炭素源利用能に基づいた土壌細菌集団の多様性迅速評価法
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[要約]
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分類に依存した微生物集団の生物性評価には多大の労力と時間を要する。この点を改善するため、炭素源利用能を指標とした土壌細菌集団の多様性迅速評価法を開発した。本法の有用性についても検討した。
農環研 環境生物部 微生物管理科 土壌微生物生態研究室
[部会名] 農業生態
[専門] 作物病害
[対象] 微生物
[分類] 研究
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[背景・ねらい]
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微生物は環境中に膨大な種類と個体数が生息し、多種多様な働きを担っている。このような微生物群集の多様性と機能を把握することは、微生物生態学の研究に
重要であるが、微生物の分類・同定に多大な労力と時間を要することから極めて困難とされてきた。そこで土壌細菌のもつ代謝能力の多様さに着目し、炭素源利
用能を指標とした簡便・迅速な土壌細菌多様性評価法を開発しようとした。
[成果の内容・特徴]
- 集団の構成者間の性質の違いに着目した新しい多様性概念「異なった性質(相互の分類学的距離が遠い)の構成者が多く存在する集団は、似通った性質(分類学的距離が近い)の構成者が少数いる集団より多様である」(Yokoyama
1993)を新たに開発した(図1)。 構成者の性質としては、細菌学的性質の炭素源利用能を用いた。構成者間の距離としては、炭素源利用能の有無を1と0で数値化した2進データをクラスター分
析(UPGMA法)した時のクラスター間距離を用いた。上記の概念を指数として数値化する式(1)にクラスター間距離と構成者数(供試菌株数)を代入して
多様性指数を算出した。
多様性指数=クラスター間距離の総和×(クラスター間距離の総和/菌株数)…(1)
- 土壌細菌の多様性解析は次の手順で行う(図2)、
1)定法により約50の土壌細菌のコロニーを無作為に分離(図2-1a、b、c)、
2)分離コロニーをBIOLOG社製炭素源利用能検査パネルに注入(図2-2)、
3)一定時間の静置後、炭素源利用パターンの自動読み取り、
4)個々の炭素源利用の有無を識別、
5)識別された炭素源利用パターンを平均距離法を用いてクラスター分析、
6)(1)式により多様性指数算出。
- 厳密な同定過程の節約により、比較する一対の土壌試料を一人で一週間以内に調査し、結果を得ることができた。化学肥料、乾燥豚糞、稲わら堆肥をそれぞれ単
独に4年間連続して施用した3種類の土壌について調べた結果、細菌集団の多様性レベルは、稲わら堆肥土壌>豚糞土壌>化学肥料土壌の順に低くなることが判
明した(図3)。
[成果の活用面・留意点]
- 環境の変化等による土壌微生物群集への影響評価等として利用できる。
- 抑止型土壌、地力の異なる土壌等のもつ生物性の評価法の一つとして利用できる。

[その他]
研究課題名:微生物の生態的機能と動態の解明
予算区分 :経常
研究期間 :平成6年度(平成2年〜6年)
発表論文等:クラスター分析法を用いた土壌生息性拮抗細菌群の多様性評価、日本植
物病理学会報58巻4号(1992)
Evaluation of biodiversity of soil microbial community,
Biology International 29, 1993
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