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情報:農業と環境 No.118 (2010年2月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第5回アジア太平洋化学生態学会(APACE2009) (10月、米国) 参加報告

2009年10月27日から30日まで、米国・ホノルル市で開催された第5回アジア太平洋化学生態学会に参加しました。藤井は評議員の一人として学会の企画運営に携わり、シンポジウムのオーガナイザーもつとめました。農環研特別研究員の菅野真実さんと作野えみさんもこの学会に参加し、農環研での最近の研究成果を発表しました。

ホーン博士の基調講演(写真)

写真1 ホーン博士の基調講演

会議1日めの27日には、この学会の元会長であるマレーシアのタン・ケン・ホーン博士が、「植物−昆虫間の化学生態学」 と題して基調講演を行いました(写真1)。植物は150科23万種が知られているが、その中にはキク科、ラン科、マメ科のように約2万種からなる大きな科もあれば、絶滅危惧種(きぐしゅ)を含むごく小さい科もあること、昆虫は150万種が同定されており、お互いに化学物質を介した相互作用があることが、Nature 誌や Science 誌に掲載された最新の研究事例を引いて紹介されました。とくに博士自身の研究(京都大学の西田律夫教授との共同研究)から、東南アジアに多いラン科植物と昆虫との化学生態学的な関係を紹介されました。続いて、カリフォルニア大学のガブリエラ・ネビット博士から、ウミツバメやアホウドリなどの海鳥が 「におい物質」 を手がかりとして個体識別や帰巣行動をとるという、Science 誌に発表された研究が紹介されました。ネビット博士は学位をとったばかりの新進気鋭の女性研究者で、映像を交えたとても分かりやすい発表でした。午後は、Suterra LLC 社のトーマス・ラーセン博士が、新しいフェロモンの開発と米国での認可状況について、シンガポールの Oacific Agriscience 社から、フェロモンの依頼合成に関して紹介されました。またアフリカで猛威をふるうツェツェバエの防除に用いる新フェロモンについての紹介もありました。

2日めの28日には、カリフォルニア大学デイビス校のウオルター・レアル教授から、蚊(か)を忌避(きひ)する物質の嗅覚受容機構が人間の受容機構とよく似ているという最新の発表がありました。レアル教授は、農業生物資源研究所で研究されていたブラジル出身の研究者ですが、その後カリフォルニア大に移られ、現在この分野の最先端の研究を行っています。

会場わきに生育するモンキーポッド(写真)

写真2 会場わきに生育するモンキーポッド

藤井は、外来生物の研究に関連が深い 「侵略的生物の化学生態学」 のシンポジウムに参加し、招待講演として「日本とアジア諸国における侵略的外来植物に含まれるアレロケミカル」と題した発表を行いました。ハワイは熱帯の楽園のように言われますが、じつは外来生物の楽園でもあります。ワイキキ周辺で見られる植物はほとんどが外来植物で、ハワイ固有の動植物はほとんど見られません。ハワイの花の代表のように思われているハイビスカスは中国・インド原産種の雑種の園芸種であり、ハワイ原産の白いハイビスカスは絶滅の危機に瀕(ひん)しています。ブーゲンビリアは中南米原産です。「この木なんの木」 で知られるマメ科のモンキーポッド(写真2)も中南米が原産で、ハワイではなんと侵略的外来種に指定されています。

午後はポスターセッションが行われました。藤井は若手研究者ポスター賞の審査員をつとめ、すべてのポスターを見て採点をしました。最優秀賞は中国人の学生が受賞しました。

会議3日めの29日には、「植物−動物間の相互作用」のシンポジウムに参加しました。信越化学の野島博士が、蚊の産卵を誘引する物質について、マレーシアのアルビン・ヒー博士が、侵略的外来植物としてアジアで問題となっているハリエニシダの防除に特異的な病原菌を利用する研究について、韓国のイル・クオン・パク博士が、アカマツの松枯れの原因となる線虫を殺す植物の精油成分について発表しました。最後に、シンポジウムのオーガナイザーである京都大学の森直樹先生から、イモムシがトウモロコシなどを食害したときに植物体内で生成される、脂肪酸とアミノ酸の結合した物質である「ボリシチン」類の役割について発表がありました。いずれも最先端の研究で、多くの熱心な質疑応答がありました。

会議最終日の30日には、藤井がオーガナイザーをつとめるシンポジウム「植物・微生物の化学生態学」がありました。藤井は、「バイオアッセイによる植物間のアレロパシー活性の評価:サンドイッチ法、プラントボックス法、ディッシュパック法、根圏土壌法およびアレロパシー仮説の提案」と題した講演を行いました。菅野さんは、同じシンポジウムで「ディッシュパック法によるハーブとスパイスに含まれる除草・抗菌活性のある揮発性物質のスクリーニング」と題した講演を行いました。作野さんは、「全活性に基づいた新規アレロパシー物質の検索」と題した講演を行い、日本原産のランから新たなアレロケミカルを同定したことを報告しました。これらは、生研センターの 「イノベーション創出プロジェクト」 の成果です。

評議員会(中央:西田教授)(写真)

写真3 評議員会(中央:西田教授)

この学会への参加者は205名、参加国は17か国でした。次回は、2011年に中国の北京で開催することが評議員会(写真3)と総会で決定されました。化学生態学の分野はこれまでアメリカ合衆国と日本がリードしてきており、今回の会議は京大の西田教授が会長として指揮されました。しかし最近は、中国の研究者の活躍が著しく、政府の研究投資もますます増加しているようです。今回の会議でも、多くの中国人研究者と仲良くなりましたが、その熱意と研究レベルの向上には驚かされます。日本では限られた研究費と研究者で今後どのような研究を進めるべきか、深く考えさせられた会議でした。

(生物多様性研究領域 藤井義晴)

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