内蒙古半乾燥地域における過放牧による砂漠化過程の特性


[要約]
中国内蒙古半乾燥地域で、緬羊の過放牧による砂漠化過程を解明するため、放牧試験を行った。放牧圧が高まると、起伏のある場所では流動砂丘の指標植物とされるAgriophyllumがみられた。裸地化はまずこうした起伏のある場所から生じることがわかった。
農環研 環境生物部 植生管理科 保全植生研究室
[部会名] 農業生態
[専門]  生態
[対象]  野草類
[分類]  研究

[背景・ねらい]
中国東部の半乾燥地域では近年、人口増加にともなう過放牧や不適切な耕作活動等によって砂漠化が進行しており、その実態解明と対策が緊急の課題となってい る。そこで、過放牧による砂漠化が問題となっている内蒙古自治区奈曼において放牧試験を行い、緬羊の過放牧にともなう植生退行過程を明らかにする。

[成果の内容・特徴]

  1. 放牧試験は1992年〜1994年までの、毎年5月中旬から9月中旬にわたって行った。試験区の植生は放牧圧や微地形の違いに応じて、種組成から いくつかのタイプに分類された。禁牧区や軽放牧区(2頭/ha)ではイネ科のPennisetumやマメ科のLespedezaの優占する群落がひろくみられ、 中放牧区(4頭/ha)や重放牧区(6頭/ha)では家畜の嗜好性の劣るイネ科のAristidaやトウダイグサ科でほふく型のEuphorbia (コニシキソウ)の優占する群落が平坦部を中心に分布した。一方、比高が大きくなるような、起伏のある地点では、低牧区でも流動砂丘の指標種とされるアカ ザ科のAgriophyllumを含む群落がみられた(図1)。
  2. 放牧にともなう植生の量的な変化と微地形との関係を調べた結果、軽放牧区と中放牧区全体の差は有意ではなかった。しかし、中放牧区では比高の大きい地点で 優占度が有意に減少しており、放牧圧が加わるとまず起伏のある部分から裸地化がはじまることがわかった。また、平坦部でも一部で裸地の形成が認められた(図2)。
  3. これらの結果から、同地域で砂漠化を引き起こさないような持続的な放牧活動を行うためには、以上のような微地形の違いを考慮するとともに、Agriophyllumなどの指標植物を活用するなど、きめ細かな土地利用計画にもとづいた利用を図っていく必要性が示唆された。

[成果の活用面・留意点]
現地における、適正な放牧利用計画のための基礎資料として活用できる。

具体的データ


[その他]
研究課題名:半乾燥地における植生動態に関する研究
予算区分 :科学技術庁 科学技術振興調整費[砂漠化]
研究期間 :平成6年度(平成2年〜6年)
発表論文等:なし
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