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農業と環境 No.120 (2010年4月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第27回土・水研究会 「食の安全、農業環境問題におけるトレードオフを克服する」 が開催された
(講演要旨とプレゼンテーションのPDFファイルを公開)

平成22年2月25日、農林水産技術会議事務局筑波事務所の農林ホールにおいて、第27回土・水研究会 「食の安全、農業環境問題におけるトレードオフを克服する」 が開催されました。参加者数は、政府関係者から1名、地方自治体から69名、大学から6名、民間から10名、独法研究機関から81名(農環研を含む)、合計167名でした。

この研究会では、農地土壌とそれを取り巻く環境や食の安全等の技術開発研究において生じるトレードオフの関係、あるいはリスクとベネフィットの相いれない関係などについて総合的に解決する道をさぐるため、土壌の重金属汚染や温室効果ガス発生に関連するいくつかの技術的解決の困難なトレードオフの問題を取り上げました。また、それとともに、その様なトレードオフにおけるリスク評価・管理の考え方、たがいに性質の異なるリスク同士やリスクとベネフィットの相互比較、複数の評価基準を勘案した総合的な評価法などについて、研究の現状と今後の展望を議論しました。

以下には、講演要旨とプレゼンテーションのPDFファイルとともに、各講演の内容を要約して報告します

講演の内容 (講演要旨全体 PDFファイル 1.7 MB)

1.開催趣旨について

西尾隆 土壌環境研究領域長(農業環境技術研究所)から、研究会の開催趣旨の説明と各講演の簡単な紹介がありました (プレゼンテーション PDFファイル 0.8 MB)。

2.水稲におけるカドミウムとヒ素の吸収を管理する技術開発 (講演要旨PDFファイル 0.3 MB)

荒尾知人 上席研究員(農業環境技術研究所)から、水稲栽培の水管理条件により玄米の総ヒ素濃度と総カドミウム濃度に負の相関関係(トレードオフ)が生じる状況が豊富なデータをもとに示され、両者を同時に減らすためにはどのような技術的な解決策が考えられるか考察がなされました (プレゼンテーションPDFファイル 3.3 MB)。

3.イネの遺伝資源を活用してカドミウム吸収をコントロールする −実用的なカドミウム高吸収(ファイレメ用)・低吸収(食用)品種の開発を目指して− (講演要旨PDFファイル 0.4 MB)

石川覚 主任研究員(農業環境技術研究所)から、イネの遺伝資源を活用した土壌中カドミウムを吸収・浄化するイネの開発や、カドミウムの吸収量が非常に少ない食用イネの品種・系統の育成等に関する研究の現状が紹介され、必要な形質だけの選択的な取り込みや育種期間の短縮にマーカー育種や QTL 解析等の新手法が有効であることが述べられました (プレゼンテーションPDFファイル 4.9 MB)。

4.亜鉛を含む資材の農業利用に伴う環境影響 (講演要旨PDFファイル 0.8 MB)

板橋直 主任研究員(農業環境技術研究所)から、わが国の農地への亜鉛の主要な負荷源として家畜糞堆肥が重要であることが、わが国全体の収支の試算結果をもとに示され、また、農地からの亜鉛の主要な流出形態は懸濁(けんだく)態であり、堆肥の施用により一定の表面流出抑制効果のあることが説明されました。さらに、有機性資源の農地施用の功罪とそのために生じるトレードオフの克服法について、基本的な考え方が整理されました (プレゼンテーションPDFファイル 2.7 MB)。

5.農耕地土壌からの温室効果ガスの排出抑制と作物生産 (講演要旨PDFファイル 0.3 MB)

三浦吉則氏(福島県農業総合センター)から、水稲作における稲わら処理法の選択(堆肥化、すきこみ、燃焼)を巡って、メタンガスや亜酸化窒素ガス等の環境影響、地力維持、農家の負担などの各種要因を総合的に勘案した視点から、どの処理法がもっとも適切と考えられるか判断するための評価の試みの事例が報告されました (プレゼンテーションPDFファイル 2.0 MB)。

6.リスク論から眺める農業環境をめぐるトレードオフ (講演要旨PDFファイル 0.3 MB)

永井孝志 研究員(農業環境技術研究所)から、リスクとハザードの違い、基準値とリスク評価の関係などについて基本的な解説がなされ、トレードオフ問題の解決にはリスクトレードオフを定量的に比較する共通の尺度の導入や、リスク削減よりもリスク最適化をめざす包括的リスクマネジメントが必要であるということが力説されました (プレゼンテーションPDFファイル 0.9 MB)。

7.化学物質における経験から考えるリスクトレードオフ社会のガバナンス (講演要旨PDFファイル 0.2 MB)

岸本充生氏(産業技術総合研究所)から、化学物質によって生じる異なるリスクについて相互の比較と優先順位付けのための手法の解説があり、リスクトレードオフに対処するためのインパクトアセスメントの導入、リスク評価における共通プラットフォーム作りの必要性、リスク評価におけるベネフィット面との統合など、多くの有用な考え方が提示されました (プレゼンテーションPDFファイル 0.9 MB)。

8.農業生産システムにおけるトレードオフ −方法論をめぐる横断的展望− (講演要旨PDFファイル 0.2 MB)

林清忠氏(中央農業総合研究センター)から、環境保全型農業(あるいは有機農業)と慣行農業の比較をするための多基準評価、ライフサイクルアセスメント(LCA)など、手法の解説があり、これまでの海外における実際の比較研究例が紹介されたあと、LCA に経済及び社会の側面からの評価を取り入れた持続性発展評価の開発、多基準評価における代替案選択の際の重み付けの考え方などに関して多角的な考察がなされました (プレゼンテーションPDFファイル 1.2 MB)。

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