2014年10月28日から31日までタイ・バンコク市で 第4回国際イネ会議(4th International Rice Congress)(リンク先URLが見つかりません。2015年10月) が開催され、農業環境技術研究所から、土壌環境研究領域の安部匡 任期付研究員と大気環境研究領域の臼井靖浩 特別研究員の2名が参加しました。

この国際会議は、国際イネ研究所(International Rice Research Institute:IRRI、フィリピン)の主催により、4年に1度開催されています。この会議の開催地は、過去の3回も含めてすべてアジアですが、イネに関わる研究者が全世界から集まる、大規模な国際研究集会です。今回も約1500人が参加しました。
10月28日に行われたオープニングセレモニーでは、国際イネ研究所所長の Robert S. Zeigler 博士の基調講演とタイ国の Petipong 農業・協同組合大臣のスピーチが行われ、本会議開催に向けての期待やタイ国におけるイネ研究への高い関心が感じられました。
10月29日からの講演会では、7つのメイントピックス ((1)遺伝資源と育種素材、(2)新品種とイネ育種、(3)生産性と栽培方法、(4)バリューチェーン(付加価値連鎖)、(5)技術目標と戦略、(6)技術供与、(7)温帯イネ) に関して、各国の研究者から約850件の研究発表がありました。また、9つのシンポジウムが開催され、62件の講演がおこなれました。各会場とも幅広いテーマにおいて活発な議論が交わされました。

今回の第4回国際イネ会議の全体テーマは “Rice for the World(世界のためのイネ)” とされ、講演会やシンポジウムのほかに5つの会議やイベント(第29回国際イネ研究会議、第5回温帯イネ会議、農業研究資金獲得に関わるフォーラム、アジアイネ研究パートナーシップ(CORRA)に関わる協議会、国際イネ産業展、IRRI 国際イネ市場と貿易展望会議) が同時開催されました。本会議はイネ研究に関わる国際交流の場としても重要な位置にあります。
安部は、メイントピック−2「新品種とイネ育種」においてポスター発表を行いました。このセクションは、ポスターだけでも約200件の発表があり、世界的に高い関心が寄せられていました。中でも多収性や、いもち病・ウンカなど病害虫への抵抗性に関する研究発表が多く、関心の高さがうかがわれました。安部は、日本の稲作体系に適合したカドミウム高集積イネ系統の育成について報告しました。
このイネ系統は食用ではなく、カドミウムを多く含む水田の除染に用いるための系統です。これまでに見出されていたカドミウム高集積品種はインド型の品種であり、日本での栽培には不向きでした。そこでインド型カドミウム高集積品種「ジャルジャン」と日本の低集積品種「コシヒカリ」との比較から、「ジャルジャン」が持つカドミウム高集積に関わる遺伝機構を解明し、この情報をもとに「ジャルジャン」と日本の飼料イネ「たちすがた」に交配して、日本での栽培に適合した実用的なカドミウム高集積系統を育成しました。農家の水田を用いた栽培試験を開始しており、高い実用性が認められています。
イネの品種育成では、その目的や形質が異なっていても戦略や選抜方法などが類似していることが多くあります。この会議への参加によって海外の多くの研究者と議論することができました。各国のイネ品種に求められる形質の違いなどについて情報を交換でき、大変有意義な経験になりました。
臼井も、メイントピック−2「新品種とイネ育種」セクションのポスター発表で「開放系大気CO2増加(FACE)環境下における高温登熟性に優れる水稲品種の外観品質応答」 について研究成果を発表しました。
近年の夏季の高温によってコメの外観品質低下が日本各地で頻発していますが、日本のみならずアジアのコメ生産諸国でも、問題になってきています。外観品質の低下は、おもに白濁した部分をもつ米粒(白未熟粒)の増加が原因の一つです。白未熟粒の増加は、整粒(透明度が高く、形が整った米粒)率を低下させ、コメの等級下落(格落ち)の理由にもなることから、対策技術の開発が重要です。その対策の一つとして、高温でも白未熟粒の増加を抑える水稲品種(高温耐性品種)開発が行われています。そこでわれわれは、これまで育種研究者らによって開発されてきた高温耐性品種を、50年後に想定される高いCO2濃度条件下で栽培し、外観品質にどのような影響を及ぼすのを確かめることにしました。今後も予測されるCO2濃度の上昇は、コメの高温障害をさらに進行させる可能性が明らかになってきたからです。実験の結果、高温耐性品種は通常の品種と比べて白未熟粒の増加程度が低く、現在の気温レベルにおいては、高CO2環境下でも品質を保持できることが明らかになりました。
この発表には、高温による品質低下が問題となっているアジア諸国の研究者が関心を寄せ、多くの研究者と議論できました。本会議に参加し、国内外の研究者と情報交換する中で、今後も、温暖化の進行に対して適切な対策をとるための技術開発を続けることが必要だと再確認する機会になりました。
会場内の展示から

<ラーマ9世> タイは国王が存在する王国です。現国王であるラーマ9世は、タイの農業発展にも大きく貢献されており、その功績を紹介する展示が会場のメインロビーで行われていました。

<香り米> 南・東南アジアでは香り米(Aromatic Rice)が高級品種として食されています。タイでは Khao Dawk Mali(カオ ド マリ)が有名です。報告者はタイ農業・協同組合省の展示ブースで玄米と精米の Khao Dawk Mali の試食をしてきました。香ばしい香りが特徴的で大変おいしく感じました。とくに玄米の風味の高さが印象に残りました。ちなみに使用していた炊飯器は日本のメーカーのものでした。

<浮稲(うきいね)>国際イネ研究所(IRRI)のブースでは、イネの環境適応を紹介する展示がありました。乾燥、塩害そして深水などへの適応です。写真は金魚が泳ぐ水槽の中にイネを沈めた深水耐性の展示です。東南アジアには、雨期に水田の水深が深くなっても稈(茎)を長く伸ばして深水にも対応できる浮稲というイネがあります。
なお、臼井靖浩の会議参加は、(独)国際農林水産業研究センター(JIRCAS) の依頼(GRiPS パートナー資金)による出張として行われました。
(土壌環境研究領域 安部 匡、大気環境研究領域 臼井 靖浩)