2013年6月3日から7日まで、中国・北京において 第9回 二酸化炭素国際会議 (9th International Carbon Dioxide Conference, ICDC9) が開催されました。農業環境技術研究所からは報告者(岸本)が参加しました。
大会に参加して
この国際会議は4年に一度開催され、海洋・陸上(農耕地を含む)・大気における全球規模での二酸化炭素の収支の推定、およびそれに関連するモデル研究と観測技術、緩和策などについて議論されます。気候変動とCO2の動態に関する最新の成果に関する情報交換の場として貴重で、今回の会議では本年10月に発表される予定の IPCC 第5次評価報告書 (AR5) の最新情報 (とくにCO2収支の試算) が得られるなど世界的な動向を知るとともに、研究成果を世界へ発信する良い機会でした。
会議には中国、韓国、日本、アメリカ、ドイツなどから約500人の研究者が参加し、次の3つのテーマで400件近くの発表がありました。
テーマ1:Past and present changes and variabilities (大気中CO2の変動)
テーマ2:Carbon sources and sinks, their changes and trends (炭素の発生源と吸収源、およびそれらの変動と長期傾向)
テーマ3:Future of the carbon cycle: drivers, vulnerabilities, feedbacks and management options (炭素循環の将来予測: 影響要因、ぜい弱性、フィードバックおよび緩和策オプション)
写真1 500人が入る全体会合の会場(左)とポスター会場(右)
報告者は、テーマ3のポスターセクションで、農水省委託プロジェクト 「気候変動に対応した循環型食料生産等の確立のための技術開発 (気候変動対策プロ): 農業分野における温暖化緩和技術の開発」 のもとで、日本全国の農地の土壌炭素量の変化を推定するためのモデル開発( RothC モデルの多層化など)のために実施した、土壌炭素動態に対する温暖化の影響を評価する研究の成果を発表しました (発表タイトル:Response of soil organic matter decomposition to experimental warming in a cultivated Andisol in Japan (Kishimoto-Mo et al.) )。この研究は、土壌炭素動態予測に必要な土壌有機物分解と土壌有機物の質との関係を解明するもので、大気―土壌間のCO2交換とフィードバックの重要なプロセスを扱っているため、多くの関心を引き、有意義な議論と情報交換ができました。
全体会合の最初の講演として、ハイマン博士 (Dr. M. Heimann) による ICDC の歴史を振り返る報告 (From “ICDC1” in Bern 1981 to ICDC9 in Beijing 2013: a review of global carbon cycle research during the past three decades) を聞き、とても印象深く感じました。この講演の最後には、これまでとこれからのCO2研究分野の課題 (Challenges) が示され、気候変動に関する今後の研究展開を考える上でおおいに参考となりました。また、ほかの全体講演やポスター発表においても、各分野の最新の情報・手法・コンセプトがわかりやすく、内容が充実した発表が多くあり、収穫の大きい大会でした。
写真2 北京の空
北京の PM2.5
実は今回は3年ぶりの北京でしたが、北京の大気汚染 (とくに PM 2.5 汚染) の問題は日本でも気になっていました。春以降はずいぶん落ち着いたと北京の友人から聞いていたのと、北京国際空港に降りた時に青空が少し見えたので、日本で報道されていたほどひどくはないかもと思いました。しかし、タクシーでホテルへ向かうと、どんどん視界が悪くなり、やはり3年前に比べてもずいぶん空気が悪くなったと実感しました。今回の会議会場の近くには北京オリンピックのときのメイン会場があり、夜に散歩に行くと、ライトアップされた美しい「鳥の巣」を見ることができますが、ちょっと離れるとスモッグでほとんど見えませんでした。滞在中は初日を除いて、スモッグがひどく、青空どころか空すら見ることができませんでした(写真2の上)が、日本に帰国後、北京の友人から雨後の久しぶりの青空の写真を送ってきました(写真2の下)。一日も早く青空を取り戻せることを願っています。
(物質循環研究領域 岸本文紅)