L.補足資料
 
1.主要国における安全性確認の制度・規則
 
1)米国
米国の遺伝子組換え体の規制は、国家環境政策法(NEPA)に基いている。野外で利用される組換え体の規制にかかわっているのは、農務省(USDA)および環境保護庁(EPA)である。農務省は動植物検疫局(APHIS)において、植物病害虫の蔓延防止の観点から、植物病害虫法(FPPA)及び植物防疫法(PQA)の下で遺伝子組換え体の州間の移動、輸入野外試験を規制している。環境保護庁は植物中の農薬成分や微生物農薬の環境への安全性確保の観点から、連邦殺虫剤・殺菌剤・殺鼠剤法(FIFRA)の下で、微生物農薬と植物農薬を規制している。植物農薬とは植物が生産する農薬成分のことである。植物農薬を規制するための規則はまだ正式なものになっていないが、すでにEPAは遺伝子操作により農薬成分を含むようになった植物(たとえば、害虫抵抗性トウモロコシ等)の農薬成分に対して大規模野外試験の際の審査や登録を行っている。
 
2)EU
EU加盟各国におけるバイオテクノロジオーの環境安全性に関する規制の調和を目的として、「遺伝子改変生物の意図的環境放出に関する1990年4月23日の理事会指令」(90/220/EEC)を採択した。この指令によりEU加盟国は1991年10月23日までに指令への適合に必要な法、規則、管理規定を発効させることが求められた。この指令は遺伝子改変生物の環境リスク管理を目的としたものであり、野外試験及び上市(placing on the market)など、GMOの意図的環境放出に先だって、規定される規制機関による事前承認を得ることを要求している。EU加盟国は遺伝子組み換え農作物の規制は法的枠組みの中で行われ、また、域内流通には各国の承認に加え、EUレベルでの承認が必要である。この理事会指令については、その後、94年、97年に改定され、さらに今回、2001年2月16日に改正指令が成立した(本記事;EU、010303 GMOに関する改正指令)。
 
3)英 国
英国の遺伝子改変生物の規制は、環境保護法のPart IV、欧州共同体法、労働健康安全性法に基づき、「遺伝子改変生物(意図的放出)規制1992年」、「遺伝子改変生物(意図的放出)規制1995年」、「遺伝子改変生物(リスク評価)規則1996年」等で規制している。これらの規則は、ほぼEUの90/220/EECに従った内容である。遺伝子改変生物の意図的放出に対する安全性の確認は、環境・交通・地域省が環境放出諮問委員会(ACER)に諮問し、英国政府は諮問委員会の助言を踏まえて対応を決定する。食品の安全性は農業・漁業・食品省が所管する。
 
4)フランス
フランスの遺伝子改変生物の規制は、遺伝子組換え物質の使用及び環境への放出に関する法律「1992年7月13日の法第3章による植物、種子、種苗に関する申請についての1993年10月18日の行政命令」ほかの行政命令に基づき規制する。その所管は農業省、環境省、経済産業省、法務省、研究省(共管)である。農作物の自由栽培および流通にかかわる安全確認は遺伝子工学委員会が行い、農業省及び環境省に意見を提出する。環境省が本委員会の意見を受理後14日以内に農業省に反対意見を送付しない場合は同意があったと見なす。農業省は申請から80日以内にEC(欧州委員会)および許可申請者に対して意見又は決定を伝達する。
 
5)ドイツ
ドイツの遺伝子改変生物の規制は、連邦保健省が所管し、遺伝子工学法(1990年制定)、「研究目的又は商業目的の遺伝子操作における記録に関する規則」、「遺伝子操作設備内の遺伝子操作における安全等級と安全措置に関する規則」、「遺伝子工学法による申請書類及び届出書類及び許可及び届出手続きに関する規則」「生物安全のための勧告委員会則」等に基づいて行われている。
遺伝子改変生物の環境への放出ならびにそれからできた産品の市場流通に関しては、連邦農林生物資源庁、連邦環境庁の了解を得た後、全てロベルトコッホ研究所の許可が必要である。
 
6)カナダ
カナダにおける遺伝子組換え生物を含む製品の規制は保健省(Health Canada)、食品検査庁(Canadian Food Inspection Agency)及び環境省(Environment Canada)が関わっている。保健省は食品、薬品等を、食品検査庁は植物、動物、飼料、肥料、動物用生物製剤等を対して規制を行っている。環境省は微生物治療に用いる微生物等を規制している。食品検査は全て食品検査庁で行っている。
環境放出には種子法、種子規則等に基づき、許可又は届出が必要である。食品は、「新規食品の安全性評価のための指針」により、保健省において安全性の確認を行っている。
 
7)オーストラリア
オーストラリアにおける遺伝子操作生物(GMO)の環境安全性の評価は、「遺伝子操作生物の意図的放出に関する指針」に基づき、連邦保健・老人福祉省(暫定的遺伝子技術規制局)が、遺伝子操作諮問委員会(GMAC)の助言等を踏まえ安全性の確認を行っている。食品としての安全性については、オーストラリア・ニュージーランド食品庁が食品規格コードに基づき規制している。しかし、遺伝子改変技術の発展に伴い現行の規則では対応できないGMOがでてきたため、連邦政府は1997年から新たな規制体制導入の検討を開始し、2000年12月に遺伝子技術法(GT法)が成立した。
 
 
2.EU環境相理事会(1999年6月)におけるGMOの新規承認に関する各国の宣言
1)「環境及び人の健康に何ら負の影響がないことが示されるまで、いかなるGMOの上市を承認しない」ことを宣言した国:オーストリア、ベルギー、フィンランド、ドイツ、オランダ、スペイン
2)「GMO及びGMO由来製品に表示を行い、追跡調査ができるような規制が採択されるまで新たな承認の延期を申し立てる」ことを宣言した国:フランス、デンマーク、ギリシャ、イタリア、ルクセンブルグ
3)宣言に参加しなかった国:イギリス、アイルランド、ポルトガル
 
 
3.WTO協定上の主な規定との関係
1)遺伝子組換えに係る新たな技術の応用に当たっては、環境や健康等に与える影響についての評価が行われ、その結果を踏まえたGMOの生産・流通(輸入を含む)がなされることとなる。
2)輸入国は安全でないものについては、GATT(関税及び貿易に関する一般協定)第20条に基づき、差別待遇の手段とならないような方法又は国際貿易の偽装された制限となるような方法で適用されない限りにおいて、「人、動物又は植物の生命又は保護のために必要な措置」(同条b)を採ることができる。
3)この条項を具体的に適用するための規律がSPS協定(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)である。この協定の主要な内容は次のとおりとなっている。
(1)検疫措置が国際基準に適合する場合には、SPS協定及びGATTの規定に適合しているものと推定されるとともに、科学的に正当な理由がある場合を除き、検疫措置はこれに基づかせなければならない。(第3条・第4条)
(2)科学的に正当な理由がある場合には、関連する国際基準に基づく措置によって達成される水準よりも高い保護水準をもたらす措置を導入できる。(第3条)
(3)各国が自国が適切であると認める保護の水準について、国際貿易に対する差別又は偽装した制限をもたらすような恣意的又は不当な区別を設けることはできない。(第5条)
(4)科学的根拠が不十分な場合には、適当な期間内に再検討を行うことを前提として暫定的に措置を採用することができる。(第5条)
(5)国際基準と異なる規制を導入する場合には、事前にWTO事務局を通じて各国に通報しなければならない。(第7条・付属書B)
(6)検疫措置に関する管理、検査及び承認の手続を不当に遅延させてはならない。(第8条・付属書c)
 
 
4. バイオテクノロジーに関する国際的な議論の状況
1)バイオテクノロジーに関する国際的な議論においては、a.技術のもつ大きな可能性、b.科学に基づく安全性の確保、c.消費者の関心の3つの観点を考慮して対応しているところである。
2)バイオテクノロジーの議論は、研究・開発から生産・流通、販売までの各段階に応じて、関係する論点を横断的に検討することが必要である。
  バイオテクノロジーに関しては、OECD、コーデックス等多くの国際フォーラムで既に議論が行われている中で、WTOで議論すべき事項は何か、また、その際にどのような枠組みで検討することが適切かという点についても検討していくことが必要である。詳しくは(http://www.maff.go.jp/wto/iken/wto_genjo_ronten.html (該当するページが見つかりません。2015年5月)〉を参照。
 














 

バイオテクノロジーに関する国際フォーラム

a.OECD
 1999年6月のケルン・サミットの要請を受け、3つの作業部会で遺伝子組換え体や食品の安全性全般についての作業を実施する。その結果を2000年7月の沖縄サミットに報告した。

b.コーデックス
 コーデックスは国連農業食糧機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が合同で設置した国際機関であり、食品の安全性評価の一般的原則、表示に関する国際規格、予防措置のあり方等について議論している。
 
 
3)各国間の議論の状況
(1)予防措置のあり方
 
主張のポイント
 E U
科学的に危険性が明確でなくても安全性に関する懸念が存在する場合には、国家の主権によって、当然その食品の製造、流通、販売、貿易等を制限することができる。
 米 国
科学的に明確な根拠もなく制限を課すことは、貿易が恣意的にゆがめられるおそれもあり、また、遺伝子組換え技術の場合には、その技術のもつ大きな可能性の芽を摘んでしまうおそれがあるので、あくまで科学的根拠に基づいて制限を課すべき。
 日 本
環境や健康への安全性に関して、最新の科学的知見に基づき、危険性を評価することとしている。その結果、科学的な証拠が不十分だと判断されるものの、環境や健康への被害発生のおそれがあると考える合理的な理由がある場合には、適切な措置をとることができる。
 
 
5.その他の国際協定
1)コーデックス
1999年6月末〜7月に開催された第23回コーデックス委員会において、遺伝子組換え食品の安全性についての規格を作成すること、その作業のために作業部会を設置すること、また同作業部会を日本がホストすることが決められ、2000年3月と2001年3月に我が国において、第1、2回コーデックス委員会バイオテクノロジー応用食品特別部会が開催された。
 
(1)食品規格委員会(コーデックス委員会)の概要
消費者の健康の保護、食品の公正な貿易の確保を図るため、食品の品質、安全性等に関する規格及び基準を作成。
  加盟国:165ヶ国(1999年4月現在)
(2)一般原則部会
一般原則部会は、食品規格に関する全般的事項を取り扱い、1965年以来、規格策定における手続きや一般的な原則、ガイドラインの策定に取り組んでいる。現在は、コーデックスの各種基準等をリスク・アナリシスに基づくものとするため、「リスク・アナリシスのための作業原則」の検討などに取り組んでいる。健康や環境への安全性について、「予防」がどのように適用されるべきかが国際的論議となっているところから、食品安全への予防の適用のあり方が論議されているところである。
 
2)OECDにおける取組み
(1)OECDは1982年に組換えDNA技術の産業利用のための安全性評価についての検討を開始し、93年には、「実質的同等性」及び「ファミリアリティ」という安全性評価の基本的な考え方を示した。
(2)さらに、環境への安全性について、94年から専門家会合で、科学的な面での安全性評価の調和のための活動(例えば、作物ごとに交雑性や雑草性といった評価の基礎となる情報を各国が共有するためのデータの収集・整理など)が行われている。食品及び飼料としての安全性についても、98年に別に専門家会合を設け、同様な取組みが開始された。
(3)1999年6月のケルン・サミットでも、「バイオテクノロジーの規制的監督の調和に関する作業部会」及び「新食品・飼料の安全性に関するタスクフォース」の2つのOECDの専門家会合に対して、バイオテクノロジーと食品の安全性等についての研究を行うよう要請があり、2000年7月の沖縄サミットに報告書が提出された。
 
 
6.用語
(1)実質的同等性(Substantial Equivalence)
遺伝子組換え技術など新しい技術を用いて開発した食品は、導入遺伝子の作るタンパク質のアレルゲン性や毒性等をチェックして安全性を確認するとともに、栄養成分やアレルゲンの含有量等が既存の食品と同等であれば、その食品としての安全性は既存の食品と同程度である(実質的に同等である)とする考え方。
(2)ファミリアリティ(familiarity)
組換え体の環境に対する安全性評価を行う上で、元の作物や導入される遺伝子についての既往の科学的情報やこれまでの育種に関する情報等、作物に対する過去の経験に関する十分な情報(精通性:ファミリアリティ)に応じて、適切な安全確保を図るという考え方。
 
 以上の補足資料の作成にあたっては、下記の資料を参考にして作成した。
1.平成9年度農林水産省委託事業成果報告書(1998):三菱化学安全科学研究所
2.平成10年度農林水産省委託事業成果報告書(1999):三菱化学安全科学研究所
3.平成11年度農林水産省委託事業成果報告書(2000):三菱化学安全科学研究所
4.農林水産省農林水産技術会議事務局先端産業研究課資料(2000年7月)
5.農林水産省WTO農業交渉コーナー(2001)、〈http://www.maff.go.jp/wto/iken/wto_genjo_ronten.html (該当するページが見つかりません。2015年5月)
6.外務省(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/summit/ko_2000/documents/commu.html)
7.FAO本部Press Release 01/20 より、(http://www.fao.or.jp/topics/topics_content009.html (該当するページが見つかりません。2015年5月))

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