農業環境技術研究所は10月8日(火曜日)から10日(木曜日)まで、つくば国際会議場 (茨城県つくば市) などにおいて、MARCO-FFTC ワークショップ 「アジアにおける遺伝子組換え食用作物のベネフィットとリスク」 (MARCO-FFTC Joint International Workshop 2013 on Benefits and Risks of Genetically Modified Food Crops in Asia) を開催しました。
Food and Agriculture Organization of the United Nations(FAO)は、2030年までに世界の食料供給を40%増大する必要があるとしています。現在、世界の貧困人口の3分の2がアジア太平洋地域に住んでおり、世界でもっとも人口が増えているこの地域にとって、食料の安定供給のために、イネ、ダイズ、トウモロコシなどの遺伝子組換え(GM)作物の輸入や国内栽培の促進はきわめて重要な課題です。そのため、海外における GM 作物の栽培は急激に拡大しており、2012年には、世界28か国において、1 億 7,030 万ヘクタールに作付けされ、1,730 万人がその栽培に従事しています( ISAAA(International Service for the Acquisition of Agri-biotech Applications) 報告)。なかでも開発途上国におけるGM作物の栽培面積は2012年に先進国を上回り、モンスーンアジア地域では、現在は5か国が商業栽培しています。それらの国々におけるGM作物への期待は大きく、アジア各国で、それぞれのニーズに合った研究開発や、輸入や栽培に関する法制度の充実が図られています。
そのような情勢の中、平成24年9月に開催されたMARCOシンポジウム において、遺伝子組換え作物の生物多様性影響(バイオセーフティー)を取り上げ、研究協力のためのプラットホーム構築をめざすことで合意しました。
今回のワークショップでは、昨年度のシンポジウムを受けて、アジアを中心としたGM作物の開発と利用の現状を把握して、それに伴うベネフィット(食料安全保障・作物増産)とリスク(生物多様性の減少)に関するさまざまな要因解析とその対策について議論を進めるとともに、アジア各国相互の有用な情報の交換や技術協力のためのプラットホーム構築をめざしました。
具体的には、初日に海外からの参加者を対象に、当研究所の組換え植物隔離ほ場と農業環境インベントリー展示館を紹介するとともに、農業生物資源研究所のジーンバンクを見学しました。2日目と3日目はつくば国際会議場において会議を開催し、基調講演(Josette Lewis 氏)と、それに続く、GM作物の開発や生産、植物保護および環境や健康におけるGM作物の新技術、GM作物の環境影響評価に関する一般講演において、各国(海外12か国)および日本から参加した22名の方々に講演いただくことによって、GM作物のベネフィットとリスクについて参加者で情報を共有するとともに、意見交換しました。その他にも、ポスター発表で日本におけるGM作物のリスクに関する研究を紹介し、最後に 「アジア地域におけるGM作物栽培のベネフィットとリスク」 をテーマに総合討論および取りまとめを行いました。開催期間中、総勢82名の参加があり、盛況の中閉幕しました。
ワークショップの参加者
講演後の質疑応答のようす
開催期間: 2013年10月8日(火曜日) 〜 10日(木曜日)
開催場所: つくば国際会議場(茨城県つくば市竹園2−20−3) 201会議室
共催: 農業環境技術研究所 (NIAES)、 アジア太平洋食料肥料技術センター (FFTC)
参加者数: 83名
内訳: 海外19名(12か国)、行政4名、独法26名(農環研12、その他14)、大学25名(教官等7、学生18)、民間6名、その他・一般2名
[プログラム(概要)] 詳細については プログラム(詳細版)(PDF) をご参照ください。
10月8日(火曜日) 見学会(農環研:隔離ほ場・インベントリー展示館、生物研:ジーンバンク等)
10月9日(水曜日) 登録、開会式(Opening Session:宮下理事長、今井次長)
・ 基調講演: Josette Lewis (WFC, USA) 開発途上国における食料保障とGM作物
・ Session 1: GM作物開発・生産の概観(ISAAA(フィリピン)、農業生物資源研)
・ Session 2: GM作物の新技術(植物保護)(フィリピン、タイ、ベトナム、インドネシア、インド、オーストラリア、農業生物資源研)
10月10日(木曜日)
・ Session 3: GM作物の新技術(環境・健康)(中国、韓国、台湾、タイ、パキスタン、東京大学、農業生物資源研)
・ Session 4: GM作物の環境影響評価(オランダ、茨城大学、農環研)
・ Panel Discussion & Closing Session: 座長 與語(農環研)・Kuo(FFTC)
ポスター発表(10月9・10日):8題(生物多様性影響に関する日本における研究成果)
ワークショップの概要:
ワークショップの目的の一つであったモンスーンアジア地域におけるGM食用作物の開発やリスクに関する最新情報の交換については、4つのセッションのうち、3つのセッションが開発すなわちベネフィットを主題とするものでしたが、海外からの発表の多くでリスクの内容が盛り込まれていました。一方、環境影響(リスク)に関するセッションは1つでしたが、ポスター発表はすべてリスクがテーマであり、ベネフィットとリスクについてバランスよく情報提供があり、当初の目的は十分達成することができました。
ワークショップの最後に行われたパネルディスカッションでは、リスクとベネフィットに関する不確実性に関して議論しました。具体的には,GM作物を栽培した場合の生物多様性や地域固有品種への影響、Bt ( Bacillus thuringiensis という土壌微生物由来の殺虫タンパク質) を有した害虫耐性GM作物や限られた種類の除草剤を連用するリスク、規制に関する国際的共通理解や調和、モンスーンアジア地域に特化したGM作物のリスクやベネフィット、教育を含む生産者や消費者とのコミュニケーションの重要性等について、活発に意見交換されました。
最後に、MARCOシンポジウム2012のバイオセーフティーに関するワークショップ の参加者も加えて、メーリングリストによるアジアモンスーン地域における情報交換や技術協力のためのプラットホームの構築について合意するとともに、MARCO の活動や国際的競争的資金等の機会を利用して、協力していくこととしました。
なお、本ワークショップのアブストラクト集に若干の余部がありますので、ご希望の方は、下記までご連絡ください。
独立行政法人農業環境技術研究所 広報情報室 広報グループ
〒305-8604 茨城県つくば市観音台3-1-3
電子メール: kouhou@niaes.affrc.go.jp
電話: 029-838-8191 FAX: 029-838-8199