国立研究開発法人農業環境技術研究所は、2016年2月24日(水曜日)の午後、つくば国際会議場(エポカルつくば)において、第6回農業環境インベントリー研究会 「農業環境インベントリー研究のこれまでとこれから」 を開催しました。
農業環境インベントリーセンターは、平成13年の独立行政法人化と同時に設立されて以来、農業生態系における環境資源や環境生物に係る試料や情報を蓄積・整理・発信するためのインベントリーの構築・高度化と、その利用技術の開発を推進してきました。これは、農業環境にまつわる諸問題を解決するためには、まず農業環境を構成する環境資源(土壌、水、大気)、環境生物(微生物、植物、昆虫、動物等)など、農業生態系中で相互に作用し合っている要素を把握することが重要であること、これらの要素に関する調査・観測・分析・モニタリング等のデータや手法、分類・特性・機能・動態等の知見、保全・管理等の技術に関する情報と試料は、長年にわたり多くの労力と資金を用いて蓄積されてきたものであるとともに、農業環境研究を推進する上で、また研究成果を社会に還元していく上でも、貴重な財産であることから、それらの試料や情報の蓄積と活用をめざしてきたものです。
今回の農業環境インベントリー研究会では、平成28年4月の国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、国立研究開発法人農業生物資源研究所、独立行政法人種苗管理センターとの法人統合を前に、これまで15年間の農業環境インベントリー研究の到達点を確認するとともに、今後、農業環境と農業技術にかかる研究開発の相乗効果を発揮していくための農業環境インベントリー研究の進め方や課題について議論できればと思い、開催したものです。
日時: 2016年2月24日(水曜日) 13:00−17:15
場所: つくば国際会議場(エポカルつくば、中会議室)
後援: 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、 国立研究開発法人農業生物資源研究所
参加者: 合計 96名
(地方自治体21名、国・独立行政法人19名、大学等8名、民間企業等17名、農環研31名)
研究会のプログラムは以下の通りです。
主催者挨拶
宮下 C貴(農業環境技術研究所理事長)
来賓挨拶
作田 竜一(農林水産省大臣官房政策課環境政策室長)
趣旨説明
山本 勝利(農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター長)
基調講演:
「”変革"迫られる農業・農村と環境情報研究」
渡邉 紹裕(京都大学地球環境学堂教授)
報告等
1.新しい日本土壌図の作成:土壌情報をめぐる国際潮流への挑戦
高田 裕介(農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター)
2.農業気候変動研究のための気象データベースの整備とその利用
石郷岡康史(農業環境技術研究所大気環境研究領域)
3.休憩 [土壌・昆虫・微生物標本、データベース等インベントリー展示]
4.農業環境研究における昆虫インベントリーの整備と今後の方向性
吉武 啓(農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター)
5.微生物インベントリー研究の現状および展望
吉田 重信(農業環境技術研究所生物生態機能研究領域)
6.ビッグデータ時代のインベントリー利活用プラットフォーム
大澤 剛士(農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター)
総合討論
司会:白戸 康人(農業環境技術研究所農業環境インベントリーセンター)
コメンテーター:渡邊 朋也(農研機構中央農業総合研究センター情報利用研究領域長)
渡邉紹裕教授の基調講演
基調講演では、京都大学の渡邉先生より、近年の急激な農業・農村の変化、高齢化や大規模化を踏まえつつ、そのような状況のなかでの農業と環境の関係の捉え方、それを農業環境インベントリーとして整備していく視点等について紹介されました。続いて、農環研の中堅研究者5名より、土壌、大気、昆虫、微生物の各インベントリーの整備のこれまでの成果と今後の方向性、統合データベース開発の視点と到達点について報告しました。
総合討論では、まず、統合をひかえて、農研機構の立場から中央農研の渡邊領域長に「農業環境情報の統合と利用への期待」と題してコメントをいただき、農業の大規模化を見据えた農業スマートインフラの基盤としての農業環境インベントリーの重要性と期待、さらにはモニタリングや情報発信への要望などをご紹介いただきました。フロアーからは、情報基盤の着実な整備と、それを活用したサービスの提供の両方が必要であること、整備された情報について農業の変化や情報インフラの進化を越えて長期に渡り利用可能であることが重要であることなどの御指摘を受けました。
会場のようす
4月には法人統合を迎えますが、本研究会でいただいたご意見やご要望、ご議論等を参考にしながら、統合後の農業環境情報基盤の整備、活用をめざした研究開発を推進していきたいと思います。