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農業と環境 No.142 (2012年2月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

年刊誌「インベントリー(Inventory)」の公開

独立行政法人農業環境技術研究所 農業環境インベントリーセンターが発行している年刊誌 「インベントリー(Inventory)」 が、PDF ファイルで公開されました。

インベントリー(第9号)の表紙

インベントリー第9号

農業環境インベントリーとは、過去から現在にわたって採取された農業環境資源 (土壌、水、大気、昆虫、微生物、植物等) の各種標本や試料の現物、これらに関するデータのことをいいます。

農業環境インベントリーセンター は2001年、独立行政法人農業環境技術研究所の発足と同時に設立され、農業環境インベントリーの蓄積・運用について中心的な役割を果たしてきました。

本誌は、農業環境インベントリーセンターが刊行する年刊誌で、農業環境技術研究所の農業環境インベントリーの構築や研究活動についての情報を、関係する行政・研究機関、大学などにお知らせしています。

農業環境インベントリーセンターの設立から10年が経過し、創刊号(平成13年度)から最新号である第9号(平成22年度)までの全PDFファイル が公開されました。ここでは、第9号の巻頭言をご紹介します。

農業環境インベントリーセンターの10年を振り返って
−9号の発刊に当たって−

A decade of Natural Resources lnventory Center
ln Publishing ‘Inventory No.9’

封馬誠也 (農業環境インベントリーセンター長)
Seiya Tsushima (Natural Resources Inventory Center)

農業環境インベントリーセンター (以下、インベントリーセンター) は2001年第一期中期計画の開始と同時に設立されました。したがって、本誌 (9号、2011年3月発刊) が読者のお手元に届く時には、第一期中期計画 (2001年度−2005年度)、第二期中期計画 (2006年度−2010年度) の10年間が終了していることになります。本誌は、前年度の成果をまとめて紹介することになっていますので、通常は2010年度の成果は次号 (10号) に掲載するのですが、上記の理由から節目の年でもあり、本誌では、10年間の活動の歴史や、2009年度の報告だけでなく、2010年度の活動の一部も含めて紹介することにしました。

この10年を振り返ってみると、インベントリーセンター設立当初はいくつかの課題について何度も議論したことを思い出します。 1)そもそもインベントリーとはどのようなもので、インベントリーセンターは何をすべきか、 2)農業環境資源情報を集めてデータベース化することは重要だとしても、データベースの構築などは研究と言えるのか、 3)ではインベントリー研究とはどのようなものか、 4)データベースは論文にならないことが多いが、その場合、成果をいち早く報告する場はあるのか、などの重要な課題ばかりでした。本誌の発刊は、2)や 4)の対応策の一つとして生まれたと記憶しています。このため、本誌ではインベントリーセンター及び所内で毎年新しく作られたデータベースやシステムあるいは新しい標本情報など論文になじまないが重要な成果を中心に紹介してきました。しかし、多くの課題については、10年を経た現在においても必ずしも解決したとは言えません。それどころか、データベースやシステムが増えるに従い、新たな課題が続々と出て来るなどインベントリー研究の難しさを感じています。以下にそれらのいくつかを紹介します。

まず、データベースが増えてくると、「限られた予算や人員」 で対応する以上、どれを重点的に維持・管理するか優先順位を付けていく必要がありますが、意外に簡単ではありません。仮にニーズが高く、公開の意義が大きいと思えても、検討をしてみると予算的に無理だとなることが多々あります。その一方で、ニーズが高くなくても公開の意義がある貴重な情報もあると考えます。これらを一つ一つ判断するのも時間を使うことにもなります。このように考えると、重点化の優先順位を付けるための客観的なデータベース評価システムが必要かもしれません。

また、情報の共有等の面で所外との連携が欠かせない分野がありますが、そのためのシステム構築も簡単ではありません。その理由としては、IT技術の激しい進展があります。最近よく耳にする、クラウドコンピューティングや携帯端末の利用など、新しい技術が続々と出ていますので、これらをうまく利用して、コスト削減、効率的な情報収集、利用しやすいシステムの構築を進めることも重要になります。これに関しては、現在インベントリーセンターにおいてクラウドコンピューティングによるデータベースの統合も進めています。

新たに見えてきたことは、データベース公開後の情報の追加、閲覧や検索システムの改訂などといった維持・管理を行うための体制作りが極めて重要だということです。データベースが有効活用されるかどうかは、実は、データベース公開後の維持・管理に強く依存していることがわかってきました。データベースが氾濫している今日、「他の機関にない貴重な情報がある」、「膨大な情報がある」 という理由だけでユーザーがデータベースを利用するとは限りません。携帯で情報を利用したいユーザーもいるかもしれません。一方、一つのデータベースの情報より複数のデータベースの情報を同時に提供する方がユーザーには有益かもしれません。逆に、「あれもこれもできる」 より 「必要最小限の情報をみせる」 システムの方がユーザーには利用しやすいかもしれません。すべては、ユーザーを想定して考えると同時に、できれば実際のユーザーの意見を取り入れながら維持・管理することが重要になってきます。

以上のようなことから、インベントリーセンター設立後10年を経て、今後は、第2段階として、これまで構築したデータベースも含め、「公開後も、ユーザーのニーズに合った情報を常に発信し続けるデータベースの維持・管理」 にも力を入れる必要があると感じています。

データベースを 「氷山」 にたとえると、Webで公開している部分は 「海面上に出ている部分」 に過ぎず、実はその何倍もの情報が 「海面下」 にあります。上で述べたことは、「海面上に出ている部分」 に関することですが、その一方で、「海面下」 の情報を維持・拡充してはじめて質の高い 「海面上に出ている部分(情報)」 を提供することができます。これらをふまえ、インベントリー研究とは、「海面下」 の情報の拡充と、そこから有益な情報を 「海面上」 に出すことを共に行うことではないかと考えているところです。最近、キュレーターということばを聞きます。キュレーターとは通常博物館などの学芸員の意味で使われていますが、Web関係では 「膨大な情報からある有用な情報を拾い上げる人」 という意味で使われているようです。「氷山」 の例でいうと、「海面下、海面上に出ている部分の維持・管理」 と 「ユーザーに合わせて海面下の膨大な情報から有益な情報だけを海面上に出す」 ことは、まさにキュレーター的な業務ということになるかと思います。この10年の経験から、今後は、このような様々な業務に対応するために、研究員、多くのスタッフ一丸となった情報発信基地としての体制を整備していきたいと考えています。

本誌の情報が一人でも多くの読者の研究、技術開発などの参考になれば幸いです。

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