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農業と環境 No.183 (2015年7月1日)
国立研究開発法人農業環境技術研究所

グローバル・ソイル・ウィーク2015 参加報告

2015年4月19日から23日まで、ドイツ・ベルリンで開催された 「グローバル・ソイル・ウィーク 2015」 に参加しました。この催しは、持続的な土壌の管理をテーマに、世界各国の研究者、政策担当者、民間企業および団体など、あらゆるステークホルダー(利害関係者)を対象に一週間(日曜日から木曜日まで)開催されました。

「国際土壌年」(「農業と環境」No.177) にあたる本年は、過去2回の開催よりもさらに盛大なものとなり、世界80か国からの参加者は約600名にのぼりました。国際機関の指導者や第一線の研究者をパネラーとしての全体討論、土壌劣化とその回復のための科学シンポジウム、関連国際機関の会合、土壌に関するさまざまな対話集会、展示企画、パフォーマンス等、単なる研究集会や国際会議に止まらず、イベント要素も盛り込まれた集まりでした。

(写真)写真: 全体会合でのパネルディスカッション
(写真)写真: 土壌に関する政府間技術パネル(ITPS)と国連砂漠化対処条約科学政策インターフェース(UNCCD-SPI)との合同会合
(写真)写真:「地球の色(colours of the earth)」と題した、さまざまな色の土壌の展示

イベントのなかで面白かったものに、近接する公園で開催された「1ヘクタール(one hectare)」がありました。これは、世界の土壌が建造物やアスファルト舗装などによりその表層が覆われ、本来の土壌の機能が損なわれる土壌被覆(soil sealing)の問題に対するパフォーマンスです。ドイツ国内での土壌被覆が20分間に1ヘクタールの割合で進行していることから、顔を白く塗り、放射能防護服のようなコスチュームを身につけた若者達が、イベント会場の芝生1ヘクタールを20分間かけてプラスチックのロールフィルムで覆って行きました。

(写真)写真: 野外イベント「1ヘクタール(Ein Hektar)」 のようす

今回が3回目の開催となる「グローバル・ソイル・ウィーク」は、ベルリン郊外のポツダムに拠点を置く先進持続性研究所(Institute for Advanced Sustainability Studies: IASS)によって主催されています。IASSは、2007年にアンゲラ・メルケル首相の呼びかけによりノーベル賞受賞者らが集まって開催された「地球の持続性」に関するシンポジウムでの提言をもとに、ドイツ政府が2009年に設立した新しい研究機関です。その要覧を見ると、人類が優占する新たな地質年代「人新世(Anthropocene)」における平和で持続的な地球システムの管理のため、分野を超えた新しい研究の先導者となるという、極めて壮大なビジョンが掲げられています。そのIASSが対象とする研究分野のひとつに、持続的な土壌の管理が計画され、「グローバル・ソイル・ウィーク」を主催していることは、興味深いものです。

*人新世(Anthropocene):人類(ホモ・サピエンス)というたった1種類の生物が地球環境を変化させてしまったことから、それまでの完新世はすでに終結し、地質学上の新たな時代がはじまっているという考えから提案された年代区分。化学物質による成層圏オゾンの破壊の研究からノーベル化学賞を受賞したパウル・クルッツェン(Paul Crutzen)が提唱した。

八木一行 (研究コーディネータ)

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