中性子照射により標識化したリン酸資材のトレーサー・ソースとしての利用


[要約]
中性子照射により得られた32P標識化過リン酸石灰、苦土重焼リン、部分的酸性化リン鉱石は,照射前後のリンの溶解性および 資材中の全リンと溶解性リンの比放射能にほとんど差がなく,未照射資材と照射資材のリンの土壌−植物系における動態もほぼ一致するので、 トレーサー・ソースとして利用できる。
農業環境技術研究所 資材動態部 肥料動態科 多量要素動態研究室
[部会名] 環境資源特性
[専門]   肥料,土壌
[対象]
[分類]   研究

[背景・ねらい]
 リン酸資材に中性子を照射すると原子核反応によって,一部のリン原子が32Pに変化する。この反応を利用すれば,従来の方法では 標識化が困難であったリン酸資材を容易に32Pで標識化できる。しかし,中性子照射によって資材の性質が変化する可能性がある。そこで, 溶解性試験,及びアイソトープ交換法を対照法としたトレーサー試験により,この方法で標識化した資材のトレーサー・ソースとしての利用価値を検証した。

[成果の内容・特長]

  1. 資材の水やクエン酸液に対する溶解性は中性子照射によってほとんど変化しなかった(第1表)。
  2. 抽出液中のリンの比放射能を資材に含まれる全リンの比放射能と比較することにより,中性子照射によって生成した32Pの溶解性が未放射化の リン(31P)のそれと同等か否かがわかる。得られた結果から,リン酸の溶出量が少ない場合には,32Pが31Pよりも優先的に 溶解することが明らかになった(第1表)。
  3. アイソトープ交換法(室内試験,交換法)で求められる土壌溶液中のリン酸のうち資材由来のリン酸が占める割合(土壌溶液における資材の 寄与率)は,栽培試験で得られる植物のリン酸栄養に対する資材の寄与率と一致することが報告されている。そこで,標識化した資材を用いる方法(直接法) と,交換法とで土壌溶液における資材の寄与率を別々に求め,比較検討した。その結果,過リン酸石灰,苦土重焼リン及び部分的酸性化リン鉱石では,両アイソ トープ手法で求めた寄与率はほぼ一致し,これらの資材に対しては本標識化法の適用が可能であることが示された (第1図)。一方,直接法で求めたリン鉱石,リン酸質グアノ, 及び熔成リン肥の寄与率は,交換法で求めた値よりも著しく高く,このような難溶性の資材に対しては本標識化法を適用できないことが明らかとなった。 リン酸二アンモニウムの場合には反対の傾向が認められた。
[活用面・留意点]
 本方法により,苦土重焼リン,過リン酸石灰や部分的酸性化リン鉱石の標識化が可能となり,これらの資材の土壌中での動態や植物に対する 施用効果を詳細に検討することが可能となった。リン酸二アンモニウムについては,より詳細な検討が必要である。

具体的データ


[その他]

研究課題名:原子炉による農業資材の直接標識化技術の開発とその利用
予算区分  :原子力
研究期間  :平成7年度(昭和63年〜平成7年)
発表論文等:原子炉によるリン酸資材の直接標識化技術の開発−中性子照射によるリン酸資材の
           溶解性変化,日本土壌肥料学会講演要旨,1991
           アイソトープ手法によるリン酸質肥料・資材の土壌中での動態解析−直接標識化資
           材のトレーサー・ソースとしての利用価値,同上,1996

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