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農業と環境 No.148 (2012年8月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第4回土壌分類に関する国際会議(6月 米国)参加報告

2012年6月11日から14日の4日間、4th IUSS Soil Classification Conference (該当するページがみつかりません。2014年12月) (国際土壌科学連合主催 第4回土壌分類に関する国際会議) が、米国中西部 ネブラスカ州 リンカーン市において開催されました。

この国際会議は、2001年(ハンガリー)に始まり、2004年(ロシア)、2008年(チリ)に続き、今回で4回めとなります。おもに農耕地土壌や都市土壌を対象とし、土壌分類法の現状や問題点を議論するとともに、2010年の IUSS (国際土壌科学連合) で正式に取り組むことになった世界共通の 「ユニバーサル土壌分類体系(Universal Soil Classification System)」 の構築に向けて3〜4年ごとに開催されています。

会議自体は、前の2日半が口頭発表とポスターセッション、後の1日半はネブラスカ州およびアイオワ州を巡るフィールドツアーで、全体は4日間で構成されていました。参加国は、インドネシア、ブラジル、オーストラリア、ベネズエラ、ベルギー、ドイツ、カナダ、ロシア、メキシコ、スペイン、ポーランド、ハンガリー、チリ、南アフリカ、中国、日本と、開催国であるアメリカの17か国でしたが、各国からは1〜2名の参加者が集い、総勢50名弱のアットホームな会議でした。そのため、会議早々、一人一人が自己紹介をするという意表をつくオープニングとなりました。

さて、国際会議は、11日(月曜日)に開会し、14日(木曜日)に閉会する、4日間の日程で進められました。口頭発表では、現在おもに使用されている国際的な土壌分類である、Soil Taxonomy や世界土壌照合基準(WRB)の、これまでの歩み、現状と今後の課題について基調講演があり、続いて、以下の6つのセッションで各15分程度の各論や各国の土壌分類の現状についての報告がありました。

セッション1:土壌分類 (Soil Classification)

セッション2:ユニバーサル土壌分類に向けて (Towards a Universal Soil Classification)

セッション3:世界各国の土壌分類−その改良、対応関係、整合性について (Worldwide Classifications: their improvement, correlation and harmonization)

セッション4:耕作限界地土壌:強度に改変された土壌や亜湿性土壌 (Marginal soils: Strongly transformed and subaqueous soils)

セッション5:ケース・スタディ−:亜熱帯および熱帯地域の例 (Case Studies: examples from (sub)tropical areas)

セッション6:土壌分類の新しい方法とアプローチ (Novel methods and approaches in soil classification)

農業環境技術研究所から参加した小原 洋 主任研究員と報告者(前島)は、前の中期計画中に策定された 「包括的土壌分類 第1次試案(包括1次試案)」 に関するポスター発表を行いました。ポスターセッションは、2日目の夕方に開催され、「包括的土壌分類第1次試案の概要(小原)」、「包括的土壌分類第1次試案の日本の主要な土壌への適用(前島)」と題して、包括1次試案が、わが国の山地から低地に分布する土壌をその土地利用に関わらず分類できる実用的な分類体系であることを発表しました(写真1)。日本に限らず諸外国でも土壌分類体系が並立しており、とくにドイツではその対応関係に頭を悩ましているとのことで、わが国の新しい取組みは高く評価されたようです。

(写真)

写真1 ポスター発表会場にて

(写真)

写真2 フィールドツアーのようす

3日目の午後より待望のフィールドツアーが始まりました。約50名が大型バスに乗り込み、まず向かったのは、リンカーン市郊外の大露頭でした(写真2)。表層から深さ1.5メートルは、粘土集積層をもつモリソルで、その下に過去の温暖寒冷期(数万年〜数十万年前)に生成した化石土壌(古土壌)を観察することができました。とくに古土壌では過去の気候変動に伴う乾燥・寒冷化を反映し、土壌構造が収縮して大きな亀裂が生じ、その亀裂に炭酸カルシウムや鉄、マンガンの酸化物が析出していたのが印象的でした。これらを研究することは古環境の復元のみならず、地球環境の将来予測につながる重要な研究対象であることも理解できました。

ツアーの2日目は、朝7時30分にホテルを出発し、隣のアイオワ州まで移動し、ミズーリ川の氾濫(はんらん)原で採取した沖積土のコア試料やレスの丘陵頂部に作られたネイチャーセンター (日本各地にある 「自然観察の森」 のような施設) 内のモリソルを観察しました。その後、大規模造成による人工改変土壌や湖畔の土壌を2地点観察しました。いずれの地点も基本的にはモリソルでしたが、これが、かの有名な 「モリック表層(腐植が集積し、塩基飽和度の高い、構造の発達した表層をさす)」か? と疑いたくなるほど淡い黒色でした。それは乾燥しているためで、水でぬらすとやはり黒色を示し、アメリカの穀倉地帯を支える重要な土壌であることが理解できました。

この会議には、土壌分類に関する専門家が参加し、国際的な最先端の情報を収集するためには大変重要です。わが国もかつて水田土壌や黒ボク土の国際的な分類に大きく貢献していました。次回の開催は未定ですが、今後もこのような国際会議に積極的に参加し、情報発信・収集をしなければいけないと思います。

(土壌環境研究領域 前島 勇治)

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