1.米国、010404、モンサント社を巡る話題
3月20日、モンサント社は、遺伝子組み換えのジャガイモであるニューリーフポテトの種子の販売を停止することを明らかにした。ニューリーフポテトは、農薬成分であるBtトキシンを自ら発生し、害虫であるコロラドポテトビートルをよせつけない特性を持つ。
3月29日、カナダでは、GMO種子(ラウンドアップレディ・カノーラ)を自家採取し、作付けた農家に対し、この行為がモンサント社の特許を侵害しているとして賠償を命じる判決があった。
この農家はこれまでラウンドアップレディ・カノーラの種子を購入していないにも関らず、98年産のカノーラからラウンドアップレディが検出されたとしてモンサント社に訴えられていた。この農家は、毎年カノーラの種子を自家採取していたが、97年、隣接する畑ないし移動中のトラックから花粉が飛来し、自分の畑のカノーラと受粉、結果としてラウンドアップレディ・カノーラの種子が発生し98年産の作付用に混入したと主張していた。
2.米国、010315、スターリンクを巡る最近の動向
2月末、2001年の作付用のトウモロコシ種子の一部からCry9Cが検出されたことが明らかになった。Cry9Cはスターリンクに特有のBtトキシンであるが、2001年の作付け用種子は生産が中止されていることから、混入の原因はスターリンクのクロスポリネーション(他家受精)によるものと見られている。
3.米国、010215、Btコーンの作付制限の実施状況
Btコーンについては、生態系への影響の防止策の一環として、当該Btに対する抵抗力を持つ害虫が発生・拡大しないよう、「害虫の抵抗性の管理」(IRM/Insect Resistance Management)の実施・基準の作成などが環境保護庁(EPA)への登録の際に義務づけられている。
IRMは、Bt作物を作付ける際に、一定の範囲内に一定の面積の通常作物を植え付けることにより、Bt作物に発生した当該Btトキシンに対して抵抗力のある害虫が抵抗力のない害虫と交尾し、結果として抵抗力のある害虫の遺伝子が後の世代に引き継がれないことを目的としている。通常の作物が作付けられる地区は保護区(refuge)と呼ばれる。Btコーン作付け農家を対象とした2000年9月の調査では保護区の設定方法等の周知が十分でないことが明らかとなった。
4.米国、010125、スターリンクの賠償問題
スターリンクの作付農家が存在する主要17州の法務長官とアベンティス社が、農家および穀物エレベーターの損害賠償に関し合意した。アベンティス社はこれまでにもスターリンクの買取りに際し自発的措置を実施してきたが、今回各州の法務長官と文書をとり交わしたことにより、同社は法的に拘束されることとなった。 アベンティス社の賠償内容の一つに次の項目がある。
「スターリンクおよびその660フィート以内に作付けられたトウモロコシ(バッファーコーン)を、スターリンク管理強化(SES/Starlink Enhanced Stewardship)プログラムに基づき、許容される用途・場所に移動した農家に、ブッシェル当たり25セントを支払う」
5.米国、010122、EPA、Bt作物に関する規則を発表
新規則では、FFDCA法(連邦食品・医薬品・化粧品法)により、食品および飼料は農薬化学物質の残留が残留限度の範囲内であるか、残留限度の規制から免除されていない限り、販売できないこととされている。Bt作物などは、その発生する農薬成分にかんがみ、これまでもFIFRA法(連邦殺虫剤・殺菌剤・殺鼠剤法)およびFFDCA法により規制を受けていたが、今回の新規則は現行の規制・科学的評価のシステムをより明確化するものと位置付けられている。
新規則では、Btなど作物自らが発生する農薬について、従来用いられていた「作物農薬」(Plant-Pesticide)から「作物内保護物質」(PIPs/Plant-Incorporated Protectants)に名称を変更している。FIFRA法およびFFDCA法の例外となる作物内保護物質が今回定められているが、これらは94年にEPAが提案した内容の見直しに基づくものである。
今回の最終規則では、他花受精可能な作物から得られる作物内保護物質のうち、従来の品種交配によるもののみFIFRA法およびFFDCA法の規制からの除外対象となった。ただし、マイナスの影響が発見された場合には報告の義務が課されることとなる。また、ヌクレイン酸のFFDCA法による残留限度の規制からの免除も盛り込まれている。
6.米国、001226、米国医学協会はGMO支持を再確認
米国医学協会は、「遺伝子組換え作物・食品(“Genetically Modified Crops and Foods.”)」と題する報告書を発表した。
報告書では、GMOについての基本的認識として、遺伝子組換えでない通常の作物と実質的に同等であるとし、アレルギーを引き起こす可能性は従来の品種交配によるものと同等か、より低いとしている。また、GMOから他のバクテリアや人間の内臓中の細菌、人間の細胞に遺伝子が転移する可能性は一般的に無視しうると認識されているが、完全に考慮の外においてはならないとしている。環境面では、遺伝子組換えにより作物自体が発生する農薬成分であるBtトキシンに対する抵抗性の拡大は確認されておらず、標的でない生物への影響も畑では観測されていないとしながら、懸念は残っているとしている。
7.米国、001221、米・EUバイオテクノロジー専門家会議の報告書発表
12月18日、米国・EUバイオテクノロジー専門家会議は、遺伝子組換え作物の規制のあり方や食料安全保障に関する報告書を米国・EUサミットに提出した。報告書には、規制の強化を求める提言など15の提言と、開発途上国のため知的所有権の制限などが盛り込まれている。
8.米国、001219、ゴールデンライスを巡る議論
ゴールデンライスとは、スイセンの遺伝子を組み込むことによりベータカロチンを産出するように遺伝子を組換えたコメである。コメを主食とする開発途上国におけるビタミンA不足を解消するものとして期待されてきたが、その有用性を疑問視する声があがっていること、また特許をめぐる問題もあり、今後の研究の進展とともに、賛成・反対両派の議論の行方が注目される。
9.米国、001214、GMOと開発途上国
遺伝子組換え作物(GMO)の生産の8割は先進国で行われているが、開発途上国にとってのGMOのあり方についての議論が活発化しつつある。こうした状況を背景に、米国、ブラジル、中国、インド、メキシコおよび第3世界の各科学アカデミーおよびロンドン王立ソサエティは、2000年7月共同で「遺伝子組換え作物と世界農業」と題する報告書をとりまとめた。
これらの科学アカデミーは、各国政府の政策立案に影響力をもっており、米国においてもこの報告書を引き合いにGMOの開発途上国での重要性を説く向きもある。
報告書の結論として、環境・天然資源を破壊することなく、拡大する世界人口の需要を充たすために、世界の農業を農薬などに頼らずに維持できるようにする緊急の必要性があり、特に、遺伝子組換え技術については、基幹作物の増産、生産の効率化、農業が環境に与える負荷の軽減、小規模農家による食料の確保に用いられるべきであるとしている。
具体的に、開発途上国で期待されるGMOとしては、
1)地域の病害に抵抗力のある作物
2)矮小化により収量の増大した作物
3)ウィルスその他のストレスに強い作物
4)塩分やアルカリ分などによる耕作不適地でも栽培可能な作物
5)開発途上国で不足しているビタミンAや鉄分を多く含む作物
6)除草剤の使用などにより不耕起栽培を可能にし、環境への負荷を軽減する作物
7)医薬品・ワクチンになる作物
などがあげられている。
10.米国、001214、世界の農業・食料生産におけるGMO
ISAAA(International Service for the Acquisition of Agri-Biotech Applications)のデータをもとに世界における遺伝子組換え作物(GMO)生産の現状を紹介している。
ISAAAは、開発途上国へのGMOの普及を目的とする組織で、米国、ヨーロッパ、アフリカなどにセンターを有する。ISAAAに関する情報は、http://www.isaaa.orgから入手可能である。
11.米国、001206、スターリンク(非食用トウモロコシ)続報
アベンティス社は、2000年産のスターリンクが全て使用されるまでの4年間に限って食品中に含まれることを認めるように環境保護庁(EPA)に申請を行っている。スターリンクがアレルギーを引き起こす可能性については、FIFRA科学諮問委員会(SAP, Scientific Advisory Panel)が「低いながらも存在する」と報告しており、これを受けてEPAのジョンソン次官補は「科学情報の評価を引き続き行い、国民の健康の保護と食品供給の安全性・純粋性に対する消費者の信頼を保障するため適切な規制措置を講じる」と述べたことから、暫定的な承認を与えることはないものと見られている。
11月21日、アベンティス社は、スターリンク以外の品種のトウモロコシからCry9Cが検出された旨明らかにした。Cry9Cは、スターリンクに特有のBtトキシンで、アレルギーを引き起こす可能性(アレルゲン性)があるとされ、食品としての使用は認められていない。
12.米国、001201、政府がとるべきGMO対策についての意見を募集
11月29日、グリックマン農務長官は、遺伝子組換え作物(GMO)のマーケティングのために米国農務省(USDA)が今後とるべき措置につき、一般からの意見を求める旨発表した。
以下の点について意見を求めている。
1)USDAがIPプログラム(分別流通のためのプログラム)の認証、審査、証明に関与すべきか
2)USDAが現在の品質の格付け(穀物、油糧種子、野菜・果実などについて実施されている)の一環としてGMO、非GMOの定義を確立すべきか
3)民間のGMOの検査機関のUSDAによる認証を、穀物・油糧種子の検査を行っているものだけではなく、その他のGMOの検査機関にも拡大すべきか
13.米国、001109、スターリンク混入問題のその後
11月1日、食品医薬品局(FDA)は、スターリンク(非食用の遺伝子組換えトウモロコシ)の混入に伴うリコールが300種ものトウモロコシ食品に及ぶことを明らかにした。
スターリンクの開発元であるアベンティス社は、短期間の摂取でアレルギーを引き起こす可能性はきわめて少ないと主張し、環境保護庁(EPA)に一定期間に限って食用としての認可を求めている。
EPAは、11月28日にFIFRA科学諮問委員会を開催し、12月1日までに結論を出す予定である。
米国では食品のリコールは比較的多く、ミッションフーズ社のリコールも、毎週発表される「FDA規制報告」(The FDA Enforcement Report: http://www.fda.gov/bbs/topics/ENFORCE/ENF00666.html (対応するURLが見つかりません。2014年10月))の中で明らかにされたものである。
今回のリコールが消費者の遺伝子組換え作物(GMO)の受け入れに与える影響についての調査では、回答者の54.4%は食品の安全性に疑問があるとして今回のリコールを心配している。中でも女性は60%が懸念を表明している。「心配していない」と回答したのは24.9%で、17%がリコールについて承知していなかった。
また、33.3%が「農家はGMOの作付を行うべきでない」と回答し、「作付を行ってもよい」は39.2%、「どちらともいえない」が19.7%となっている。この質問の回答は性別による差が大きく、男性の51.2%が「作付を行ってもよい」としたのに対し、女性では43.2%が「作付を行うべきではない」としている。
※SAPとは、連邦殺虫剤・殺菌剤・殺鼠剤法(FIFRA、Federal Insecticide,Fungicide, and Rodenticide Act)に基づく農薬の登録の取り消し、分類の変更、緊急措置としての登録の停止などの事項について、専門家としてEPAに助言を行う諮問委員会である。SAPに関する情報は、Webサイト(http://www.epa.gov/scipoly/sap/)から入手可能である。
14.米国、001010、GMO規制強化を求める訴えを棄却
米国食品医薬品局(FDA)の遺伝子組換え作物(GMO)に関する92年の政策表明に対し、環境団体や消費者団体などがこれを違法として訴えていた裁判で、10月2日、米国連邦裁判所は、この訴えを退ける判決を下した。
訴えの対象となっていた92年の政策表明とは、
1)GMOは、作物が作られたプロセスではなく、作物自体の安全性・毒性・アレルギーを引き起こす可能性に着目して評価され、GMOであることを理由とする義務的な安全性の審査は行わないこと
2)GMOであることを理由とする表示は必要ないが、GMOの構成が、従来のものと明らかに異なる場合は特別の表示を必要とすることなどを内容としている。
15.米国、001005、Btコーンに関する報告書
9月20日、米国環境保護庁(EPA)は、遺伝子組換えにより自ら殺虫成分(Bt)を発生するBt作物が人間の健康、環境に与える影響、利益などに関する報告書を発表した。最も注目されたオオカバマダラへの影響について、EPAはその影響はわずかであると結論づけている。
オオカバマダラへの影響を認めた研究としては、99年5月のコーネル大学、本年7月のアイオワ州立大学のものがあり、米国内外のメディアに大きくとりあげられた。EPAは、これらの研究のいずれについても、実際の畑における追加的な研究がなければ、Btコーンのリスクを評価する上で有用なものではないとしている。
16.米国、001002、非食用Btコーンを全量買入れ
9月29日、米国農務省(USDA)および環境保護庁(EPA)は、2000年産のスターリンク・トウモロコシ(Btコーン)の全量を農家から買入れ、飼料用および工業用として処理する旨発表した。
17.米国、000919、タコスから検出された未承認GMO
9月18日「遺伝子組換え食品警報」は、市販のタコスの皮から食品に用いることが認められていない遺伝子組換えトウモロコシが検出されたと発表した。指摘を受けた製品は第三者機関による検査後、混入が確認され、既にリコールが実施されている。「遺伝子組換え食品警報」は遺伝子組換え食品に反対する消費者団体と環境団体を母体にした活動である。
18.米国、000824、Btコーンの蝶への影響を再確認
アイオワ州立大学のオブリキ博士らは、Btコーンから一定の距離を置いてトウワタ(Milkweed)の鉢を設置し、2日ないし3日経過後、実験室にて、このトウワタにオオカバマダラの幼虫を寄生させ、生育状況を調べた(オオカバマダラの幼虫はトウワタにのみ寄生する)。この結果、最初の2日間で幼虫の5分の1が、さらにその後の3日間で37から70%が死亡した。
環境保護庁(EPA)は、9月にBt作物の生態系への影響などについての見解を明らかにした上で、規制の見直しについての検討を進めることにしており、今回の研究結果の与える影響が注目されている。
19.米国、000815、GMコメの特許を開放
8月4日、モンサント社は、「ゴールデンライス」やその他のビタミンAが強化されたコメの開発のため、遺伝子組換えに関する特許を無償で提供する旨明らかにした。
20.米国、000802、農業バイオテクノロジー諮問委員会
7月26日と27日、農業バイオテクノロジー諮問委員会(Advisory Committee on Agricultural Biotechnology - ACAB)が開催され、2002年度農務省予算、種子の不稔化技術、農務省の行うべき調査事項、および全米科学アカデミーへの調査依頼事項について議論が行われた。
この中で、種子の不稔化技術については、これまで推進派と反対派で激しい議論がなされてきており、99年10月には、途上国の農業研究の一大出資者であるロックフェラー財団の要請に応え、モンサント社が種子不稔化技術の商品化はしないことを明らかにしている。
反対派は、種子不稔化技術について、
1)開発途上国で種子を自家採取していた農家が毎年種子を購入せざるをえなくなり、少数の大企業により種子がコントロールされることになる。
2)遺伝子が他の植物に転移し、通常の作物までが再生産できなくなる。
3)外国の経済政策・市場に影響を与える道具として用いられる可能性がある。
などの懸念を表明している。
これに対し、賛成派は、
1)育種や研究に刺激を与えることになり、新たな種子の開発による生産性の向上を通じて、農家にもプラスになる。
2)遺伝子が他の作物に転移することによる生態系への影響の懸念を軽減することができる。
としており、両者の議論は真っ向から対立している。
21.米国、000630、遺伝子組換え作物の作付状況
6月30日、米国農務省(USDA)は、2000年の遺伝子組換え作物(GMO)の作付けについて、全作付面積に占める割合は、トウモロコシ25%、大豆54%、綿花61%とする調査結果を明らかにした。
主要州別の作付面積、GMOの作付割合は、http://www.usda.gov/nass/ (対応するURLが見つかりません。2014年10月)で見ることができる。
22.米国、000607、Btコーンと蝶に関する研究結果
23.米国、000516、政府によるGMO規制強化の方針
米国政府は5月3日、「食品とバイオテクノロジーに関するイニシアティブ」として、科学的根拠に基づいた規制強化と消費者への情報提供推進の方針を明らかにした。
この中で、具体的な施策として、次の7点を挙げている。
1)大統領の直属機関である環境政策局および科学技術政策局が、6カ月間にわたり遺伝子組み換え作物(GMO)に関する現行の規制について評価を行い、必要であれば改善を提言すること。
2)GMO販売の120日前の食品医薬品局(FDA)に対する届け出を義務づけ、企業から提供された情報と当該GMOがどのような形で規制されているかについて、FDAの結論を公開すること。
3)米国農務省(USDA)、環境保護庁(EPA)、FDAは、安全性に焦点を当てた研究を支援すること。
4)FDAは、GMOまたは非GMOの任意表示のガイドラインを作成すること。
5)USDAは、非GMOの検査方法、品質保証プログラムの開発を行うこと。
6)USDA、EPA、FDAおよび国務省は、規制についての内外の理解を深めるための教育活動を行うこと。
7)USDAは、農家に対し、信頼できる市場情報、最善の営農方法についての情報提供を行うこと。
24.米国、000418、科学委員会のGMO支持報告書
下院科学委員会基礎研究小委員会は、遺伝子組換え作物(GMO)について、99年8月および10月に行った有識者からのヒアリングを踏まえ、“Seeds Of Opportunity”と題する報告書をとりまとめた。
同報告書は、GMOと通常の作物とでは大きな差異はないとした上で、アレルギーを引き起こす可能性、毒性などの点に関しても安全性を再確認するとともに、環境への影響も重大でないとするもので、バイオテクノロジー推進の立場からとりまとめられたといえる。
報告書の全文については、(http://www.house.gov/science/smithreport041300.pdf (対応するURLが見つかりません。2014年10月))からダウンロード可能である。
25.米国、000406、科学アカデミーによるGMO報告書
米国科学アカデミーの全国研究会議(National Research Council)は、遺伝子組換え作物(GMO)のうちBt作物など害虫・病害に抵抗力のある作物についての報告書(“Genetically Modified Pest Protected-Plants: Science and Regulation”)を発表した。
全国研究会議は、米国科学アカデミー、米国工学アカデミーの実動部門で、政府や議会に対するアドバイザー的な役割を果たす民間・非営利の機関である。
報告書では、GMOの食品としての安全性に問題があるとする証拠はなく、かつGMOと従来の作物交配との間に、健康・環境面での危険性について格別な差違があるわけではないとしつつ、GMOが増加している実態を踏まえて、健康・環境面への影響を検査・確認するため、よりいっそうの研究が必要としている。
26.米国、000204、バイオセイフティ議定書の合意
カナダ・モントリオールで1月29日、遺伝子組換え生物の移動を規制する「バイオセイフティ議定書」について、マイアミグループと呼ばれる米国、カナダなどの遺伝子組換え作物の輸出国とEU、途上国などの間で激しいやり取りの末、合意が成立した。
輸出国側の主張が認められたのは、第一に輸入国に対する事前通知・許可が必要となる対象を、種子など環境への放出が意図されている遺伝子組換え生物に限定したことである。したがって、通常の穀物輸出は対象とされない。また、人間用の医薬品も対象外となっている。
第二は、遺伝子組換え作物(GMO)の分別につながる正確な種別の特定を不要としたことである。EUは遺伝子組換え生物を含みうる穀物などの輸出について正確な種別の特定を求めたが、輸出国側は分別に大きなコストを要するとして反対し、結局は遺伝子組換え生物を「含んでいるおそれがある
(may contain)」と表示することで足りるとされた。
一方、EUを初めとする国々の主張の最大のポイントであった「予防原則(Precautionary Principle)」は認められ、輸入国側は、深刻な被害を与えることが科学的に証明しきれなくても、公衆衛生や環境を害する懸念に基づいて、遺伝子組換え生物の輸入を制限・禁止できるとされた。また、インターネットによるバイオセイフティ・クリアリングハウスを設け、遺伝子組換え生物の規制と承認に関する情報を共有するとされた。
WTOとの関係については、「相互補完的」とされ、議定書は現在の国際合意に基づく権利と義務に影響を与えるものではないとされている。
米国は、「バイオセイフティ議定書」の基礎となる生物多様性条約を締結していないが、輸入国がこの議定書を締結した場合、輸出国として制限を受けることからオブザーバーとして参加し、カナダなどと連携して実質的に合意に大きな影響を与えてきた。
バイオテクノロジー企業側も、今回の合意による情報の共有や、バイオテクノロジーが規制されていないという批判に反論できる点を歓迎している。
他方、環境保護団体であるグリーンピースは、「環境と消費者を遺伝子工学の恐怖から守る歴史的第一歩」であり、「GMOから環境を守る将来のより強力な合意の基礎となるもの」と評価している。
議定書の発効には50カ国の批准が必要であり、少なくとも2年間は要するものと見られているが、実際の運用やWTOとの調整の中で、GMOの貿易に係る規制がどのように進展していくかが注目される。
27.米国、000120、EPAがBtコーンの作付けを規制
米国環境保護庁(EPA)は、2000年のBtコーンの作付けについて、全作付け面積の最低20%(綿花の作付地域では最低50%)はBtでないトウモロコシを作付けることを求めることを明らかにした。これらのトウモロコシについては、害虫の発生が一定レベルを超えない限り、農薬の散布は認められない。
Bt作物については、当該Btに対する抵抗力を持つ害虫が発生・拡大しないよう、Bt作物をEPAに登録する際にIRM(Insect Resistance Management、「害虫の抵抗性の管理」)の実施・基準の作成などが義務づけられている。IRMは、Bt作物を作付けする際、一定の範囲内に一定の広さで通常作物を植え付ける(「保護区」と呼ばれる)ことにより、Bt作物の影響で発生した抵抗力のある害虫が抵抗力のない害虫と交尾し、抵抗力のある害虫の遺伝子が後の世代に引き継がれるのを防ぐことを目的としている。 これまで、Btコーンについては農薬を撒かない場合は10〜30%、Bt以外の作物用に農薬を撒く場合は20〜40%の保護区の設定が求められてきた。
EPAはさらに、抵抗性を早期に発見するためのシステムとして圃場におけるモニタリングを拡大するとともに、Btの対象でない昆虫、特にオオカバマダラ(Monarch butterfly)を保護するための方法について関係者が意見交換するよう促している。
28.米国、000106、自然食品店のGMO不使用の方針
米国の大手自然食品小売チェーン2社が、自社ブランド製品には遺伝子組換え作物を用いない旨を明らかにした。
29.米国、991217、WTO閣僚会議に対する反応
世界的な議論の対象となっている遺伝子組み換え食品について、クリントン大統領が今回の会議における演説で、世界中の消費者は遺伝子組み換え食品に対する判断を「感情」ではなく「科学」に基づき行うべきであると主張した。また、「米国の最新科学を活用して作られた食品の安全性については、その検査のために確かな専門システムも用意されている。我々はその製品が遺伝子組み換え食品であることを隠さないし、実際にそれらの食品を口にしている。」と、遺伝子組み換え食品の問題について米国は引き続き公正、かつ科学的に対処していく姿勢を示している。
30.米国、991007、不稔化種子の開発中止
モンサント社は10月4日、種子を不稔化する技術の商品化はしないことを明らかにした。これは、発展途上国で不稔化した種子が拡大し、翌年播種するための種子を自家採取に頼っていた農業に大きな影響が出ることを懸念する声に応えたものであるが、関係者の間では賛否両論が出ている。
31.米国、990830、Bt作物に耐性のある害虫の研究
アリゾナ大学のリュー博士らは、綿花の害虫であるピンクボールワームについて、殺虫剤であるBt(Bacillus Thuringiensis)に耐性のある遺伝子を持つものが発生し、それが増える恐れがあるとする研究結果を、科学雑誌「ネイチャー」8月号に発表した。同研究では、実験室でBtに耐性のある虫と通常の虫との成熟期間を比べた結果、Btに耐性のある虫の成熟期間の方が長いことを発見した。これらの昆虫はふ化後3日以内に交尾し、オスは7日程度しか生存しない。このため、交尾は成熟期間が同一の耐性のある虫同士で行われる可能性が高く、耐性のある遺伝子が次の世代に引き継がれる恐れがあるとしている。
32.米国、990801、遺伝子組換え食品と作物の現状
遺伝子組換え(GM)食品と遺伝子組換え作物(GMO)の問題が、米国と欧州連合(EU)、日本の間でかなり協議されている。
33.米国、990719、遺伝子組み換え作物への今後の対応
7月13日、グリックマン農務長官は、今後の遺伝子組み換え作物(GMO)への対応について、以下のような5原則を明らかにした。
1)バイオテクノロジー産業と行政が一定の距離を保つこと:このため、農務省のGMOの承認プロセスを独立した組織により科学的観点から審査するとともに、長期にわたってGMOの評価を行い、情報を提供する地域センターを設ける。また。バイオテクノロジー産業には承認後の予期せぬ。または潜在的なマイナスの影響について、発見次第直ちに農務省に報告するよう求める。
2)消費者に受け入れてもらうための体制作り:消費者に対して、作れば売れるという態度をとってはならない。GMOのメリットと安全であるとする理由について、消費者に対し説明することは業界と政府だけの責任ではなく、マスコミも重要な役割を果たす。GMOについて、情報提供のための何らかの表示を行うことはありうる。
3)農家に対する公正さ:バイオテクノロジーが農家の選択を狭めるのではなく広げるものでなければならない。遺伝子資源の所有、知的所有権、公共の研究などの問題は、公益および農家のためになるのか、害になるのかを見極めたうえで調整されなければならない。
4)企業の社会的責任を重視:民間企業も利潤追求の観点だけではなく公益的な視点を持ち、農家、消費者、環境にも注意を払う必要がある。
5)自由で開かれた貿易:EUとの間では、自由貿易の原則、科学的論拠および消費者の観点に基づいて意見の分岐の解決に向け努力するが、解決が図られない場合は法的権利を行使する。
34.米国、990601、GMO食品に寛容な消費者
米国における消費者の遺伝子組換え食品に対する意識について、米国の調査団体がアンケート調査を実施した。同調査によれば、米国の消費者は遺伝子組換えを全面的に支持しているとはいえないが、バイオテクノロジーに対する抵抗感は減少しつつある。
35.米国、990528、GMO作物が昆虫に与える影響
コーネル大学のジョン・ロージー博士は、「ネイチャー」(99年5月号)にBtコーンの花粉がトウワタ(Milkweed)の葉についた場合、この花粉を食べたオオカバマダラの幼虫の半数が死ぬとの研究結果を発表した。オオカバマダラは北米に生息し華麗なオレンジ色と黒の羽を持つ蝶で、1,500キロも移動することで知られている。オオカバマダラの幼虫はトウワタにのみ寄生する。オオカバマダラの生息数は、近年減少しているが、その主要因は、冬の生息地であるメキシコにおける適地の減少と考えられていた。博士は実験室でBtコーンの花粉をトウワタに擦り付け、これを幼虫に与えた。この結果、4日間で44%が死亡し、残りについても小型化や、活動不良が見られたという。
36.米国、990405、ラウンドアップ耐性ナタネの問題
遺伝子組換え技術による除草剤ラウンドアップ耐性ナタネ種子の作付けが、今年、米国で初めて行われた。米国全体で約650,000エーカーが今年春播種される見通しである。この作付面積のほとんどはモンタナ州、ノース・ダコタ州、ミネソタ州だが、北西部3州、ワシントン州、オレゴン州、アイダホ州では約15,000エーカーの作付けが予想されている。ラウンドアップ耐性ナタネは1996年及び1998年にカナダで栽培が開始され、3百万エーカー以上作付けされた。
ラウンドアップ耐性ナタネ種子を購入する生産者は、種子代の他に1エーカー当り15ドルの使用料をモンサント社に支払わなければならない。この使用料には遺伝子組換え技術の使用料及びラウンドアップ・ウルトラの散布料(1エーカー当り16オンス)、さらに種子の補償も含まれている。ラウンドアップ耐性種子の播種前、生産者に対するモンサント社の要求事項や使用技術を内容に含めた講習会にも生産者は参加しなければならない。
37.米国、970701、GMOラベル表示要求に異議
欧州連合は遺伝子組換え農作物にラベル表示を要求する規則を承認した。EUの環境担当委員は、ラベルは「消費者にとって重要な情報」を提供するものであり、消費者に恐怖心を与えて遺伝子組換え農作物から遠ざけようという目的のものではないと発表した。米国の通商代表部は、この要求が貿易上の障害となるならば、何らかの行動を起こすと警告した。
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