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農業と環境 No.188 (2015年12月1日)
国立研究開発法人農業環境技術研究所

生分解性プラスチックと分解酵素の活用シンポジウム 「畑で分解する農業用マルチフィルム」 開催報告

2015年11月13日(金曜日)午後、産業技術総合研究所 臨海副都心センターにおいて、生分解性プラスチックと分解酵素の活用シンポジウム「酵素処理ですぐに分解 畑で分解する 農業用マルチフィルム」 を開催しました。

国立研究開発法人農業環境技術研究所が、国立研究開発法人産業技術総合研究所、日本バイオプラスチック協会、農業用生分解性資材普及会の後援を受けて開催したもので、出席者数は75名(内訳:民間46名、政府関係15名、大学5名、団体4名、報道関係5名)でした。

前半のセッションでは、外部の講師3名に講演をいただきました。はじめに、農林水産省生産局園芸作物課の宇井伸一課長補佐から、「日本の野菜をめぐる状況」について、統計データを用いて紹介いただきました。野菜の自給率は約80%と比較的高く、家庭で食べる野菜の98%は国産です。国産野菜を時期・量・品質・価格を安定させて供給するために、季節ごとに生産地域を変えていく等の工夫が紹介されました。また、野菜の約20%を占める輸入品の多くは、加工・業務用に使われるため、加工・業務用では国産比率を増やす余地があります。そのための施策が紹介され、加工野菜への作付け転換を支援する事業では、マルチやべたがけ等の資材を用いた作柄安定技術の導入に対して支援できることが紹介されました。

続いて、昭和電工株式会社の小野実輝彦氏による講演「生分解性プラスチック市場の動向」では、海洋に漂流したプラスチック製品が粉砕されて生じた微粒子の表面に有害な化学物質が吸着され、食物連鎖に有害物質が混入すると言われていることが紹介されました。対策として、生分解性の製品への移行が技術的に可能であることが示され、非分解性レジ袋を規制する各国の政策についても解説がありました。一方、農業用マルチフィルムの最大の消費国である中国においては、使用済みのフィルムが畑土に残留して、周囲へ飛散したり、作物の生育阻害を引き起こしたりし、“白色汚染” と呼ばれる環境問題になっています。中国政府は、対策の一つとして、生分解性マルチフィルムの検討をはじめています。日本では、生分解性マルチの導入に熱心な地域は、家庭ゴミを生分解性プラスチック製の袋で回収し、コンポストに再生する事業を行う地域と重なる場合が多いという状況も紹介されました。

最後にご講演いただいた、株式会社ユニックの坂井久純氏による「農業用生分解性マルチフィルムの現状」では、25年前に生分解性マルチを考案したときは、ゴミの削減が念頭にあったが、最近では、省力化資材として効果の方が高く評価されている、と述べつつ、生分解性マルチの方が、従来の分解しないマルチに比べて収穫までのコストも低いという調査結果を提示されました。また生分解性マルチを使うことによる収穫の省力効果について、各種野菜での事例を紹介されました。一方で、畑によっては生分解性マルチの過分解が生じるが、その原因がわからないなど、まだ制御が難しい場面があることも紹介されました。

会場のようす(生分解性プラスチックと分解酵素の活用シンポジウム)(写真)

後半は、農業環境技術研究所が代表を務める農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業 「畑作の省力化に資するバイオプラスチック製農業資材分解酵素の製造技術と利用技術の開発」 の成果を報告しました。この研究プロジェクトは、平成25年度から27年度を、“産学の研究機関の独創的な発想から将来アグリビジネスにつながる革新的な” シーズを創出する研究を推進するステージで実施しています。生分解性農業用マルチフィルムを使用後に、すぐにすき込みできる程度に分解していない場合に、酵素処理により急速劣化させ、すき込みを可能にする技術を作ることを最終目標としており、この課題では、そのために酵素の大量生産と低コスト処理技術の開発をめざし、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)と共同して実施しています。

休憩時間には、調製した酵素液を用いた生分解性フィルムの分解実験を行い、会場の参加者に、実際に酵素で生分解性フィルムが分解するようすを体験していただきました。

生分解性フィルムの分解実験(生分解性プラスチックと分解酵素の活用シンポジウム)(写真)

成果報告では、まず農環研の北本が主旨を説明した後、産総研の森田友岳上級主任研究員による「植物の上に棲(す)む様々な生分解性プラスチック分解酵素生産菌」、農環研の鈴木健主任研究員と産総研の福岡徳馬主任研究員による「生分解性プラスチック分解酵素の多様性と酵素によるフィルム分解特性」、農環研の渡部貴志特別研究員による「生分解性プラスチック分解酵素の大量生産を目指した研究の進捗状況」、農環研の小板橋基夫主任研究員による「ここまで進んだ酵素による生分解性マルチフィルムの分解促進」という構成で、研究の背景と現状についてご紹介しました。

参加者に記入していただいたアンケート結果を見ると、前半の3名の講師による講演を興味を持って聞かれた方が多くいらっしゃいました。また、後半の研究報告会については、各発表で多数の質問があっただけでなく、アンケートにも多数のコメントをいただきました。「確かに生分解マルチの分解速度については、作物によって要求度が違うことから酵素によって(使用後に分解する)速度を調節する発想に興味を持ちました」、「厚肉の廃棄プラスチックや燃やせないごみへの応用まで発展を期待します」、「植物の葉の分解を生分解性プラスチックの分解に応用していた点に興味を持ちました」「生分解性プラスチック分解酵素の精製で、プラスチックに酵素を結合させて簡単に酵素を分離していることには驚きました」など、興味深く聞いていただけたようすが伝わってきます。さらに、質疑応答の際に話題になった本技術のコストの考え方についても多数の貴重なご助言をいただきました。

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