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情報:農業と環境
No.39 2003.7.1

No.39

・環境研究機関連絡会:成果発表会の開催
      −環境研究の連携をめざして−

・第3回有機化学物質研究会
      −化学物質が生態系に及ぼす影響の評価法:現状と問題点−

・第20回農薬環境動態研究会
      −地域特産作物における残留農薬の評価−

・独法評価委員会農業技術分科会第1回独法担当部会が開催された

・農業環境技術研究所案内(9):環境放射能の調査研究

・地球規模の窒素循環の変動が人間の健康に及ぼす影響

・都市化と土地利用変動が気候に及ぼす影響

・対象外生物への悪影響は生物的防除のアキレス腱か?
     生物的防除のリスクを軽減するための事例分析

・本の紹介 119:日本海学の新世紀3−循環する海と森−、
     小泉 格編、角川書店(2003)

・本の紹介 120:生命40億年全史、リチャード・フォーティ著、
     渡辺政隆訳、草思社(2003)

・本の紹介 121:エコ・エコノミー時代の地球を語る、
     レスター・ブラウン著、福岡克也監訳、
     家の光協会(2003)

・本の紹介 122:新・土の微生物(10) 研究の歩みと展望、
     日本土壌微生物学会編、博友社(2003)

・研究、技術開発およびデモンストレーションのための個別計画
     「欧州研究圏の統合、強化」(2002-2006)の決定
      −その3−

・「情報:農業と環境」のアクセス件数が123,456回を超えた


 
 

環境研究機関連絡会:成果発表会の開催
−環境研究の連携をめざして−

 
 
 環境研究機関連絡会は、環境研究に携わる国立および独立行政法人の研究機関が情報を相互に交換し、環境研究の連携を緊密にするため、平成13年10月に設置された。環境研究機関連絡会の構成機関は、(独)国立環境研究所、(独)防災科学技術研究所、(独)農業環境技術研究所、(独)森林総合研究所、(独)水産総合研究センター、(独)産業技術総合研究所、国土交通省気象研究所、国土交通省国土技術政策総合研究所、(独)港湾空港技術研究所および(独)土木研究所の10所である。
 
 連絡会の活動の内容は、1)環境研究の推進状況の紹介と相互理解、2)環境研究の主要成果の紹介、3)環境研究の協力・連携・連絡、および4)その他環境研究に関連すること、と定めている。現在、当所が事務局を担当し、その任期は平成14年10月から平成15年9月である。
 
 今回、この環境研究機関連絡会の成果発表会を次のように開催することになった。多数の関係者の積極的な参加を期待している。
 

 
日 時 平成15年7月24日(木) 10時〜17時
場 所 つくば国際会議場(エポカルつくば)、3F中ホール(300)
 
成果発表会プログラム
 
1.開会挨拶 農業環境技術研究所 理事長 陽 捷行 10:00〜10:10
     
司会:神本正行(産業技術総合研究所研究コーディネーター)
 
2.防災科学技術研究所:松浦知徳(総合防災部門 総括主任研究員) 10:10〜10:40

 
気候変動に関わる気象・沿岸災害の長期変動予測(大気・気象)
 
3.気象研究所:佐藤康雄(環境・応用気象研究部長) 10:40〜11:10

 
気象研究所における黄砂研究の現状と展望(大気・物質)
 
4.国立環境研究所:野尻幸宏(地球温暖化研究プロジェクト総合研究官) 11:10〜11:40
  海洋の二酸化炭素吸収の観測と解析に関する研究(大気・物質・海)
     

 
昼 食
 
11:40〜13:00
 
司会:高木宏明(国立環境研究所主任研究企画官)
 
5.産業技術総合研究所:山本 晋(環境管理研究部門副部門長) 13:00〜13:30

 
炭素循環フィールド観測と対策技術評価(物質動態)
 
6.農業環境技術研究所:上路雅子(環境化学分析センター長) 13:30〜14:00

 
農業環境におけるダイオキシン類の動態とその制御技術(物質・農地)
7.国土技術政策総合研究所:藤田光一(河川環境研究室長) 14:00〜14:30

 
自然共生型流域圏・都市の再生に関する研究(物質・生物・都市)
 
8.水産総合研究センター:中村義治(水産工学研究所水産土木工学部長) 14:30〜15:00
  炭素収支に係る主要貝類の生物機能に関する研究(物質・生物・海)
     

 
休 憩
 
15:00〜15:20
 
司会:吉田 等(国土技術政策総合研究所環境研究官)
 
9.港湾空港技術研究所:桑江朝比呂(海洋・水工部主任研究官) 15:20〜15:50


 
メソコスム実験による干潟生態系の動態と
干潟再生に関する研究(生物・海)
 
10.土木研究所:傳田正利(水循環研究グループ研究員) 15:50〜16:20
  新しい調査ツール,マルチテレメトリシステムを用いた野生動物研究

 
〜河川工事が野生動物の行動に与える影響評価〜(生物・河川)
 
11.森林総合研究所:尾崎研一(北海道支所生物多様性担当チーム長) 16:20〜16:50
  地域の生物多様性を単一の希少種で代表させることの問題点(生物)
     
12.閉会挨拶 国立環境研究所 理事長 合志陽一
 
16:50〜17:00
 

 
 

第3回有機化学物質研究会
−化学物質が生態系に及ぼす影響の評価法:現状と問題点−

 
 
開催趣旨
 
 化学物質の生態系に対する影響を適切に評価・管理することが、環境基本計画の重要な柱の一つになっている。欧米においても、化学物質管理に生態影響を加えることが主流となっており、わが国でも、環境中の動植物への影響に着目した化学物質審査規制法の改正が進められている。また、農薬の登録時に生態影響評価試験の実施が農薬取締法で義務づけられている。
 
しかし、生態影響に関しては、実験室レベルでのOECDテストガイドラインが作成されているものの、わが国特有の生物種や環境要因、実験室レベルの結果が野生生物へ適用できるかどうかなど多くの課題が残されている。
 
農業生態系では、農薬をはじめ多様な機能をもつ化学物質が利用され、一部系外に流出している。これら化学物質の生態系に対するリスク評価、さらにリスク管理を適切に行うためには、上記の問題点に対処する新しい影響評価手法の開発が急務である。本研究会では、現在、国内外で広く使われている生態影響評価法の問題点を整理し、わが国における農薬等化学物質の生態系に及ぼす影響を評価するための研究方向を探る。
 

 
日 時 平成15年9月11日(木)10:00〜17:00
場 所 農業環境技術研究所 大会議室
 
講 演(予定)     
     
10:00〜10:10 挨 拶 農業環境技術研究所  理事長    
     
(背景と動向)    
10:10〜10:50 今後施行される生態影響を考慮した環境リスク管理制度について
    環境省・農薬環境管理室  早川泰弘
10:50〜11:30 海外における農薬の生態影響評価法の現状
    バイエルロックサイエンス  星野敏明
     
(新たな挑戦)    
11:30〜12:10 河川水中農薬の藻類影響評価法−室内試験を中心に−
    農業環境技術研究所  石原 悟
12:10〜13:10 昼 食  
13:10〜13:50 モデル生態系を用いた水生生物影響試験
    (社)日本植物防疫協会  藤田俊一
13:50〜14:30 実環境での農薬の生態影響調査
    (株)エスコ  北條敏彦
14:30〜14:50 休 憩  
14:50〜15:30 生態学からみた化学物質の生態影響評価手法
    農業環境技術研究所  池田浩明
     
(展望と提案)    
15:30〜16:10 農薬等の生態影響評価手法の今後のあり方
    島根大学生物資源科学部  山本廣基
16:10〜17:00 総合討論  
 

参集範囲 : 国公立・独立行政法人試験研究機関、大学、行政部局、関連団体等
     参加申込み・問合わせ先 :
  農業環境技術研究所 化学環境部 有機化学物質研究グループ 長谷部 亮
  〒305-8604  茨城県つくば市観音台3-1-3
  TEL & FAX  0298-38-8301
  E-mail  hasebe@niaes.affrc.go.jp

 
 

第20回農薬環境動態研究会
−地域特産作物における残留農薬の評価−

 
 
開催趣旨
 
 農薬取締法の強化により、農薬の使用に厳しい対応が求められている。これまで、地域特産作物に使用できる農薬数は限られており、今後、これらの栽培を維持するためには、作物ごとの農薬残留性を解明し、その結果を基に、地域特産作物への適用農薬数を拡大することが必要である。
 
本研究会では、このような緊急要請をうけて、地域特産作物における農薬残留試験方法とその解析結果を中心に討議を進め、現在、主流となっている作物残留試験法の問題点を抽出し、その改良点について検討する。
 

日 時 平成15年9月12日(金)9:00〜15:00
場 所 農業環境技術研究所 大会議室
 
講演(予定)    
9:00〜 9:05 挨 拶 農業環境技術研究所  理事長    
9:05〜12:00 地域特産作物における残留農薬の評価
  (1)農薬取締法の改正について
    農林水産省農薬対策室  角田幸司
  (2)地域特産作物の農薬使用と残留農薬について
  長野県農業総合試験場  和田建夫
  (3)現場での残留農薬分析例について
    徳島県農業研究所    亀代美香
    愛知県農業総合試験場  山田眞人
    青森県農業試験場    増田幸保
  (4)作物の残留農薬試験法について
    (社)日本植物防疫協会  小林 裕  
     
12:00〜13:00 (昼  食)  
     
13:00〜13:45 ドリン系農薬等の土壌残留:調査方法と試験結果の検討
13:45〜14:30 農薬の水生生物影響:調査方法と試験結果の検討
14:30〜15:00 総合討論
 
参集範囲: 国公立・独立行政法人試験研究機関、大学、行政部局

 
 

独法評価委員会農業技術分科会第1回独法担当部会が開催された
 
 
 独法評価委員会農業技術分科会第1回独法担当部会が、平成15年5月26日(月)の13時から17時にかけて農業環境技術研究所の大会議室で開催された。研究所では、所議メンバーがこれに対応した。
 
 なお、出席された評価委員および議事は、次の通りである。
小林 正彦(東京大学大学院農学生命科学研究科教授:分科会長)
梶川  融 (太陽監査法人代表社員)
佐藤 洋平(東京大学大学院農学生命科学研究科教授:
       農環研担当主たる取りまとめ者)
大川 秀郎(神戸大学遺伝子実験センター教授)
西澤 直子(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)
 随行:農林水産技術会議事務局(評価担当、農環研担当等)9名
 
議事:
1.平成14年度に係る業務実績について
 1)「試験及び研究並びに調査」における業務概要と主要な研究成果(担当研究部長)
 2)予算、収支計画及び資金計画(総務部長)
 3)理事長ヒアリング関係(平成15年4月23日)の質疑応答に関する補足等(企画調整部長)
2.質疑
3.視察(本館、環境化学分析センター、昆虫標本館、ミニ農村)
 
評価委員からの主な質問・指摘事項は次の通りである。
1.水田の水管理によって、カドミウムについてのCODEXの新しい基準値をクリアできるか。
2.土地利用連鎖における硝酸態窒素のモデルの中で、土壌中に蓄積している部分はどのように評価しているか。
3.安全性の確保において、成果のデータベースや安全性の評価システムを構築するために研究所外との連携を考えているか。
4.論文の出にくい分野の評価はどのようにしているのか。
5.課題ごとに投入した人員と研究費を示すことによって、人員や研究費当たりの成果を評価する必要がある。
6.前年度の評価に基づいて次年度の予算配分を決めるという枠組みの中で、当該年度中に再配分するのはおかしい。
7.独立行政法人の職員給与は理事長が決めてよいのではないか。
8.財務省は、人件費と事業費を区別するように指示しているのか。
9.評価によってインセンティブが上がるようなシステムを考えるべきである。それぞれの研究の成果に対して、それぞれの年度のうちに報奨金を出すなどの仕組みが必要ではないか。
10.資源配分的な予算ではなく、行動計画を伴った予算を作っているか。
11.管理経費や臨時費用の詳細を知りたい。
12.経営努力による利益については目的積立金を計上すべきではないか。
 
 

農業環境技術研究所案内(9):環境放射能の調査研究
 
 
 当所は、環境放射能についてこれまで息の長い数多くの研究を行ってきた。また、突然発生する緊急な放射能汚染事故(チェルノブイリ、JCO)に対応し、社会の要請に応えてきた。今回はその歴史と成果を紹介する。
 
1.放射性同位体研究と農業環境技術研究所
 環境放射能の話を始める前に、この研究所の歴史と環境放射能研究との関わりを紹介しておく必要がある。そのため、まず研究所の歴史を簡単にひもといて、その変貌をみることにする。農業環境技術研究所の歴史は、1893年(明治26年)に設立された農事試験場に始まる。今から110年も前のことである。最初の農事試験場は、種芸部・煙草部・農芸化学部・病理部・昆虫部・報告部・庶務部から構成され、長い時間をかけて国民に食料を供給するための研究所として着実に発展してきた。
 
 この間57年の歳月を経た農事試験場は、1950年(昭和25年)に農業技術研究所(以下、農技研という)に改組された。新たな組織は、生理遺伝部・物理統計部・化学部・病理昆虫部・経営土地利用部・農業土木部・園芸部・家畜部・畜産化学部・庶務部から構成された。この組織体制は、たかだか11年の寿命でしかない。社会の変遷にともなって、1961年(昭和36年)には、園芸部が園芸試験場へ、農業土木部が農業土木試験場へなどと、さらに専門研究所へ分化していく。その結果、農技研には、生理遺伝部、物理統計部、化学部、病理昆虫部、経営土地利用部、庶務部が残ることになる。
 
 さらに、この組織は22年の歳月を経て再び変貌し、農業環境技術研究所(以下、農環研という)と農業生物資源研究所と農業研究センターに分化していく。今から20年前の1983年(昭和58年)のことである。農環研には、企画調整部、総務部、環境管理部、環境資源部、環境生物部、資材動態部が置かれた。そしてこの研究所は、2001年(平成13年)に独立行政法人農業環境技術研究所として新たな装いのもとに再出発した。
 
 この間、農技研の時代(1950年〜1983年)には化学部作物栄養科アイソトープ研究室および土壌第1科土壌化学第3研究室が、旧農環研の時代(1983年〜2001年)には環境管理部計測情報科分析法研究室が、環境放射能にかかわる調査研究を継続してきた。現在の農環研(2001年〜)では、環境化学分析センターの放射性同位体分析研究室がこの調査研究に携わっている。
 
2.放射能調査研究と農業環境技術研究所
 半世紀前の1954年、米国はビキニ環礁で水爆の実験を行った。近くで操業中の漁船第5福竜丸が被曝し、乗組員の久保山さんが亡くなった。はるか遠く離れた日本の地にも、当時「死の灰」と呼ばれた降下性の放射性核種が降った。この事故を重視した政府は、すみやかに大学や研究機関に呼びかけ放射能汚染調査を実施した。農技研も積極的にこの調査に参加した。
 
 1957年、英国のウインズケール原子炉で火災事故が発生した。このことが契機となり、わが国でも全国的な放射能調査研究網ができ、当時の科学技術庁(現在の文部科学省)の「放射能調査研究費」によって、農技研では「土壌および農作物の降下放射性核種の分析および研究」が開始された。さらに1959年には、「全国特定圃場の米麦と土壌(作土)の90Sr、137Csによる放射能汚染の実態と経年変化の調査」が開始された。
 
3.チェルノブイリ事故
1)世界の汚染と波紋
 ソ連のキエフ市の130キロメートル北方にあるチェルノブイリ原子力発電所4号機で、炉心の一部が破損し、建物の屋根が吹き飛ばされる大事故が発生したのは、1986年4月26日の未明であった。この事故に関する公式発表では、31名が死亡し、急性入院患者が203名、13万5千人の住民が避難したと報道された。
 
 モスクワ市内では、市販の牛乳やヨーグルトから異常な値の放射能が検出された。事故当時、風は北、ないし北北西であったため、放射能雲は白ロシア、バルト3国、フィンランド南部に広がった。風はやがて北西に変わり、ポーランド、スウェーデン、ノルウェーまで広がった。その後、汚染はヨーロッパ全域に広がり、1週間後の5月3日には、ジェット気流にのって8000キロメートルも離れたわが国の上空に達し、ヨウ素(131I)、セシウム(137Cs、134Cs)およびルテニウム(103Ru)などの核種が全国に降下した。
 
 原子力発電史上、最悪の事故といわれたこの事故の記憶は、まだわれわれの記憶に新しい。世界には現在400基に近い原子炉が稼働している。今後エネルギー源として、ますます必要である。しかし、われわれが生きている世界に「絶対安全」などない以上、原子力発電所も他の技術と同様に事故や故障とまったく無縁ではありえない。そのうえ、この事故の例にも見られるように、漏れ出た放射性物質は、簡単に国境を越えて、被害は遠く他国にも及ぶ。
 
 ここで振り返って、事故当時の新聞記事を少し追ってみる。5月4日の新聞には、日本分析センターが、事故原発から700キロメートル離れたモスクワの日本大使館より空輸された牛乳、水道水、長ネギ、ニンジン、大使館敷地内の土壌を分析した記事が載っている。事故発生後約一週間経った5月2日の昼頃、モスクワ市内の専門店で購入した牛乳からは、放射性の131Iが1リットルあたり1.8ベクレル、長ネギから1キログラムあたり2.0ベクレル、同じころモスクワ市中心部にある大使館の水道水から採取した飲料水からは、1リットルあたり1.6ベクレルが検出された。しかし、ニンジンからは131Iは見つからない。一方、土壌からは、1キログラムあたり81.4ベクレルの131Iのほか、137Csが92.5ベクレル、103Ruが11.1ベクレル検出された。
 
 きわめて深刻な汚染を受けたポーランドでは、牛乳1リットル中に最高1718ベクレルもの多量の131Iが見つかったとの報告がある。この放射能の強さは、国際原子力機関が定めた子供に対する危険値1000ベクレルの1.72倍で、直ちに飲用禁止の措置がとられた。なお、ベクレルという単位は、放射性核種が1秒間に壊変する個数で表される放射能の強さの単位で、1ベクレルとは毎秒1壊変することである。ちなみに、よく用いられている1キュリーという単位は、370億ベクレルに相当する。これは、ラジウム1グラムの放射能にほぼ等しい値である。
 
2)日本への影響
 わが国への影響は、放射能対策本部から発表された5月6日の新聞報道から知ることができる。各地の水道水からは、放射性131Iは検出されていない。しかし、筑波研究学園都市にある農林水産省の畜産試験場の牛の原乳からは、1リットルあたり2.1ベクレルの131Iが検出されている。また千葉市の日本分析センターの報告によれば、5月4日に分析した農家の原乳には、1リットルあたり0.6〜2.1ベクレルの131Iが検出されている。しかし、これらの値は、いずれも国際基準の1800分の1から500分の1という微量であることから、まったく心配はないとされ、特別の措置はとられなかった。
 
 131Iが人体に入ると、甲状腺に濃縮されて障害を起こし、ガン発生の恐れがある。しかし、検出された2.1ベクレルという値は、例えばこれより320倍も強く汚染された牛乳を毎日600CCずつ一年間飲まなければ、乳幼児の甲状腺に危険が生じるような量とはならないのである。
 
3)当所の調査結果
 政府は5月30日に放射能対策本部を設けた。農環研は本部からの協力要請を受け、所内に企画連絡室長を委員長とした放射能調査緊急対策委員会を設置した。依頼された調査内容は、5月2日から6月6日の間、つくば市(農環研圃場)の野菜と畑の表土の131Iをほぼ毎日、137Csと134Csを週1回分析することであった。
 
 当所の測定の結果、ホウレンソウ、ヨモギおよびダイコン葉の1キログラムから、それぞれ最高370、592および104ベクレルの放射性131Iが検出された。これらの値は、1980年に原子力安全委員会から出された飲食物摂取制限に関する葉菜の許容値7400ベクレルに比べるときわめて少ない量であった。放射能対策本部は「国内の野菜等を含むすべての環境試料の放射能レベルは充分低い状態となり、国民の健康に影響を及ぼすものではない」との安全宣言を、6月6日に全国に通達した。
 
4)事故のフォロー調査
 危険な放射性物質
 131Iの半減期はわずかに8日であるから、例え汚染していても急速に減衰してしまう。したがって、生産者から消費者へ短期間に渡る野菜や牛乳のような生鮮食料品では問題となるが、米麦や果実のように成長期間が長い食品では、ほとんど問題にならない。
 
 ところが、原発や核実験で発生する放射性降下物には、放射性ヨウ素ばかりではなく、ストロンチウム90(90Sr)、137Csなど放射能の強さが半減するまでに約30年もかかるような長半減期放射性核種も含まれている。このような長半減期の放射性核種は、時間の経過とともに土壌に残留し、徐々に作物に吸収される。このようにして、コメやムギなどの農産物の中に放射性核種が入り込む恐れがある。
 
 コメやムギについて、90Srおよび137Csの放射能測定が必要なのは、このような理由からである。放射性降下物のうちでも、特に131I、137Csおよび90Srは、環境や食品を汚染し、直接・間接に人体に影響を及ぼすため、きわめて危険な核種とされている。
 
 1954年春のビキニ環礁でおこなわれた核爆発実験による「死の灰」の騒ぎが直接のきっかけとなり、農作物と土壌の放射能の調査体制が本格的に固まった。1957年から継続して、コメ、ムギおよび土壌の90Srおよび137Csが、全国的に調査されている。また、野菜の131Iについては、チェルノブイリ原発事故を契機として、事故発生と同時に、直ちに対応できる緊急監視システムが、新たに設けられた。
 
 土壌の放射能汚染
 放射性降下物が農作物の中に入ってくるルートが二つある。一つは、葉、茎や花に放射性降下物が付着し、そこから直接吸収されるルート。もう一つは、放射性降下物が土に沈着し、根を通して吸収されてくる間接的なルートである。原水爆実験や原発事故が発生した直後は、大気中に浮遊している放射性物質が徐々に降下し、作物の葉や茎に付着する。放射性物質は、そこから作物に直接吸収される。しかし、時間の経過とともに間接的なルートで吸収される。
 
 このようなことから、チェルノブイリ事故のフォロー調査が開始された。その結果、次のことなどが明らかにされた。水田作土に存在する117Csの滞留半減時間は、溶脱も含めて17年である。コムギの90Srおよび137Csの汚染は、放射能が多量に降下するときは直接的、微量に降下するときは間接的な経路であった。大気から降下する90Srおよび137Csと米麦中の両核種の含量の間に高い正の相関を認め、両者の間の汚染推定式を確立した。また、「収穫期のコムギ地上部および作土中のセシウム137濃度」、「森林におけるセシウム137とセシウム134の濃度分布」などの調査をおこなった。
 
4.東海村ウラン加工施設臨界事故と緊急放射能調査
 1999年9月30日の午前10時35分ころ、茨城県東海村にある核燃料加工会社(JCO社東海事業所)で、わが国では初めての臨界(原子炉の中で、核分裂連鎖反応が一定の割合で維持されている状態)事故が発生した。臨界状態が20時間ほど続いたため、ウランの核分裂生成物ができ、キセノン(139Xe)やクリプトン(91Kr)などの希ガスや、ガス化しやすい131Iなどの一部が外部に漏れた。これによって、3人の従業員が急性放射線症状を呈し、うち1人は12月21日に、さらにもう一人が翌年4月27日に亡くなった。しかし結果的には、事故現場から半径2km以遠では生成物は検出されなかった。チェルノブイリ事故に比べれば規模の小さいものであった。
 
 茨城県は、この事故の影響調査を農水省に依頼した。農環研では、茨城県および農水省技術会議事務局の要請を受け、ただちに企画調整部長を本部長とする対策本部を10月1日に設置した。この緊急事態にあたって、茨城県は農政企画課長、技術会議は連絡調整課長および農環研は企画調整部長がそれぞれ窓口となり事故の影響調査に対応をした。
 
 10月1日の午後、茨城県から事故現場の野菜、果樹などが経済連を通して各地から分析用試料として当所に持ち込まれた。午後7時に事故現場の10km圏付近の6品目と圏外13品目の試料が持ち込まれ、すべての分析試料はととのった。その後、当所の分析担当者は徹夜で分析作業に入った。
 
 分析を依頼された作物は、ネギ、飼料用トウモロコシ、ナス、カンショ、水稲、シイタケ、トマト、サツマイモ、ピーマン、レンコン、レタス、クリ、ナシ、カキ、シイタケ、キュウリ、コマツナ、キャベツ、ニラであった。分析対象とした人工放射性核種は、131I、137Cs、134Cs、マンガン(54Mn)、コバルト(60Co)、セリウム(144Ce)、ルテニウム(106Ru)、ジルコニウム(95Zr)であった。分析には、ゲルマニウム半導体検出器・ガンマ線スペクトロメトリーシステムを使用し、生の試料を検出器にかけた。
 
 その結果、人工放射性核種は、シイタケを除くすべての試料で検出されなかった。シイタケの137Csだけが10ベクレルkg−1を超えていた。しかし、キノコ類は137Csを集積することが知られていた。日本産のキノコ類の平均137Cs濃度(1989−1991年)は37ベクレルkg-1で、今回の値はこの平均値より低かった。事故直後の分析結果から、シイタケの137Cs濃度の高さが汚染の不安を誘ったが、実はこの濃度の高さが事故の安全宣言につながったのである。
 
おわりに
 20世紀は、科学技術の大発展とそれに付随した成長の魔力に取り憑かれた世紀といえるのではないか。ここでいう成長とは、あらゆる意味での物的な拡大を意味する。自動車、工業生産、人口、エネルギー使用、食糧増産など枚挙にいとまない。
 
 このような成長を支える科学技術はわずか100年前にはじまり、その後、肥大、拡大し、大きな潮流となって、20世紀後半を駆け抜けた。この歴史の潮流の中で、われわれはものを豊かに造り、その便利さを享受するとともに、この技術を活用し、宗教や政治や主義にからむ多くの戦争を行ってきた。今もそのことは続いている。
 
 さて、われわれが生きようとする21世紀の世界的規模での課題とは何であろうか。それは、「環境」と「情報」と「エネルギー」だろう。いずれも現在の社会構造を根底から変革する威力を内包しているうえ、これらに対応しないで事を怠ると、まさに遅れた国に成らざるを得ない。その上、これらは一国の混乱が世界中に様々な影響をもたらす。地球温暖化問題や2000年問題や放射能汚染問題などがそのよい例である。
 
 このような観点からも、当所の環境放射能の調査研究はきわめて重要なものである。今後とも、当所が地道な調査研究を続け、緊急事態に対応することが、最終的なクライアント(顧客)である国民への責務であろう。本稿に関連する成果情報や文献を以下に示した。関心のある方は参照いただきたい。
 
参考資料
1)農業環境研究成果情報第4集:チェルノブイリ原発事故に伴う農業環境への放射能汚染調査、13-14、昭和63年(1988)
2)農業環境研究成果情報第15集:水田作土に存在する137Csの滞留半減時間と溶脱率、91-92、平成11年(1999)
3)農業環境研究成果情報第16集:わが国の白米中の90Srと137Cs含量の長期間の推移、67-68、平成12年(2000)
4)農業環境研究成果情報第17集:不測の核事故が生じたときの米麦の放射能汚染の推定方法、49-50、平成13年(2001)
5)農業環境研究成果情報第18集:わが国における小麦の放射能汚染の長期観測、40-41、平成14年(2002)
6)小山雄生:土の危機、読売科学選書27、読売新聞社 (1990)
7)結田康一・駒村美佐子・小山雄生:チェルノブイリ原発事故によるコムギ地上部と土壌のI-131汚染−降雨の影響、土壌肥料学雑誌、61, 165-172 (1990)
8)駒村美佐子・津村昭人:誘導結合プラズマ質量分析による土壌から白米への放射性核種の移行係数算定、RADIOISOTOPES, 43, 1-8 (1994)
9)駒村美佐子・津村昭人・小平 潔:日本の水田における作土中の137Csの滞留半減時間、RADIOISOTOPES, 48, 635-644 (1999)
10)駒村美佐子・津村昭人・小平 潔:わが国での90Srと137Csによる白米の汚染−1959年以来37年間の長期観測とその解析−、RADIOISOTOPES, 50, 80-93 (2001)
11)駒村美佐子・津村昭人・木方展治・小平 潔:国産小麦の90Srおよび137Cs汚染に関する長期観測と解析−1959年以来チェルノブイリ事故を含む37年間−、RADIOISOTOPES, 51, 345-363 (2002)
12)結田康一・駒村美佐子・木方展治・藤原英司・栗島克明:原子力施設等に伴う農作物・土壌の緊急放射能調査−チェルノブイリ原発事故と東海村臨界事故への対応を中心に−、土壌肥料学雑誌、73, 203-210 (2002)
 
 

地球規模の窒素循環の変動が人間の健康に及ぼす影響
 
Human health effects of a changing global nitrogen cycle
A.R. Townsend et al., Front Ecol. Environ., 1, 240-245 (2003)
 
 窒素の使用によって食料の生産量は増加するが、これにともなって地球規模での窒素循環に変動をきたし、人間の健康にも影響が及んでいる。集約的な施肥作物によって飼料が大量に生産され、世界中に食料を配分することができているが、富んだ国家ですら動物の飼料をバランスよく配分することは難しい。大気や水系で運ばれる過剰な窒素は、呼吸器の疾患、心臓病、さまざまなガンと関係している。このような過剰な窒素に対して、生態学的なフィードバックがおきている。作物の生育が抑制され、免疫源となる花粉の生産が増加し、また、西ナイルウイルス、マラリア原虫およびコレラ菌など病原媒介生物で運ばれる多くの病気の勢力に影響する可能性がある。これらの例やほかの例から、生産量の増大を目指した固定窒素の使用は、公衆衛生面でのリスクをもたらすことになるだろう。
 
 

都市化と土地利用変動が気候に及ぼす影響
 
Impact of urbanization and land-use change on climate
E. Kalnay and M. Cai, Nature, 423, 528-531 (2003)
 
 温室効果ガスの放出と、都市化や農業などによる土地利用の変動は、気候変動に影響を及ぼす最も重要な事項である。しかし、これらの二つの人間活動は、いずれも日平均地上気温を上昇させる傾向があるため、両者の影響を分けて定量化することは難しかった。都市化の影響については、これまで都市での観測と都市周辺部での観測を比較することによって推定されてきた。
 
 しかし都市と郊外を区別する際に、人口分布で分ける場合と人工衛星から観測された夜間の光の観測データで分ける場合では、結果が有意に異なる。この報告では、米国本土で観測された地上気温の傾向と、地上観測に左右されない過去50年分の全球気象データの再解析から得た、対応する地上気温の傾向の再現性と観測値の差を用いて、土地利用の変化が地上の温暖化に及ぼす影響を推定している。
 
 その結果、観測された気温日較差の減少の半分が、都市と他の土地利用の変化によるものであることを示唆している。
 
 

対象外生物への悪影響は生物的防除のアキレス腱か?
生物的防除のリスクを軽減するための事例分析

 
Nontarget effects: The Achilles's heel of biological control?
Retrospective analyses to reduce risk associated with biocontrol introductions
Louda, S.M., R.W. Pemberton, M.T. Johnson, P.A. Follett
Annual Review of Entomology, 48, 365-396 (2003))
 
 農業環境技術研究所は、農業生態系における生物群集の構造と機能を明らかにして生態系機能を十分に発揮させるとともに、侵入・導入生物の生態系への影響を解明することによって、生態系のかく乱防止、生物多様性の保全など生物環境の安全を図っていくことを重要な目的の一つとしている。このため、農業生態系における生物環境の安全に関係する最新の文献情報を収集しているが、今回は導入天敵の生態影響に関する論文の一部を紹介する。
 
要 約
 
 古典的な生物的防除(導入天敵を野外に放し、定着させて有害生物を防除する)の生態学的リスクについての論争が行われている。そこで、対象外生物への影響について定量的なデータがある10の事例(雑草の天敵昆虫の導入3例、害虫に寄生し捕食する天敵昆虫の導入7例)を調査した。
 
 その結果、次のような傾向が明らかになった。 (a) 防除対象の生物に近縁な土着生物がもっとも攻撃されやすい。 (b) 寄主特異性試験によって生理学的な寄主範囲が調べられるが、生態学的な寄主範囲は調べられない。 (c) 対象外生物への攻撃の生態学的な結果を予測するためには、個体群動態に関わる多様な研究が必要である。 (d) 土着生物への影響の程度は事例によって大きく異なり、環境条件が関係することが多い。 (e) 対象外生物への影響の大きさについての情報は少ない。 (f) 稀少生物が攻撃されると、個体数の減少が加速されて絶滅のリスクが増大する。 (g) 生物的防除のために導入した天敵は、対象外生物に直接の影響を及ぼすだけでなく、食物連鎖などを通じて間接的に影響することがある。 (h) 導入天敵が農業生態系から自然生態系に移動・分散することがある。 (i) 導入天敵が対象外生物の群集全体をかく乱する可能性がある。 (j) 調査した事例には、導入天敵の寄主範囲などの適応的変化を示す証拠は見あたらない。
 
 以上の再調査の結果から、次の6つの留意点が指摘された。 (a) 寄主範囲の広い導入天敵の利用を避けること。(b) 寄主特異性試験の範囲を拡大すること。(c) 寄主になるかもしれない生物へのリスク評価をより正確に行うため、生態学的な情報をもっと利用すること。 (d) 生態学的リスクの検討には個体群レベルの特性を考慮すること。(e) 生物的防除を検討する際には、生態学的リスクの基準を設け、防除対象生物と導入天敵を適切に選択すること。 (f) 寄主範囲の狭い天敵を、予測される効果や生態学的な影響の程度に従って順位付けること。また、適応に関わる遺伝学的データを調査することも必要である。
 
 過去の事例を分析することによって、生物的防除の将来の安全性をさらに高めるための明確な方向が示されたと、著者たちは結論付けている。
 
 

本の紹介 119:日本海学の新世紀3
−循環する海と森−
小泉 格編、角川書店
 (2003) ISBN4-04-821060-2
 
 
 「森は海の恋人」運動というものがある。これは平成元年、養殖業の畠山重篤氏が始めた。漁師が森に木を植える運動である。氏は、気仙沼湾の入り江の一つの舞根湾で生食用のカキ養殖を営んでいる。南下する寒流の親潮と、北上する暖流の黒潮がぶつかり合う三陸沖。その太平洋へ北西から南東方向に突き出た唐桑半島(宮城県)の西岸の奥に舞根湾がある。この湾は山に囲まれ、湾の奥の水際まで樹木が茂っている。水深は湾口で25メートル、湾奥でも5メートルはある。ここでの養殖の経験が、冒頭の言葉、「森は海の恋人」を生むきっかけになった。
 
 カキの養殖には、森林がきわめて重要である。森林では、地面に積もった落ち葉や枯れ枝が土壌の微生物によって分解され、腐食が多量にある土層ができる。この土層では、水に溶ける腐植物質のフルボ酸という有機物が生成される。このフルボ酸は土層で鉄を含む三、二酸化物や高分子有機物に吸着されて存在している。これらの成分は、雨とともに川から海へ運ばれ、植物プランクトンや海藻に吸収される。
 
 元来、海は鉄分が少ない。一方、カキの餌になる植物プランクトンや海草は鉄分を必要としている。プランクトンや海藻が成長するためには、養分となる窒素(硝酸塩)、リン(リン酸塩)、ケイ素(ケイ酸塩)を吸収する必要があるが、そのためには鉄分を体内に充分取り込む必要がある。ここに、海にとって森林が重要であることの理由がある。
 
 この事実は、「循環する海と森」の一部の例を示したに過ぎない。この本では、哲学者の山折哲雄氏、文化人類学者の安田喜憲氏、森の専門家の稲本 正氏、日本の美しい森を守ることに熱心なC.W.ニコル氏、国立公園協会理事長の瀬田信哉氏など、さまざまな分野のひとびとが「循環する海と森」についての想いと現実を語っている。
 
 この背景には、以下の目次に示すように日本海学の提唱がある。そこには、生態系を生き物とみた考え方が感じられる。さらに、日本海学シンポジウム−環日本海文明〜森の文明パラダイム〜−の様子が掲載されている。参加者は、宇宙飛行士の毛利 衛氏、NHK解説委員の小出五郎氏、作家の木崎さと子氏、日本ペンクラブ会員の平野秀樹氏、文化人類学者の安田喜憲氏、気象学者の安成哲三氏など多士済々の方々である。
 
 この本を眺めていると、「循環」の科学は、文明と、文化と、自然科学と、その他の何かとを、すべて統合することによって成立するものであること痛切に感じる。目次は以下の通りである。
 
はしがき
日本海学の提唱について[富山県 国際・日本海政策課]
<2002年度日本海学シンポジウム>−環日本海文明〜森の文明パラダイム
 基調講演 [毛利 衛]
 パネルディスカッション [木崎さと子/平野秀樹/毛利 衛/安田喜憲/安成哲三/小出五郎(司会)]
循環する海と森
「環日本海」の原風景−親鸞と日蓮 [山折哲雄]
日本海沿岸第二国土軸「桃源郷」構想 [安田喜憲]
 <エッセイ>森と海の循環 [稲本 正]
 <インタビュー>C・W・ニコル 森と水と動物たちを語る
 <エッセイ>海の身になって考える [瀬田信哉]
 <エッセイ>循環景観としての散居村 [新居千秋]
環日本海構想の歴史的変遷−「開発優先」型から「環境共生」型構想へ [若月 章]
循環の海をどう戦略的に演出するか−欧州北海地域協力のケース [柑本英雄]
循環型社会のための自治体国際協力 [吉田 均]
環日本海海洋環境ウォッチ−日本海研究のための衛星データセンター [得丸久文]
 <エッセイ>藁でつくられた定置網−海と陸との循環システム [小境卓治]
循環体系としての環日本海域 [小泉 格]
日本海深層循環系の成立と現状 [蒲生俊敬]
雪氷学から見た環日本海水循環 [川田邦夫]
陸と海がつながる自然の循環系 [張勁]
宇宙から見た日本海 [坂田俊文]
 <エッセイ>潜水調査船がとらえた循環日本海の深海底 [長沼 毅]
著者紹介/編集後記
 
 

本の紹介 120:生命40億年全史
リチャード・フォーティ著、渡辺政隆訳、草思社
(2003) ISBN4-7942-1189-9

 
 
 当所のキャッチフレーズは、「風にきく 土にふれる そして はるかな時をおもい 環境をまもる」である。これには、環境研究は「時空を超えて」成さねばならぬという想いが含まれている。「時空を超えて」などと、簡単に言うことはできるけれども、時間と空間を超えて、ものを見たり考えたりすることは容易なことではない。
 
 農林水産省農業環境技術研究所が独立行政法人に移行するときに出版した「17年の歩み」を書くのだって、容易なことではなかった。それなのに、この複雑きわまりない、そのうえ気の遠くなるような40億年の生命の歴史をどう書くつもりなのだろう。生命が誕生してから現在までの、それこそ時空を超えた歴史を、ひとつの物語として、それも科学的な知見をもとに、そして売れるほどおもしろい本にするとは、人間業とは思われない。
 
 歴史小説家の宮城谷昌光は、王と神の交信のために創られた漢字の虜になり、20年もかけてその由来を徹底的に研究し、中国の商(殷)王朝の時代や三国志の時代を小説で鮮やかに再現した。ここで紹介する本の著者のリチャード・フォーティも、長い間かけて古生物の研究に没頭していた。彼は生まれついてからの自然史愛好家で、少年時代からアンモナイトの化石を発見したり、大英自然史博物館の三葉虫学者になるなどの決意をする。その後、希望通りの人生がまっており、大英自然史博物館古無脊椎動物部門の主任となる。
 
 科学者が書いたこの本が、ひとびとに受け入れられるのは、その教養の広さと専門的知識の深さによるのは当たり前としても、生命の進化史を法則性と多様性を織り交ぜて示しているからであろう。そこには、科学的厳密さと物語的な豊かさが兼ね備わっている。
 
 500ページに及ぶこの本は、北極の島スピッツベルゲンでの化石探しの話から始まり、文明が始まるところ、すなわち先史時代が歴史へと代るところで終わる。粗末な石碑や尊大な記念碑が建立され、人間の非情な行為や、神になりかわる野望を語る記憶が登場する時代である。ここで終わる著者の気持ちのなかには、地球がなにかしらの変動をこうむって人間が滅びても、生命はなんとか対処して生き続けるであろうという想いが認められる。目次は以下の通りである。
 
第1章 悠久の海/ 第2章 塵から生命へ/ 第3章 細胞、組織、体/ 第4章 私のお気に入りと仲間たち/ 第5章 豊饒の海/ 第6章 陸上へ/ 第7章 森の静謐、海の賑わい/ 第8章 大陸塊/ 第9章 壮大なものと控えめなもの/ 第10章 終末理論/ 第11章 乳 飲み子の成功/ 第12章 人類/ 第13章 偶然の力
 
 

本の紹介 121:エコ・エコノミー時代の地球を語る
レスター・ブラウン著、福岡克也監訳、家の光協会
(2003) ISBN4-259-54638-4

 
 
 この本の著者については、「情報:農業と環境 No.26」の「本の紹介 77:エコ・エコノミー」で紹介した。その中で、かつてワシントン・ポスト紙は氏を「世界で最も影響力のある思想家」と評したことがあると書いた。ことほど左様に、氏が世に問う書籍は世界を席巻する。この本もその例外ではない。
 
 この本は、「エコ・エコノミー」に続き氏がアースポリシー研究所で発刊した第二作目の作品であり、3部からなる。第1部のタイトルは「生態学的な赤字がもたらす経済的コスト」と題して、われわれは今、大きな「戦争」を闘っていると解説する。この闘いとは、「拡大する砂漠」と「海面上昇」である。第1章では、中国において、生態学的な赤字がどのようにして砂漠化につながったかが論じられる。第2章では、生態学的な赤字が食料供給にもたらす悪影響について取り上げ、土壌と水の不足をどのように解消していくかを考える。第3章では、自然の炭素吸収能力を超える炭素排出が気候をかく乱すること、炭素排出を減少させることの必要性、環境的持続可能性の達成のための市場改革が論じられる。
 
 第2部は「見逃せない世界の動向」と題して、「エコ・エコノミー」の構築に向けて、その進展状況をはかる尺度として12の指標を選び、これらを解説する。その指標とは、世界人口、世界経済、穀物生産量、海洋漁獲量と水産養殖量、森林面積、水の需給状況、炭素排出量、地表平均気温、氷河と氷床、風力発電、自転車生産台数および太陽電池出荷量である。
 
 第3部では、20項目の「エコ・エコノミー最新情報」が掲載されている。それらは、「エネルギーと気候」、「人口と保健衛生」、「食料生産と土地と水資源」、「漁業、林業における生物多様性の喪失」および「エコ・エコノミーに向けて」に整理されている。目次は以下の通りである。
 
はじめに
第1部 生態学的な赤字がもたらす経済的コスト
 第1章 中国を侵食する砂漠
加速する砂漠化/生態学的赤字とダスト・ボール/砂漠化防止戦略/砂漠化防止に失敗したときの国家的損失/中国にとどまらない世界的影響
 第2章 楽観的な食料見通しの再点検
世界中で失われる「母なる土壌」/急速に拡大する水の赤字/供給過剰から不足へと変化する食料経済/食料需要を左右する大豆/食料安定供給のための選択
 第3章 破滅を導く気候変動を回避する
増加する気候変動にともなう損失/エネルギー経済を再構築する/風力・水素型経済の実現に向けた挑戦/環境コストを市場に反映させる
 
第2部 見逃せない世界の動向
世界人口/世界経済/穀物生産量/海洋漁獲量と水産養殖量/森林面積/水の需給状況/炭素排出量/地表平均気温/氷河と氷床/風力発電/自転車生産台数/太陽電池出荷量
 
第3部 エコ・エコノミー最新情報
 第1章 エネルギーと気候
風力発電に目を向けるアメリカの農民
時代錯誤な地球気候連合の行方
気候変動により薄氷を踏む世界
再び世界を支配するOPEC
時代遅れのブッシュ政権のエネルギー政策
 第2章 人口と保健衛生
人口増加が水不足地域の貧困層を直撃する
苦しむアフリカのために世界ができること
エイズがアフリカの家庭と生産力を崩壊させる
健康を脅かす肥満の深刻化
出生率の抑制に成功したイラン
 第3章 食料生産と土地と水資源
道路建設が農地を侵食する
黄塵あらしが中国の将来を脅かす
深刻化する水不足が中国の食料安定供給を脅かす
過放牧により踏み荒らされる草地
 第4章 漁業、林業における生物多様性の喪失
食料供給源として飛躍的に伸びる水産養殖
霊長目の存在を脅かすヒトという生物
不法伐採が環境と経済の安定を脅かす
 第5章 エコ・エコノミーに向けて
飛躍的に増大するグリーン電力の需要
根本的解決が求められるニューヨークのごみ問題
環境保護のための税制改革
 
  原注/監訳者あとがき/レスター・ブラウンとアースポリシー研究所
 
 

本の紹介 122:新・土の微生物(10)研究の歩みと展望
日本土壌微生物学会編、博友社
2003) ISBN4-8268-0192-0
 
 
 土壌微生物学会は、これまで「土と微生物:1966年」、「土の微生物:1981年」および「新・土の微生物:1996〜2003年」を発行してきた。これらは、それぞれの時代における土壌微生物研究の進展状態を紹介した書物になっている。
 
 「新・土の微生物」シリーズは、全10巻から成る。各巻のタイトルは、1)耕地・草地・林地の微生物、2)植物の生育と微生物、3)遺伝子と土壌微生物、4)環境問題と微生物、5)系統分類からみた土の細菌、6)生態的にみた土の菌類、7)生態的にみた土の原生動物・藻類、8)土のヒト病原菌類、9)放線菌の機能と働き、と、本書の10)研究の歩みと展望、である。
 
 「われわれは、どこからきて、今どこにいて、どこに行こうとしているのか」。この命題は、ひと、集団、組織、社会全体に、いつも付きまとうものである。これは、科学においても例外ではない。このシリーズの最終巻である本書は、このような視点をもって「土壌微生物研究はどこからきて、今どこにいて、どこに行こうとしているのか」を目論んだものである。
 
 「土と微生物」、「土の微生物」、「土壌微生物」、「土壌微生物学」、「土壌微生物バイオマス」などさまざまな言葉があるので、その定義や意味が知りたくて、朝倉書店の「土壌学事典、1993年」と、Marcel Dekker 社の「Encyclopedia of Soil Science, 2002」をひいてみたが、これらの言葉はなかった。なぜだろう。Dowden, Hutchinson & Ross 社の「Encyclopedia of Earth Sciences, Vol. 12 The Encyclopedia of Soil Science, Part 1, 1979」に、Soil microbiology (土壌微生物学)の定義と説明だけは見つかった。「土壌微生物」についての定義はみつからなかった。土壌化学、土壌物理といった項目の類で、もはや定義は必要ないのかもしれない。
 
 なおこの本の編集者は、服部 勉、斎藤雅典および古屋廣光である。斉藤雅典は当所の職員である。目次は次の通りである。
 
まえがき
第1章 土壌微生物・土壌病害研究の歩み
1−1 はじめに/ 1−2 微生物を見る:顕微鏡技術の発達/ 1−3 自然発生説の否定 1−4 純粋培養の時代/ 1−5 土壌病の病原学/ 1−6 土壌微生物学の黎明期から黄金時代 / 1−7 土壌ポピュレーション/ 1−8 土壌微生物としての菌類/ 1−9 個生態学的研究から生物的防除研究へ/ 1−10 わが国の土壌微生物・土壌病害研究の歩み
 
第2章 土を住家とする細菌の探求
H. J. Coonによるアルスロバクターの生態研究とその発展を考える−
2−1 はじめに/ 2−2 アルスロバクターの発見とその生態の探求/ 2−3 固有型細菌の生理特性/ 2−4 今後の土の細菌の探求を考える
トピック(1) 平板のコロニー数は、なぜばらつくのか?
 
第3章 乾土効果からバイオマス研究へ
3−1 はじめに/ 3−2 部分細菌効果に関する研究/ 3−3 日本における乾土効果に関する研究/ 3−4 Jenkinsonらによるバイオマス測定法の開発/ 3−5 さまざまなバイオマス測定法/ 3−6 バイオマス研究の意義と今後
 
第4章 土壌病菌生態研究草創期の道しるべ
S. D. Garrettの思索の軌跡−
4−1 はじめに/ 4−2 土の糸状菌をどのように捉えるか/ 4−3 競合的腐生能力−土のなかの生存競争/ 4−4 植物を慢性的に侵す土壌生息性菌類/ 4−5 植物を分解する菌類の遷移/ 4−6 寄生性の分化/ 4−7 寄生性の進化/ 4−8 終わりに
 
第5章 生物防除研究の歩みと21世紀での役割
Baker Cook著「Biological Control of Plant Pathogens」が果たした役割と意義−
プロローグ
5−1 「生物防除」研究のセンターとしてのワシントン州立大学/ 5−2 「生物防除」の芽生えと発展/ 5−3 「生物防除」研究の黄金時代/ 5−4 「生物防除」の進化/ 5−5 「生物防除」の転換期/ 5−6 土壌病研究の道標
トピック(2) 植物病理学確立の契機となったジャガイモ疫病
 
第6章 根圏と根圏微生物
6−1 はじめに/ 6−2 根圏の概念の成立/ 6−3 研究手法の発達/ 6−4 根圏微生物の植物生育促進および発病抑制効果
 
第7章 フザリウム病菌の生態
7−1 はじめに/ 7−2 基本的な生態の解明−手探りで進められた初期の研究/ 7−3 土壌微生物による病原菌抑止
 
第8章 リゾクトニア属菌の分類・生態的研究の歩み−世界をリードした日本の研究
8−1 はじめに/ 8−2 リゾクトニア属菌/ 8−3 Rhizoctonia solani の病原性、培養型による類別/ 8−4 Rhizoctonia solaniの菌糸融合による類別/ 8−5 Rhizoctonia solaniの生態学的、疫学的研究/ 8−6 リゾクトニア属菌分類の新しい動き
トピック(3) 埋もれた菌根研究
 
第9章 窒素はどこからきたのか? −窒素固定研究の歩み−
9−1 はじめに/ 9−2 窒素固定の発見/ 9−3 根粒菌の分離と根粒形成の確認/ 9−4 根粒菌の人工接種と菌株の選抜/ 9−5 日本における初期の窒素固定研究/ 9−6 水田土壌における窒素固定作用
 
10章 水田土壌の微生物学:「水田土壌の化学」から地球温暖化ガス研究へ
10−1 はじめに/ 10−2 塩入松三郎「水田土壌の化学」と土壌微生物/ 10−3 水田土壌の還元過程と微生物代謝/ 10−4 微生物学者、水田へ足を踏み入れる/ 10−5 水田のメタン発酵−掃除屋(スカベンジャー)から悪玉に/ 年表
 
 

研究、技術開発およびデモンストレーションのための個別計画
「欧州研究圏の統合、強化」(2002−2006)の決定
−その3−

 
 
 EU(欧州連合)は、20026月に欧州共同体研究・技術開発第6次枠組み計画(2002-2006)を決定した。さらに、この枠組み計画に示された「欧州共同体の研究の集中と統合」と「欧州研究圏の基盤の強化」について、欧州委員会による間接的な推進戦略を具体的に定めた「個別計画」が20029月に採択され、実施されている。
 
 ここでは、欧州官報に掲載された文書(OJ L 294, 20021029, 1-43ページ)、"Council Decision of 30 September 2002 adopting a specific programme for research, technological development and demonstration: 'Integrating and strengthening the European Research Area' (2002-2006)"(2002/834/EC) (研究、技術開発およびデモンストレーションのための個別計画「欧州研究圏の統合、強化」(2002-2006)を採択する2002930日の欧州連合理事会の決定):
http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:32002D0834 (最新のURLに修正しました。2014年5月)
から、研究の優先テーマ領域のうち、「ナノテクノロジー」、「航空宇宙」、「食品の質と安全性」に関する部分を仮訳して紹介する。仮訳するに当たって、不明な用語については、参考になる資料をウェブサイトから検索し、それらを基に訳した。これらの用語には*印を付け、参照した資料の中から、いくつかの資料を掲載した。また仮訳した内容が適切に表現されていない部分もあると思われるので、原文で確認していただきたい。
 
 なお、この決定の本文、および附則(個別計画)の前の部分は、情報:農業と環境の第37号(20035月)および第38号(20036月):
http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn037.html#03714
http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn038.html#03815
に紹介されているので、あわせてご覧いただきたい。
 
官報 L 29429/10/2002 P.0001-0043
研究、技術開発およびデモンストレーションのための個別計画
「欧州研究圏の統合、強化」(2002-2006年)を採択する
2002年9月30日の理事会決定
(部分)
 
... ナノテクノロジー1とナノサイエンス2、知識ベースの多機能材料、および新たな製造プロセスとデバイス
 
 知識ベース社会に向けた、また持続可能な開発という二つの面の移行には、生産についての新たなパラダイムと製品−サービスに関して、新たな基本理念が必要である。欧州の生産業は、全体として、資源ベースから知識ベースに、より環境にやさしい取り組みに向けて、量から質に、大量生産の使い捨て製品から、要求に応じて製造された再使用可能な、グレードアップ可能な製品−サービスに、すなわち「物的な有形の」製品から「無形の」付加価値製品、プロセス*3とサービスに移す必要がある。
 
 これらの変化には、産業構造の抜本的な転換が関連し、ネットワークの能力をもち、ナノテクノロジー、材料科学、エンジニアリング、情報技術、生命科学および環境科学を結合させた新たな複合技術(hybrid technology)に精通している革新的企業のより強力な影響力を必要とする。このような発展には従来の科学の最先端領域を横断した強力な共同研究を必要とする。先端産業の発展には、技術と組織との強い相乗効果も必要であり、両者の結果は、新技術に強く左右される。
 
 技術的解決の成功には、設計と製造工程において、ますます上流の工程を追求しなければならない;新材料とナノテクノロジーは、この点で、技術革新の誘導要素としての重要な役割をもっている。これには、欧州共同体の研究活動を短期からより長期に、漸増的な戦略から飛躍的な戦略に変える技術革新に重点を移すことが必要である。欧州共同体の研究は、国際的面から大きな利益を与えるだろう。
 

*1: http://www.astem.or.jp/kyo-nano/nanotechnology/ (対応するページが見つかりません。2011年5月)
    http://www.internetclub.ne.jp/nanotech/REPORT/pdf/010301.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www.toshiba.co.jp/tech/review/2002/01/57_01pdf/a02.pdf
*2: http://www.cir.tohoku.ac.jp/j/cirnet/theme/nano.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*3: http://www.erp.gr.jp/old/006/books/022/013.html (対応するページが見つかりません。2015年4月)

 
研究の優先項目
 
(i) ナノテクノロジーとナノサイエンス
 
 ナノテクノロジーとナノサイエンスは、材料工学の新たな手法になるだろう。欧州は、ナノサイエンスにおいて有利な地位を得ており、ナノサイエンスを欧州産業にとって真の競争優位に転換する必要がある。目的は二つあり、研究技術開発(RTD)を集約した欧州ナノテクノロジー関連産業の創出を促進することと、既存の産業分野にナノテクノロジーの取り込みを促進することである。研究は長期的で、高いリスクがあるかもしれないが、産業への応用に関心が向けられるだろう。十分な限界規模をもつプロジェクトに着手しているコンソーシアムの中で、とりわけ、産業と研究の緊密なやりとりを促進することによって、生産会社や創立間のない小さな企業を含む中小企業を助成する積極的な方策を追求する。
 
現象を理解し、プロセスに精通し、研究ツールを開発することへの長期的な学際的研究: 目的は、応用志向のナノサイエンスとナノテクノロジーの包括的な基本的知識ベースを拡大し、最先端の研究ツールと技術を開発することである。
 
研究は、次のことに重点をおく: 分子スケールとメゾスコピック*1スケールの現象; 自己組織化材料*2および構造; 分子と生体分子の機構およびエンジン; 無機的、有機的、生物学的な材料およびプロセスの開発を統合するための複合領域の新たな手法。
 

*1: ミクロとマクロの中間のサイズ
    http://www.nedo.go.jp/iinkai/hyouka/bunkakai/14h/33/1/6-1.pdf (該当するファイルがみつかりません。2011年5月)
*2: http://www.nedo.go.jp/iinkai/hyouka/bunkakai/14h/33/1/6-1.pdf (該当するファイルがみつかりません。2011年5月)  のp.23

 
ナノバイオテクノロジー*1 目的は、生体と非生体との統合化研究を支援し、加工のため、そして医療や環境の分析システムのためなど、多くの応用に新領域を開く。
 
研究は、次のことに重点をおく: ラボ・オン・チップ(lab-on-chip*2)、生体へのインターフェイス、表面修飾ナノ粒子、先端の薬物送達*3および生体とナノシステムあるいはナノエレクトロニクス*4を統合する他の領域(たとえば生理活性体の標的を定めた送達); 生体分子や生体複合体の操作および検出、生体の電子的検出*5、マイクロ流体工学*6、基質上の細胞成長の促進と抑制。
 

*1: http://www.s-graphics.co.jp/tankentai/news/selfassembler.htm (最新のURLに修正しました。2010年5月)
*2: http://www.applc.keio.ac.jp/~fujimoto/biochip.html (最新のURLに修正しました。2010年5月)
*3: http://www.achem.kansai-u.ac.jp/kinosei/dds.html (最新のURLに修正しました。2010年5月) (対応する URL がみつかりません。2011年5月)
    http://www.seikei.or.jp/kakubu/yakuzaika/yakuzaika9.htm
*4: http://www.phen.mie-u.ac.jp/Lab/ne.html> (対応するページが見つかりません。2015年6月)
*5: http://www.fed.or.jp/salon/bio/bio08_imai.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*6: http://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/keyword/209.html
    http://www.coe.waseda.ac.jp/shoji/4-j.html (対応するページが見つかりません。2012年6月)

 
材料と構成部品をつくるためのナノメートル(100万分の1ミリメートル)目盛りの工学技術: 目的は、ナノ構造を制御することによって、優れた能力をもつ新規の機能と構造の材料を開発することである。これには、それらの製造と加工が含まれる。
 
研究は、次のことに重点をおく: ナノ構造の合金と複合材料、高機能の高分子材料、ナノ構造をもつ機能性材料および適切な基質の中に秩序化された分子システムやナノ粒子の埋め込み。
 
操作と制御のデバイスと手段の開発: 目的は、ナノスケールの分析と製造のための次世代の計装を開発することである。めざす目標は10ナノメートルのオーダーの加工サイズあるいは解像度である。
 
研究は、次のことに重点をおく: ナノスケールの製造のためのさまざまな先端技術(リソグラフィー*や顕微鏡検査に基づく技術); 材料の自己組織化特性を活用し、ナノスケールの機械を開発するための画期的な技術、方法、あるいは手段。
 
保健と医療のシステム、化学、エネルギー、光学、食品および環境などの領域における応用: 目的は、産業関連の材料と加工技術のデバイスに関する研究開発を統合することによって、画期的な応用のためのナノテクノロジーの可能性を育てることである。
 
研究は、次のことに重点をおく: コンピュータ・モデリング、高度な製造技術; 特性を強化した革新的材料の開発。
 
(ii) 知識ベースの多機能材料
 新たな機能と能力向上を提供する新たな知識容量の大きな材料は、技術、デバイスおよびシステムの技術革新の重要な誘導要素であり、運輸、エネルギー、医療、電子工学、光通信および建設などの部門における持続可能な開発と競争力に役立つ。先端技術(emerging technology*1の市場は今後10年以内に、規模が1桁か2桁までに成長することが期待されているが、この市場おける欧州の優勢な立場を確実にするためには、さまざまな関係者がリスクの高い研究を含む、最先端RTDの協力を介して、あるいは材料研究と産業的応用との統合を介して、結集する必要がある。
 

*1: 将来実用化が期待されている先端技術

 
基本的知識の開発: 目的は、実験、理論およびモデル化のツールを利用して高機能材料のマスタリング*1と加工に関連する複雑な物理化学ならびに生物学的な現象を解明することである。これは、定められた物理的、化学的あるいは生物的な特性をもつより大きな錯体*2を、あるいは自己組織化構造体*2を合成するのための基礎を提供する。
 
研究は、次のことに重点をおく: 定められた特性をもつ新たな構造体を設計、開発するための、長期的な、横断的領域の、産業リスクの高い活動; 新規の錯体高分子とそれらの化合物の合成、市場開発性および利用の可能性を重視した超分子と高分子の工学技術の開発
 

*1: http://panasonic.jp/support/term/japan/ma_1.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www.easy.co.jp/primocd/words4.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*2: http://www.nedo.go.jp/iinkai/hyouka/bunkakai/14h/33/1/6-1.pdf (対応するページが見つかりません。2011年5月)  のp.2429参照

 
知識ベースの多機能材料および生体材料の製造、変形および加工に関連する技術: 目的は、特別な機能をもち、マクロ組織を構築するための新たなスマートマテリアル(smart materials)*1の開発と持続可能な生産である。複数部門の応用に役立つこれらの新規材料は、強化された容積特性あるいは性能を高めるための隔膜と表面の特性はもちろん、あらかじめ定められた状況の下で活用する特性を備えていなければならない。
 
研究は、次のことに重点をおく: 新材料; 加工された自己修復材料; 表面科学と表面工学技術を含む横断的技術(触媒材料を含む)。
 

*1: http://kenwww.pi.titech.ac.jp/ResTheme.html (対応するページが見つかりません。2011年5月)

 
材料開発のための工学技術の支援: 目的は、「知識の生産」*1から「知識の利用」までのギャップを埋めることであり、材料と製造の統合化の際のEU産業の弱点を克服することである。これは、持続可能な競争力のもとでの新材料の生産を可能にする新たなツールの開発によって達成される。
 
研究は、次のことに重点をおく: 材料の設計、加工、ツールを最適化する固有の側面; 検査、検証および研究の拡大; ライフサイクル*2手法、陳腐化、生体適合性*3、および環境効率*4の取り込み; 極限条件のための材料の支援。
 

*1: http://www.let.kumamoto-u.ac.jp/cs/cu/98BE3.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*2: http://www.ecom.jp/jecals/wwwJ/materials/ncals/apgglos/yk89.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*3: http://www.kumse.kansai-u.ac.jp/LABHPFILE/ikeda/Socio(HP).pdf (対応するページが見つかりません。2012年6月)
*4: http://www.nikkenren.com/pdf/023/15-fusoku_koutritsu.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
(iii)新たな製造プロセスおよびデバイス
 
 柔軟で、統合化され、安全で、クリーンという新たな生産の基本理念は、新たな製品、プロセスおよびサービスを支援し、しかも内部費用と外部費用を削減する画期的な組織と技術の開発にかかっている。目的は、将来の産業システムに、適切な組織モデルと改善された知識の管理はもちろん、効率的なライフサイクル設計、製造、利用および回収のために必須のツールを提供することである。
 
新たなプロセスと柔軟で知的な製造システムの開発: 目的は、より知識ベースの生産とシステムの組織化に向けて、産業転換を促進し、ハードウェアとソフトウェアだけでなく、人々や人々が知識を学び共有する方法を含め、より全体的な展望から生産を考慮することである。
 
研究は、次のことに重点をおく: 革新的な、信頼性が高く、情報処理能力があり、対費用効果が高い製造プロセスとシステム、および将来の工場へのこれらの取り込み。情報通信技術(ICT*1)、検知*2と制御の技術、および革新的なロボット工学の統合はもちろん、新材料とそれらの加工、マイクロ型システムと自動化(シミュレーションを含む)、高精度の製造設備に基づくハイブリッド*3技術の統合化。
 

*1: http://japan.internet.com/public/technology/20030326/1.html (対応するページが見つかりません。2014年8月)
*2: http://kyu.pobox.ne.jp/softcomputing/ai/words.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*3: http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/1306-036_nano.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
システム研究とハザード管理: 目的は、資源効率の向上と第一次資源の消費を削減することはもちろん、新たな産業手法によって、環境変化の改善に役立つ産業システムの持続性の向上および環境と健康の影響に関して実質的に判定可能な軽減を与えることである。
 
研究は、次のことに重点をおく: 汚染のない生産と安全な生産のための新たなデバイスとシステムの開発; 汚染のない、持続可能な廃棄物管理ならびにバイオプロセス*1を含む製造工程におけるハザードの軽減; 製品、資源消費と産業廃棄物管理に関して会社の責任を強化すること; 社会経済的影響ばかりでなく「生産−利用−消費」の相互関係を研究すること。
 

*1: http://www.kitami-it.ac.jp/syl/syl02/kagaku/e1306301.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
産業システム、製品とサービスのライフサイクルを最適化すること。製品と生産では、知能、費用効果、安全性および清浄度(cleanliness*1)の要求ばかりでなく、ライフサイクルとサービス志向が高まるようにしなければならない。そのため、重要な課題は、ライフサイクル手法と環境効率に基づく新たな産業の基本理念であり、そこでは、新たな製品、組織改革、情報の効率的管理およびその情報を価値連鎖(value chain*2)の中で使用可能な知識に転換することを可能にしなければならない。
 
研究は、次のことに重点をおく: ハイブリッド技術と新たな組織構造を介して、「設計−生産−サービス−使用済み製品」の価値連鎖を最適化する革新的製品−サービスシステム。
 

*1: http://www.juntsu.co.jp/jouhou/dictionary/dic_SA.htm
*2: http://www.nri.co.jp/opinion/r_report/m_word/value_chain.html (最新のURLに修正しました。2010年5月)
    http://www.blwisdom.com/word/key/000045.html
    http://www.sw.nec.co.jp/lecture/word/vc/ (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
 このテーマ別優先領域で実施される研究活動は、このなかの一つ、または複数の項目と密接に関連する問題についての最先端知識のシーズ研究が含まれる。二つの補完的取り組みを利用する: 一方は適時に受け入れ、広範囲の研究活動であり、他方は先取りした研究活動である。
 
 
... 航空宇宙
 
 最近の10年にわたって、欧州は航空と宇宙開発の技術と産業の将来性が傑出しており、また欧州以外への貢献はもちろん、住民の生活水準、経済の発展と成長に数多くのさまざまな貢献をしており、さらにより基礎的な科学的知見にも貢献してきた。これらがもたらす経済的利益は、高度な技術を要する雇用と貿易収支の黒字に表れており、これらは関連する他の経済分野の競争力を高めることに大きなレバレッジ効果*1がある。
 
 航空と宇宙は別個の領域であるが、両者は共通の特徴、すなわち非常に集約的な研究開発であり、長期の開発期間*2と巨額の投資を必要とする。激しい競争、戦略的重要性、そして環境規制の厳しさが重なり、技術の優位性のレベルをさらに高めるために絶えず努力することが必要である。そのため、社会により良く奉仕することを最大の目的とするRTDへの取り組みを強化、集中する。
 
 航空の研究*3は、各国の計画立案の基礎にもなる新たに設置された欧州航空学研究諮問協議会*4において、欧州レベルの利害関係者すべてによって合意された戦略的研究計画(SRA)とつきあわせて計画される。この結果は、この分野における各国と欧州共同体との取り組みの相捕性と協力の水準をさらに高めるだろう。欧州宇宙戦略は、共通の関心をもつプロジェクトの主要関係者を集めることに目的がある宇宙研究の計画立案の基準として役立ち、宇宙関係機関、欧州航空安全機構(Eurocontrol)および産業界などの他の関係者が実施するRTD活動が緊密な連携を確かなものにする。さらに、これらの新たなプロジェクトを支援するために、欧州設立条約の関連条項の適用を適宜、検討する。
 

*1: http://warrants.bnpparibas.co.jp/word/ (対応するページが見つかりません。2010年5月)      (レバレッジ効果の項)
*2: http://www.navigate-inc.co.jp/term/term-5.html
*3: 航空機の設計, 製造, 操縦を対象とする研究や技術
*4: http://eco.goo.ne.jp/eco_exp/eu/files/0211.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)  (2002.11.20号の項)

 
研究の優先項目
 
(i)航空
 
 報告書「2020年構想」において、欧州におけるこの部門の指導者たちは、共通の展望と戦略的研究協議事項を中心に、欧州共同体と各国の研究の取り組みをもっとも効率的に実行することが必要であることを強調した。これに沿って、研究は、次の4つの主要な関連構成要素に集中する。研究活動の適用範囲は、航空交通管理システムの機内機器と地上機器はもちろん、それらのシステムとその構成装置を含む地域やビジネスのための飛行機とヘリコプターなどの商業用輸送機である。
 
競争力の強化: 目的は、関連製造業界3部門、すなわち機体、エンジンおよび設備が航空機の開発経費を短期と長期でそれぞれ20%50%、航空機の直接運営経費をそれぞれ20%50%削減し、乗客の快適さを向上させることによって、競争力を高めることを可能にすることである。
 
研究は、次のことに重点をおく:高い知的生産技術のためばかりでなく、マルチサイト*1拡張型経営*2構想の実現のための総合設計システムおよびプロセス; 新たな航空機の機体形状、先端の航空力学、材料と構造、エンジン技術; 機械、電気および油圧のシステム; 機内の環境条件の改善と乗客の快適さを改善するマルチメディアサービスの利用。
 

*1: http://www.ditec.co.jp/home/about_us/ (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www.emsjapan.co.jp/report/multi/p2.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*2: http://www.ecom.jp/cif/whats_cals/whatcals/sld007.htm (拡張型経営の項) (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
排出と騒音に関する環境影響の改善。排出物に関して、目的は燃料消費とCO2の排出を長期で50%NOxを短期と長期にそれぞれ20%80%削減することによって、京都目標*1を達成し、将来の航空交通の増加に対応することである。雑音に関しては、空港敷地外での雑音公害を抑制するため、雑音レベルを短期で45 dB、長期で10dBまで低下させることを目標にする。
 
排出物に関して、研究は、次のことに重点をおく: 低排出の燃焼と推進の構想、エンジン技術と関連制御システム、抵抗の小さな流線型構想、軽量機体構造と高温材料*2、および飛行運航手順の改善。雑音に関する研究は、次のことに重点をおく: エンジンと動力装置*3の技術、機体騒音削減のための航空音響学、先端消音システム、および空港近郊の新たな飛行運航手順。
 

*1: http://eneken.ieej.or.jp/data/pdf/414.pdf
*2: http://www.jutem.co.jp/nyumon/wakariyasui.html (対応するページが見つかりません。2015年4月)
*3: http://www.jal.co.jp/jiten/dict/p217.html       (動力装置の項)

 
航空機の安全性の向上: 目的は、航空運輸の今後の増加に対処するため、事故率を短期で2分の1、長期で5分の1に削減する。
 
予防的安全策に関して、研究は次のことに重点をおく: 体系的安全モデルの調査、フォールト・トレラント(fault tolerant)*1システムの改善と、搭乗員が制御可能な状況認識を可能にする人間中心の操縦室設計。事故緩和に関する研究は、高度な安全性システムばかりでなく、材料と構造にも重点をおく。
 

*1: http://homepage3.nifty.com/tsato/terms/failsafe.html (最新のURLに修正しました。2010年5月)
    http://www.sys.cs.meiji.ac.jp/~masao/kouen/fault2.html (対応するページが見つかりません。2015年4月)

 
航空運輸システムの運航能力と安全性を向上すること: 目的は、「シングル・ヨーロッパ・スカイ(Single European Sky)」新構想*1の達成を容易にする、途切れることのない統合化された欧州航空交通管理システムによって 空域と空港の利用を最適化し、その結果として、飛行の遅れを減らすことである
 
研究は、機内と地上の自動操作の支援、通信、航法と監視のシステム、および将来の欧州航空交通管理(ATM*2)システムの自由飛行の構想など、新たな構想の導入を可能にする飛行運航手順に重点をおく。
 

*1: http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/eu/e_europe.html
*2: http://www.mlit.go.jp/koku/15_bf_000373.html (最新のURLに修正しました。2010年5月)

 
(ii)宇宙
 
 目標は、欧州宇宙戦略の実施に貢献することであり、そのため、共通の関心をもつ少数の共同活動について、欧州宇宙機関(ESA)と加盟国による取り組みに目標を定め、重点をおく。各宇宙機関の活動を補完する活動(地上と宇宙のシステムやサービスの統合と、端と端をつないだ(end-to-end *1)サービスの実演)を重視する。これには、次の活動領域が含まれる:
 

*1: http://www.nic.ad.jp/ja/basics/beginners/ip.html

 
ガリレオ: 欧州宇宙機関との緊密な協調で共同事業で開発された欧州衛星航法システム、ガリレオ(GALILEO*1)が、2008年までに完全に使用可能になる。この施設から供給されるサービスの利用は、欧州社会の活動の広い範囲に及ぶ。
 
精密な航法とタイミングサービス*2の可用性(availability*3は、多くの領域で重大な影響をもつ。もっとも効率的な方法でこの最新技術を活用するためには、欧州内で必要な専門技術と知識を確立することが重要である
 
研究は、次のことに重点をおく: 精密な航法サービスとタイミングサービスの提供が期待される、複数部門構想、システムとツール、受信機などのユーザー機器*4の開発 ; 他のサービス供給(遠距離通信、監視、観測など)との相乗効果で、あらゆる環境(都市、屋内と屋外、 陸、海、大気など)における、高水準の、整合性のとれた、絶え間ない質のサービスの拡大
 

*1: http://www.computerworld.jp/contents/free/200201/20020107gps.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www.foreignaffairsj.co.jp/yoshi/0211.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*2: http://www.wiaps.waseda.ac.jp/user/iwamura/pdf/iwaoth19-3.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*3: http://www.intel.co.jp/jp/commentary/e-term/atoz-3.htm#38 (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*4: http://giken.tksc.nasda.go.jp/seika/gaiyou/H12/21files/ (対応するページが見つかりません。2010年5月)
の3.1 データバス技術の研究の項

 
全地球的環境・安全保障監視(Global Monitoring for Environment and SecurityGMES))*1: 目的は、需要と供給間のギャップを埋めるための技術の開発によって、情報サービスベースの衛星の発展を刺激し、とくに持続可能な開発関連と、第1期のGMES 欧州委員会行動計画(2001-2003)に示したように、利用者のニーズと要求を考慮して、環境と安全保障のためのモニタリング分野での欧州の能力を構築することである。
 
研究は、次のことに重点をおく: 要求の個別のタイプに対応する操作サービスのプロトタイプを開発することはもちろん、欧州あるいは他の地域で開発されたセンサ、データおよび情報モデル(たとえば地球環境、土地利用、砂漠化、災害管理)。統合運航情報システムの空間データ*2と地上データを結合するデータ収集、組立て、およびモデルの検証などに関する研究では、地球監視衛星Envisat*3、今後の地球監視計画*4および他のシステムが提供する既存衛星データを利用する。
 

*1: http://www.jaxa.jp/article/special/asia/ishida03_j.html (最新のURLに修正しました。2010年5月)
*2: http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/gis/aboutgis/nsdi.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*3: http://www3.justnet.ne.jp/~annie/java/27386.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*4: http://www.kittpeak.co.jp/earthwatch/index_j.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
衛星遠隔通信: 衛星通信は、遠隔通信システムのより広範な領域、とくに地上システムと統合しなければならない(5)
 

(5) 通信衛星と地上技術の間には密接な関係があるため、関連する仕事は「情報社会技術」のテーマ別優先領域に関係する活動の中で示した。

 
 このテーマ別優先領域で実施される研究活動は、このなかの一つ、または複数の項目と密接に関連する問題についての最先端知識のシーズ研究が含まれる。二つの補完的取り組みを利用する: 一方は適時に受け入れ、広範囲の研究活動であり、他方は先取りした研究活動である。
 
 
... 食品の質と安全性
 
 この優先領域は、ヒトの健康に及ぼす食物摂取と環境要因の影響についての理解をさらに深めることによって、欧州の人々の健康と幸福を確実なものにし、農業、水産養殖業および漁業が作り出す十分に管理、統合された生産システムによって、より安全な、高品質の、健康を増進する食品(海産物を含む)を欧州の人々に供給することを意図している。このテーマ別優先領域の目標は、従来の方法である「農場から食卓まで」の方向を変えることによって、消費者保護が新たな、より安全な食料と飼料の生産チェーン、すなわち「食卓から農場まで」を作りだすための主要な誘導要因となることを、ゲノミクス研究の最新の成果を考慮したバイオテクノロジーツールを使って確実にすることである。
 
 この最終利用者を重視した取り組みは、以降の7つの個別研究目的に反映されている。複数の個別目的にまたがる統合的研究手法を優先する。食品産業部門の大部分が小企業からなっていることを考慮すると、行う研究活動が成功するか否かは、これらの企業の個別特性に対する知識と処理についての適応にかかっている。
 
研究の優先項目
 
食品に関連する疾患についての疫学とアレルギー: 目的は、主要な危険因子を特定し、欧州の共通データベースを開発するために、食物摂取と、代謝、免疫システム、遺伝的背景および環境要因の間の複雑な相互関係を調査することである。
 
研究は、次のことに重点をおく: 消費者と子供などの特定人口集団の健康に及ぼす食事、食べ物の成分、および生活行動要因の影響に関する疫学的調査、ならびに特定疾患、アレルギー、障害の防止あるいは発症に及ぼすこれらの影響に関する疫学的調査 食品成分と食物摂取を測定、分析するための方法論、リスクアセスメント、疫学モデルと介入モデル; 先端機能ゲノミクスを利用して、遺伝的変異に及ぼす影響を調査。
 
食品の健康への影響: 目的は、食事による健康の向上の科学的な根拠を与え、新たな健康増進食品を開発することであり、そのために食物の代謝の理解を高めることによって、またプロテオミクスとバイオテクノロジーによって利用可能となったチャンスを活用して、たとえば新製品、有機農法による生産物、機能性食品、遺伝子組換え生物を含む生産物および最近のバイオテクノロジー開発から生みだされる生産物を検討する。
 
研究は、次のことに重点をおく: 食事と健康の総合的な関係; 食品のもつ健康促進と疾患予防の特性; 健康に及ぼす食品成分、病原体、化学汚染物質およびプリオン型の新たな作用物質の影響; 介入方策を促進する栄養の必要条件と健康状態; 食品と食料生産に対する消費者行動の決定要因; 栄養剤と生物活性物質のリスク・ベネフィット*1評価の方法; さまざまな人口集団、とくに高齢者と子供の特異性。
 

*1: http://www.jasmec.go.jp/kankyo/h11/book/3rab/html/kagaku3.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
食料生産チェーン*1に沿ったすべての段階の「トレーサビリティ(Traceability)*2 目的は、未加工の原料由来のものから加工食品まで最近のバイオテクノロジー開発による食品を含む、遺伝子組換え生物の場合には、完全なトレーサビリティを保証するための科学技術的基盤を強化し、それによって食物供給に関して消費者の信頼を高めることである。
 
研究は、次のことに重点をおく: 食料生産チェーンの全段階のトレーサビリティを完全に保証するための技術と方法論の開発、検証およびハーモナイゼイション*3 食料生産チェーン全体の拡張、実施および方法の検証; 真正性(authenticity)の保証; 表示の有効性; 食料生産チェーン全体にHACCPを適用すること。
 

*1: http://www.maff.go.jp/kaigai/2002/20021213eu37b.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
*2: http://www.nlf.co.jp/factory/down-logisticsterm.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)
    http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/gmo/news/02121101.htm
*3: http://www.co-op.or.jp/jccu/news/syoku/syo_021217_01.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
分析、検出および監督の方法: 目的は、信頼性が高く、経費効率の良い試料採取、化学汚染物質と既存あるいは新生病原微生物(ウイルス、バクテリア、酵母、真菌、寄生体および牛海綿状脳症やスクレイピーのと殺前の診断検査の開発を考慮したプリオン型の新規作用物質など)の測定法の開発、改良、検証およびハーモナイゼイションに貢献し、供給する食料と飼料の安全性を監督し、リスク分析のための正確なデータを確保することである。
 
研究は、次のことに重点をおく: 前標準化の面を含む、食品由来の病原体と化学汚染物質を分析、検出するための方法と基準; 既存の防止と監督の方法を改善するためのモデル化と手法; プリオンの検出法と地理的感染の地図作成*1 プリオンの感染経路と潜伏期間。
 

*1: http://www.maff.go.jp/soshiki/seisan/eisei/bse/iinkai/siryo1-1.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)
 のp.4〜参照

 
より安全で、環境に配慮した食物生産の方式と技術、およびより一層、健康的な食べ物: 目的は、統合された生産、有機農業を含む低投入法、および動植物学やバイオテクノロジーの利用など、システムに基づく、より低投入の栽培方式(農業や水産養殖)を開発し、また革新的な技術によって、より安全で健康的な栄養価の高い、機能性をもつさまざまな食べ物と家畜飼料を生産し、消費者の期待に応え、食品と飼料の質を向上させることを目指した質的転換処理を強化することである。
 
研究は、次のことに重点をおく: より安全で、栄養価の高い、高品質の食品と飼料のための加工や流通の方法と革新的技術の開発はもちろん強化・統合化された生産システム、より低投入の農業、有機農法およびGMOベースの生産の開発; さまざまな生産方法と食べ物の安全性、品質、環境影響および競争力の各面についての個別評価と比較評価; 飼育からと殺までの家畜管理、畜産廃棄物管理および動物福祉の改善; 高品質の食品原料と栄養のある食品を開発するための動植物学、ゲノミクスの応用を含むバイオテクノロジーの応用。
 
ヒトの健康に及ぼす家畜飼料の影響: 目的は、遺伝子組換え生物を含む製品と飼料用としてさまざまな起源の副産物利用など、家畜飼料としての役割の知識を強化し、食品の安全性のために、好ましくない原料の利用を減らし、代替飼料資源を開発することである。
 
研究は、次のことに重点をおく: 家畜飼料が誘起した食品由来疾病の疫学的研究; さまざまな起源の廃棄物や副産物を含む飼料用原料、加工法、家畜飼料中に使用される添加物および家畜医薬品が家畜やヒトの健康に及ぼす影響; 特定危険部位*1ならびに飼料生産チェーンから排除された感染と畜の除去を確実にするための廃棄物管理の強化; 最適な家畜の成長、繁殖能力および畜産物の質のための、肉や骨粉以外の新たなタンパク質、脂肪およびエネルギー源。
 

*1: http://www.maff.go.jp/soshiki/seisan/eisei/bse/iinkai/siryo1-1.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)
 のp.8P.9を参照

 
環境衛生のリスク: 目的は、健康に有害な環境要因を特定し、関係するメカニズムを理解し、これらの影響とリスクをどのように防止あるいは最小限にするかを決定することである。
 
(a) 食物連鎖に関連する(化学的、生物的、物理的な)リスク。
 
(b) 環境汚染物質の蓄積的リスクと健康影響、人間への伝達経路、長期影響と少量暴露、防止対策、とくに感受性の高い集団、そのなかでも子供への影響を重視し、地域的な環境災害と汚染が食べ物の安全性に及ぼす影響を含む、認定物質からの複合暴露。
 
研究は、次のことに重点をおく: 汚染物質などの原因となる物質と生理的メカニズムの特定、および環境ハザード、とくに食物に関連している環境ハザードの特定; 暴露経路の推測、蓄積的暴露、低用量暴露および複合暴露の推定; 長期的影響; 影響を受けやすいサブグループの定義と保護; アレルギーの増加を招いた環境の原因とメカニズム; 内分泌かく乱物質の影響; 長期にわたる化学汚染と複合的環境暴露、水に関連する疾病(寄生体、ウイルス、バクテリア、その他)の伝染
 
 このテーマ別優先領域で実施される研究活動は、このなかの一つまたは複数の項目と密接に関連する問題についての最先端知識のシーズ研究が含まれる。二つの補完的取り組みを利用する: 一方は適時に受け入れ、広範囲の研究活動であり、他方は先取りした研究活動である。
 
 

「情報:農業と環境」のアクセス件数が
123,456回を超えた

 
 
 「情報:農業と環境」は、国の内外の農業と環境にかかわる情報をお知らせするページとして、平成12年5月1日に開設されました。その後、毎月1日に、読者のみなさまに最新の情報を提供し続けて、今回で39号になりました。この間、3年以上の歳月が経過しました。最初の1ヶ月のアクセスは676件でしたが、半年経過した7月には、月1,412件に増えました。1年経過した平成13年の5月には、月2,839件に上昇しました。その後も、アクセス数は上昇し続け、昨年1月には月4,696件にもなりました。さらに若干の浮き沈みはありますが、昨年7月からは、1ヶ月あたり5,000件前後のアクセスが続いています。アクセス件数がもっとも多かった月は本年の1月で、8,455件でした。
 
 その結果、アクセス総数は本年5月に11万件を超えました。そこで、前回の「情報:農業と環境」(第38号、6月1日)では、123,456件目の方に記念品を差しあげることをお知らせしました。
 
 6月6日に茨城県内の読者の方から、カウンタが「0123456」を表示している「情報:農業と環境」の画面コピーが送られてきました。この方には記念品(農業環境技術研究所の名前が入ったTシャツとボールペン)をお送りしました。あわせて、当所が年4回発行している「農環研ニュース」を次号からお送りします。
 
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