成果の概要
主要成果一覧
土壌DNAによる土壌生物相解析マニュアルの作成
 
はじめに
 作物の生育、病害の発生や抑止、温室効果ガス発生などの農業生産に関わる諸現象と、微生物や線虫など土壌生物相との関連性を明らかにするためには、多くの土壌サンプルについてその中の生物相の情報を蓄積し、相互に比較することが必要です。そのためには、各生物群について最適化された標準的な分析手法の開発が不可欠です。90年代以降、DNA情報に基づいて微生物群集の構造を分析するPCR-DGGE法(PCR増幅−変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法)が普及していますが、実験条件が研究者によって異なるため、サンプルを相互に比較するための情報の蓄積が進んでいません。そこで、手法の共通化、標準化を図ることを目的とし、農耕地土壌の細菌、糸状菌、線虫各々について解析条件を最適化し、土壌生物相解析法のマニュアルを作成しました(図1、線虫用の表紙と目次)。

 
解析条件の最適化
 解析条件の中で最も重要なポイントであるプライマーセットの選択については、糸状菌および細菌用セットの場合、サンプル土壌から抽出した鋳型DNAをいくつかのセットでPCR増幅し、電気泳動して得られたDGGEバンドの数や、バンドパターンに基づいて算出した群集の多様度をセット間で比較するなどして検討しました(図2、糸状菌の場合)。

 
一方、線虫用プライマーの場合、電気泳動像の鮮明さなどを検討してあらかじめ1つに絞りました。その後、そのセットの性能を確認するため、土壌から分離したサンプル線虫群のDNAをそのセットによりPCR増幅し、産物DNAをクローン解析して明らかにした群集構造(分類群の出現頻度)を、同じ線虫群を顕微鏡観察して得た結果と比較しました(図3)。

 
以上の検討により、細菌、糸状菌、線虫各々について最適のプライマーセットを選択しました。また、各々に適したPCR増幅条件や電気泳動条件なども検討し、下記のように決定しました(表1)。

 
また、ゲル間のバンドパターンの相互比較を可能にするためのマーカ(既知の生物種のDNA断片のセットで、バンドの位置の基準になる)も開発しました。このようにして確立した標準的な手法により図4のような鮮明なDGGEバンドパターンが得られます。

 
おわりに
 今後、本マニュアルに基づいて得られた相互に比較可能な土壌生物相情報が蓄積されることにより、農業生産活動において土壌生物が主因となる、あるいは土壌生物が影響を及ぼす様々な現象と、土壌生物相との関連がより明らかにされることが期待されます。現在当研究所では、北海道から九州に至る全国の様々な栽培管理条件下の農耕地の土壌、あるいはそれから抽出したDNAを収集し、このマニュアルに基づいた解析で得たDGGEバンドパターンを生物相の情報として蓄積、データベース化し、土壌の理化学性や栽培管理条件とこれらの情報との関係を解明する作業を進めています。
 
 
(発表文献)【実験法】 1.森本 晶・星野(高田)裕子:PCR-DGGE法による土壌生物群集解析法 (1)一般細菌・糸状菌相の解析.土と微生物 62:63-68.2008. 2.大場広輔・岡田浩明:PCR-DGGE法による土壌生物群集解析法 (2)土壌線虫相の解析.土と微生物 62:69-74.2008.