旺盛ですが、畦畔を埋め尽くすまでは適時除草が必要です。

(農業環境技術研究所 生物多様性研究領域 藤井義晴)

農業環境技術研究所は、一般読者向けの研究紹介記事「ふしぎを追って−研究室の扉を開く」を、24回にわたって常陽新聞に連載しました。上の記事は、平成20年10月8日に掲載されたものです。

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