A Systematic Review of Biochar Research, with a Focus on Its Stability in situ and Its Promise as a Climate Mitigation Strategy
Gurwick et al.,
PLoS ONE, 8(9), e75932, 2013, DOI: 10.1371/journal.pone.0075932
(論文の概要)
バイオ炭 ( biochar:生物資源を原料とした炭) は、作物収量の増加、土壌肥沃度(ひよくど)の改善、土壌の保水性の改善に加え、温暖化緩和策として有効である可能性が指摘され、近年多くの研究がなされている。作物残渣(ざんさ)や堆肥等の炭素の大部分が土壌中ですみやかに分解され、土壌中に長期的に蓄積される割合は小さいのに対し、バイオ炭の炭素は大部分が100年〜1000年単位といった長期にわたって土壌に蓄積される可能性がある。本論文は、近年注目を集めているバイオ炭に関する研究をレビューしたものである。
本論文では2011年までに発表された311報の原著論文を解析した。バイオ炭がN2OやCH4などの温室効果ガスの発生を削減する効果を持つという研究が報告されているが、ほ場での研究例は6報しかなく、また相反する結果となっている。作物収量および土壌の性質の改善に関する研究例は16−19報ある。バイオ炭の土壌での安定性に関する論文74報のうち、ほ場での研究例は7報しかなく、これらの研究例におけるバイオ炭に由来する炭素の土壌中での平均滞留時間は8年から4000年と大きくばらついている。
近年、バイオ炭の土壌への施用が注目され、多くの研究がなされているが、まだまだ新しい分野である。このため、研究手法も開発途上であり、研究不十分な領域も多く残されている。バイオ炭の材料、製造方法および施用方法がどのように温室効果ガスの発生・吸収量に影響するかについての結論を導くには時期尚早であり、さまざまな気候条件、土壌条件におけるほ場試験が必要である。また、バイオ炭のN2OやCH4などの温室効果ガスの発生削減技術としての効果についてもさらなる研究が必要である。さらに、システム全体での評価のためには、バイオ炭の生産、輸送、土壌への施用における温室効果ガス発生、バイオ炭の施用による土壌有機物の分解促進の可能性等においても評価する必要がある。また、バイオ炭の施用は、バイオマス燃料としての利用や残渣すきこみ等と比較した優位性についても研究する必要がある。一方、研究例はまだ十分ではないが、バイオ炭施用により、長期的な炭素貯留につながるものの、一時的には土壌からのCO2発生量が増加するとの報告例がみられることから、短期的には地球温暖化の促進につながる可能性もある。バイオ炭が温暖化緩和策として有効であるかどうか評価するためには、温室効果ガス発生・吸収量について短期的および長期的な影響についてさらなる研究が必要である。
(日本での状況)
日本においては、炭は土壌改良資材として認められており、また農地への炭施用は長い歴史を持っている。近年、欧米を中心にバイオ炭が脚光を浴びているが、日本における研究は十分ではない。今後、日本においてもバイオ炭の温暖化緩和策としての有効性に関する研究が必要であろう。
秋山博子(物質循環研究領域)