立体異性除草剤メトラクロールの生物活性と土壌中の動態


[要約]
畑地除草剤メトラクロールのHPLCによる光学分割法を確立し、4種の異性体の立体構造を決定した。殺草活性は不斉炭素原子による立体構造に依存しRS体とSS体が高く、土壌残留性は立体異性体間で異なることを明らかにした。
農環研 資材動態部 農薬動態科 除草剤動態研究室
[部会名] 農業生態
[専門]  薬剤
[対象]  
[分類]  研究

[背景・ねらい]
近年、立体異性体が存在する複雑な化学構造の農薬が開発されてきているが、その多くは、各異性体が分離されないラセミ体として使用されている。異性体間で は生物への作用性に著しい差があることから、効力の低い異性体を除去し効力の高い異性体のみを使用することが環境保全の視点からも望まれる。そこで、4種 の異性体から構成される除草剤メトラクロールを光学分割し、各異性体について立体構造を決定し、殺草活性と土壌中での動態を解析した。

[成果の内容・特徴]

  1. 4種の異性体からなるメトラクロール(図1)は、HPLCに2種類の光学異性体分離用充填剤を使用することによって完全に分割された(図2)。
  2. 各異性体のメタノール溶液の旋光度(365nm)と文献値(H. Moser et al.)から、分割した異性体の立体構造が決定され、製剤に含有する各異性体の混合比がRR:RS:SR:SS=34:30:19:17と分析された。
  3. イネ茎葉及び根の伸長は、RS、SS体で強く抑制され、メトラクロールの殺草活性は不斉炭素原子に由来する立体構造に影響されることが明らかになった(図3)。
  4. 製剤で処理したメトラクロールは土壌中で処理後経過日数の増加に伴い消失したが、60日後の各異性体の土壌残留比は処理製剤の値とは異なりRR:RS:SR:SS=42:19:24:15であった(図4)。このことから、土壌中での分解に立体構造が寄与していることが示唆された。
[成果の活用面・留意点]
立体異性体を利用することの有用性が確認された。農薬として使用するためには、より有効な異性体のみを効率的に得る不斉合成法を検討し、大量合成法を確立することが必要である。

具体的データ


[その他]
研究課題名:酸アミド系除草剤の立体異性体の生物作用
予算区分 :経常・原子力(立体異性農薬)
研究期間 :平成6年度(平成4年〜8年)
協力・分担:農業研究センター・耕地利用部・除草剤研究室
発表論文等:メトラクロールの光学分割と土壌残留、雑草研究、38巻(別)(1993) 
      Stereoselectivity in herbicidal activity and degradation of 
      the chiral isomers of metolachlor, International Congress of 
      Pesticide Chemistry, (1994)
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