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農業と環境 No.124 (2010年8月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

前島勇治 土壌環境研究領域主任研究員: 日本土壌肥料学会 奨励賞を受賞

農業環境技術研究所の 前島勇治 土壌環境研究領域主任研究員が、第28回日本土壌肥料学会奨励賞を受賞することが決まりました。この賞は、『土壌・肥料・植物栄養学及びこれらに関する環境科学の研究の進歩に寄与するすぐれた業績を会誌、欧文誌又はこれに準ずるものに発表し、更に将来の発展を期待しうる』40歳未満の日本土壌肥料学会会員を対象とするものです。2010年9月に開催される同学会2010年度北海道大会において授賞式と記念講演が行われます。

受賞業績名と研究内容は次のとおりです。

西南日本に分布する赤色系土壌の生成過程とその年代に関する研究

前島勇治

(農業環境技術研究所)

研究の内容

これまでわが国の赤色土の生成時期に関しては,鮮新世末〜更新世初期,中期更新世,後期更新世などの諸説があった。本研究は,西南日本に分布する赤色系土壌の生成過程とその年代,すなわち土壌が生成し始めてから赤色土の状態に達するまでの段階的な遷移とその理化学性の変化に要する時間を明らかにした。

まず,南西諸島の喜界島と南大東島の隆起サンゴ礁段丘上の土壌を対象に,海面変動曲線と平均隆起速度から各土壌の年代を推定し,段階的な土壌生成過程を総合的に考察した結果,亜熱帯湿潤地域の隆起サンゴ礁段丘上で土壌が生成し始めるには約 3,000 年,その土壌が赤色土の状態に達するためには,少なくとも 12.5 万年の長い年月が必要であることが明らかとなった(論文1)。また,示差X線回折分析により,南大東島の赤色土と黄色土の遊離酸化鉄の形態を調べ,両者の差異は内部排水性の差に起因することを明らかにした(論文2)。さらに遊離酸化鉄の結晶化指数から赤色系土壌の生成年代を推定する方法を提案し,南大東島の土壌の生成年代が約 50 〜 63 万年であることを示した(論文3)。

新しい試みとしては,近年,地形学や地球科学の分野で利用されている “10Be(ベリリウム−10)年代測定法” をわが国で初めて土壌に適用し,西南日本に分布する赤色系土壌の生成年代を決定することに成功した(論文4,5)。この10Be年代測定法は,土壌中に存在する成分を利用するので,従来の段丘形成や風化程度を指標とした相対的な年代推定法より,具体的な土壌の年代を決定できる利点がある。南西諸島,喜界島の隆起サンゴ段丘上に発達した土壌に10Be年代測定法を適用したところ,10 万年を超える赤色土の絶対生成年代についても 11.9 万年と正確な値を得ることができた。さらに,同島において定期的に採取した降水中の10Be濃度から,10Beの年間降下速度を求めることにより,従来の10Be年代測定法より更に正確な土壌の生成年代の補正を行った(論文4)。

わが国の赤色土の生成時期に関しては,松井・加藤(1962)による古赤色土説の提案以来,目立った進展が見られないのが現状であったが,本研究により赤色土の具体的な生成年代を提示できた(論文4,5)。

文献リスト

1) Nagatsuka, S. and Maejima, Y. 2001. Dating of soils on the raised coral reef terraces of Kikai Island in the Ryukyus, Southwest Japan: With special reference to the age of Red-Yellow soils. Quaternary Research(Daiyonki-Kenkyu) 40, 137−147.

2)Maejima, Y., Nagatsuka, S. and Higashi, T. 2000. Mineralogical compositions of iron oxides in Red- and Yellow-colored soils from Southern Japan and Yunnan, China. Soil Sci. and Plant Nutr., 46, 571−580.

3) Maejima, Y., Nagatsuka, S. and Higashi, T. 2002. Application of the crystallinity ratio of free iron oxides for dating soils developed on the raised coral reef terraces of Kikai and Minami-Daito Islands, Southwest Japan. Quaternary Research(Daiyonki-Kenkyu) 41, 485−493.

4) Maejima, Y., Matsuzaki, H., and Higashi, T. 2005. Application of cosmogenic 10Be to dating soils on the raised coral reef terraces of Kikai Island, Southwest Japan, Geoderma, 126, 389−399.

5) Maejima, Y., Matsuzaki, H. and Nakano, C. 2004. 10Be concentrations of Red soils in Southwest Japan and its possibility of dating, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B, 223-224, 596−600.

受賞理由

熱帯・亜熱帯に広く分布する赤色系土壌の生成速度は,従来,相対的にしか推定されていなかったが,隆起サンゴ礁段丘上の土壌分布に着目し,氷河性海面変動曲線と平均隆起速度直線との組み合わせ法,遊離酸化鉄の結晶化指数を用いた土壌年代推定法やベリリウム-10(10Be)法によって絶対生成年代を明らかにした本研究は,日本の赤色系土壌の生成・分類および国際的対比に多大な貢献をしたことが日本土壌肥料学会より認められた。特に,日本でほとんど使用されていなかった10Beを用いた年代測定の試みは高く評価されている。また,10Be濃度の測定に,通常の質量分析計ではなく,加速器質量分析(Accelerator Mass Spectrometry;AMS)を用いた点も非常にユニークと評価された。

赤色系土壌の段階的生成過程と各段階の土壌の諸特徴を明らかにすることは,土壌生成分類学の基本的知見としてのみならず,今後の世界的な人口増加に対する食糧生産にとって重要であり,熱帯・亜熱帯の農業を中心とした土壌保全と持続的利用・管理ならびに地球環境変化諸問題とも深く関係しており,意義深い研究と考えられる。

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