酸性物質の臨界負荷量推定のための定常マスバランスモデルの有効性と推定精度
- [要約]
- 酸性物質の臨界負荷量推定のための定常マスバランスモデルを既存データを用いてわが国へ適用する方法を開発した。推定の信頼性検討のため,最も重要な要因
の鉱物溶解速度の推定精度を土壌分析データに基づいて評価した。更に,臨界負荷量を有効な排出量削減の指標とするため,酸性化指標の改良が必要であること
を示した。
農業環境技術研究所 企画調整部 地球環境研究チーム
[部会名] 環境評価・管理
[専門] 環境保全
[対象]
[分類] 研究
- [背景・ねらい]
- ヨーロッパを中心に,定常マスバランスモデルに基づいた臨界負荷量(生態系が許容できる酸の最大負
荷量)を環境施策の指標に用いることが提案され,アジアへの適用も開始され(RAIN
ASIAプロジェクト),わが国に協力が求められている。本研究は臨界負荷量モデルをわが国に適用する方法を開発し,モデルの信頼性を明らかにすること,
日本及び東アジアを対象とした有効な排出源削減の指標に改良する方針を提示することを目的とする。
[成果の内容・特徴]
- 臨界負荷量推定のための定常物質収支モデルとして(1)式を用いた。臨界負荷量は,土壌内での正味の酸中和量と酸(H++Al3+)の下層への 許容流出量の合計に相当する。
(1)式の各項を国土数値情報など既存データから推定して臨界負荷量を計算する手法を開発した(図1 はBC(we)の例)。Al許容流出量は植物被害に関する酸性化指標を用いて
設定され,指標としてAl/BC比,Al3+濃度が提案されている。推定の有効性を酸性化指標の
妥当性と(1)式の各項の信頼性により評価した。
- Al/BC比を酸性化指標とした場合臨界負荷量分布は鉱物溶解速度に最も依存し,酸性岩母材,岩石地や未熟土,低温等の地域で小さい値を示した(全国平均1942eq/ha/yr)。
一方Al3+濃度を指標とした場合,日本の大きな降水量のため全国平均は4585eq/ha/yrとAl/BC比の場合より大きく,空間分布も降水量との関係が顕著になるなど,
指標の定義法により結果は大きく異なった。
- 表層地質と土壌種から推定した鉱物溶解速度(BC(we))の精度を検討するため,土壌のイオン組成,粒径分布を測定し,反応速度論に基づいたモデル(PROFILE)により
溶解速度(BC(we)*)を推定した。BC(we)*は表層地質の酸性度と比較的よく対応しており,表層地質に基づく分類を用いたことは妥当であるが, 同一表層地質内での変動が大きく,
変動係数にして約50%のばらつきがあると推定された(図2)。
- [成果の活用面・留意点]
- 臨界負荷量を有効な指標とするためには,わが国の生態系に適した酸性化指標を特定すること,及び土壌のイオン組成などのデータの広域的な整備が必要である。
今後,RAINS ASIAプロジェクトなどとの共同研究を通じ,日本及び東アジアに適用可能な臨界負荷量モデルの確立に活用できる。

[その他]
研究課題名:酸性物質の土壌影響評価モデルの開発に関する研究
予算区分 :環境庁・地球環境(臨界負荷)
研究期間 :平成7年度(平成5年〜7年)
発表論文等:(1)酸性降下物の臨界負荷量の概念と推定法の評価,環境科学会誌,8巻1号,59ー69,
1995。
(2)Evaluation of estimation methods and base data uncertainties forcritical
loads of acid deposition in Japan, Water, Air and Soil Pollution 85巻,
2571-2576, 1995
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