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情報:農業と環境 No.33 2003.1.1
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No.33
・新しい年を迎えて:「自他の共生」と「機能の向上」をめざす
・第19回気象環境研究会:
・第20回土・水研究会:
・第5回植生研究会:
・ダイオキシン類に関する国際ワークショップが開催された
・第4回環境研究機関連絡会が開催された
・平成14年度農業環境技術研究所依頼研究員懇談会が開催された
・平成14年度外国人受け入れ研究者懇談会が開催された
・本の紹介 100:自然の中の人間シリーズ「農業と人間編」
・第6次欧州共同体環境行動計画の決定
新しい年を迎えて:「自他の共生」と「機能の向上」をめざす
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新しい年が明けました。おめでとうございます。
稲作農民の遺伝子がそうさせるのか、四季の変化に敏感なのか、はたまた仏教の輪廻の教えがそうさせるのか解りませんが、われわれ日本人は新しい年が始まると、不思議と新たな気持ちになれるというありがたい特性を持ち備えています。はるかな上古から引き継がれたこの特性を大切にしたいものです。そのことが、「環境を守る」という人間の心にも通じると思うからです。
もちろん、新しい朝、新しい年などというものは存在しません。そこには「新しい」と思う人間の心があるだけです。
「環境を守る」と、申し上げました。では、現実の日々の中で「環境を守る」とは何でしょうか。それは自然と人間にかかわることであり、環境が人間を離れてそれ自体で「守る守らない」が問われているわけではありません。両者の関係は、人間が環境をどのように見るか、環境に対してどのような態度をとるか、そして環境を総体としてどのように価値づけるかによって決まります。
すなわち、「環境を守る」とは人間と自然の間に成立するもので、人間の見方や価値観が色濃く刻み込まれています。だから、人間の文化を離れて「環境を守る」ことはできません。となると、環境とは自然であると同時に文化でもあります。したがって「環境を守る」とは、これまで守りきれなかった「環境」を守るのですから、これまでのわれわれ自身を変えることにつながります。
それでは、われわれ自身を変えるとは何でしょうか。地球を含めてわれわれが住んでいる環境が悪化している現状のなかで、自然に対して倫理の意識をもつこともその一つでしょう。人が人に倫理観をもつと同じように、われわれが土や水や大気や生物にも生存権があることの意識を持たない限り、自然はわれわれに反逆するでしょう。
「環境を守る」ために、研究所はどのようにすればいいのでしょうか。そのために、これまで機会あるごとに、「分離の病」の克服、「国際・学際・地際」の推進、「俯瞰的視点」の維持が大切であることを強調してきました。
三つの「分離の病」があります。専門主義への没頭や専門用語の迷宮など生きていない言葉を使う「知と知の分離」、理論を構築する人と実践を担う人との分離やバーチャルと現実の分離に見られる「知と行の分離」、客観主義への徹底、知と現実との極端な乖離(かいり)に見られる「知と情の分離」があります。時間と空間を越えて「環境を守る」ためには、これらの分離を可能な限り融合することが必要なのです。
国籍、人種、宗教、政治、経済体制、貧富、性別などを差別せず、お互いが相手の立場で思考し、意見の対立が感情の対立にならない交流が「国際」化と考えます。空間をこえて生じている環境問題を解決するためには、この国際化を無視することができません。広く分野や所属をこえて研究を共にする「学際」は、説明の必要がありません。現場のない環境研究はありえません。これが、「地際」の重要な点です。したがって、「地際・学際・国際」の融合こそが環境研究の決め手になるでしょう。
「俯瞰的視点」とは、人類が20世紀に獲得した最大の成果です。文明史上、人類が最高の高度から地球を眺め、人類と地球の来し方行く末を認識する視点です。20世紀の人類は月にその足跡をしるし、火星に生き物が生息しないことを確認し、人類のあり方を考える俯瞰的視点をえたのです。
これまで、このように「環境を守る」ためのモットーを掲げてきました。その成果は、幸いにも研究所の職員の協力の下に、環境研究三所連絡会(農・林・水)および環境研究推進連絡会(各省所管の10研究所)の設置、MOU(中国・韓国)の締結、県農業試験場などとの共同研究プロジェクトの成立、農業環境研究に関わる日中韓共同国際会議の開催(本年3月予定)などに現れてきました。
本年は、「環境を守る」ことを一層深化させるために、さらに「自他の共生」と「機能の向上」を強化することを提案します。
人類は自分たちの利益を増すことに努力し、今日の繁栄を手に入れました。「自」の歴史でした。その結果、環境問題が起こり、「自」を主体におけば行き詰まりが見えることを理解しました。歴史は、「自から他へ」に視線を向けなければならないことを教えてくれたのです。われわれは、遅まきながら環境を視野に入れた科学が必要であることに気づきました。自他の共生を図らなければ、地球の、ひいては人類の将来がないことを学びました。この原理は、われわれの生活している組織においてもしかりでしょう。
自然界では「自」と「他」が併存し、両者の共存で全体が成り立っています。併存する「自・他」を含む全体が機能することは「自他の共生」といえます。これによって、自然界はうまく運行しています。
この自然界の「自他の共生」を、われわれが生活している組織にうまく適用できないでしょうか。人間の社会ですから、自他の均衡は難しく、そこには自他の衝突が待ちかまえています。しかし、われわれは、自由と規制を平衡させて真の「活力」を求め、平等と格差を平衡させて真の「公正」を求め、博愛と競合を平衡させて真の「節度」を追いたいと思います。
われわれは、新しい農業環境研究を目指して研究所の構造をさまざまな角度から改革してきました。さらに、この構造がうまく「機能」するためのシステムを構築してきました。農業環境技術研究所は、明確な目的のために存在する集団です。共同体ではなく機能体なのです。「機能の向上」をさらに追求しなければなりません。
もちろん、共同体と機能体がはっきり区別できるわけではありません。むしろすべての組織は、両者の性格をもちあわせているいます。しかし、多くの組織がある目的のために存在するのにもかかわらず、ほとんどの組織が共同体化していきます。いつのまにか、その存在自体が、そこの組織に属する人たちのためのものになってしまいます。これだけは阻止しなければいけません。
われわれは、クライアント(お客様)が誰であるかをいつも意識し、農業環境研究という「機能の向上」を目指さなければならないのです。そして農業環境技術研究所が、1893年に設立された農事試験場を母体とする研究所であることを考えれば、110年の歴史もまたわれわれを見下ろしていることを忘れてはならないのです。
このようなことを考えながら、農業環境の研究を進めていきたいと考えております。関係各位のご支援とご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。
第19回気象環境研究会
地球環境変化に伴う陸上生態系の炭素・窒素循環の変化
−生態系プロセスの実験・観測・モデリングの現状と展望−
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大気圏、土壌圏、水圏および生物圏で炭素と窒素がバランスよく循環することにより、人類の生存にとって好適な地球環境が維持されてきた。しかし、近年、人間活動による化石燃料の大量燃焼や土地利用変化などにより、炭素と窒素の循環に変調をきたし、大気中の二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)や亜酸化窒素(N2O)などの温室効果ガス濃度が増加し、地球の温暖化が顕在化してきた。一方、このような温暖化や大気CO2濃度上昇によって、陸上生態系の炭素・窒素代謝はフィードバックを受けて変化することが知られている。
そのため、地球環境変化に伴ってそれがどのように変化するのかを知ることは、将来の地球環境と生態系の変動を予測し、さらに食料生産を予測する上で、重要な課題の一つである。そこで現在、温暖化や大気CO2濃度増加が陸上生態系の炭素・窒素代謝に及ぼす影響を、野外環境における環境制御実験や観測によって、プロセスレベルで解明する研究が進められている。そして、そこで得られた実験・観測結果を用いて、生態系プロセスモデルの検証が行われつつある。一方、こうした観測点スケールのモデル改良だけでは、上記の課題に答えることができないため、流域・地域そして全球へ対象地域を広げるための研究も必要である。
本研究会では、生態系プロセスの実験・観測と、観測点から全球に及ぶモデリングについて、研究の最前線の状況を紹介し、広く情報を共有して、今後の研究課題と展望について論議する。
開催日時 |
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平成15年2月25日(火) 10時〜17時 |
開催場所 |
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農業環境技術研究所 大会議室 |
主 催 |
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農業環境技術研究所 |
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挨拶
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陽 捷行 農業環境技術研究所理事長 |
10:00−10:10 |
I |
生態系プロセスの実験と観測 |
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1.
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生態系操作実験(FACE・温暖化実験)の現状と研究成果
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10:10−10:40 |
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小林和彦・吉本真由美 農業環境技術研究所 気象研究グループ |
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2.
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大気CO2増加と水田からの温室効果気体放出
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10:40−11:10 |
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程 為国・八木一行 農業環境技術研究所 温室効果ガスチーム |
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3.
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中国FACE実験における生態系の微量ガス交換
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11:10−11:40 |
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Zheng Xunhua 中国科学院大気物理研究所 |
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4.
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有機物分解過程で放出される温室効果ガスの
安定同位体比シグナル |
11:40−12:10 |
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杉本敦子 京都大学生態学研究センター |
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II |
生態系プロセスのモデリング |
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1.
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日本の農耕地土壌からの温室効果ガス発生予測
−DNDCモデル適用の検討−
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13:10−14:00
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澤本卓治 農業環境技術研究所 温室効果ガスチーム |
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コメンテーター:小林和彦 農業環境技術研究所 |
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気象研究グループ |
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2.
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日本の農耕地土壌へのRoth-Cモデルの適用
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14:00−14:40 |
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白戸康人 農業環境技術研究所 食料生産予測チーム |
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コメンテーター:横沢正幸 農業環境技術研究所 |
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食料生産予測チーム |
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III |
観測点から、流域・地域、そして全球へ
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1.
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プロットから小流域スケールにおける森林生態系の物質循環:
物質循環の 変動と水文過程の変化 |
14:55−15:45
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大手信人 京都大学農学部地域環境科学科 |
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コメンテーター:新藤純子 農業環境技術研究所 |
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生態システム研究グループ |
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2.
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グローバルモデルによる陸域生態系炭素循環の
数値シミュレーション |
15:45−16:15 |
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伊藤昭彦 地球フロンティア研究システム |
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IV
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総合討論
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16:15−17:00 |
参集範囲
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:
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国公立・独立行政法人試験研究機関、大学、行政部局、関係団体等 |
連 絡 先
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:
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農業環境技術研究所 地球環境部 気象研究グループ |
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生態系影響ユニット 小林和彦 |
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Tel : 029-838-8204 Fax : 029-838-8211 |
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e-mail : clasman@niaes.affrc.go.jp |
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第20回土・水研究会
懸濁態負荷物質の農耕地から水域への流出
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ダイオキシン、重金属、リンなどの難溶性の環境負荷物質は、微細な粒子に吸着され懸濁態として、土壌―水系を移行・拡散する。これら懸濁態物質が環境負荷物質として重要であることが、最近の研究から明らかにされつつある。いったい農耕地からの懸濁態物質の発生、そして、それらの水域への移行は、どのようなメカニズムによるものであろうか? また、どのような環境要因が懸濁態物質による環境負荷に影響を及ぼしているだろうか?
本研究会では、土壌・水系をめぐる懸濁態負荷物質の動態についてこれまでに得られた知見を紹介するとともに、農耕地から発生する懸濁態負荷を削減するための技術的展望を探る。
主 催 |
: |
農業環境技術研究所 |
日 時 |
: |
平成15年2月26日(水) 10:00〜16:30 |
場 所 |
: |
農業環境技術研究所 大会議室 |
参集範囲 |
: |
国公立・独立行政法人試験研究機関、大学、行政部局ほか |
1. |
理事長挨拶 |
農業環境技術研究所 陽 捷行 |
10:00-10:10 |
2. |
これからの環境負荷物質研究:溶存態から懸濁態へ |
10:10-10:50 |
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農業環境技術研究所 斎藤 雅典・加藤 英孝 |
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3. |
懸濁態物質の移動に伴うダイオキシンの流出・流下 |
10:50-12:00 |
1) |
水田からの懸濁態負荷物質の流出特性 |
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農業環境技術研究所 板橋 直・竹内 誠 |
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2) |
懸濁粒子の土壌中の分散移動 |
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農業環境技術研究所 鈴木 克拓 |
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3) |
凝集促進剤によるダイオキシン流出防止 |
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農業環境技術研究所 牧野 知之 |
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(昼食) |
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4. |
農耕地からの土壌粒子の流出と環境負荷 |
13:00-13:40 |
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国際農林水産業研究センター沖縄支所 坂西 研二 |
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5. |
農耕地からの難溶性化学物質の表面流出 |
13:40-14:20 |
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農業環境技術研究所 谷山 一郎 |
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6. |
河川における懸濁態栄養塩・農薬の流出特性 |
14:20-15:00 |
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岐阜大学工学部 井上 隆信 |
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7. |
陸域から水域への懸濁態窒素・リン負荷の実態と土壌流出 |
15:15-15:55 |
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水産総合研究センター中央水産研究所 田中 勝久 |
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8. |
総合討議 |
15:55-16:30 |
問い合わせ先 |
:
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農業環境技術研究所 化学環境部
栄養塩類研究グループ長 斎藤雅典 |
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〒305-8604 茨城県つくば市観音台3-1-3 |
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TEL/FAX : 029-838-8322 |
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e-mail : msaito@affrc.go.jp |
第5回植生研究会
農業生態系における生物生息地の特性とそのネットワーク機能
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新たな生物多様性国家戦略が、2002年3月の地球環境保全に関する関係閣僚会議において決定された。この新戦略では、開発行為等による生物生息地の減少のみならず、里地・里山における人為的かく乱の縮小・撤退による生物の消失が大きく取り上げられた。里地・里山の生態系は、二次林と田畑、水路、ため池等のモザイクから構成され、農林業に関わる人為的かく乱によって維持されてきた。しかし、近年の営農体系の変化や過疎化に伴う人手不足等により、農林地の荒廃や耕作放棄が進み、生物多様性低下の危機を招いている。里地・里山の生物多様性を保全するためには、農林業に依存した生物生息地の特性を明らかにし、農林地の地目連鎖が有する生物回廊としてのネットワーク機能を発揮させることが重要となってくる。本研究会では、農林業と生物との関わりを取り扱ったこれまでの研究成果を紹介し、里地・里山における生物保全をねらいとした作付け等の営農体系、生息地ネットワークとしての農林地の適切な空間配置を論議する。さらに、総合討論では、それらの実現に必要とされる行政・市民・営農者の連携について提言する。
開催日時 |
: |
平成15年3月5日(水) 10:00〜17:00 |
開催場所 |
: |
農業環境技術研究所 大会議室 |
主 催 |
: |
農業環境技術研究所 |
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プログラム |
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1. |
理事長挨拶 |
農業環境技術研究所/陽 捷行 |
10:00 - 10:10 |
2.
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研究会のねらい−農林地の地目連鎖が有するネットワーク機能− |
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農業環境技術研究所/小川恭男 |
10:10 - 10:30 |
3. |
生き物の移動から見た農村環境の空間配置 |
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農業工学研究所/守山 弘 |
10:30 - 11:15 |
4.
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撹乱依存型の水辺生物の生態とその保全−カエル類とミズキンバイを例に− |
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日本大学生物資源科学部/大澤啓志 |
11:15 - 12:00 |
5. |
丸石河原固有植物カワラノギクにおける絶滅の渦と保全活動 |
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明治大学農学部/倉本 宣 |
13:00 - 13:45 |
6.
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GISを用いた広域的な生物多様性評価と保全計画―コモンデータベースの構築― |
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国土技術政策総合研究所/百瀬 浩 |
13:45 - 14:30 |
7. |
里地におけるランドスケープ構造とネットワーク機能の再生 |
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農業工学研究所/山本勝利 |
14:45 - 15:30 |
8. |
休耕地を活用した生物多様性の保全と管理システム |
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農業環境技術研究所/大黒俊哉 |
15:30 - 16:00 |
9. |
総合討論 |
16:00 - 17:00 |
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コメンテーター; 農林水産省行政部局(未定) |
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農業環境技術研究所/池田浩明 |
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参 集 範 囲 |
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国公立・独立行政法人機関、大学、行政部局、民間団体 |
事務局連絡先
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農業環境技術研究所 生物環境安全部
植生研究グループ長 小川恭男 |
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TEL & FAX : 029-838-8243 |
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E-mail : ogaway@affrc.go.jp |
ダイオキシン類に関する国際ワークショップが開催された
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「農林水産業におけるダイオキシン類の動態と生物影響」に関する国際ワークショップが、12月4・5・6日、つくば国際会議場において、農環研・技術会議事務局の主催、農研機構・森林総研・水研センターの共催で開催された。
このワークショップでは、ダイオキシン類を中心とした有機汚染物質に関する研究成果の総括、今後の研究の方向性の検討、国際共同研究の推進を目的として、イントロダクション:ダイオキシン類研究の経緯、セッションI:生物影響、セッションII:環境中での動態、セッションIII:環境修復技術、に関する米・加・韓の5名を含む内外21名による講演と、活発なディスカッションが行われた。
セッションIでは、北極域やアジア沿岸での野生生物のモニタリングによる有機汚染物質の地球的規模での拡散、わが国の陸棲および水棲生物の汚染状況、畜産物中の蓄積状況と分子生物学的な影響評価手法等に関する発表が行われた。
セッションIIでは、北米五大湖での汚染物質の消長、大気・土壌・水域・作物間の汚染物質の分布と移行、わが国および韓国におけるダイオキシン類摂取量等に関する発表が行われた。
セッションIIIでは、米国EPAによる環境修復プログラムの紹介、微生物・植物によるバイオリメディエーション・ファイトリメディエーション技術、化学的手法による分解技術の現状等に関する発表が行われた。
総合討論では、今後の研究ターゲットをダイオキシン類以外のPOPs(残留性有機汚染物質)に拡張すること、汚染物質の環境中での移行様式の解明による拡散防止に向けた研究への発展、グローバルな汚染拡散に対応するための国際的な研究ネットワークの構築等の必要性が共通認識され、3日間のワークショップを閉幕した。
このワークショップの参加者は、演者・座長を含め201名であった。会期を通して参加者の間で熱心な意見交換が行われた。ここで特筆すべきことは、環境化学・森林・水産・動物衛生・保健衛生等研究分野の国公立・独法研究機関、大学、および分析や環境修復関連の民間企業等、産学官の幅広い研究・技術分野の方々が結集し、様々な角度からの研究紹介や意見交換が行われたことである。ダイオキシン研究への関心の高さと、様々な分野間の研究交流の重要性が実感された。
農林水産分野においては、ダイオキシン類に関するこれまでの研究蓄積は乏しく、プロジェクト研究「農林水産業における内分泌かく乱物質の動態解明と作用機構に関する総合研究」によって知見が集積されつつある。このような状況において、今回のワークショップ開催により、ダイオキシン研究の1つの拠点としての当研究所の存在を国内外にPRできた。環境研究は、多くの場合汚染が生じた後のケーススタディーから始まるが、さらに、科学的な知見の集積、モデル化による将来予測を通して、リスク管理につなげることが必要である。
このワークショップをダイオキシン類研究の新たなスタートとして位置づけ、農環研が有機汚染物質の国際的な研究の拠点となるよう、研究の一層の発展が望まれる。
当所は平成14年10月から1年間、国立環境研究所に引き続き環境研究機関連絡会事務局を務めることになった。第4回環境研究機関連絡会を開催したので、その概要を報告する。
日 時 |
: |
平成14年12月17日(火)14:00〜17:30 |
場 所 |
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(独)農業環境技術研究所 来賓室 |
出席者 |
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(独)防災科学技術研究所 早山理事、三隅研究企画チームリーダー |
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(独)水産総合研究センター 畑中理事長、山崎研究開発官、 |
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川崎研究開発官 |
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(独)森林総合研究所 廣居理事長、志水研究企画科長 |
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(独)産業技術総合研究所 大屋研究コーディネータ、福嶋企画主幹 |
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国土交通省 国土技術政策総合研究所 奥野所長、吉川環境研究部長 |
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(独)港湾空港技術研究所 小和田理事長、黒川企画課長 |
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(独)土木研究所 坂本理事長、佐合水循環研究グループ長、中村研究員 |
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(独)国立環境研究所 合志理事長、西岡理事、高木主任研究企画官 |
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(独)農業環境技術研究所 陽理事長、三田村理事、清野企画調整部長、 |
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林地球環境部長、岡生物環境安全部長、今井化学環境部長、
上沢農業環境インベントリーセンター長、
石井環境化学分析センター長、 |
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今川研究企画科長、藤井主任研究官、駒田主任研究官 |
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(欠席)国土交通省気象研究所 |
議事内容
1.(独)農業環境技術研究所理事長 挨拶(要旨)
各専門研究所(専門人)が専門分野でよい成果を出されることはもちろん重要であるが、「環境研究」は関係と関係の学問であるから、各研究所の知識を総合的に調整をする場(知識人)が必要である。この環境研究機関連絡会に10機関が集まったことを活用すれば、そのための何かができるのではないか。今日はそのためのシステムを作ることをテーマとしたい。
2.今後の活動について
1)向こう1年間に3〜4回の連絡会を計画するとともに、構成機関から要請があったときには連絡会を開催すること、各機関で開催する国際会議等での協賛、後援などに協力すること、環境研究についての共同声明の発信について協力することを通して連携を深めたい旨の議論があった。
2)成果発表会の共同開催(平成15年7〜8月、つくば国際会議場)が計画された。全体で10テーマ程度を取り上げる。内容は必ずしも過去1年間の成果にとらわれる必要はない。また、その内容を冊子(要旨集あるいは概要集)として残すことにより、連絡会の活動を記録として残す。
3.意見/情報交換
各研究所から第3回連絡会以降の研究内容、成果発表会あるいは評価に関する動向や情報の提供があった。 当所からは、平成15年3月25日〜27日につくば国際会議場で開催予定の日中韓国際ワークショップを紹介した。他機関から紹介された今後開催予定の講演会、シンポジウム等は以下の通りである。
産総研:平成15年1月24日(金)研究講演会「化学物質リスク評価とリスク削減」
(KKR東京)
国土技研:平成15年1月25日(土)国際シンポジウム「緑と文化・都市環境の創造」
(慶応大学三田キャンパス)
平成15年2月1日(土)「自然共生に関するワークショップ」
土木研:平成15年1月15日(水)「土木研究所講演会」(日本消防会館)
4.農業環境技術研究所の研究紹介
各研究部長、センター長が各組織、研究目標や最近の研究トピックスを紹介した。
5.研究施設見学
土壌モノリス館、昆虫標本館、環境化学物質分析センターを紹介した。
平成14年度農業環境技術研究所依頼研究員懇談会が開催された
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11月12日に、当研究所で研究を行っている依頼研究員と研究所役職員との懇談会が開かれ、依頼研究員の研究の状況や生活・研究環境について、また制度の位置付けなどについて意見交換を行った。懇談会のあと、懇親会を行った。平成14年度中の依頼研究員は12名であったが、当日は滞在中の7名が出席した。参加者は以下の通りである。
氏 名 |
所 属 |
滞在先グループ・研究室 |
宮ア 成生 |
栃木県農業試験場
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化学環境部栄養塩類研究グループ
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菅野 英二 |
福島県果樹試験場
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農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室 |
前川 和正
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兵庫県立農林水産
技術総合センター
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農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室
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福田 秀樹 |
秋田県病害虫防除所
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環境化学分析センター環境化学物質分析研究室 |
半澤 勝拓 |
福島県農業試験場
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化学環境部栄養塩類研究グループ
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後藤 新一 |
山形県病害虫防除所
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農業環境インベントリーセンター微生物分類研究室 |
松森 信
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熊本県農業研究センター
農産園芸研究所 |
化学環境部栄養塩類研究グループ
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研究所からは、理事長、理事、幹事、研究部長、センター長、グループ長、受入れ担当研究者など13名が出席した。
依頼研究員から、研究環境について「落ち着いて仕事ができた」、「高度な設備があり、県ではできなかった作業が可能」、「電子メール等を活用している」、「所内の設備、電子メール以外のネットワークサービスなどについて十分な情報をほしい」などの感想、要望があった。また、滞在中の研究内容について「専門技術を修得して今後の仕事に生かしたい」、「研究課題は難しく、短期間では消化できない」、「現在の部署と直接は関係しないが興味深い」などの感想、意見があった。
また、農環研役職員からは以下のような回答、要望があった:
1)所内の情報の提供等に関しては受入れ担当研究者にまず尋ねていただきたい。
2)受入先の研究者とだけでなく、ほかの分野やほかの法人の研究者とも会う機会を積極的に作り、 交流を広げていただきたい。
平成14年度外国人受け入れ研究者懇談会が開催された
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11月28日に、当研究所に滞在している外国人研究者と当所役職員の相互理解のための懇談会が開催された。外国人研究者の生活・研究の現状、要望などを聞き、友好の場を持った。ここでの意見は、今後の受け入れ態勢の参考にしたい。懇談会のあと、懇親会を行った。この懇談会には、滞在中の外国人研究者15名のうち8名が出席した。参加者は以下の通りである。
・日本学術振興会(JSPS)外国人特別研究員 |
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Xiangkui Yan |
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Shenqiang Wang(王 慎強) |
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Weiguo Cheng(程 為国) |
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Wuyunna |
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・環境省エコフロンティアフェロー |
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Edmond R. Ranatunge |
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Fulu Tao(陶 福録) |
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・科学技術振興事業団(JST)重点研究支援協力員 |
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Zahida Iqbal |
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Gwang-Hyun Han(韓 光紘) |
農業環境技術研究所からは、理事長、理事、部長、センター長、グループ長、受入れ担当研究者など14名が出席した。
外国人研究者からは、研究環境について「高度な分析用機器が常時使用できることに感心した」、「研究施設が共用で使われており効率が良い」などの意見があった。各自の現在の研究に関しては、充実した研究生活をしているという人が多く、すでにいくつかの論文を発表あるいは投稿しているという研究者もいた。
ほとんどの研究者が外国人用の宿舎に入居しているが、設備や管理がよく、問題点、不満等はとくに出なかった。一部の出席者から、制度の説明や提出書類、通知などが日本語のためよく理解できないので、英語版の概要説明をほしいという要望があった。
本の紹介 100:自然の中の人間シリーズ「農業と人間編」
全10巻、西尾敏彦編、農文協(2001)
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「本の紹介100」回目を記念して、また新春特集ということも含めて、「農業と人間編」全10巻を紹介する。
46億年前に地球が誕生して、大気圏、水圏、地殻圏、生物圏、土壌圏などが分化したあとに、今から約1万年前から人間圏とでも称されるべき新しい物質圏が誕生した。現在、この地球生命圏が、拡大した人間圏の圧力に耐えられるがどうかという全人類的な問題がある。
その原因に次のことがある。すなわち、地球環境問題はまさに人口増加の問題で、人口問題は食料の問題で、食料問題は農業の問題である。すなわち、環境問題は農業問題であると言うことである。別な表現をすれば、われわれの生きる糧を生産する農業活動が、地球環境に負荷をあたえているという問題である。
人間の英知でこのような問題を解決するためには、現在の生産力を維持しながら持続的な生産が可能な農法を確立することが必要である。その可能性の例として、農業の持つ多面的機能の活用や、環境保全型農業や持続型農業があげられる。
増加しつつある人口に食糧を供給し続けながら、崩壊しつつある地球環境を保全するという容赦のない難題が、いまわれわれ人類に課せられている。残念なことに、この問題は歳月を追うとともに現実味を帯びてきている。
人間圏の圧力に悲鳴をあげはじめている地球生命圏の姿が、オゾン層にも、大気にも、土壌にも現れている。そのことは、いま問題になっている温暖化、オゾン層の破壊、森林の伐採、砂漠化、土壌侵食などのさまざまな現象に見ることができる。
環境とは、自然と人間との関係にかかわるものであるから、環境が人間と離れてそれ自身で善し悪しが問われるわけではない。人間と環境の関係は、人間が環境をどのように見るか、環境に対してどのような態度をとるか、そして環境を総体としてどのように価値付け、概念化するかによって決まる。すなわち、環境とは人間と自然の間に成立するもので、人間の見方や価値観が色濃く刻み込まれているものである。
だから、人間の文化を離れた環境というものは存在しない。となると、環境とは文化そのものなのである。すなわち、環境を改善するということは、とりもなおさずわれわれ自身を改良することに他ならない。農業の環境においてもこれまたしかりである。
ここに紹介する「農業と人間編」全10巻は、人間が21世紀に自然とどうつきあっていけばよいかを問う。本書は、人と自然の接点に農林水産業をおき、その現場における知恵をさぐる科学絵本である。科学絵本とは言え、これは大人の絵本である。そのことは、本書をざっと眺めただけでも理解できる。さらに熟読すると、これまで「農業と人間」の関わりにいかに関心をよせていなかったかということを反省させられる。
編者と各巻の著者の思いを尊重して、「農業と人間編の刊行にあたって」と各巻の「あとがき」を目次とともに以下紹介する。
第1巻 農業は生きている〈三つの本質〉:西尾敏彦(農林水産技術情報協会)
“農業と人間編”の発刊にあたって
みなさんは「農業」というと、米や麦、牛乳や肉、果物や野菜などの食べものや、水田の稲刈り、牧場の乳しぼりなどを思い浮かべるのではないでしょうか。もちろん、農業は食料・衣類などを生産し、私たちの生活を豊かにしてくれました。とくに近年は、人口の急増に対応して食料増産にがんばってきました。でも農産物の生産だけが農業ではありません。
1万年前、人類が農業をはじめるずっと以前から、この地球には多様な生物が棲息していました。生物たちはつぎつぎに進化を重ねながら、食ったり食われたり、競い合ったり助け合ったり、お互いに依存しあいながら生きつづけてきました。生態系といわれるこのネットワークなしには、どんな生物も生きつづけてはこられなかったでしょう。
おくれて仲間入りした人類も、この生態系の一員であることには変わりはありません。農業はこの生態系の中で、農作物・家畜・発酵菌などを味方につけて、発展してきました。おかげで人類は今では、地球上のいたるところで農業を営み、豊かな生活を楽しむことができるようになりました。農業は人類を地球の生態系に結びつける太いパイプだったのです。
でもその農業も、最近は人口の急増を支えるため、環境破壊に加担しているのではないかと心配されています。農業が方向を誤ると、人類は地球の生物仲間を敵にまわし、自らをも破滅させる結果になりかねません。農業は人類だけでなく、地球上のすべての生物の存亡にかかわりをもつ「生命の営み」だからです。このシリーズでは、こうした広い視点で農業を考えなおしてみました。みなさん一人一人が農業について考える参考になれば幸せです。
第1章 農業は生きている
農業について考えてみよう
キーワード 1……自然とのハーモニー
生きもののハーモニー
農業の誕生 生きもののハーモニーへの仲間入り
さまざまな環境に根づいた農業の多様性
農作物ができるまで コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク
雑草や病害虫とのつきあい
キーワード 2……農業は自然界の物質循環の担い手
自然界の物質循環
持続可能な農業の営み
文明人は「砂漠」を残した
農業における物質循環
キーワード 3……農業は希薄資源のひろい屋さん
希薄資源のひろい集め サケについて
放牧も養蜂も希薄資源のひろい集め ミツバチとウシについて
作物栽培も希薄資源のひろい集め 太陽光と作物について
ひろい集めの手助け 農業技術の進歩
自然環境とのハーモニーを大切にする農業を
あとがき
農業が食べものや衣服の原料を生産する営(いとな)みであることはだれでも知っています。でもその前に、農業がもともと〈地球上のさまざまな環境(かんきょう)に必死にかじりついて生きてきた人類の知恵(ちえ)〉であることをご存じでしょうか。わたしたちは農業を手に入れたおかげで、1万年もの長きにわたり、この地球のさまざまな環境に適応(てきおう)し、生きながらえることができたのです。この巻はそうした「農業の本質(ほんしつ)」を知っていただけるように、こころがけたつもりです。
この地球上には、未知(みち)のものまで加えれば1400万種といわれる途方(とほう)もない数の生きものがひしめき合って生きています。これだけの生きものが共存(きょうそん)できたのは、彼(かれ)らがこの地球上の少ない資源(しげん)をたくみにひろい集め、おたがいに循(じゅん)環(かん)させて分かち合う、生きもののハーモニーを築(きず)き上げてきたからです。わたしたちの祖先(そせん)もまた、農作物や家畜(かちく)を味方につけてこのハーモニーに仲間入(なかまいり)りし、その和を大切にしながら、地球のすみずみにまで生活圏(せいかつけん)をひろげてきました。農業は人類を地球の自然環境にむすびつける仲介者(ちゅうかいしゃ)の役割(やくわり)を果(は)たしてきたといってよいでしょう。
作物や家畜だけでなく、農業も生きているのではないでしょうか。さまざまな自然環境に適応するため、農業というパートナーが多様な進化を遂(と)げてくれたからこそ、人類は今日の繁栄(はんえい)をかちとることができたのです。世界の国々でくりひろげられている独特(どくとく)な農業のひとつひとつが、農業が生きて進化してきたあかしといってよいでしょう。
でも最近は、その「農業と人間」との関係がおかしくなってきています。あわただしい現代(げんだい)の経済社会の中で、わたしたちは〈生きているパートナーとしての農業〉を忘(わす)れ、〈ただ経済価値(けいざいかち)を生み出すためだけの農業〉を求めすぎたように思います。もう一度、「農業とはなにか」を考え直すときがきているのではないでしょうか。本書がそのきっかけとなることができれば、これに過(す)ぎるよろこびはありません。
最後に、この絵本をつくるためにたいへん多くのみなさんのご協力をいただきました。貴重(きちょう)な写真や資料を提供(ていきょう)していただいたみなさん、有益(ゆうえき)なご指摘(してき)をいただいた農文協のみなさんに心から感謝(かんしゃ)申し上げます。
第2巻 農業が歩んできた道〈持続する農業〉:
陽 捷行(農業環境技術研究所)・西尾敏彦
第2章 農業が歩んできた道
地球生命圏の誕生
生命を育んできた土
肥沃な土ができるまで
豊かな土と人類とのめぐりあい 農業のはじまり
文明を生みだした沃土と農業
農業を支えた治水灌漑の発達
焼畑から旱地農法へ 黄河流域の農業
雑穀を育てたインド亜大陸の農業
トウモロコシで栄えたアメリカ大陸の農業
ギリシャ・ローマの二圃式農業
三圃式から輪栽式へ ヨーロッパの農業
アジアの風土に適した水田農業
日本の国土を守ってきた水田農業
生産力を飛躍的に高めた現代の農業
ガイアの中の循環型農業をめざして
あとがき
農業が歩んできた長い道のりがおわかりいただけたでしょうか。農業の歴史は、はるか1万年以上むかしにさかのぼることができるといわれています。でもその背景には、さらに4億年(おくねん)にもおよぶ土壌生成(どじょうせいせい)の歴史がひそんでいます。この気の遠くなるような時間をかけて自然が営々(えいえい)とつくり上げた土というおくりものがあったからこそ、人類は農業を発展させ、世界のいたるところに文明の華(はな)を開かせることができたのです。地球上の多様(たよう)な環境(かんきょう)で生き抜(ぬ)いていくために、わたしたちの祖先(そせん)は親から子へと農業を受けつぎ、さまざまなタイプの農業をつくり上げ、わたしたちの時代にまで発展させてきてくれたのです。農業は、人間が自然の中で失敗(しっぱい)をくり返しながら獲得(かくとく)した英知(えいち)の結晶(けっしょう)なのです。
ところで、わたしたちがたどってきた20世紀とはいったい何だったのでしょうか。おそらく、科学技術(かがくぎじゅつ)の大発展と、それに付随(ふずい)した成長の魔力(まりょく)にとりつかれた世紀といえるのではないでしょうか。ここでいう成長とは、あらゆる意味の物的(ぶってき)な拡大(かくだい)を意味します。農業の立場からいえば、人口増大(じんこうぞうだい)・食糧増産(しょくりょうぞうさん)・エネルギー使用の増大などでしょう。そのためにいま、地球環境問題(ちきゅうかんきょうもんだい)が起こっています。
では、21世紀とはどんな世紀でしょうか。21世紀は環境問題の世紀だとよくいわれます。批判(ひはん)をおそれずいえば、環境問題はじつは人口問題の結果なのです。増加しつつある人口を養(やしな)うことはすなわち食糧問題だし、食糧問題はとうぜん農業問題であり、農業を成り立たせている土の問題でもあります。わたしたちが有限(ゆうげん)である土を活(い)かしながら、どんな農業をつくりあげていくかが未来(みらい)に問われているのです。いうなれば、新しい21世紀はまさに土の農業の世紀といえるのではないでしょうか。
若い人びとが、かけがえのない土の恵(めぐ)みと、その土とともに歩んできた農業を大切にする心を持ち続けていただければ、新しい世紀はみなさんの未来を保障(ほしょう)してくれるでしょう。環境保全と農業を両立させなければ、わたしたちの未来は保障されないのです。
第3巻 農業は風土とともに〈伝統農業のしくみ〉:岡 三徳(国際農林水産業研究センター)
第3章 農業は風土とともに
1.農業は風土とともに
2.水にすべてが制約される乾燥地の農業とくらし
2−1.家畜とともに移動する遊牧のくらし
2−2.地下に水をもとめるオアシス農業とくらし
2−3.赤く乾いた西アフリカ草原の農業とくらし
2−4.牛とともに働くデカン高原の乾いた農業とくらし
2−5.冷涼で乾燥したシルクロードの農業とくらし
3.水の風景がある湿潤な地域の農業とくらし
3−1.イモを育てるパプアニューギニアの焼畑農業とくらし
3−2.湿った森に定着したアマゾンの農業とくらし
3−3.ジャガイモがささえたアンデス高地の農業とくらし
3−4.水がつくった東南アジアの熱帯モンスーン農業とくらし
3−4−1.乾季のきびしいタイの東北平原の農業とくらし
3−4−2.メコンデルタの低湿地に広がる水田農業とくらし
3−4−3.豊かな屋敷林に育まれたジャワの農業とくらし
3−5.中国の揚子江下流に広がる水田農業とくらし
3−6.コムギと牧畜を受けいれたヨーロッパの畑作農業とくらし
4.日本の風土に根づいた世界の農業とくらし
あとがき
この本では、世界のさまざまな地域(ちいき)の風土に根づいた“農業とくらし”のすべてを紹介(しょうかい)したのではありません。ここで紹介した世界のいくつかの農業をつうじて、農業が地域の風土に根ざし、くらしと結びついて改良され、発展(はってん)してきたことを、読者のみなさんにお伝えしたかったのです。
世界各地に生み出された農業とくらしの形は、長い歴史の中で、人類がよりよい生活を求めてつくりだしてきた“生きた文化”なのです。その意味で、わたしたちは、有用な作物、家畜(かちく)、昆虫(こんちゅう)、微生物(びせいぶつ)とともに、その生産と利用に蓄積(ちくせき)された知恵(ちえ)と歴史をよく理解(りかい)する必要があります。そして、各地の風土に根づいた農業の形と文化の豊(ゆた)かさを知り、どの農業に対しても平等の価値(かち)と認識(にんしき)をもつことが大切です。自然の環境(かんきょう)と共存(きょうそん)する農業、環境を破壊(はかい)する農業とがありますが、農業はつねにわたしたちの食料を生産し、生命と生活をささえてきました。風土と調和して育(はぐく)まれた地域の農業とくらしを守ることが、地域、そして地球の環境を守ることにもつながることを理解することが重要になっています。
この絵本をみて、東アジアのモンスーン地帯の風土に根づいてきたわたしたち日本の農業が、世界のどの農業と共通したところがあり、なぜ、熱帯の乾(かわ)いた地域や湿(しめ)った地域の農業と違(ちが)っているかを理解していただけたかと思います。わたしたちは、日本の国土が南北に長く、国内にもさまざまな農業とくらしがあることを知っています。地域の風土に根づき、長い間に形づくられてきた豊かな農村の風景を、わたしたちの農業として理解し、大切に守る気持ちをもってほしいのです。
最後に、この絵本をつくるために、ご協力をいただいた多くの方々にお礼を申し上げねばなりません。わたしが勤務(きんむ)する国際農林水産業研究(こくさいのうりんすいさんぎょうけんきゅう)センターの研究部、情報資料課(じょうほうしりょうか)の仲間(なかま)、そして農林水産省の他の研究機関や大学の知人からは、多くの農業情報や写真素材(そざい)を提供(ていきょう)していただきました。ここに記して、心からお礼申し上げます。
第4巻 地形が育む農業〈景観の誕生〉:片山秀策(農水省農林水産技術会議)
第4章 地形が育む農業
農業と地形のかかわり 1さまざまな地形
農業と地形のかかわり 2水田をつくる
山の斜面の農業
耕して天にいたる段々畑
山の上の田んぼ
谷津田と里山
原生林を切り開いた農地
関東ロームの台地に広がる畑作農業
扇状地に開かれた水田農業
堤防に囲まれた輪中での農業
農地をつくり出す干拓
水のない砂丘での農業
泥田での稲作
泥炭地の農業
珊瑚石灰岩の島の農業
あとがき
日本列島は南北に連なった長い島じまで、亜寒帯(あかんたい)から亜熱帯までちがった気候の地域(ちいき)があります。その地域には、山があり川が流れ、湖や平野などのさまざまな地形があります。みなさんが毎日なにげなく見ている、風景の中にもいろいろな地形をみつけることができるはずです。
むかしの物語の中にも、地形と農業のつながりをみることができます。みなさんも「桃太郎(ももたろう)」というお話を知っていると思います。その中で、おじいさんが「山へ柴刈(しばか)りに」というところがあります。この山に柴刈りにいくということに地形との関係がかくされているのです。
子どものころのわたしは、絵本を見て柴というのは、囲炉裏(いろり)や竈(かまど)で燃やすまき
をとりにいったのだと思っていました。でもおとなになって、桃が採(と)れるころの木というのは湿(しめ)っているので、まき
にはならないことがわかりました。そこでおじいさんは柴をなにに使ったのかということを調べました。すると、湿田での農業に出会ったのです。むかしの水田は、水のいつもあるところにつくられたので、深い泥(どろ)の水田だったのです。それで、おじいさんは山から採ってきた柴を、ドロドロの水田に投げこんで、作業するときに足が泥の中に沈まないように足場に使い、その後、泥の中で柴は腐(くさ)って肥料(ひりょう)になったのです。ということは「桃太郎」は湿田で農業をしていた地域のお話だったのです。
この絵本では、日本列島のいろいろな地域で営(いとな)まれている農業が、その土地の地形と大きな関わりをもっていることを伝えたかったのです。地形を利用することや、地形に手を加えて利用しやすくすることは、それほど簡単(かんたん)なことではなく、人びとが知恵(ちえ)を出しあって、地域の自然環境(しぜんかんきょう)と組みあわせることで技術(ぎじゅつ)をつくり出してきたのです。
また、長い年月をかけて人びとが農業をしながら豊(ゆた)かで美しい農村風景をつくり上げてきただけでなく、その風景を守ってきていることもわすれないでほしいのです。
第5巻 生き物たちの楽園〈田畑の生物〉:守山 弘(農業環境技術研究所)
第5章 生きものたちの楽園
農村を歩いてみよう
農村は生きものの楽園
1.ため池の生きもの
2.ため池と田んぼの生きもの
3.小さな流れの生きもの
4.広い水路の生きもの
5.畑の生きもの
農業とともに生きてきた生きもの
1.生きものを育む農村環境
2.春の田んぼ(北方からきた生きもの)
3.雑木林の春植物(北方系の植物)
4.夏の田んぼ(南方からきた生きもの)
5.低地の田んぼ(干潟の生きもの)
農村の中の生きもの連鎖
1.水生生物の食物連鎖
2.陸上生物の食物連鎖
3.生きものがすめる田んぼづくり
これからの農業、生きものの里、都市との交流
あとがき
日本の農村にはたくさんの生きものがすんでいます。農村は人がつくった環境(かんきょう)なのにどうしてたくさんの生きものがくらしているのか、その理由をみなさんに伝えるため、わたしはこの絵本を書きました。
農村に生きものが豊富(ほうふ)な理由は第一は、農村の自然は、農家やそれを囲む屋敷林(やしきりん)、鎮守(ちんじゅ)の森、田や畑、田のわきを流れる水路、ため池、雑木林(ぞうきばやし)、アカマツの林など、さまざまな環境が組み合わさってできあがった自然であって、それぞれの環境は農業を行なう上で、たがいに関係しあっているということです。たとえば雑木林などは田んぼの水源(すいげん)を守るとどうじに、落葉を肥料(ひりょう)として供給(きょうきゅう)する場でもあります。このように農村の自然は人びとが農業を営(いとな)むなかでつくりあげてきた自然なのです。それぞれの環境には、その環境をすみかとする生きものが生活しています。人びとがつくりあげてきたさまざまな環境によって、農村の生きものは豊かになっているのです。
第二の理由は、農村にすむ生きものは、氷河(ひょうが)時代に大陸から日本にやってきた生きもの、氷河時代に南の方に分布(ぶんぷ)を広げた生きもの、氷河時代が終わって海が広がった時代にすみついた生きものなどさまざまな歴史をもつ生きものがうまくすみわけをし、種類を豊富にしているということです。さらにこれらの生きものの歴史は農業の歴史と深いかかわりをもっていて、農業の歴史もまた農村の生きものを豊富にしてきたということです。
これらの生きものはたがいに食べたり食べられたりすることで関係しあっています。この関係を食物連鎖(しょくもつれんさ)といいます。生きものの種類が少なくなってこの関係がくずれたりすると、大発生して農業などに被害(ひがい)をあたえる生きものがでることがあります。このことが農村の生きものの豊富さを守らなければならない理由のひとつです。
わたしがこの絵本でもっとも伝えたかったことは、いまの農村が失(うしな)いつつある生きものの豊富さをわたしたちはどのようにして回復(かいふく)し、維持(いじ)していったらよいか、その方法をみんなでさがしていこうということです。この点について、わたしはいくつかの方法を提案(ていあん)しましたが、このほかにもたくさん考えられます。生きものとの新しい共存(きょうそん)の道をつくるために、みんなでよりよい方法を考え、実践(じっせん)していこうではありませんか。
第6巻 生きものとつくるハーモニー 1〈作物〉:大澤勝次(北海道大学)
第6章 生きものとつくるハーモニー 1 作物
作物はどのように誕生したのか
栽培植物発祥の8つの地域
作物になって巨大になった
作物になって多様になった
植物が作物になって何が変わったか(イネの場合)
植物が作物になって何が変わったか(トウモロコシの場合)
植物が作物になって何が変わったか(コムギの場合)
植物が作物になって何が変わったか(ダイズの場合)
植物が作物になって何が変わったか(トマトの場合)
植物が作物になって何が変わったか(花の場合)
伝統的な品種のできかた
近代的品種の誕生とその成果
日本農業を変えてきた品種改良
作物・細胞の中にあるハーモニー
21世紀の品種開発と農業〜生きものとつくるハーモニー
あとがき
農業が始まったころの、わたしたちの祖先(そせん)の人びとの暮(く)らしを想像(そうぞう)しながら、「生きものとつくるハーモニー」という素敵(すてき)なテーマの本を執筆(しっぴつ)するのは楽しいことでした。人はだれでも、食べることを通して作物の恩恵(おんけい)に浴(よく)し、日々暮らしているのですが、なかなかそのことを自覚することは少ないようです。食糧(しょくりょう)が身近にあることは空気とおなじように、あたりまえと思われているからかもしれません。でも、この本を手にした君たちはちがいます。イネやコムギ、トウモロコシやトマトの例にみたように、野生の植物から長い時間をかけて改良(かいりょう)された、作物の本当の姿(すがた)に接したのですから。これまでなにげなく食べていたごはんやパンやたくさんの食べものたちが、いまではいとおしく、大切なものと感じていることでしょう。
わたしの小さいころ、休みといえばいつも、親戚(しんせき)の農家に行って草取りや麦踏(むぎふ)みを遊び半分に手伝い、野菜(やさい)をいっぱいもらって帰ったものです。そんなわたしが、農業に強い関心を抱(いだ)くことになったのは、小学5年生のときに読んだ、宮沢賢治(みやざわけんじ)の童話(どうわ)や詩(し)の透明感(とうめいかん)のある世界と、6年生の教科書で見た「少年よ、大志(たいし)を抱(いだ)け」と学生たちに呼(よ)びかけた、札幌農学校のウイリアム・クラーク博士の話でした。願わくば、この本を手にした君たちに、「農業」と「作物の改良」に関(かか)わる仕事の、わくわくする楽しさや凄(すご)さが少しでも伝えられたなら、著者としてこんなうれしいことはありません。
21世紀は始まったばかりです。20世紀の一部を担(にな)ってきたわたしたちの世代に代わって、これからの日本や地球の未来は君たちの世代が担(にな)うことになります。進歩や発展(はってん)に主たる価値を置いてきた20世紀の反省(はんせい)から、地球環境(ちきゅうかんきょう)の永続性(えいぞくせい)と循環(じゅんかん)に配慮(はいりょ)した「ハーモニー中心」の21世紀に価値観が変わりつつあるのは大変うれしいことです。いま、わたしは母校にもどって教壇(きょうだん)に立ち、農業への夢(ゆめ)と希望を持った、21世紀を担(にな)う学生たちの教育に情熱を傾(かたむ)けていますが、膨大(ぼうだい)な生きものの一員(いちいん)として、ほかの生きものの声に耳を澄(す)まし、謙虚(けんきょ)にその声を聞くことができる若者を、一人でも多く育てたいと願っています。
最後に、この絵本をつくるにあたりたくさんの人びとのご協力をいただきました。貴重(きちょう)な写真や資料を快(こころよ)くお貸(か)しいただいた皆様(みなさま)に心から感謝(かんしゃ)します。ありがとうございました。
第7巻 生きものとつくるハーモニー 2〈家畜〉:古川良平(草地試験場)
第7章 生きものとつくるハーモニー 2 家畜
地上は植物と動物がつくりだす豊かな循環の世界
人と動物との出会い 家畜化への道
家畜にしやすい動物たち どうして家畜でいられたか
風土から生まれ、好みで変えられてきた家畜たち
日本の風土とくらしが育てた家畜たち
日本人にとっての家畜、むかしから変わらぬ思い
草食動物の不思議 なぜ草が食べられるのだろう?
反すう動物の秘密 からだの中で微生物とつくる小さなハーモニー
ほ乳動物の乳腺のしくみ
酪農のはじまりと乳の加工
骨まで愛して 丸ごと利用の畜産物加工
いい家畜をもっとたくさん! 新しい家畜改良技術
効率的畜産の落とし物 家畜ふん尿と侵入雑草
循環型畜産をめざす 家畜の餌は自分の国でつくろう
人と家畜の新しい関係
あとがき
わたしが育った時代は、まだ、戦後の飢(う)えが尾(お)を引いており、新潟(にいがた)平野の田んぼでは人とウシが一体となって汗(あせ)を流しながら農作業を続けていました。戦後50年が過(す)ぎたいま、日本社会は空前(くうぜん)の「飽食(ほうしょく)の時代」を迎(むか)えています。しかし、カロリーベースでみた食料自給率(じきゅうりつ)は40パーセントを切るところまで低下し、先進諸国(しょこく)の中では最低のレベルとなっています。いってみれば、わたしたちは国内にある農地の2倍近い面積を海外に借地(しゃくち)して、農畜産物(のうちくさんぶつ)の供給(きょうきゅう)を受けていることになるわけで、飢えに苦しむ多くの国々から鋭(するど)く指弾(しだん)されかねない状況(じょうきょう)にあるのです。
さて、このように多量に流れこむ海外からの農畜産物の最後はどうなっているのでしょう? 最終的にはふん尿(にょう)の形で日本の国土に還元(かんげん)されることになるのですが、日本の農地の2倍の広さから受け入れた肥料分(ひりょうふん)は国内の農地だけでは当然支(ささ)えきれず、過剰(かじょう)なものは雨に流され、川を汚(よご)し、海を富栄養化(ふえいようか)して赤潮(あかしお)を引き起こすなど、自然破壊(しぜんはかい)に結びつく結果(けっか)となるのです。
しかし、わたしにとって残念(ざんねん)なことは、この食料自給率低下の裏側(うらがわ)に、家畜の餌(えさ)も加担(かたん)していることです。すなわち、それまで国土資源(しげん)の活用で成り立っていた畜産が効率化(こうりつか)を追い求めた結果、工業生産とおなじように規模拡大(きぼかくだい)へと進み、家畜を畜舎(ちくしゃ)に囲い、簡単(かんたん)に手に入る輸入飼料に依存(いぞん)する加工型畜産へと変貌(へんぼう)してきたのです。しかし、これは家畜たちに責任(せきにん)があるわけではありません。家畜たちはただわたしたちの都合(つごう)で、その時その時生き方を変えさせられてきただけなのです。
この本は人に寄(よ)り添(そ)って生きてきた心優(やさ)しい家畜や家禽(かきん)からみなさんへ宛(あ)てた心のメッセージです。わたしたちは外見の豊(ゆた)かさの中で国土資源を粗末(そまつ)にし、畜産物をむだにしていないでしょうか? 海外からの畜産物が豊かに出まわる中で、かつて、わたしたちの身近にいた家畜や家禽の姿(すがた)が目の前から消え、出会いの機会も失われつつあるのです。ぜひ思い出して下さい、畜産物は家畜や家禽の命の証(あかし)なのです。そして、食を通してみなさんの命を支えていることを。また、時には心さえも支えていることを。
第8巻 生きものと人間をつなぐ〈農具と知恵〉:木清継(中国農業試験場)
第8章 生きものと人間をつなぐ
アメリカの農業機械・日本の農業機械
「国々にて3里を隔てずしてちがうものなり」 いろいろな鍬
人類の知恵が生み出した世界各地の犂
耕耘機からトラクタ耕耘へ
水の恵みを分配する 水車から動力ポンプへ
太陽の恵みを増幅する 油障子から太陽エネルギー温室まで
日本人だから考えついた田植機
農家の汗水から生まれた雁爪、田打ち車、雑草防除器具
神頼み、誘蛾灯、農薬散布器具
農家の手となった鎌、草刈り機、バインダー
千歯からコンバインへ
一粒一粒をやさしく乾燥する
農村生活に密着したワラ加工器具
環境を守る家畜ふん尿処理施設、散布機械
大ざっぱな農業から地域独自の農業へ 作業ロボットと情報機器
あとがき
この絵本シリーズは「自然の中の人間」をテーマに、これまで多くの自然や生きものをあつかってきましたが、今回の話題は「農具」です。「農具」とりわけ「農業機械」といえば、自然とは反対側の世界のものと思われていたかもしれません。でもわたしは、農業に関わる道具や機械は、工業のそれらとちがって、自然や生きものの一部としてあつかっていいのではないかと考えています。この本ではそのことを見ていただくために努力したつもりです。
わたしは農家で生まれ、小さいころから農業に親しんできました。実り多い秋を迎(むか)えるために、土にも、作物にも、牛にも喜んでもらうように農具は使うものだという感覚が知らないうちに身についたと思います。農家は、土や作物や家畜とおなじように、農具を大切にあつかいます。一日の作業が終わると感謝(かんしゃ)をこめてワラなどできれいに洗(あら)い、元の場所にきちんともどすことを忘(わす)れません。このようなわが国の風土は大切に残したいものです。
わが国の農業は、欧米(おうべい)なみの食糧自給率(しょくりょうじきゅうりつ)を実現するよう強く求められています。でも、国土のせまい日本では、アメリカのように大規模(だいきぼ)で高能率(こうのうりつ)な農業を行なうことは不可能(ふかのう)で、安い農作物をつくり、食糧自給率を早急に高めることは大変困難(こんなん)な状況(じょうきょう)にあります。
環境(かんきょう)に配慮(はいりょ)しながら農産物一個(こ)一個をていねいに育て、それに安全で良質(りょうしつ)な成分を山盛(やまも)りつめこんで食卓(しょくたく)に届(とど)ける。このような農業を農家だけでなく、国民全体が力をあわせて自分たちの農業としてつくり上げていくことが、これから考えなければならない方向だと思います。こんな農業が大きく育っていくために、人や自然とともに歩む「かしこい農具」、「成長する農具」、「感じる農具」がもっともっと多く生まれることを夢(ゆめ)見ています。
最後に、この本をつくるために多くの方々から情報(じょうほう)や写真(しゃしん)や絵の素材(そざい)を提供(ていきょう)していただきました。ここに記して、心からお礼申し上げます。
第9巻 農業のおくりもの〈広がる利用〉:齋尾恭子(東京都立食品技術センター)
第9章 農業のおくりもの
農業が創るもの
世界にみる食の地域性
日本にみる食の地域性
水田のおくりもの
畑と里山のおくりもの
日本の食の特徴と農業
イネ・コメを活かしてきたさまざまな知恵
マメにみる素材を生かす世界の料理
豆腐にみる加工の技
微生物のハーモニーがつくるみそ
作物が健康を守る
マメにみる工業的な利用
環境保全に向けた利用
日本の食生活は今――豊かさの中のゆがみ
よみがえれ、ふるさと農業からのおくりもの
あとがき
人は有史前から自然の産物を利用し、より必要なものを、より効率的(こうりつてき)に、農業という手段(しゅだん)でつくり始めました。長い歴史の変遷(へんせん)にともない、農業から生産されるものの利用のかたちは、そのままあるいは簡単(かんたん)な加工から、しだいに高度なかたちをとるようになりました。そしてそれらは、人の住む風土やくらしに密接(みっせつ)に関わる文化であると思います。今回の絵本シリーズの多くが農産物をつくる側に立って書かれているのに対して、この本は利用する側から見ようとするものです。
むかし、農林水産技術会議事務局(のうりんすいさんぎじゅつかいぎじむきょく)研究開発官を務(つと)めていましたおりに、バイオルネッサンスというプロジェクトを立ち上げました。その中心となるコンセプトは、ある地域農業(ちいきのうぎょう)で生産されたものが、いかにその地域工業の手を経(へ)て、地域固有の製品(せいひん)となり消費される道筋(みちすじ)を創造(そうぞう)するかということでした。その中で農業生産物のもつ自然に順応(じゅんのう)した価値を見直し、工業生産物が消費拡大のために為(な)した努力を、農業生産者と工業者と消費者との共同の中でつくり上げることでした。Agro-Processing(Agro-Industry)Complexの創造とでもいいましょうか。しかし、これは単なる伝統的産物(でんとうてきさんぶつ)や利用加工法に回帰するということではなく、長い人の歴史が、人の知恵(ちえ)の積み重ねで革新(かくしん)を遂(と)げてきたことへの見直しなのです。
しかしながら、できた本を通覧(つうらん)しますと、少し欲張(よくば)りすぎて、その意図(いと)がじゅうぶんに読者の方に理解(りかい)していただけるようには思いません。せめても農産物が、人の歴史の中で、さまざまな土地で、さまざまに加工利用されること、そして、それは現在(げんざい)も進行形であることを理解いただければ幸せです。
最後に、この絵本の製作をご推薦(すいせん)いただき、また、ご指導(しどう)を賜(たまわ)りました西尾敏彦(にしおとしひこ)氏に厚(あつ)く感謝(かんしゃ)申し上げます。さらに、編集(へんしゅう)にご協力いただきました方々や情報(じょうほう)・写真(しゃしん)・資料をご提供(ていきょう)いただきました方々にも、心より御礼(おんれい)申し上げます。
第10巻 日本列島の自然のなかで〈環境との調和〉:陽 捷行(農業環境技術研究所)
第10章 日本列島の自然のなかで
日本列島 21世紀のテーマ
農村空間の成り立ち
水田のはたらき
畑で生かされてきた伝統農法
地形連鎖を活用した農林業
農業は土をつくり環境を保全する
田畑がもつ環境保全機能 その1「水」
田畑がもつ環境保全機能 その2「土」
田畑がもつ環境保全機能 その3「大気」
暮らしが景色をつくる
農業の近代化と不安定性 近代農法の弊害その1
農業が地球環境におよぼす悪影響 近代農法の弊害その2
農村の物質循環を追う 近代農法の弊害その3
農業生産を高め、環境を守る技術
地球意識と地域意識
あとがき
この本をよんでくださったみなさんは、わたしたちが生きていくために、〈環境(かんきょう)と調和した農業〉を営(いとな)むことがいかに大切か、わかっていただけたと思います。
現在(げんざい)、わたしたちが営んでいる農業と環境との間にはふたつの問題があります。ひとつは、農業の側が環境におよぼす影響(えいきょう)についてです。たとえば、家畜(かちく)がふえるとメタンガスの発生量がふえて地球が温暖化する、またチッソ肥料(ひりょう)を大量にまくと地下水が硝酸態(しょうさんたい)チッソによって汚染(おせん)される、といったように農業が営まれることによって環境が悪化する問題です。
ふたつめは、環境の側が農業にあたえる影響についてです。たとえば、地球の温暖化(おんだんか)がすすむと、南方にいた害虫が北方に移動(いどう)して農業生産力をさまたげるとか、酸性雨(さんせいう)によって農産物が汚染される、などといった問題がそれです。
このふたつの問題に直面している農業を目のあたりにしながら、わたしたちはただ手をこまねいてみていてよいのでしょうか。この際(さい)もう一度〈環境に調和した農業〉の大切さを思い起こし、農業のもつ環境保全機能(かんきょうほぜんきのう)を強めることが、わたしたちに課せられた課題です。この地球上で人類が生きていくためには、自然の生態(せいたい)システム(自然と生きものたちのハーモニー)が提供(ていきょう)するさまざまな環境保全機能をいかし、これと共生する道を見出さなければなりません。わたしたちは、「地球生命圏(ちきゅうせいめいけん)ガイア」と共生しながら農業を営まなければならないのです。
かってわたしたちの祖先(そせん)は、農業を営みながら、じつにみごとに自然の生態システムと共生してきたものです。「古きをたずねて新しきを知る」という言葉があります。21世紀のわたしたちは祖先の知恵をもう一度ふりかえり、そのなかから新しい時代に適応(てきおう)できるものを再発見(さいはっけん)しなければなりません。
地球上のすべての生きものも人類も、ひとつしかない「地球生命圏ガイア」という船に乗っています。都会にすむ人も、農業に従事(じゅうじ)している人も、船に乗り合わせていることには変わりはありません。60億を越(こ)える世界人口をかかえて、この船の喫水線(きっすいせん)はぎりぎりのところまで沈(しず)んでしまっています。ガイアの負担(ふたん)を軽くする時間は、もはや少ししか残されていません。いまこそ若(わか)いみなさん自身が〈環境に調和する農業〉について、真剣(しんけん)に考えるときではないでしょうか。
欧州議会と理事会は2002年7月22日に、第6次欧州共同体環境行動計画を決定した。
この計画は欧州連合の今後10年間の環境政策の基本方針を示したものであり、加盟候補国への支援と国際的な問題への方針を含んでいる。優先すべき課題として、(1)温室効果ガス排出削減目標の達成など気候変動への対策、(2)農地、森林、海洋を含む自然環境と生物多様性の保護、(3)農薬と有害な化学物質の削減や水質の改善などの環境と健康・生活の質への取り組み、および(4)持続可能な天然資源と廃棄物の利用、管理があげられており、それぞれに具体的な目的と優先行動とが示されている。
以下に、欧州官報に掲載された計画決定の文書:
を日本語に仮訳して示す。この中には原文の内容が適切に表現されていない部分もあると思われるので、原文で確認していただきたい。なお、参考となると思われる資料を訳注として加えた。
各条の見出しは以下のとおりである:
第1条:計画の適用範囲
第2条:原則と全体的方針
第3条:環境目的を達成するための戦略的取り組み
第4条:テーマ別の戦略
第5条:気候変動に取り組む行動のための目的と優先領域
第6条:自然と生物多様性に関する行動のための目的と優先領域
第7条:環境と健康、および生活の質に関する行動のための目的と優先領域
第8条:天然資源と廃棄物の持続可能な利用と管理に関する行動のための目的と優先領域
第9条:国際問題に関する行動のための目的と優先領域
第10条:環境政策の決定
第11条:結果のモニタリングと評価
第6次欧州共同体環境行動計画を定める
2002年7月22日の
欧州議会と理事会の決定 No 1600/2002/EC |
欧州共同体設立条約、とくにその175条(3)に鑑み、
欧州委員会の提案に留意し(1)、
経済社会評議会の見解に留意し(2)、
地域委員会の見解に留意し(3)、
共同体設立条約の251条(4)で定められた手順に従い、調停委員会が2002年5月1日に承認した共同条文に照らし、
(1) OJ C 154E、29.5.2001、218ページ (対応するURLが見つかりません。2010年5月)。
(2) OJ C 221、7.8.2001、80ページ (対応するURLが見つかりません。2010年5月)。
(3) OJ C 357、14.12.2001、44ページ (対応するURLが見つかりません。2010年5月)。
(4) 2001年5月31日の欧州議会の見解(OJ C 47E 、21.2.2002、113ページ)、2001年9月27日の理事会共同方針(OJ C 4、7.1.2002、52ページ) (対応するURLが見つかりません。2010年5月)、および2002年1月17日の欧州議会の決定(官報に未公表)。2002年5月30日の欧州議会の決定と2002年6月11日の理事会の決定。
欧州議会と欧州連合理事会は、以下の事項を考慮に入れて本決定を採択した:
(1)クリーンで、健全な環境は福祉と社会の繁栄にとって必須であるが、地球レベルで成長し続けることは環境に継続した圧力になる。
(2)2000年12月31日に終了した欧州共同体第5次環境行動計画「持続可能性に向けて」では、重要な改善が数多くなされた。
(3)欧州共同体がすでに設定した環境の目的と目標を達成するためには、継続した努力が要求され、この決定で定めた第6次環境行動計画(以下、「本計画」という)が必要である。
(4)深刻な環境問題が数多く残存し、また新たな環境問題が現れ、さらなる行動が求められている。
(5)人の健康と環境保護の取り組みを進展させる上で、防止と予防原則の実施にさらに重点を置く必要がある。
(6)天然資源の慎重な利用、経済的繁栄や均衡のとれた社会的発展を伴った地球生態系の保護は、持続可能な発展の要件である。
(7)本計画は、高い水準での環境と人の健康の保護、ならびに環境と生活の質の総合的改善をめざし、持続可能な開発戦略の環境的側面の優先事項を明示し、この戦略の下で行動を提案する際に考慮に入れなければならない。
(8)本計画は、環境圧力と経済成長とのデカップリング(decoupling)*1を達成することをめざすとともに、補完性の原則*2と矛盾することなく、欧州連合のさまざまな地域にかかわる多様な条件を尊重する。
*2: http://www.pref.gifu.jp/s21401/saguru/page13.htm (対応するURLが見つかりません。2010年5月)
http://plaza15.mbn.or.jp/~dssa/news/news_10.html#Anchor959423 (対応するURLが見つかりません。2010年5月)
http://unu.edu/hq/japanese/p&g-j/eu-background.html (最新のURLに修正しました。2010年5月) (対応するページが見つかりません。2012年1月)
(9) 本計画は、欧州共同体の対応として環境優先事項を設定し、気候変動、自然と生物多様性、環境と健康・生活の質、および天然資源と廃棄物にとくに重点をおく。
(10) これらの領域のために、重要な目的と確かな目標を示し、目標を達成するために多くの行動を明らかにする。これらの目的と目標は、実行水準、すなわちめざすべき成果を制定する。
(11) 本計画の目的、優先事項、および行動は、加盟候補国の持続可能な発展に寄与し、候補国の自然資産を保護することに務めなければならない。
(12) 法律は環境問題を対処するために重要であり、現行の法律を十分に適切に実施することを優先する。環境の目的を達成するための他の選択肢も検討しなければならない。
(13) 本計画は、さまざまな原因による環境への圧力を減らすために、条約6条に従い、欧州共同体のすべての政策と活動の中に環境問題を統合する手続きを促進しなければならない。
(14) 市場を動かす新しい方法を取り入れ、市民、企業および他の利害関係者が参加する戦略的統合アプローチによって、環境の状態と傾向に悪影響を及ぼしている生産と官・民の消費の両パターンに、変化をもたらす必要がある。このアプローチは、陸地と海洋の持続可能な利用と管理を促進しなければならない。
(15) 環境情報と法による公正へのアクセスおよび政策立案の際の住民参加についての規定は、本計画の成功にとって重要である。
(16) テーマ別戦略では、広範で多面的な接近を必要とする複雑な問題を取り扱うためのさまざまな選択肢と方策を検討し、適切な場合には欧州議会や理事会を入れて必要な行動を提案する。
(17) 人間活動が温室効果ガス濃度を増加させる原因であり、世界的な気温の上昇と気候変動をもたらしているという科学的コンセンサスがある。
(18) 社会にとって、また自然にとって、気候変動との係わり合いは深刻であり、軽減を必要とする。成長と繁栄の水準を低下させずに、温室効果ガスの排出を削減することが可能である。
(19) 軽減の成功にかかわらず、社会は気候変動の影響を受け入れ、備える必要がある。
(20) 健全で安定した自然生態系は地球上の生物を維持するために必須である。
(21) 人間活動は自然と生物多様性にかなりの圧力になる。とくに汚染、外来種の導入、遺伝子改変生物(genetically modified organism)の放出による潜在的リスク、および陸地と海洋の不当な利用法から生じる圧力を防止するための行動が必要である。
(22) 土壌は環境の圧力にさらされている有限な資源である。
(23) 環境基準の改善にもかかわらず、環境の悪化と特定の病気との関連性が高まっている。そのため、排出物と有害化学物質、農薬、および騒音などによって生じる潜在的リスクに取り組まなければならない。
(24) 化学物質の使用に伴う潜在的な負の影響については、さらに多くの情報が必要であり、情報を生み出す責任は、生産者、輸入業者と川下のユーザにある。
(25) 危険な化学物質は、人と環境へのリスクを削減する目的で、安全な化学物質、あるいは化学物質を使用しない安全な代替技術に取り替えられなければならない。
(26) 農薬は、人の健康と環境に対する負の影響を最小にするように持続可能な方法で使用されなければならない。
(27) 都市の人口の約70%は都市内に住宅があり、都市に優れた環境や生活の質を確保するために協調した努力が必要である。
(28) 資源への増大する要求を満たす地球の能力や、資源の使用から生じる排出物と廃棄物を吸収する地球の能力は限られており、現在の要求は、環境収容力(carrying capacity ):を超えていることがいくつかの事例で明らかになっている。
(29) 欧州共同体内の廃棄物量は、危険とされる重大な量にまで増加を続けており、資源の損失と汚染リスクの増大をまねいている。
(30) 経済のグローバリゼーションは 、環境行動が国際的レベルでますます必要となり、輸送政策など、他の国の持続可能な開発を可能にする貿易、開発、および外務にかかわる政策と結びついた欧州共同体の新しい対応の必要性を生んでいる。良い統治(good governance)は、このために寄与しなければならない。
(31) 貿易、国際的な投資の流れ, および輸出信用は、環境保護と持続可能な開発の遂行にさらに積極的に寄与しなければならない。
(32) 問題が複雑になっている環境政策の立案では、条約174条に従って、利用可能な最善の科学的・経済的アセスメント、および環境の状態と傾向に関する情報に基づくことが必要である。
(33) 政策決定者、利害関係者、および一般市民への情報は、適切、透明、最新で、理解しやすいものでなければならない。
(34) 環境目的の達成に向けて、進捗状況を吟味し、評価する必要がある。
(35) 環境状態のアセスメントを基にして、欧州環境庁が出す公式の情報を考慮して、進行の見直しと方向性の変更の必要性をアセスメントすることが本計画の中間に行わなければならない、
1. この決定は、環境に関する欧州共同体の行動計画(以下「本計画」と呼ぶ)を制定する。本計画は、欧州共同体の指導力を必要とする新しい問題を考慮して、環境の状態と拡大傾向の評価に基づく重要な環境の目的と優先事項に取り組む。本計画は、欧州共同体のすべての政策の中に環境関係を統合することを促進し、現在の欧州共同体と将来の拡大欧州共同体にわたって持続可能な開発の達成に寄与しなければならない。本計画は、欧州共同体がすでに設置した環境目的と環境目標を達成するために、さらに絶え間ない努力を必要とする。
2. 本計画は、達成すべき重要な環境の目的を定める。適切な場合には、目標と予定表を制定する。とくに明記しない限り、この目的と目標は計画終了時までに成し遂げなければならない。
3. 本計画は2002年7月22日に開始し、10年間、適用するものとする。目的達成のねらいをもつ種々の政策分野の適切な発議は、法律を含めた一連の方策と、第3条に概略を示した戦略的方法で構成されなければならない。これらの発議は、遅くとも、この決定が採択されてから4年の間に漸次、提案されなければならない。
4. 目的は、以下の領域において欧州共同体が対処すべき重要な環境の優先事項に対応している:
− 気候変動、
− 自然と生物多様性、
− 環境と衛生および生活の質、
− 天然資源と廃棄物。
1. 本計画は、計画期間中に欧州共同体の環境政策のための枠組みを制定し、補完性の原則と欧州共同体のさまざまな地域の多様性を考慮して、高い保護水準を保証するとともに、環境圧力と経済成長のデカップリングを達成することをめざしている。とくに汚染者負担の原則、予防原則と防止の行動、および汚染源の矯正の原則(principle of rectification)に基づかなければならない。
本計画は、欧州の持続可能な開発戦略における環境的側面の根拠を作り、とりわけ戦略の環境の優先事項を提示することによって、欧州共同体のすべての政策の中に環境関係を統合することに寄与するものとする。
2. 本計画は、下記のことをめざしている:
− 今後10年間およびそれ以降における重要な課題である気候変動に重点を置き、また、大気中の温室効果ガス濃度を危険な人為的干渉を防止するレベルで、安定させる長期目標に寄与する。そのため、本計画では、産業革命前の水準よりも地球の気温を2℃以内の上昇、CO2濃度を500ppm未満にすることを長期目標にする。長期的には、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)で認定されたように、温室効果ガスの排出量を1990年と比較して地球規模で70%削減する必要があると考えられる;
− 砂漠化ならびに遺伝資源の多様性をはじめとする生物多様性の消失を欧州連合内と地球規模で停止させることをめざして、自然システム、自然の生息地、野生動植物相を保護、保全、回復し、それらの機能を発達させる;
− 汚染水準が人の健康と環境に有害な影響を与えない環境を規定することによって、また持続可能な都市開発を推進することによって、住民への高い水準の生活の質と社会福祉に貢献する;
− 持続可能な生産ならびに消費パターンをもたらす資源の高い効率性および資源と廃棄物の管理によって、経済成長速度から資源利用と廃棄物の発生をデカップリングし、再生可能な資源と再生不能な資源の消費が環境収容力を上回わらないようにすることをめざす。
3. 本計画は、第1項で定めた原則と第3条で定めた戦略的な取り組みに照らして、利用可能な最善の適切な手段によって、達成すべき結果に重点を置いた環境目的を満たすことを保証しなければならない。欧州共同体の環境政策の立案では、地域(regional)と地方(local)の違い、ならびに生態学的脆弱地区を考慮して、下記のことに重点をおき、統合された方法で、また利用可能なすべての選択肢と手段を保証するように十分に検討されなければならない:
− 市民と地方公共機関の意識を高めるための欧州イニシアティブの開発;
− 利害関係者との幅広い対話、環境認識の高揚、および住民参加;
− 環境費用を内部化する必要性を考慮した便益と費用の分析;
− 研究と技術開発による利用可能な最善の科学的根拠の提示と科学的知識のさらなる向上;
− 環境の状態と傾向についてのデータと情報。
4. 本計画は、環境の目的、適切な場合には、関連する政策領域において考慮する目標と予定表を設定し、欧州共同体のすべての政策と行動の中に環境保護要件の全面的な統合を促進しなければならない。
さらに、環境のために提案、採用される方策は、持続可能な開発についての経済的・社会的面の目的と首尾一貫していなければならず、この逆も同様である。
5. 本計画は、アキ(アキ・コミュノテール)(acquis communautaire)*1の転移・実施を構築している加盟候補国(以下「候補国」と呼ぶ)の持続可能な開発の達成に寄与する政策と取り組みの採用を促進しなければならない。この拡大プロセスは、生物多様性財のような候補国の環境資産を維持・保護しなければならない、また持続可能な生産と消費、土地利用パターン、および環境的に健全な輸送構造を以下のことによって維持・強化しなければならない:
− インフラストラクチャー開発に関連するものを含む欧州共同体の計画の中への環境保護要件の統合;
− 候補国へのクリーン・テクノロジーの移転の促進;
− 環境資産の持続可能な開発と保全に関する候補国の国と地方の行政組織との幅広い対話と経験談の交流;
− 住民の意識と参加を向上させるための、候補国における市民社会、環境NGOおよび企業との協力;
− 候補国における環境アキの実施と遵守の支援と、経済部門の活動に環境問題を統合することへの十分な配慮を国際金融制度と民間部門に促すこと。
*1: http://www.deljpn.ec.europa.eu/union/showpage_jp_union.enlargement.php (対応するURLが見つかりません。2012年8月)
6. 本計画は次のことを奨励しなければならない:
− 地球環境の保護と持続可能な開発の主力パートナーとしての欧州連合の積極的、建設的な役割;
− 環境と持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシップの発展;
− 欧州共同体の対外的関係のすべての面への環境問題と環境目的の統合。
とくに以下の手段によって本計画で定めた方針と目的を、遂行するものとする:
1. 新たな欧州共同体法を開発し、必要な場合には現行法を改正する;
2. 法規違反訴訟を発議する委員会の権利を侵害することなく、環境に関する欧州共同体法の効果的な実施と施行を促進する。これには、次のことが必要である:
− 環境保護に関する欧州共同体規則の認識を高める方策の強化と、環境法の違反への取り組み;
− 加盟国による許可、検査、モニタリング、および施行の基準改善の促進;
− 加盟諸国にかかわる環境法の運用の計画的な見直し;
− 権限の枠組みの範囲内で欧州環境法実施・施行ネットワーク(IMPELネットワーク)などを利用した、実施についてのベストプラクティスに関する情報交換の改善;
3. 欧州共同体政策および各政策領域の活動の準備、定義および実施の中に環境保護要件を統合する努力がさらに必要である。環境の目的、目標、予定表と指標の検討など、それぞれの部門で努力がさらに必要である。これには、下記のことが必要である:
− 異なる政策領域の理事会によって作成される統合戦略が効力ある行動に移し、本計画の環境の方針と目的の実施に寄与すること;
− これらの採用の前に、経済・社会的分野の活動が本計画の目的、目標および時間枠に寄与し、整合性があるかどうかを検討すること;
− 欧州共同体組織の中に適切な常設の内部メカニズムを設け、情報の透明性と利用性を高める必要性を十分に考慮し、環境配慮が、関連する議決と立法上の提案など、委員会の政策の発議の中に、十分に反映されることを保証すること;
− 各部門のための共通方法の基準として作成された関連指標によって定期的にモニタリングを実施し、部門別統合プロセスを報告すること;
− 現行の環境クライテリアを侵害せずに、欧州共同体の資金調達計画の中に環境クライテリア*1をさらに統合すること;
− 環境影響評価と戦略的環境アセスメントを十分かつ効果的に使用し、実施する;
− 本計画の目的は、欧州共同体の金融手段の将来の財政的見通しの見直しの際に考慮に入れなければならない;
4.マーケットベースの経済的手段を含む混合手段の使用によって、環境への負と正の影響を市場価格に内部化するために、第2条で定めた原則の効果的な実施によって、持続可能な生産と消費のパターンを促進する。これには、とくに次のことが必要である:
− 環境にかなりの負の影響があり、持続可能な開発に矛盾する助成金の改革を促進すること。とりわけ、助成金を徐々に削除する目的で、環境にマイナスの助成金を示せるような基準リストを中間見直しまでに制定する;
− 包括的手段としての取引可能な環境許認可の環境効率*1を分析し、実行可能な場合には、それらの利用を促進、実施するために排出権取引の環境効率を分析すること;
− 国内または欧州共同体の適切なレベルで、環境に関連する税や奨励金のような財政措置の利用を促進、奨励すること;
− 規格化事業における環境保護要件の統合を促進すること;
*1: http://www.pref.chiba.jp/syozoku/e_kansei/jyunkan/pdf/chapter3-2-1-1-2.pdf (対応するURLが見つかりません。2010年5月)
5. 企業の環境パフォーマンス*1を改善して持続可能な生産パターンを実現するために、企業や企業の代表組織との協働と協力を改善し、必要な場合には社会的パートナー、消費者および消費者団体を参画させること。これには、次のことが必要である:
− 製品のライフサイクルを通して環境要件を考慮し、また環境に好ましいプロセスと製品の広範な運用を促進する統合プロダクト政策アプローチを、本計画の中で促進すること;
− 欧州共同体の環境管理監査制度(EMAS)*2(5)をより幅広く取り上げることを促進し、企業が厳格に、自主的に検証した環境パフォーマンスや持続可能な開発のパフォーマンスを公開することを促進するイニシアティブを進めること;
− 中小企業に対する特別援助によるコンプライアンス*3支援プログラムを制定すること;
− 会社の優良環境パフォーマンス表彰制度*4の導入を奨励すること;
− LIFEプログラム(6)の成果の普及強化などによって市場をグリーン化するための製品の技術革新を促すこと;
− 達成できなかった場合の手順を定めることを含めて、明確な環境目的を達成する自発的な約束や合意を促進すること;
(5) 欧州共同体の生態系管理監査制度(EMAS)への組織の自発的参加を許可する2001年3月19日の欧州議会と理事会の規則(EC)761/2001(OJ L 114、24.4.2001、1ページ) (対応するURLが見つかりません。2010年5月)。
(6) 環境のための融資制度(LIFE)に関する2000年7月17日の欧州議会と理事会の規則(EC) 1655/2000(OJ L 192、28.7.2000、1ページ) (対応するURLが見つかりません。2010年5月)。
http://www.jqa.or.jp/06manage/15_iso_news/20/20.html (対応するURLが見つかりません。2010年5月)
http://www.env.go.jp/policy/j-hiroba/MNG/mng05.html (対応するページが見つかりません。2015年5月)
*3: http://www.melma.com/mag/73/m00029273/a00000049.html (対応するURLが見つかりません。2010年5月)
6. 個々の消費者、企業、および公共機関は、購入者として、持続可能な消費形態を達成する目的で、環境影響の観点からプロセスと製品について十分な情報を提供されるようにすること。これには、次のことが必要である:
− 同じタイプの製品間の環境パフォーマンスを消費者が比較できるようにするためのエコラベルや他の方式の環境情報や表示への理解を促進すること;
− 信頼性が高い自己宣言型環境主張*1の利用を奨励し、誤解を招く主張を防止すること;
− グリーン公共調達政策*2を促進し、生産段階、調達手続き上の関心事項など、考慮すべき環境特性と環境ライフ・サイクルの考えられる統合を達成する一方で、欧州共同体の競争規則とベストプラクティスのガイドラインをもつ欧州域内市場を尊重し、また欧州共同体関連機関においてグリーン調達の見直しを開始すること;
*2: http://www.env.go.jp/policy/hozen/green/g-law/13kentokai/ref45.pdf (対応するURLが見つかりません。2010年5月)
7. 金融部門の環境統合を支援すること。これには次のことが必要である:
− 企業の年次財務報告の中に環境費用に関する資料の編入と、加盟国間の政策の最優良事例*1の交換についてのガイドラインに該当する金融部門の自発的イニシアティブを検討すること;
− とくに候補国の持続可能な開発を支援するための融資活動の中に環境目的と環境配慮の統合を強化することを欧州投資銀行に要求すること;
− 欧州復興開発銀行のような他の金融機関の活動の中に環境目的と環境配慮の統合を促進すること;
*1: http://www.meti.go.jp/downloadfiles/gseih02j.pdf (対応するURLが見つかりません。2013年12月) (政策評価の現状と課題第2章参照)
8. 欧州共同体の責任制度を創設するために、とりわけ次のことが必要である:
− 環境の責任に関する法律;
9. 消費者グループやNGOとの協働と協力を改善し、また欧州市民の環境問題へのより良い理解と参加を促進するために次のことが必要である:
− 欧州共同体と加盟国がオーフス条約(7)を早期批准することによって、情報、参加と司法へのアクセスを確保すること;
− 社会、経済、および衛生の動向に関連する環境の状態と傾向について市民に入手可能な情報の提供を支援すること;
− 環境の認識を総合的に啓発すること;
− 対話プロセスにおいて、よい環境統治のための一般的な規則と原則を開発すること;
(7) 1998年6月25日オーフスでの環境問題における情報アクセス、意思決定への公衆参加と司法へのアクセスに関する条約。
10. 環境問題を考慮した陸地と海洋の効率的で持続可能な利用と管理を奨励し、促進すること。このためには、補完性の原則を十分に尊重すると同時に、以下のことが必要である:
− 統合的コースタル・ゾーン管理計画*1にとくに重点をおき、特殊な地域の状況を考慮して、持続可能な土地利用計画における最優良事例を促進すること;
− 最優良事例を促進し、都市部、海、海岸線、山岳地域、湿地および他の脆弱自然地域などにおける持続可能な開発に関する経験談の交流のネットワークの育成を支援すること;
− 共通農業政策の下での農業環境対策について、利用を強化し、財源を増加し、適用範囲を拡大すること;
− 市民が環境保護を改善するための手段として、地域計画を利用することを加盟国が検討することを促進し、とくに都市部と人口集中地域で、持続可能な地域開発に関する情報の交換を促進すること。
1. 第5条から第8条までの行動には、幅広い取り組みを必要とする優先環境問題のためのテーマ別戦略の開発と現行の戦略の評価を含むものとする。これらの戦略には、本計画で定めた目的を達成するために必要な提案の特長と、提案の採用に必要となる手続きが入っていなければならない。これらの戦略は、欧州議会と理事会に提出され、適切な場合には、条約251条で定めた手順に従って、欧州議会と理事会が採択する決定の形式をとるものとする。その提案が法的な根拠を得た場合は、戦略から生まれる法案は、条約251条で定めた手順に従って採択するものとする。
2.テーマ別戦略には、第3条と第9条で示した取り組み、および予測される手段を測定、評価しうる関連の質的・量的な環境目標と予定表が含まれる。
3. テーマ別戦略は、NGO、工業、他の社会的パートナーおよび公共機関など、関係者との密接な協議によって開発、実施すると同時に、適切な場合には、その過程で候補国との協議を確保しなければならない。
4. テーマ別戦略は、本計画の採択から遅くとも3年以内に、欧州議会と理事会に提出されなければならない。委員会が本計画の実施の進捗状況を評価する中間報告には、テーマ別戦略の見直しを含むものとする。
5. 委員会は、戦略の開発と実施の進捗状況とそれらの有効性について、欧州議会と理事会に毎年報告するものとする。
第5条
気候変動と取り組む行動のための目的と優先領域 |
1. 以下の目的によって第2条で定めた方針を、遂行するものとする:
− 2002年までに気候変動枠組み条約の京都議定書を批准、実施し、1998年6月16、17日の理事会の決議で定めた各加盟国の約束に従って、欧州共同体全体として、2008〜2012年の排出量を1990年水準から8%削減する約束を達成すること;
− 京都議定書をうけて、約束を達成する上で明確な前進を2005年までに実現すること;
− 欧州共同体は、京都議定書で定めた第2期約束期間のさらに厳しい削減目標についての国際合意を明確に支持する立場をとること。この合意は、とりわけ、IPCC第3次評価報告の調査結果を十分に考慮し、排出量を大幅に削減することをめざし、温室効果ガス排出量の地球規模で公正な配分に向けた行動の必要性を考慮しなければならない。
2. とりわけ、以下の優先行動によってこれらの目的を、遂行さするものとする:
(1) 京都議定書をはじめとする気候に関する国際的な約束を、次のことによって実行すること:
(a) 欧州気候変動プログラムの結果を点検し、適切な場合には加盟国の国内行動を補足する各種部門に対して、有効で、共通的に調整のとれた政策とそれに基づいた方策を採用すること;
(b) 他の温室効果ガスに拡大する可能性を含めた効果的なCO2排出取引の開発のための欧州共同体枠組みの制定に向けた活動を行うこと;
(c) 域内負担の分担協定(Internal Burden Sharing Agreement)*1の下で作成された加盟国の約束を果たすために温室効果ガスとその進捗状況のモニタリングを改善すること;
*1: http://seminar.econ.keio.ac.jp/yamaguchi/2000/pdf/4kouki/1025eu.PDF (対応するページが見つかりません。2010年5月)
(2) エネルギー部門での温室効果ガスの排出量を削減すること:
(a) エネルギーの効果的で、持続可能な使用を妨げる助成金を次第に廃止するため、そのような助成金の目録作成と見直しをできるだけ早く実施すること;
(b) 発電用の更新可能な燃料と低炭素化石燃料を促進すること;
(c) 2010年までに全エネルギー使用の12%の到達目標を達成するために、奨励策の利用、地方レベルの利用など、再生可能エネルギー源の利用を促進すること;
(d) 熱電併給を拡大するための奨励策を導入し、欧州共同体における熱電併給全比率を2倍、総発電量の18%にすることをめざす対策を実施すること;
(e) エネルギーの生産と供給によるメタン排出を防止、削減すること;
(f) エネルギー効率を高めること;
(3) 輸送部門での温室効果ガスの排出量を削減すること:
(a) 2002年までに、このような行動が国際民間航空機関において合意されない場合、航空機から温室効果ガス排出を削減するための具体的行動を認定し、着手すること;
(b) 2003年までに、このような行動が国際海事機関において合意されない場合、海運からの温室効果ガス排出を削減するために具体的な行動を決定し、開始すること;
(c) 組織や流通の改善など、効率的で、クリーンな輸送方式への切り替えを促進すること;
(d) 温室効果ガス排出量8%削減という欧州連合の目標に関して、持続可能な輸送システムのための、数量を示した環境目的に関する文書を2002年の終わりまでに提出することを委員会に要請すること;
(e) 自動車からのN2Oを含む温室効果ガス排出量を削減するために、何らかの法律など、さらに具体的な行動を特定し、開始すること;
(f) それらの割合を相当、また引き続き増加させるために、代替燃料と低燃費車両の開発と利用を促進すること;
(g) 輸送費用の中に環境費用を十分に反映するための方策を促進すること;
(h) 環境影響の削減のために、経済成長と輸送需要をデカップリングすること;
(4) 工業生産での温室効果ガスの排出量を削減すること:
(a) 工業における環境効率性*1改善の活動と技術を促進すること;
(b) 環境パフォーマンスを適応、革新、改善するために中小企業を支援する手段を開発する;
(c) 欧州共同体方策の確立をはじめとする環境的に健全で、また技術的に実行可能な代替手段の開発を促進し、排出量削減をめざし、適切で実行可能な場合には、生産を段階的に廃止し、工業のフッ素系ガスのHFC(ハイドロフルオロカーボン)、PFCs(パーフルオロカーボン)とSF6(六フッ化硫黄)の使用を削減すること;
http://www.asahi-net.or.jp/~DH1F-MYS/kan/00e/eco-e_.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
http://www.geocities.com/furu5362/eraterm.htm#ecoeffic(エコ・エフィシェンシーの項) (対応するページが見つかりません。2010年5月)
(5) 他の部門での温室効果ガスの排出量を削減すること:
(a) 建築物の設計においてはとくに冷暖房と温水供給のエネルギー効率を高めること;
(b) 共通農業政策と欧州共同体の廃棄物管理戦略においては他の環境配慮とともに温室効果ガス排出量を削減する必要性を考慮すること;
(6) 次のような他の適切な手段を使用すること:
(a) 効果的なエネルギーの利用、クリーンなエネルギーと輸送への切り替えを促進し、技術革新を促進するために、適時、適切な欧州共同体のエネルギー課税の枠組みをはじめとする財政措置の活用を促進すること;
(b) 温室効果ガス排出削減に関する工業部門での環境合意を促進すること;
(c) 研究と技術開発および国内研究計画のための欧州共同体政策の主要なテーマとして気候変動を確保すること。
3. 欧州共同体は、気候変動の軽減に加え、気候変動の影響に適応するための方策を、下記のことによって用意しなければならない:
− 適切な投資決定がなされるよう適合するため、とくに気候変動に関連する欧州共同体政策を見直すこと;
− 水資源の管理、生物多様性の保全、砂漠化と洪水の防止など、地域適応方策を作成し、また市民と企業で生れている認識を支援するために、地域気候のモデリングと評価を促進すること。
4. 気候変動の問題は、欧州共同体の拡大の際に考慮されなければならない。これには候補国に対して、とくに以下の行動が必要である:
− 京都メカニズムの活用、および報告と排出モニタリングの改善のための国内措置の運用について、能力構築を支援すること;
− より一層、持続可能な輸送とエネルギー部門を支援すること;
− 気候変動問題に関して、候補国との協力がさらに強化されることを保証すること。
5. 気候変動に対処することは、欧州連合の対外政策に不可欠な部分であり、持続可能な開発政策における優先事項の1つである。これには、次のために欧州共同体と加盟国側で協調と調和の努力を必要とする:
− たとえば、京都議定書のクリーン開発メカニズム(CDM)*1と共同実施*2の関連で推進しているプロジェクトによって、発展途上国と移行経済にある国を援助する能力構築を行うこと;
− 認定された技術の移転の要求に対応すること;
− 関係国での気候変動に適応する課題を支援すること。
*1: http://www-cger2.nies.go.jp/new/gio/outline-j/words-j.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*2: http://www.greenpeace.or.jp/library/97gw/1bg/bg4.html#refe10 (対応するページが見つかりません。2011年5月)
第6条
自然と生物多様性に関する行動のための目的と優先領域 |
1. 以下の目的によって第2条で示した方針を、遂行するものとする:
− 侵略的外来種*1とその遺伝子型の影響の防止と軽減など、2010年までの達成をめざして、生物多様性の減少を停止させること;
− 損害を与えている汚染から自然と生物多様性を保護し、適切に回復すること;
− 海の環境、海岸と湿地を保全し、適切に回復し、持続可能な利用を行うこと;
− 耕作された地区ばかりでなく脆弱な地区など、高い景観価値をもつ地区を保全し、適切に回復すること;
− 生息場所の分断の防止にとくに注意して、生物種と生息場所を保全すること;
− 侵食、劣化、汚染、および砂漠化の防止にとくに配慮して、土壌の持続可能な利用を促進すること。
2. これらの目的は、補完性の原則を考慮し、現行の世界ならびに地域的な条約と戦略、およびこれに関連する欧州共同体法の全面的な実施に基づいて、以下の優先行動によって遂行するものとする。生物多様性条約(8)で採用された生態系アプローチ*1が、適切な場合にはつねに、適用されなければならない:
(8) OJ L 309、13.12.1993、1ページ (対応するURLが見つかりません。2010年5月)。
(a) 生物多様性に関して:
− データと情報の収集計画などによって、欧州共同体の生物多様性戦略とこれに関連する行動計画の実施を保証し、モニタリングと評価を促進し、適切な指標を開発し、そして利用可能な最善の技術*1と最良の環境事例の利用を促進すること;
− 生物多様性、遺伝資源、生態系、および人間活動との相互影響に関する研究を促進すること;
− 生物多様性に関連する持続可能な利用、持続可能な生産、および持続可能な投資を強化するための方策を開発すること;
− 絶滅危惧種に関する首尾一貫したアセスメントと、さらなる研究と協力を促進すること;
− 第三世界が供給源になっている遺伝資源の利用に関して、生物多様性条約の第15条を実施するために、遺伝資源の利用から生じる利益の公平で公正な分配を地球レベルで促進すること;
− 遺伝子型をはじめとする侵略的外来種の防止と管理を目的とした方策を開発すること;
− Natura 2000*2ネットワークを設定し、このネットワークを全面的に実施するために、またNatura 2000地区の外で生息地指令と鳥類指令*3で保護されている生物種の保護のために必要な技術的、財政的手段と措置を実施すること;
− Natura 2000ネットワークの候補国への拡大を促進すること;
*1: http://assess.eic.or.jp/houkokusho/bat9903/chap2-1-E.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
http://assess.eic.or.jp/houkokusho/bat9903/chap2-1-A.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*3: http://www.envix.co.jp/ecofigure.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
(b) 事故と災害に関して:
− たとえば、防止の事例と手段を交換するためのネットワークを設置することによって、事故と自然災害にかかわりあいのある加盟国が行動するための欧州共同体の調整を促進すること;
− パイプライン、採鉱、危険物質の海上輸送から生じる事故に、とくに注意して、重大事故の危険*1を防止する措置をさらに開発し、また採鉱廃棄物に関する措置を開発する;
*1: http://www.sonpo.or.jp/publish/book_eu1.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)
(c) 山地や乾燥地の特異性をはじめとする地域的な多様性を考慮に入れた土壌保護、とくに汚染、侵食、砂漠化、土地劣化、土地取得、および水文地質学的リスクの防止に取り組むテーマ別戦略;
(d) 環境影響を削減するために鉱業部門の持続可能な管理を促進すること;
(e) 関連する国際的手段を考慮して、観光事業をはじめとする他の政策の中への景観価値の保全と回復の統合を促進すること;
(f) 農業政策の中に生物多様性の配慮を統合することを促進し、下記のことによって、持続可能な農村開発、多機能で持続可能な農業を促進すること:
− 共通農業政策と他の政策の現行の条件の十分な活用を促進すること;
− 農村社会の多機能な役割に対する均衡のとれた取り組みの必要を考慮して、共通農業政策の今後の見直しの際に、適切な場合には、粗放生産法、総合的農業活動、有機農業、および農業の生物多様性など、より一層、環境的に信頼できる農業を促進すること
(g) 生物多様性の価値が高いサイトにとくに注目して、海洋の持続可能な利用と、海底、河口域、および沿岸域を含む海洋生態系の保全を、以下のことによって促進すること:
− 2002年の見直しの機会に、共通漁業政策の中に環境配慮の統合をさらに促進すること;
− 海洋環境の保護と保全のためのテーマ別戦略、とりわけ、海洋条約の規定と実施義務、海上輸送やその他の海と陸上の活動に関する排出量と影響を削減する必要性を考慮すること;
− 海岸地域の統合した管理を促進すること;
− とくにNatura 2000ネットワーク、並びに他の実行可能な欧州共同体の手段で、海洋域の保護をさらに促進すること;
(h) 以下の要素を取り入れ、補完性の原則と生物多様性への配慮を考慮して、欧州連合の森林戦略に従って、森林に関する戦略と方策を実施し、さらに開発する:
− 森林を保護する現行の欧州共同体方策を改善し、とりわけ、欧州森林保護閣僚会合*1、森林に関する国連フォーラム、生物多様性条約、および他のフォーラムによって採択された勧告に従って、森林の多面的機能のモニタリングの重要性を高めた農村開発計画に関連する各国の森林計画によって、持続可能な森林管理を実施すること;
− 民間部門ばかりでなく、林業問題に関わるすべての利害関係者との協調を含め、林業に関わるすべての政策部門間の効果的な協調を促進すること;
− とりわけ、持続可能な森林管理の認証を促進し、また関連産物への認証表示を促進することによって、持続的に生産された木材の市場シェアの増大を刺激すること;
− 世界的、および地域的な解決策の実施、森林に関連した問題の議論と交渉への欧州共同体と加盟国の積極的参加を継続すること;
− 違法に得た木材の取引を防止し、それと闘うための積極的な措置をとる可能性を検討すること;
− 林業における気候変動影響の検討を促進すること;
(i) 遺伝子改変生物(GMO)に関して:
− 健康と環境の影響を効果的にモニタリングし、管理するために、GMOのリスク評価、識別、表示、および追跡可能性(traceability)*1のための規則と方法を開発すること;
− バイオセイフティに関するカルタヘナ議定書*2の速やかな批准と実施をめざし、技術的、財政的援助を必要とする第三世界の国々の規制枠組みの構築を支援すること。
*1: http://www.jba.or.jp/b-and-i/kisei-rinri.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
第7条
環境と健康、および生活の質に関する行動のための目的と優先領域 |
1. 第2条で示した方針は、関連する世界保健機関(WHO)基準、ガイドライン、および計画を考慮して、以下の目的によって遂行されなければならない:
− 環境と人の健康への脅威を防止、削減する行動をとるため、これらの脅威についてのより良い理解を達成すること;
− 都市部に集中する統合的アプローチによって生活の質の向上に貢献すること;
− 健康と環境に重大な悪影響を引き起こさない方法のみによる化学物質の生産と使用を1世代以内に(2020年までに)達成することをめざし、化学物質の特性、利用、処理と暴露に関する現在の知識のギャップを埋めることが必要であることを認識すること。
− 危険な化学物質は、人と環境へのリスクを削減するために、より安全な化学物質、あるいは化学物質を使用しない安全な代替技術に代えられなければならない;
− 人の健康と環境に対する農薬の影響を削減し、農薬のより持続可能な使用を達成するだけでなく、リスクを全体的に大幅に削減し、作物保護の必要性に見合った農薬の使用をより総合的に達成すること。難分解性、生物蓄積性、有毒、あるいは他の懸念される特性をもつ使用中の農薬は、できる限り危険の少ないものに代えなければならない;
− 人の健康と環境に重大な影響とリスクを与えない地下水と地表水の水質レベルを達成し、水源からの取水割合が長期にわたって持続可能であることを保証すること;
− 人間の健康と環境に対して、重大な負の影響やリスクにならない大気環境を達成すること;
− 科学的調査によれば、人の健康に有害な影響をもたらしている、とくに交通からの長期の通常のレベルの雑音によって日常的影響を受けている人の数を大幅に減少し、騒音指令による活動おいて次の措置を立案すること。
2. 以下の優先行動によってこれらの目的を、遂行するものとする:
(a) 健康と環境に関する目的の達成を支援するために、 欧州共同体の研究計画と科学的知識の強化、ならびに国内の研究計画の国際的な協調を促進し、とくに以下のことを行う:
− とくに電磁汚染源の健康影響を含み、また、化学物質の安全性分野での動物実験に対する代替手法の開発と検証にとくに配慮して、研究と行動の優先領域に関する特定と勧告を行うこと;
− 健康と環境の指標の定義と開発;
− 影響を受けやすい可能性のある集団、たとえば子供や年輩者への影響、さまざまな汚染物質の相乗作用と相互影響などを、必要に応じて考慮し、現行の健康基準と許容値を再検討、開発、および改訂すること;
− 新たな、あるいは発現している問題に対する早期警戒メカニズムの傾向と規定の見直しを行うこと;
(b) 化学物質に関して:
− 全化学物質についての情報を生みだすことに対して、製造業者、輸入業者、および下流のユーザに責任を持たせ(注意義務)、生産だけでなく回収や処分の場合も含めて、それらの行為によるリスクを評価すること;
− 動物実験の必要性を最小限にする検査処置によって、ごく微量を使用する化学物質を除き、新規および既存の物質の検査、リスクアセスメント、およびリスクマネージメントのために段階的削減アプローチに基づく一貫したシステムを開発し、また代替検査法を開発すること;
− 重要な化学物質については、迅速なリスクマネージメント処置が必要であり、非常に重要な物質、すなわち発癌性、変異原性あるいは生殖毒性を持つ物質*1、およびPOPs(残留性有機汚染物質)の特性を持つ物質などは、正当な理由があり、限定された場合のみに使用し、それらの使用前に許可を受けなければならないことを確実にすること;
− 化学物質のリスクアセスメントの結果が、化学物質を規制する欧州共同体法のすべての領域において、また作業の重複を避けるように十分に考慮されることを保証すること;
− 難分解性、生物蓄積性、および毒性を有する非常に問題の大きな物質、非常に難分解性で、非常に生物蓄積性のある物質、および合意した試験方法と基準が確立された場合に、既知の内分泌かく乱物質に追加が想定されものなどの間の基準を規定すること;
− 中間見直し前に実施に移せるように、特定された目的のために必要な主要な方策が速やかに開発されるようにすること;
− 欧州共同体化学品の登録、評価および認可*2(REACH Register)に関する秘密情報以外の情報へのパブリックアクセス*3を確保すること;
(c) 農薬に関して:
− 高い保護レベルを確保するために、修正する場合には、適用可能な法的枠組み(9)の有効性の全面的な実施と見直しを行うこと。この改正には、必要に応じて、比較評価と欧州共同体の上市のための認可手続きの開発を含むことができる;
− 農薬の持続可能な使用に関するテーマ別戦略は次のことに取り組む:
(1) 農薬の使用による健康と環境へのハザード*1とリスク*2を最小限にすること;
(2) 農薬の使用と販売の規制を改善すること;
(3) 化学物質使用しない代替物を含め、危険なものをより安全なものに置き換えることなどによって、有害な活性物質のレベルを下げること;
(4) 使用者の認識を高め、適正な活動規準の使用を促進し、財政的手段の適用の可能性の検討を促進することによって、他の農業者に低投入栽培あるいは無農薬栽培の実施を奨励すること;
(5) 適切な指標の開発を含む戦略の目的の遂行の進捗状況を報告、モニタリングするための透明性のあるシステムを作成すること;
*1: http://risk.env.eng.osaka-u.ac.jp/cgi-bin/spdict.cgi?mode=4&view=10177 (対応するページが見つかりません。2010年5月)
http://www.jasmec.go.jp/kankyo/h11/book/3rab/html/kagaku1a.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*2: http://risk.env.eng.osaka-u.ac.jp/cgi-bin/spdict.cgi?mode=4&view=10006 (対応するページが見つかりません。2010年5月)
http://www.jasmec.go.jp/kankyo/h11/book/3rab/html/kagaku1f.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
(d) 化学物質と農薬に関して:
− 国際貿易における特定有害化学品および農薬の事前通報・合意手続きに関するロッテルダム条約と、残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約のすみやかな批准をめざすこと;
− ロッテルダム条約に従うため、特定危険化学物質の輸出入に関する1992年7月23日理事会規則(EEC)2455/92(10)を修正し、その手続きメカニズムを改善し、発展途上国への情報を改善すること;
− とりわけ、このような削減をめざすプロジェクトを支援することによって、使用中止となった農薬の在庫処分をはじめとする発展途上国や加盟候補国における化学物質と農薬の管理の改善を支援する;
− 国際的な化学物質の管理に関する戦略的取り組みを精緻化する国際的努力に貢献すること;
(10) OJ L 251、29.8.1992、13ページ。
(e) 水の持続可能な使用と水質の向上に関して:
− 地表水と地下水の高いレベルの保護を確保し、汚染を防止し、持続可能な水の使用を促進すること;
− 生態学的、化学的、量的に良好な水の状態と、首尾一貫した持続可能な水管理をめざし、水枠組み指令(11)の全面的実施を保証することに向けて努力すること;
−水枠組み指令の規定に従って、優先有害化学物質*1の放出、排出と被害の差し止めをめざした手段を開発すること;
− 水遊びに適した水指令(12)*2の修正を含めて、水遊びの水の高いレベルの保護を確保すること;
− 水枠組み指令と他の欧州共同体政策における他の水保護指令*3の考え方と取り組み方の統合を確保すること;
*2: http://www.eic.or.jp/QA/bbs02.php3?serial=1015 (対応するページが見つかりません。2010年5月)
http://www.envix.co.jp/ecofigure.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*3: 委員会は2002年10月24日に改正指令案を採択した
(f) 大気環境に関して、輸送、工業とエネルギー部門に関する第5条の方策の開発と実施は、大気環境の改善に適合し、寄与しなければならない。さらに想定される方策は、以下のとおりである
− 汚染物質の降下を含む大気環境のモニタリングとアセスメントの改善と、指標の開発、使用を含む公衆への情報の供給;
− 今後の行動における優先事項を扱う、大気汚染に関する一貫性のある統合政策を強化するテーマ別戦略、危険な負荷量や水準を超えないという長期目的を達成するための大気環境基準と各国の排出上限の必要に応じた見直しと更新、および情報の収集、モデリング、予測に適したシステムの開発;
− 地上付近のオゾンと微粒子に関して適切な方策を採用すること;
− 屋内の空気の質と健康への影響を考慮し、必要な場合には、今後の方策を勧告すること;
− オゾン層破壊物質に関するモントリオール議定書の交渉と実施において先導的役割を果たすこと;
− この交渉において先導的役割を果たし、欧州のクリーンな大気に寄与する国際的手続きに関する提携と対話を強化すること;
− 関連する発生源部門からの排出量を削減するための具体的な欧州共同体の手段をさらに開発すること;
(g) 騒音に関して:
− 特に自動車については、安全性を損ねずに、タイヤと路面との摩擦などから生じる騒音を低減する対策、鉄道車両、航空機と据え付け機械類から発生する騒音を低減する対策など、サービスと製品からの騒音に関して、適切な型式認定手続きを含め、措置を補完し、さらに改善する;
− 例えば、輸送需要の削減、雑音が少ない輸送形態への変更、技術的方策の促進、および持続可能な輸送計画などによって、交通騒音を軽減するための方策を必要に応じて開発、実施する;
(h) 都市環境に関して:
− 欧州共同体の各政策にわたる横断的な総合的取り組みを促進し、都市環境の質を改善するテーマ別戦略。現行の協力枠組み(13)の実施によって得られた前進を考慮し、必要に応じて枠組みを見直しながら、以下のことに取り組む:
− ローカルアジェンダ21*1の促進;
− 経済成長と乗客輸送需要の間の関連の縮小;
− 公共車両、鉄道、内陸水路、歩行と自転車使用の形態の割合を高める必要性;
− 交通量の増加に取り組む必要性、および輸送成長とGDP成長とを大幅にデカップリングする必要性;
− 公共車両に低排出ガス自動車の使用を促進する必要性;
− 都市環境指標の検討。
(13) 持続可能な都市開発を促進するための協力についての欧州共同体枠組みに関する2001年6月27日の欧州議会と理事会の決定1141/2001/EC(OJ L 191、13.7.2001、1ページ)http://europa.eu.int/eur-lex/pri/en/oj/dat/2001/l_191/l_19120010713en00010005.pdf。 (対応するページが見つかりません。2010年5月)
第8条
天然資源と廃棄物の持続可能な利用と管理に関する
行動のための目的と優先領域 |
1. 以下の目的によって第2条で定めた方針を、遂行するものとする:
− 資源の消費量とそれに伴う影響が環境収容力を上回らないようにすること、また経済成長と資源利用との間の結合を切り離すことをめざす。これに関連して、欧州共同体における再生可能エネルギーからの電力生産の割合を2010年までに22%にする目標は、資源とエネルギーの効率を急激に増加させると考えられる;
− 廃棄物汚染防止推進策、資源効率の向上、および持続可能な生産と消費の様式への変更によって、発生する廃棄物量の大幅な全体的削減を達成すること;
− 処理される廃棄物量と発生する有害な廃棄物を大幅に削減するとともに、大気、水、土壌への排出の増加を回避する;
− 再利用を促進し、またそれでも発生する廃棄物について: それらの汚染レベルを下げ、発生するリスクをできるだけ小さくし; 回収、とくにリサイクルを優先し; 処分する廃棄物量を最小限にし、また安全に処分し; 処分を予定している廃棄物は、廃棄物処理の作業効率を低下させない範囲で、その発生場所のなるべく近くで処理しなければならない。
2. これらの目的は、統合プロダクト政策アプローチと、欧州共同体廃棄物管理戦略(14)を考慮して、以下の優先行動によって遂行されなければならない:
(1) とくに以下を含む、持続可能な使用と資源の管理に関するテーマ別戦略を開発すること:
(a) 物質フロー分析*1の手法を用いた輸出入を含む、欧州共同体内の原料と廃棄物の流れの推定;
(b) 天然資源と廃棄物に関する政策的支援手法の有効性と助成金の効果の見直し;
(c) 経済成長と環境への悪影響との関連のデカップリングによる、資源効率と資源使用削減のゴールと目標の設定;
(d) 環境効率性を促進するための抽出と生産の手法と技術、および原材料、エネルギー、水やその他の資源の持続可能な使用の促進;
(e) 研究、技術移転、市場に基づく経済的手段、優良事例計画や資源効率指標など、広範な手段の開発と実施;
*1: http://www.jica.go.jp/jica-ri/publication/archives/jica/kenkyu/00_31/31_02.pdf (対応するURLが見つかりません。2012年8月)
http://snet.sntt.or.jp/eco/2607-2.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
(2) とくに次のことによって、 廃棄物汚染防止と管理に関する方策を開発し、実施すること:
(a) 2010年までに欧州共同体レベルで達成するべき、関係するすべての廃棄物を対象とする量的、質的な削減の目標を開発すること。委員会は、2002年までにこのような目標に関する提案を準備することが要請されている;
(b) 生態学的に健全で、持続可能な製品設計を奨励すること;
(c) 廃棄物の削減に関して公衆が寄与することができるという認識を高めること;
(d) 再利用と回収を誘発するなど、廃棄物汚染防止を促進するために運用可能な措置を設定し、製品に関連する措置によって、その廃棄物と原料を段階的に削減すること;
(e) 廃棄物管理分野において指標をさらに開発すること;
(3) とくに以下を含め、廃棄物リサイクルに関するテーマ別戦略を開発すること:
(a) 優先廃棄物フローにおける資源の分別、収集、リサイクルを保証するための措置*1;
(b) 生産者責任のさらなる開発;
(c) 環境的に健全な廃棄物リサイクルと処理技術の開発と移転;
*1: http://www.jema-net.or.jp/Japanese/denki/de-0204/de_06.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)
(4) 建設および解体廃棄物、下水汚泥(15)、生物分解性廃棄物、包装(16)、バッテリー(17)と、廃棄物輸送(18)、廃棄物と非廃棄物の区別の明確化、廃棄物枠組み指令の付属書IIAとIIB (19)をさらに詳細にした適切な基準の開発など、廃棄物に関する法律を開発あるいは改正すること。
(16) 包装と包装廃棄物に関する1994年12月20日の欧州議会と理事会の指令94/62/EC(OJ L 365、31.12.1994、10ページ)。委員会決定1999/177/EC(OJ L 56、4.3.1999、47ページ)によって最終改正された指令。
(17) 特定の危険物質を含むバッテリーと蓄電池に関する理事会指令91/157/EECを技術的進歩に適合させる1993年10月4日の委員会指令93/86/EEC(OJ L 264、23.10.1993、51ページ)。
(18) 欧州共同体内および欧州共同体外との廃棄物の輸送の監督と管理に関する1993年2月1日の理事会規則(EEC)259/93(OJ L 30、6.2.1993、1ページ)。委員会決定1999/816/EEC(OJ L 316、10.12.1999、45ページ)によって最終改正された規則。
(19) 廃棄物に関する1975年7月15日の理事会指令75/442/EEC(OJ L 194、25.7.1975、39ページ)。委員会決定96/350/EC(OJ L 135、6.6.1996、32ページ)によって最終改正された指令。
第9条
国際問題に関する行動のための目的と優先領域 |
1. 国際的な問題および本計画の4つの環境優先領域の国際的側面に関する第2条で定めた方針には、以下の目的を盛り込む:
− 地球規模の環境収容力にとくに注意を払いながら、国際レベルでの意欲的な環境政策を遂行すること;
− 国際レベルでの持続可能な消費と生産の様式をさらに促進すること;
− 貿易と環境の政策と手段を相互支援的になることを確保するために前進させること。
2. 以下の優先行動によってこれらの目的を、遂行するものとする:
(a) とくにガイドラインの精緻化によって、持続可能な開発を達成するため、貿易と開発協力を含む欧州共同体のすべての対外政策の中に環境保護要件を統合すること;
(b) 2002年の持続可能な開発に関する世界サミットにおいて「地球規模の新たな取引きあるいは協定」の一部として採択を促進する、環境と開発の諸目標を、一貫性のあるものとして設定すること;
(c) 多国間協力と、財源を含む制度的枠組みの段階的な強化によって、国際環境ガバナンスを強化するために活動すること;
(d) 欧州共同体が関わる環境関連の国際的な条約や協定のすみやかな批准、実効性のある順守、施行をめざすこと;
(e) 外国投資と輸出信用における持続可能な環境基準(environmental practice)*1を推進すること;
(f) 健康と環境へのリスク評価手法に関する合意ばかりでなく、予防の原則をはじめとするリスクマネージメントの取り組みの合意に至るための行動を、国際レベルで強化すること;
(g) 多国間貿易協定交渉の早い段階に実施予定の、持続可能性の影響評価において、環境側面を十分に考慮し、それ相応の行動をすることによって、貿易と環境保護の必要性との間の相互支持性*2の目的を達成すること;
(h) 多国間または地域環境協定、および予防の原則を全面的に認識し、持続可能で環境に配慮した製品とサービスの貿易の機会を強化するため、世界貿易制度をさらに強化すること;
(i) 近隣の国や地域との国境を越えた環境協力を促進すること;
(j) 生物多様性と気候変動との間の相互関連の評価、ならびに気候変動に関する国連枠組み条約と京都議定書の履行への生物多様性の要件の統合など、異なる条約の枠組みの範囲で行われる作業を関連付けることによって、政策の一貫性の向上を促進すること
http://www.k-t-r.co.jp/agend02.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
第2条で定めた参加と利用可能な最善の科学的知識に基づく環境政策立案に関する目的と、第3条で定めた戦略的な取り組みに関する目的は、以下の優先行動によって遂行されなければならない:
(a) 利害関係者がすべての段階で広く大規模に協議するメカニズムの改善と、良い統治の一般的規則と原則を開発し、それによって、提案する方策に関して、環境と持続可能な開発にとって最良の結果が得られるようなもっとも有効な選択を可能にすること;
(b) 欧州共同体による資金調達を含む適切な支援によって、対話プロセスへの環境NGOの参加を強化すること;
(c) 以下のことによって政策立案のプロセスを改善すること:
− 予想される影響、とくに環境影響の事前評価、法律の提案をするかしないかを含めた新たな政策の事前評価、およびそれらの結果の公表;
− それぞれの環境目的の達成に関する、現行の方策の有効性の事後評価;
(d) 環境、およびとくに本計画で特定した優先領域が、欧州共同体研究計画の重要な優先事項であることを保証すること。環境研究の必要性と優先事項の定期的見直しを、研究と技術開発についての欧州共同体枠組み計画に従って行わなければならない。加盟国が実施する環境関連研究の協調をさらに強めることにより、とりわけ、その成果の運用を改善するため;
情報、研修、研究、教育および政策の分野における環境関係者と他の関係者との連携を作り上げる;
(e) 2003年から開始予定の公式情報を保証するこの情報は以下の基礎に役立つ。:
− 環境と持続可能な開発に関する政策確定;
− 各部門の統合戦略ならびに持続可能な開発戦略の追跡調査と見直し;
− さらに広範な公衆に情報を伝える。
欧州環境庁と他の関連組織の公式の報告がこの情報の提供を支援するだろう。この情報には、とくに次のものが含まれる:
− 見出しとなる環境指標項目;
− 環境の状態と傾向の指標;
− 総合指標;
(f) 質が高く、比較可能な適切な環境データと情報の最新の報告を保証するため、一貫性が高く、効果的なシステムをめざして、情報と報告のシステムを見直し、定期的にモニタリングする。委員会は、このため適宜、できるだけ早く提案することが要請されている。モニタリング、データ収集および報告の要件は、今後の環境法令の中で効率的に扱われなければならない;
(g) 政策立案と実施を支援する地球モニタリング(衛星技術など)のアプリケーションとツールの開発と利用を強化すること。
1. 委員会は、本計画の実施4年めに、関連する環境の傾向と見通しとともに実施した進捗状況を評価するものとする。これは、全指標に基づいて行われなければならない。委員会は、適切と考えられる修正の提案とともに、中間報告を欧州議会と理事会に提出する。
2. 委員会は、本計画の最終年度に、本計画の最終アセスメントおよび環境の状態と見通しを欧州議会と理事会に提出する。
この決定は、欧州共同体官報において公表するものとする。
2002年7月22日、ブリュッセル
欧州議会
議長
P. COX
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欧州理事会
議長
P. S. MØLLER
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