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外来植物のリスク評価と蔓延防止策  
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■参加レポート

 

科学技術振興調整費重要問題解決型プロジェクトアウトリーチ活動
公開セミナー「外来植物の「リスク」を調べて蔓延を防止する」に参加して
小栗有子(鹿児島大学生涯学習教育研究センター)

会場の倉敷は、自然史研究の歴史ある街だった!

 独立行政法人農業環境技術研究所が主催する公開セミナー。いったいどのような会で、どのような方々が参加されるのだろうか。そんな思いを抱きながら会場に向かった。羽田から始発便に乗り込み岡山に入った。倉敷の会場には、開始30分前に到着。すでに会場には、人が埋まり始めていたが、開始直前にはもう会場の席は一杯。予備のイスが持ち込まれる、そんな賑わいであった。
はじめに、本セミナーを共催した岡山大学資源生物科学研究所の所長、武田和義さんの挨拶があった。初回の筑波に続き、なぜ今回、倉敷市で外来植物の「リスク」に関する研究の公開セミナーなのか。武田さんの話を伺って納得した。
武田さんが勤務する研究所の前身である大原奨農会農業研究所は、1914年に倉敷市の篤志家、大原孫三郎氏が創設したもので、その頃から倉敷は、自然史研究を文化として育んできたらしい。セミナー会場となった倉敷市立美術館講堂には、倉敷市立自然史博物館が隣接する。この自然史博物館の開館、そして、この博物館を支える友の会の活発な活動は、その伝統文化を今に継承するものだという。今回のセミナーも、友の会の方々がボランティアとして陰で支えておられることを武田さんのお話で初めて知った。
そういえば会場の外には、友の会の刊行物や活動の紹介パネルが展示してあり、また友の会以外にも岡山大学の学生が説明役を務める「岡山で見られる外来植物メリケンカルカヤ」のパネルが見られた。開会にあたって、本セミナーが、地元の方々に支えられて開催されることをまず教えられた。

研究目的の明快な説明

 さて、プログラムの中身に入ろう。最初に、本プロジェクトの代表者である、藤井義晴さんから「『外来生物法』とこの研究全体の目的について」と題して発表があった。会場の正面に垂れ下がるスクリーンに、大きく映像が映し出され、解説が始まった。はじめに、平成16年6月に制定された(平成17年7月施行)「外来生物法」の紹介があり、この研究が、この法に対して科学的根拠を提供することを意図していることが示された。そのためにもまず、外来植物の実態を把握することから始めることの大切さ。次に、外来植物のリスクをいかに判断し、飼養や輸入等の禁止植物の選定をいかにおこなうのか。さらには、防止策などの対策をどうするのか。線引きが難しい懸案となる問題について、総合的に検証していく研究であることが伝えられた。

専門家と非専門家との対話

 次の報告者は、近畿植物同好会の植村修二さんであった。彼の報告こそが、今回のセミナーの特徴をよく示しているのではないかと感じた。というのも、彼は、30年以上にも渡って植物の採集をしているセミプロの植物愛好者である。研究を職業としない、生活に根ざした「生活者」感覚が、公開セミナーの議場にまず持ち込まれたのだった。
  彼の発言で印象的だったことは、感性といった、おおよそ科学的研究ではないがしろにされがちな要素に言及していたことであった。たとえば、園芸を趣味にする人が綺麗と感じる感覚。この感覚を抱く植物を、別の似た植物で代替することはできない、と彼は主張していた。なるほど、理屈では悪影響をもたらす植物とわかっていても、人間の感性はそんな簡単に割り切れるものではない。綺麗だから増やしたいという理屈。科学的根拠は、果たしてこの理屈とどうかみ合うのだろうか。ナンセンスと一蹴するのは簡単だし、研究の本旨ともずれがあるであろう。しかし、外来生物の問題を真摯に考えた場合、本質的な問いの一端を突いていたように私には思えた。
  もう一つ、「生活者」感覚の興味深い話を紹介したい。報告の後の質疑で、「研究上でも外来産の植物と在来種を見分けることが難しい。そこを現場ではどのように見分けるのか。」という問いに対して、植村さんは、「形態的に区別することはできない。ただし、同じフィールドに何十年も通っていると、今まで見られなかった植物は経験的にわかる。」と事例を紹介した。実は、昼休みにプロジェクト関係者を捕まえて、こういった公開セミナーの意義を問うてみたところ、戻ってきた回答が正に「セミプロの方の経験談を聞くこと」であった。また、こういった声も聞かれた。「愛好家の観察記録はメッシュが細かい。したがって、研究をする上でも大変貴重だ。」というものである。
  今回のセミナーに参加して、つくづく感じたことをあえていうなら、専門家と非専門家の対話と交流であったろうと思う。植村さんを最初に登壇させたのは、ほかでもない主催者の意思である。一般の方にも入りやすい間口を作ろうというのが趣旨であったと思うが、自然なかたちで専門家と非専門家の対話が生れていたことは、このセミナーの醍醐味であったように思う。
  最後に植村さんの外来植物に対する考えを紹介しておこう。植村さんは、外国で遺伝的変異を受けた在来植物は外来植物以上に問題が大きいということ、日本に近い気候環境を持っている中国や韓国から侵入する在来植物に類縁の植物種も危険であると感じていること、さらには量的に多く使用されている植物(防風・砂防・花一杯運動等)がまず規制されるべきではないか、というものであった。「外来植物の『リスク』を調べて蔓延を防止する」が、今回のセミナーのテーマであったが、開口一番、30年のキャリアを持つ自然愛好者の経験知が披露された。なかなか論争のつきない問題であることが改めて共有されたのではないだろうか。

多様な顔ぶれ、受容する寛容さ

 次に登壇されたのが、岡山大学資源生物科学研究所の榎本敬さんであった。彼が、倉敷市立自然史博物館友の会を研究面から支える立役者であることを後で知ることになるが、その発表も、社会貢献度の高い内容であった。実際、会場で榎本さんが手がける「岡山県の帰化植物の種子の画像データーベース」(http://www.rib.okayama-u.ac.jp/wild/okayama_kika_v2/okayama_kika.html)の紹介をなさった。「外来植物種子の採集活動を、今後は日本全国に広げたい。ついては、種子の提供をぜひお願いしたい」という榎本さんの願いが会場に伝えられると、待っていたとばかりに会場から手が上がった。
  発表の後に質疑の時間をとる、というのがプログラムの構成だが、質問が出なくて困るということはまずなかった。しかも、質問者の発言から、神奈川や名古屋といったように、遠方からの参加者がかなりおられたことが判明し、驚きであった。決して地元からの参加だけではない。研究動向に関心をもつ方々が、全国から集まっていたようである。したがって、質問内容には、専門的なものも多数含まれていた。ただし、一方で、「カラスウリの種子を見せてください」というおばあさんからの質問もあり、どのような立場も、どのような意見も受け入れる寛容さが、セミナーを通じて感じとることができた。
  話を榎本さんに戻すと、会場で交わされた質疑によって、地域ごとに起こる種内変異を追う難しさや、米国に比べ日本は、種子から植物種を同定するシードアナリストの育成が立ち遅れていることなど、「生活者」として多くのことを学ぶことができた。

プロジェクト研究の発表

 昼食をはさんで、さていよいよ本プロジェクトの研究紹介が5人の方々から質疑も含めてそれぞれ30分程度づつ発表があった。題目と発表者を登壇順に列記すると、(1)「アレロパシーの強い外来植物や毒のある外来植物を調べる」藤井義晴さん(農業環境技術研究所)、(2)「これ以上外来植物を侵入させないために、侵入経路を調べる」黒川俊二さん(畜産草地研究所)、(3)「身近なセイヨウタンポポは実は日本のタンポポとの雑種だった!」芝池博幸さん(農業環境技術研究所)、(4)「外来植物のリスクを評価する日本型雑草リスク評価法を開発する」西田智子さん(畜産草地研究所)、(5)「現在日本に侵入して蔓延している外来植物を防除する技術を開発する」村岡哲郎さん(日本植物調節剤研究協会研究所)であった。
  内容をすべて紹介するには紙面が足りないが、プロジェクトの代表者である藤井さんが研究全体の目的で報告なさったとおり、専門を異にする方々が、それぞれ、実態の把握、リスクの評価、危険な外来植物の選定、蔓延防止策など各領域を担当なさっておられた。それぞれの専門を生かして、また分担して研究課題に取り組もうとする姿勢が、各報告者から伝わってきた。  
  たとえば、最初に報告をされた藤井さんは、「強いアレロパシー(植物から放出される天然化学物質が、他の植物・微生物・昆虫・動物等に阻害・促進・あるいはその他の何らかの影響を及ぼす現象)をもつ外来植物は在来植物を抑圧する可能性がある」として、アレロパシー活性を調べることを通して、日本国内で蔓延する危険性の高い外来植物の選定に必要なデーターの蓄積に努めておられた。
  黒川さんの発表では、遺伝子解析という技法を初めて知った。この技法を用いて、今後アレチウリやワルナスビなど日本の農業や生態系に被害を及ぼす恐れのある外来植物の侵入経路について明らかにしていくそうだ。侵入経路が明らかになってくれば、それを遮断することによって蔓延の防止に役立てることができるという。
  黒川さんに続き芝池さんの発表でも、遺伝子解析技術が登場した。この技術を使ってよくよく調べてみると、「セイヨウタンポポが日本のタンポポを駆逐してきた」というこれまでの説明とは違う真実、つまり、セイヨウタンポポと日本タンポポの間の雑種(交雑種)が急激に分布を広げた現象だったことがわかったという。目に見えない遺伝子の話は素人には難しいが、遺伝子が勝手に動き回っている事実は、外来植物問題の奥深さを伝えるには十分である。
  「日本型雑草リスク評価法」という一風聞きなれない研究発表をされた西田さんは、オーストラリア式雑草リスク評価モデルを参考にしながら、日本への適用可能性の検討を始めておられた。このリスク評価法は、まだ日本に侵入していない外来植物について被害を及ぼす可能性のある植物をリストアップするための手法である。日本にまだ侵入していない植物を評価するため、難しい面もあるようだが、今後も増えていくと思われる外来植物の侵入に一定の歯止めをかける上でも、精度の高い評価法の確立と実用化が急がれているようだ。
  最後に、「侵入してしまった外来植物」をどう防除するかについて研究なさっている村岡さんは、防除のために必要となる植物に関する基礎知識と、実際に問題となっている外来植物の紹介をまずなさった。その上で、防除方法として、機械的防除、生態的防除(耕種的防除)、手取り除草、化学的防除(除草剤使用)などがあることを解説、さらに現在実施中の外来植物の防除試験についても報告された。
  以上が簡単な報告であるが、留意しておきたい点は、この公開セミナーは研究プロジェクトを進めながらの研究報告であることだ。つまり、現在も研究は個々の研究者によって進められている最中である。次回の公開セミナーは、平成18年の8月に予定されているらしいが、一度足を伸ばしてそれで終わりではつまらない。研究の進捗状況を逐次確認できるのがこの公開セミナーの面白みであろう。ダイナミックな研究動向を、ぜひ今後とも見守っていきたい。

主催者の真摯な姿勢にエールを

 最後に、大変白熱したフリートークの時間を紹介して報告を終えたい。司会者は、農業環境技術研究所の小川恭男さん。舞台の一番左に小川さんが着席し、順次、藤井さん、植村さん、榎本さん、黒川さん、芝池さん、西田さん、村岡さん、そして、コメンテーターの清水矩宏さん(プロジェクト運営委員)と前河正昭さん(プロジェクト運営委員)が横一列に並んだ。研究者がこれだけ並ぶ姿は圧巻である。休憩中に回収した質問表を手がかりに、小川さんの手際よい司会のもと、わずか30分ではあったが、自由闊達な意見が交わされた。
  質問は、外来植物のリスク評価法に取り組む西田さんに集中した。しかし、質問の意図は一様ではない。植村さんの報告では生活に根ざした「生活者」感覚を取り上げたが、ここでの質問は実際に外来植物を利用している側の懸念であった。ちょうどコメンテーターの前河さんは、外来植物であるニセアカシアの専門家。参加者の関心に応えて、外来植物としてのニセアカシアの問題点を認めながらも、産業としての養蜜はこのまま生かしていくべきと言及された。蜂蜜自給率の低さにも触れ、どこで蜜を採るのか国に提言することで権利と義務をもって対応してほしいとも述べた。
  外来生物の規制をめぐる微妙な問題は、ニセアカシアばかりではない。他の植物についての言及もあったが、「外来生物法」はそもそも、人間活動との微妙なバランスを要求するものだ。そこには、多様な立場、多様な価値観、多様な考え方が錯綜する。したがって、この法をめぐる摩擦を避けることは、本来難しいはずだ。植村さんは、取り扱いを規制する指定種は国が一律に決めることではなく、条例で規制すべきだと持論を展開していた。政策の決定は、最後は政治判断を仰ぐほかない。ただし、より多くの人が納得できるよりよい方策は、建設的な対話を重ねることで導き出す余地は十分にあるはずだ。
  プロジェクト代表の藤井さんは、「この研究は、環境省のための研究ではない。環境省と農水省が所管する『外来生物法』を円滑に運営するための研究である」ことを繰り返し明言しておられた。多様な価値観を内包する問題であればこそ、この研究プロジェクトの社会的意義は大きいのであり、またその真価が一層問われることになるのだろうと思う。
  セミナーの閉会にあたり、「討論の時間が足りなかったのは主催者側の問題である」と藤井さんは弁明しておられた。意見の対立や論争を恐れることなく、包容力の大きさがこのセミナーを居心地よくしてくれている。研究者にとって、このようなセミナーは骨の折れる仕事であろうが、それにもかかわらず主催者の真摯な姿勢に心からエールを送りたい。

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